#20 無駄

 俺は布団の上に寝っ転がっている。
 俺の職場の人達,俺の同期の友達,俺の昔の友人。
 みんなみんな,今頃しゃかりきで働いているのだろうか。
 俺は有休。上司が先に帰ったのをいいことに,休暇簿を彼の机の上に放り投げた。
 俺はあまりにも疲れ切ってしまって,こんなズルでもしないことには身が持たないと自分で自分を心の中で追い詰めていた。
 ふぁあ。
 俺は欠伸を一つした。
 普通有休を取る奴なんてのは,何かなすべき用事があるから仕方なく取るのだろう。
 それに引き換え俺は,別に用事があるわけでもなく,ただひたすら日がな寝っ転がって,時に眠りに落ちてみたり,時に目を覚ましては天井を眺めているだけだった。
 別に俺は病人ではない。至って健康。昨日まではちゃんと働いていたのだから。
 しかしこうやって寝てばかりいると,自分が本当の病人になったような錯覚に囚われる。
 身体も,そして心も。
 何をする気も起きない。極端に言えば,飯を食う気も起きない。これは俺の奥歯に巣食う虫歯だけの所為では決してあるまい。
 今日という一日は,俺にとってどういう意味を持つのか。
 はっきり言ってしまえば,何の意味も持たないのだろう。
 少なくとも今日一日に関して言えば,俺は何もしてないし,世間様に対して迷惑は掛けていても,決して役には立っていないのだから。
 無駄。
 人はそう言うだろう。
 そうだろうか。
 少なくとも俺にとっては,こういう時が必要であるように思われた。
 何もしない,人に言わせれば徹底的に堕落した一日。
 人は堕ち切ることで初めて上を目指す気持ちが起きてくる,と誰かが言っていたっけ。
 無駄。無駄。無駄。
 否。 
 この世に無駄なんて決してないのだ。
 もし無駄というものを肯定してしまうのならば,この世の一切合財が無駄に堕してしまわないだろうか。
 いくら努力したって偉くなれるとは限らないし,いくら努力したって幸せを感じる境地まで辿り着けるとは限らないのだから。
 いいんだ。
 今日一日は無駄に過ごそう。
 明日からは,また一生懸命働いてやるさ。
 そこまで考えて,俺はまた眠りに堕ちた。

★あとがき
 うーん,何て言うんですかね。評論しがたい作品ですね。言ってることは間違いじゃないと思うけど,何となく言い訳がましい文章になってしまった。ま,ぼく的には「人にはこういう時も必要なのよ,あまり肩肘張って生きないでね」ということを言いたかったのであるが,ちと説得力に欠けた面がありますね(笑)。「少ない字数で深い作品を」ということを最近心がけているのですが,この作品の場合あまり成功しているとは言えませんね。少なくとも多くの勤労日本人にはあまり見せたくない作品ですな。

 

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