畏怖

本日の釣果(2000.12.23)

チヌ 35,32cm 2枚

ただ...ただ自然の怖さ
を痛感した一日でした。


歩こうと思っても前に進めないほどの風。風速はどれくらいなのだろう?

釣り終えて、荷物を持って岩陰から出た途端、仰向けに押し倒されそうになる。堪えて四つん這いになって凌ぐ。
立ち上がり、前に進もうとする。進めない。こんな風、台風でもあまり経験がない。
余りの風に息すらできない。

じり、じりと前に出る。前に進まなければ帰れない。息が出来ない。苦しい。顔を横に向け息を吸う。それでも苦しい。後ろを向いて深呼吸。

雨が痛い。大粒の水の固まりが強風に乗って容赦なく私を叩きつける。
雨は海水を巻き上げているのだろう。顔についた雨は潮の味がする。

空が光る。雷鳴が響く。幸い2〜3度の光だけだった。

何もないときですら20〜25分はかかる歩き慣れた磯。前に進めない私は、勝手知った道筋、その距離を想像し、絶望感にも似た感覚に捕らわれる。

少し待てば風は収まるのだろうか?

しかし、日が暮れる頃までに風が収まらなかったらどうする?
今は干底に近い状態だから、そのまま歩ける。もう3時間もすれば、通常の状態でも普通のブーツでは歩けないほどの潮の高さになる。
この風とうねりの中、日が暮れかけた頃、ウェーディングするのは危険すぎる。

荷物を持っていてはダメか?ロッドケースをおいて帰れば少しでも風の抵抗は少なくなる。
竿を置いて帰る?そんなこと....でもこの状態では....

とにかく山手に....

だが、山手に逃げてもまるで風は避けられない。磯の突端はどこも吹きっさらしだ。


自然を舐めていた。後悔と反省。

南西風が吹くのは解っていた。風も強くなるであろうことも解っていた。
(何故、北向きのポイントへ入らなかったのか)
海もいつもの海ではなかった。朝の内、ほんの僅かな時間だけ静寂だったが、すぐにいつもと様相を異にし始めた。風はさほどでもなかったのに、うねりがとにかく大きくて、いつも潮位が下がったら立っている干出し岩はずっと激しく波を被って、飛沫を巻き上げていた。
だから、今日は釣り難い一日だったじゃないか。いつもと違うのは解っていただろ....

天候は急変した。確かにこんな状態になるまであっという間だった。でも、浮きを見続けていた自分には、天気の変わり具合は解っていた。だから、最後の最後には諦めて竿を畳んだ。もう少し早く決断すべきだったのでは?


畏怖。


これほど自然に恐怖したのは久しぶりだった。正直、怖かった。沖磯ではない。歩いて帰れるのに、それがままならない。


1つ。2つ。岩場を回り込んだところで、やっと私は解放された。風は強いが歩ける。
いつも以上に道のりを長く感じる。

駐車スペースを目前にして...岩場を回ったところでまた強風にさらされる。もうすぐ車が見えるのに...


横殴りの雨の中。私の車はいつものように私を待っていてくれた。
車という自然でないものが目に入ったのがとても嬉しかった。いやホッとした。早く車へ。

ずぶ濡れの荷物を放り込み、シートに座りドアを閉める。身体の力が抜けるのを感じる。
だが、とにかくこの場を立ち去りたかった。慌ただしく車を出す。

しばらく車を走らせていると、身体に異常な疲れを感じる。喉が渇いた。喉が渇いていることに気付かないくらい焦っていたんだろう。


20世紀末にして、この経験。馴れ合いで、驕りが出ていたのだろう。

うねりに弄ばれて流した今年愛用した浮き2つ。

釣り座が確保できなくて、まともに仕掛けも流せなかった。

バッカンの中には容赦なくうねりが海水を叩き込む。フォローをしても、しても、結局撒き餌は液状化した。

全てにおいて....自然に叩きのめされて、何一つ納得のいく行動が取れなかった。


気を引き締めよう。初心に帰ろう。ずっと釣りをするためには一番重要なこと。もっと謙虚に自然を感じよう。


下げ潮狙いのポイント。満潮が朝8時頃なので今日はスロースタート。

6時半ころ家を出て、釣具屋に寄り、友波さんに渡す物があったので、友波さんの家に寄り、駐車スペースに到着したのは既に潮止まりの時間でした。

潮位が高いので釣り座へ入るにはウェーダーが必要。今日はハナからウェーディングの準備をして歩き始めました。もっとも深いところでお尻の辺りくらいの水深がありました。幸い海も穏やかだったので無事釣り座到着。

今日の狙いは、下げ5分くらいから上がれる干出しの上から下げ潮に乗せて流す。つまり3時間ほどの短時間に集中する予定。そうは言っても、そこで待っている訳にもいかないので、準備をして釣りを開始します。

