#22 砂粒
俺の名はヨウ。
漢字は知らない。ただ,いつからか,人が俺のことをはっきりと,―ヨウ,ヨウ,と言うようになったから恐らくこれが俺の名であるに違いない。
ただ,このことを知ったのはごく最近に過ぎない。それまでは俺をそんな風に呼ぶ奴はどこにもいなかったからだ。
俺は人の役に立つために生まれてきたはずだった。
俺の体は砂粒ほどに小さい。しかし,山椒は小粒でもぴりりと辛いのと同様に,俺はかつてはそれなりに働き,人様の役に立ってきたはずだった。
最近様子がおかしくなった。
俺は全く人の役に立つ存在ではなくなり,逆に人の足を引っ張るような存在―文字通り砂粒程度の価値しかない,いや,その程度の価値もないかも知れぬ存在に成り下がっていた。俺が「ヨウ」と呼ばれるようになったのはその頃からだった。
俺の仲間たちはみんな人様の役に立っていた。なのに今の俺にはそれが出来ない。それが腹立たしくてたまらない。「ヨウ=要」の名とは裏腹に,俺は現在誰にとっても「不要」な存在でしかない。
確かに相性というのはあるのかも知れない。今の人と仕事をしているからいけないのであって,パートナーが変われば,仲間たちのように役に立つ仕事が出来るのかもしれない。
しかし,相性がどうの,というのは言い訳だ。俺はあくまでこの人に役立つような仕事をしなければならない,失敗は許されない,そんな存在であるはずだった。砂粒の如く生まれ出でた俺は,一生懸命この人のために尽くさねばならないはずだった。しかしどうだ。今となれば,俺が働こうとすればするほど彼に迷惑をかけているではないか。
砂粒。砂粒。砂粒。
今の俺なんて,結局はそんなものだ。
無力だ。
無力だ。
無力だ…「どうされました?」
「実は,この間お薬を変えてもらってから,逆に眩暈がしたり手が痺れたりで却って調子悪くなっちゃって…」
「ああ,薬が合わなかったんですね。そういうことはまれにあります。副作用ですね。今の薬はやめて,新しい薬出しときましょう」★あとがき
久しぶりに書いてみた,最後で「なんじゃいこりゃ!」と言わせることを目的にした「落とす」小説です。でもそれだけじゃなくて,「世の中に対して無力感を持つ人間の嘆き節」という意味合いもあります。自分は何とか頑張って人のために役立つように生きたいと思っているのにそれができない,それで悩んだことってありませんか?頑張ることも勿論大切だけど,それで悩みすぎるのは良くない,そんな悩みなんて世界全体から見たら小さいことなんだからね,というのがメッセージですかね,とうまくまとめたつもりですが,肝心の作者自身が悩みすぎてへこんでしまうタイプだから全然説得力ありませんな(苦笑)