#24 ポリティカル・ゲーム

「今回の選挙は我々の存亡を賭けた戦いになる。敗北は許されません。全力を尽くして闘いましょう!!」
 選挙対策委員・間 人司(はざま ひとし)が声をあげた。
 オーウ!!
 支持者がそれに続いて拳を突き上げて叫ぶ。
「では,今日はこれで散会致します。ありがとうございました」
 この一言で支持者達は三々五々退出する。

「厳しいですね」
 誰もいなくなった選挙事務所で,間が声を落として言った。
「そうだな,我が陣営は農村部では圧倒的に不利な戦いを強いられている。農村部では環境保護派の相手陣営がどうしても有利になる。しかも敵さんは都市部でも徐々に浸透し始めている」
「農村部ではどうしても利害関係という面において苦戦を免れないでしょう。人口も少ないですからね。出来れば既得権を守りたい者の多い都市部で圧倒的な大差をつけたいところです」
「以前は我々が彼らに負けるなどということは考えもしなかったものだが…時代は変わってしまったのかな」
「時代状況を愚痴っても仕方ありません。今はこの戦いをいかに勝ち抜くかを考えるしかないです。それに,以前から彼らの生命力というか,しぶとさのようなものには定評があって,私は以前から警戒するようにと」
「あの時はまさかあいつらがそんなに頭の切れる集団だとは誰も思いもしなかったじゃないか…いや,過ぎたことを言っても仕方あるまい。確かに昔我々は彼らを迫害したかもしれない。しかし,それは彼らが我々にとって害になる存在だった以上仕方が無い。あるいはあの時に殲滅しておけば良かったのかも知れぬ。甘かったな」
「これまで我々についていた勢力の裏切りも予想外でした」
「そうだな…あのイヌどもめ。今まで育ててやった恩をあだで返しやがって」
「とにかくやるだけのことをやって,勝利に邁進するしかありませんよ。もし負けるようなことがあれば,今までの他陣営の不満の矛先が一気に我々に向いて…やりにくくなるどころか,冗談抜きで命さえも危険に晒されますから」

「相手陣営の様子はどうだった」
「かなり焦っているようでしたよ。我々の陣営が意外に健闘していることに危機感を強めているようです。まあ今更遅いでしょうがね」
「あいつらめ,昔は我々のことを社会の公害だの気持ち悪いだのと言って散々やってくれたからな」
「ひどい虐殺を受けたことがありました。危うく我が民族は絶滅に瀕したことがありました」
「今頃になってあいつらは考えを改めたようだが,みんな奴らが我々をはじめ世界に対して行った罪悪を忘れる筈が無い。どうやら政権交代が間近に迫っているようだ」
「手応え十分です」
「うむ。しかし油断は禁物だ。奴らどんな手を使ってくるか知れぬ。せっかく選挙戦に持ち込んだのだから,今の状況に安住せず,よりいっそう支持層を固めることが重要だ」
「しっかりやりますよ」

 激しい選挙戦が終わった。
 選挙は日曜日に行われ,即日開票で結果が決まる。
 その模様はテレビで全世界に中継された。
「皆様こんにちは。選挙速報の時間です。さあ,皆さん,これまで自分達の利害ばかりを考え,環境破壊と虐殺を繰り返してきた人間陣営に裁きの下りる瞬間が近づいております。今回の選挙ではこれまでの人間政権の過半数割れは間違い無く,コックローチ3世率いるゴキブリ党が,その他の非人間陣営と連立して政権を奪取することが確実と言われています。あ,早くも当確が出ました。東京市とニューヨーク市でゴキブリ党の候補が早くも当選を確実にしています。ここでは非人間陣営が選挙協力を行い,昆虫連合,爬虫類党,非人間系哺乳類党などがゴキブリ党候補を支援し,事実上候補を一本化したことが勝利に結びついた模様です。その他,まだ当確の出ていない地方でもゴキブリ党が地滑り的大勝利を収めることはほぼ確実,コックローチ政権は早くも非人間連立内閣の組閣に乗り出したほか,1900〜2000年代におけるゴキブリ大虐殺及びそれ以外の多くの民族を虐殺した環境破壊の責任を当時の人間政権に問うため,緊急に逮捕状を出してゴキブリ地検特捜部に捜査の指令を出した模様です…」

★あとがき
 またやってしまった,「軽い気持ちで書いた小噺のような小説」です。「最後までオチがばれないように」ということを心がけて書いたのですが,みなさん,このオチは読めましたか(笑)。何か最近この手の小説を書いていると,同じこの系統の小説でも以前と比較して徐々に自分の知的レベルが下がっているなという危機感に囚われるのですね。「数を多く書く」ことだけを考えて作品の質が下がったらまずいので,その辺は今後気をつけて書きたいところです。

 

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