下げ潮が動き始めたので、浮きを2Bに変更。道糸にB、ハリスにG5,G7を多段にうって、なるべくオーバーアクションにならないように僅かに誘いを入れながら流します。

道糸が走る。アワセ!グンっと乗ってきました。潮流の影響を差し引いて考えると40弱のチヌの手応え。

未だ干出しは完全に水の中。降りることはできないので、高場からそのままやり取りします。ともかく寄せる前に浮かせなければ、干出しに潜り込まれてしまいます。竿を寝かせて、リールを巻いた分、また糸を出しながらやり取りしますが、なかなか浮きません。竿の弾力に負けて、チヌが寄り始めます。まだ浮かない。干出しに近づいたので、また糸を出す。何度かそんなやりとりを繰り返していると、突き出た岩に道糸が当たってしまいチヌが動かなくなってしまいました。

道糸を緩めて少し待つと、チヌは再び沖合に泳ぎ始めたようです。また竿を寝かせてやり取り再開。幾分弱ってきたようです。ここでついつい焦りが出てしまいました。(このサイズなら、一気に干出しの上に引き上げれる。)
意を決して竿を立てて力を込めたら、当然といえば当然なのですが干出しに突っ込みました。エイヤっと引き上げようとした瞬間、ハリスが岩に当たって.....

焦りが産んだバラシでした。このポイント、高場の釣り座からでは、足下一帯に干出しの岩が張り出しているので、やり取りでは決して無理をしてはいけないのです。

タナゴやベラやフグやアイナメが頻繁に竿を曲げますが、チヌは顔を出しません。

少しすると、海はうねりが大きく出始めました。風も吹き始めています。

うねりの影響で刺し餌が安定しないと判断し、水中浮きを装着します。が、うねりはどんどん大きくなり、また風も強くなり、仕掛けが思うように馴染みません。道糸も干出しに取られ始めました。

根掛かり。やむを得ず道糸を引っ張ると道糸がプツリ。「あ〜.....」
そのとき使っていた浮きは、こばしんさんから戴いた”こばしん浮き”でした。この浮きは実に魚ヅキした浮きで、お気に入りだっただけにショックは隠せません。


干出しは頭を出している。降りたいがうねりが強くて、時折激しく波を被っています。降りようにも降りれない。多分あそこにバッカンをおけば、容易に流されてしまうでしょう。

やむを得ず、竿を置きます。定期的に撒き餌を入れながら、少し待ちます。

が、潮位は下がっているのに、うねりが大きいためにいつまで経っても降りれそうな状態になりません。

下げ潮が流れる時間が短くなってきますので、思い切って下に降ります。

時折波は頭の先にまで飛沫をかけてきます。

潮が動かない....今日は大潮前の中潮。もっと潮は動いていいはずなのに...

竿を曲げるのは相変わらずベラと草フグ。面白くない状況になってきました。下げ潮を狙ってきたのに潮が動かない。

バッカンが何度も波を被って撒き餌は水浸しになります。その都度、水を捨てていたのですが、段々と撒き餌に水が浮き始め、最後には液状化してしまいました。遠投はできません。アンダースローで撒くしかないようです。

うねり対策の重めの仕掛けでがんばっていたのですが、余りに潮が動かないため、浮きをG2に変更し、ハリスにG5,G7をうって、アンダースローでバラバラと撒いた撒き餌の中を、ごくゆっくりと手前に引くようにして誘いを掛けながら探っていきます。

その3投目。浮きが沈みます。ベラか?と思ってアワセを入れると、ガンっという手応えが伝わります。チヌです。
張り出した岩に掛けないように気をつけてやりとりし、取り込んだのは35cmのチヌでした。

風とうねりでかなりキツイ状態になっていたので、嬉しい一枚です。

しばらくしてまたチヌのアタリ。今度は先より少し小型。32cmのチヌでした。

もう少し....

アタリ!アワセ!・・・・・・その拍子に道糸が高切れ。

その少し前に自分の釣り座より沖側の干出しに道糸を掛け、とれないので少し強引に引っ張って外していました。
当然道糸はチェックして、かなり切り捨てたのですが、甘かったようです。

今度流した浮きは、最近多用して、もっとも実績の上がっているプロ山元浮きG2。このG2は2つ持っているのですが、よく釣れる方を流してしまいました。

その後、ゼロスルスル等々も試したりしたのですが、干潮の潮止まりの時間になると、全くアタリが出なくなってしまいました。どのみち潮は動いていないのに、やはり潮止まりは潮止まりです。

今日の潮ならまだまだ釣れていたはず。
そう思うと。満ち始めも釣ろうか?という考えも浮かんできたのですが、空は暗くなってきたし、うねりも全く収まらないため、諦めて納竿することにしました。


そこから先は、上に書いたとおりです。


当に翻弄され、叩きのめされた一日でした。


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