始めてチヌと出会った日


もう何年になるだろう。

あの頃僕は今の女房と付き合っていて、暇潰しにと釣りを始めて
少し経った頃だったと思う。

幸い女房は父親とよく釣りに行っていたようで、釣り好きだったし、
僕は小学校の頃「釣りキチ三平」にハマリまくって育っていたし、
幸い海も川も池も行動範囲にあるところだったから、毎週チャリンコ
転がして、友達と釣りをしていたので、釣りは好きだった。
高校、大学の間は他の遊びが忙しくて余り行かなかったけど...


ある時、地方の釣り雑誌である「月刊釣り情報」を見ていて、無性に
チヌという魚を釣ってみたくなった。

早速、道具を揃えてチヌ釣りを始めることにした。

DAIWAのダイレクトパワーチヌ1.5号という竿を買った。
何故DAIWAかというと、小学校の頃釣りキチ三平がDAIWAのイメージ
キャラクターだったから、自然とDAIWAというメーカに引っ張られたの
だと思う。リールもDAIWAだけど、これは投売りに近いようなものを買
った。

さて、仕掛けが解らない。

チヌというくらいだから細仕掛けのはずだ、と勝手に納得して、ボビン
撒きで500mくらい巻いてある1.5号の道糸を買った。

針を結ぶのは”昔取った杵柄”という訳で、お手の物。

月刊釣り情報で見たチヌの探り釣りをやることにした。
幸い探り釣りなら子供の頃親父とメバルをやったことがある。

餌はカニがいいらしい。クモガニというカニを釣具屋で売っていた。
蜘蛛は苦手だが、クモガニなら大丈夫そうなので、これを買った。

クモガニを空き缶に入れて、一番冷蔵庫で保管。

翌日バイト先から3万円で譲ってもらったカローラバンを駆って女房
と(この頃まだ女房ではないけど)と早朝の海岸線を西へ。

目に付いたのは、駐車スペースも広く、割合綺麗な有家(あらけ)港。
本編のいつも海を見ていたに出てくる周防大島への大島大橋より
ちょっと東にある漁港だ。

実はこの漁港はチヌ釣りの有名なポイントで、今も連日釣り人が絶え
ない。

車で寝ている女房をおいて、いそいそと波止へ向かった。

釣り情報で読んだ通り、針をカニの腹部から甲羅へ、針先が少しだけ
でるように刺す。

ハリスには3Bくらいのガン玉を打っていたと思う。

餌を落とす。少し待っても竿先に反応は無い。

上げてみる。・・・・・・餌が無い。

何度かそんなことを繰り返していると、徐々に張りを持たせながら餌を
沈ませることに気が付いてきた。

そんな時、グンッと竿先が引かれた。

・・・・・・・・・

後はよく覚えていない。気が付いた時には20cmにも満たないような
チヌが宙を舞っていた。

今考えると照れくさいけど、狙って狙った魚が釣れたのが嬉しかった
んだと思う。小チヌを持って車で眠る女房のところへ。

無理やり起こして...多分自慢げな顔をしてただろうなぁ。

また波止へ引き返す。

またアタリ。今度はチヌの引きというものを感じながら、再び小チヌを
宙に舞わす。


どこかのおじサンが、「ほ〜、その魚はなんですか?」と聞いてきた。

「チヌです。」
と。きっと嬉しそうな顔をして答えたんだろうな。


今思い出すと、苦笑いが出てくるようなお話でした。

あれから、直ぐに団子や浮きを覚えて、沢山のチヌに出会ったけれど、
この日釣った2匹の小チヌはず〜っと僕の頭の中に鮮明に残っている
のです。



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