コラム:利用者を弄ぶべからず

(2025.4.6)


これを書いているのは2025年4月6日である。
今日テレの「バンキシャ」を見ているが、何でも今日の未明(午前0時過ぎ)から関東地方をはじめとする地域の高速道路のETCがシステム障害で使えなくなり、料金所で車が詰まって渋滞して大変なことになっているらしい。
さらに、このことが原因で事故も発生したという。怪我をされた方は気の毒の至りである。

現在、日本におけるETC普及率は95%以上であるという。
私は残りの5%弱に属している。
理由は、カネと手間がかかることである。
ETC車載器は1万円以上はするだろうし、取り付けにもカネと時間を食うだろう。
クレジットカードは一応持っているが、ETCカード兼用にするには手続が必要である。
そういったコストをかけてまでETCを使うほど私は高速道路を利用しない。
広島の自宅から島根の実家まで帰省するのに年2〜3回使うくらいである。

最近は「スマートIC」と称したETC専用のインターチェンジが増えている。
それだけでも迷惑なのに、NEXCOは傲岸不遜にも「将来は全てのインターをスマートICに」とほざいていたという。
その矢先に今回の一件である。
渋滞で迷惑を被った方々には申し訳ないが、NEXCOに対しては「ざまあ見ろ」という思いしか湧かない。

そもそも何故ETCを血眼になって推進したのか。
その目的は、建前上は「料金所を無人化することによるコストの削減」であった。
まあそれはええわ。
ただ、「全部電子化してしまえばオールOK」という考えは甘いと言わざるを得ない。
今回の一件を見れば分かるように、「システムは止まるものである」という前提で、セーフティネットをきちんと張っておかないといけない。
それを怠ったためのこのような惨事が発生したのである。

本音として世間で囁かれているのは「利権」である。
まずシステムの整備が必要であるし、上述したように利用者は車載器を購入しなければならない。
多額のカネが動く。
裏では「越後屋おぬしもワルよのう」「へっへっへっ、お代官様こそ」という会話が交わされていたことは想像に難くない。

今頃NEXCOの偉いさんは針のむしろに座っている気分であろう。
世論の風向きによっては首を差し出さざるを得ないかも知れない。
しかしこれは今までやってきたことの罰が当たった訳であるから、責任を以ってこれを甘受しなければならない。
そして今後は心を入れ替えて利用者に寄り添う姿勢を見せなければならない。
まあ無理だと思うが。

さて、もう一つ罰が当たりそう、というか当たってもらいたいと思うのが広島の交通の一翼を担う広島電鉄である。
先日YouTubeに、広島の交通系ユーチューバーの動画が上がっていた。
タイトルは「【酷】パスピーを廃止した結果、広島が大混乱に…」である。

広島ではこの春まで共通の交通系ICカードとして「PASPY」が使われていた。
しかし、広島で最も勢力があり、なおかつPASPYの旗振り役であった広島電鉄が、「PASPY対応の運賃箱の更新費用が高いから」という理由でPASPYを今年3月下旬で廃止し、新たに「モビリーデイズ」というシステムを導入することにしたのである。

「モビリーデイズ」はスマホアプリからQRコードで読み取るタイプのシステムである。
アストラムライン、広島バス、広島交通、中国JRバスは「QRコードは読み取りが遅く、混乱が生じる」などの理由からこれに追随せず、JR西日本のICカードである「ICOCA」に切り替えることとしたのである。
このことにより、広電バス系列(広島電鉄、備北交通、芸陽バス)の「モビリーデイズ」と上記各社の「ICOCA」に分裂する事態となった。

上述の動画によれば、平日の通勤・通学ラッシュの時間帯においては、大きな混乱は発生していないらしい。
これは普段通勤・通学をする人たちは利用する交通手段が決まっているからである。
たとえば広電や広電系のバスを使って通勤する人は(嫌々でも)モビリーデイズに登録してそれを利用する。
逆に毎日アストラムラインを利用するのであれば「ICOCA」を買ってそれを使うだろう。

問題は休日である。
今までであれば、とりあえず「PASPY」を持っていればどこに行っても、どこの会社のバスを使ってもどうにかなった。
しかしこれからは、「ICOCA」しか持っていない人が間違って広電系のバスに乗ってしまったら困ることになる。
一応「ICOCA」対応の簡易車載器を積んではいるが、その場合は乗るときに整理券を取らないといけない。
しかし、「ICOCA」しか持っていないのに広電系のバスに乗ってしまうような人がそんなことを知っているはずがない。
乗客は混乱し、支払いに支障を来たし、バスは慢性的に遅延し、道路の渋滞につながることになる。

さらに当該動画においては、運転士の負担増と安全性の問題にも言及している。
安全運行だけでも大変な仕事であるのに、このような乗客の対応が慢性的にあったのではたまらない。
動画の中では、「降車客全員を降ろす前に誤って発車しそうになった」「不注意で赤信号で発車しそうになった」というエピソードが伝えられていた。
一歩間違えれば大事故につながりかねない、という指摘は至極当然のものである。

私は通勤に必要なため、嫌々ながら「モビリーデイズ」に登録している。
登録する際から、「登録が面倒くさい」「ウェブサイトが不親切」「クレジットカード登録は情報漏洩しそうで不安」といった懸念があったが、いざ使ってみると「QRコードの読み取りが遅い」「アプリを開くのが面倒」「通信環境によってはアプリが開かない」などの欠点が目立つ。
また、私は一応オートチャージにしているから良いが、オートチャージにしていない場合は車内で残高不足になったら詰むという。
このような嫌がらせのようなシステムを何故わざわざ導入したのだろうか。

上述のとおり、ICカード対応の運賃箱が高額である、ということはあるだろう。
そこへ持ってきて、どこぞの業者が「安うしまっせ」と言ってQRコード対応の話を持ってきたと推測される。
しかし、運賃箱を扱う業者は一社ではない。
もっと利用者の利便性に応える形で、できるだけ安価に対応してもらえる業者はなかったのだろうか。
今まで世話になった業者と癒着し、その業者の言いなりの条件で、言い値で契約したんじゃあないでしょうね。

私も少しだけ(交通系ではないが)システム系の仕事に手を染めたことがあるから言っておくが、現契約が将来に渡ってお得とは限らない。
最初だけ安値で買わせておいて、アップデートやら更新やら事あるごとに金を要求され、結局高くつくケースはいくらでもある。
そうなった時にまた「コストがかかるから」という理由で新しいシステムの導入を言い出すのだろうか。
そのたびごとに乗客は混乱し、交通はマヒするのである。

私見だが、私は広電グループも「ICOCA」に統一すべきであったと思う。
広島は多くの観光客が訪れる。その人たちは「モビリーデイズ」なんか登録してはいないだろう。
広島ローカルのシステムを強いることが他地方あるいは他国からの観光客にとってどれほど迷惑か考えなかったのだろうか。
こういう頭の悪い経営者が交通を司っているから、広島はいつまで経っても二流・三流都市なのである。

今や広電は、「(スピードが)遅い・(運賃が)高い・(サービスが)まずい」の三拍子そろった迷惑企業に堕した。
広島の交通の発展を妨げているのは紛れもなく広電である。
いつか罰が当たることになるだろう。
いや、もう当たっているかも知れない。
既に広島市民の中には、「できるだけ広電は避けるようにしている」という人も少なからずいるのだから。

高速道路を含め、交通に関わる企業はその「公共性」をもっと自覚する必要がある。
儲けもそりゃあ大事かも知れないが、利用者があっての自分たちであることをもう少し考えていただかなければならない。

以上、コラムでした。




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