すちゃらかエッセイ
2025.9.13
第78回 先人たちに敬礼を
別項でも書いているが、私の趣味の一つにラジコン(RC)がある。
はい、ここまでは前回と同じ書き出しである。いや、最新稿だってば。
で、今回もラジコンの話である。
ただ、今回は良い話ではない。悪い話である。
あまり愉快なことは書けないかも知れないので、そういうのが嫌な方はブラウザバックしてください。
今日YouTubeのラジコン関係の動画を見ていると、ラジコン雑誌の老舗である「ラジコンマガジン」が休刊になる、と言っている。
実際に出版元である八重洲出版のサイトを見ると、休刊により47年の歴史に事実上幕を閉じるとの由である。
私は「嘘だろ!?」…とは思わなかった。
薄々そうなるだろうと思っていたからである。
私は以前、「ラジコンマガジン」と「RC WORLD」の読者であった。
今家にあるのを見ると、大体2012〜2017年くらいにかけて購読していたようである。
ちょうど私の中のラジコン熱が高まり、ミニッツバギーやクローラーに手を出した頃と時期が一致する。
最近はめっきり読まなくなっていたが、理由ははっきりしている。
まず「RC WORLD」については、極端にドリフトに偏った構成に嫌気が差したからである。
私はドリフトには1ミリも興味がなかったので、「興味のないものを無理に勧められましても…」という思いがあった。
ちなみに当時、RCドリフト界で有名だった皆さん方に目一杯フォーマルでラグジュアリーな恰好をさせて撮った某メーカーの広告があったが、今見ると実に滑稽である。彼らにとっては多分黒歴史だと思う。可哀想に。
閑話休題。
「RC WORLD」を読まなくなった後、「ラジコンマガジン」はそれでもしばらく読んでいた。
「ラジコンマガジン」は比較的偏りなく様々なジャンルを取り上げてくれていたし、「RC WORLD」よりバラエティ色が強かったので、比較的読む側としてもとっつきやすかったからである。
「ラジコンマガジン」を読まなくなった大きな理由は、価格の高騰である。
私が持っている同誌で古いものは2012年の5月号であった。
この時の定価は税込560円である。
私が持っている同誌で新しいものは、2017年1月号だが、これが880円である。
で、この頃くらいから、要らない人にとってはどうでもいい類の「付録」がついてくるようになった。
この時の付録は「ガールズ&パンツァー劇場版 RC戦車道入門 HANDBOOK」という別冊付録である。
私はガルパンには1ミリも興味がないので、「こんなもん要らないから安くしてくれ…」と暗澹たる思いに駆られた記憶がある。
この「付録つけるから高くても許してね商法」を見て、私は「この雑誌も長くないな」と覚悟をした。
そしてその後「ラジコンマガジン」から離れてしまった。
で、今回久しぶりに八重洲出版のサイトを見ると、定価が1320円になっている。
13年前の2倍以上である。
恐らくだが、付録自体は各RCメーカーからタダ同然で協力してもらったものだろう。
そうなると、雑誌自体を1320円で売らないと元が取れないところまで追い詰められていたに違いない。
ネットの普及とRC趣味のニッチ化、高齢化によって部数が先細りしたことが原因であることは明らかである。
大方広告ばかりで中身がスカスカになったからだろうと思っていたが、実際には逆で広告が取れなくなったことが要因らしい。
昔は通販の広告が何ページもあって、綺羅星の如く多くのマシンが載っていたが、今はみんなネットで買うため広告が随分減ったという。
さらにもう一つ残念な知らせがあった。
「ラジコンマガジン」の山鼻編集長が亡くなられたということである。
私個人としては、むしろこちらの方が目を疑った。
と言うのも、ついこの間タミヤのイベントで「山鼻編集長還暦記念」と銘打ったレースのお知らせを見たばかりだったからである。
7月下旬に急な病に倒れ、およそ1か月後に逝去されたとのことであった。心よりお悔やみを申し上げたい。
八重洲出版のフェイスブックの告知では、「ラジコンマガジン」の休刊と山鼻氏の訃報が一緒に掲載されていた。
恐らく、苦しいながらどうにかこうにか続けていた「ラジコンマガジン」だったが、山鼻氏の逝去が決定打となって終わりを迎えたと推察する。
一読者に過ぎない私であるが、氏の存在が同誌にとってどれほど大きかったかは分かっているつもりである。
そうであれば、残念であるが仕方ない。
RC界ということで言えば、RCブームを作った功労者の一人であるタミヤの田宮俊作会長も今年鬼籍に入られている。
RCというホビーを支えてきた方が相次いでこの世を去ったという事実を目の当たりにし、時代の流れを感じずにはいられない。
今この趣味をやっているのは私と同年代、大体昭和50年前後の生まれで、小学校の頃に「バギーブーム」の洗礼を受けた世代だろう。
私の家の近所に「ホビーショップタムタム」があって、ドリフトとミニッツとミニ四駆のサーキットがあるが、賑わっているのはドリフトのみで、それもやっているのは常連と思しきおじさんばかりである。
新しい世代を開拓しないとこのままこの業界は終わってしまうと思うのだが、今の若い人は「ものを作る」ということをやらないようである。
彼らの興味は専らスマホゲームに向いている。恐らく楽に、手軽に楽しめるからであろう。
彼らからしてみれば、わざわざキットを組み立てたり、工夫を凝らして改造したりという行為は面倒くさくてあり得ないものに映るに違いない。
私から見たらお手軽に見えるミニ四駆ですらサーキットに子どもの姿がなく、閑古鳥が鳴いているのがその証左である。
…と希望の持てない思いに苛まれていたが、YouTubeに長野朝日放送のニュースが上がっていて、県内でラジコン熱が高まっているそうな。
新しいラジコンショップが出来たりサーキットが出来ていて、賑わっているという。
ちなみに紹介されていたショップはミニッツからクローラーまでコースを設けていて、かなりレンジが広い。
ただ見たところ80年代のタミヤの復刻モデル(グラスホッパーとかホーネットとか)に力を入れているようである。
ただ、やはり80年代に子供時代を過ごしたおじさんたちが中心であり、これから盛り上げてくれそうな若い世代や子どもは少ないことは事実である。
コロナ禍以降、ラジコン熱は再び高まりを見せていると報じられていたが、まだまだ「静かなブーム」に過ぎないだろう。
取材に応じていたお客さんたちは、「一人だとすぐ飽きてしまうが、みんなで走らせるのは楽しい」と言っていた。
そういう人たちは良いのだが、私のような中途半端な下手糞は走らせに行くのはなかなかに敷居が高い。
ミニッツバギーを走らせに「EKIMAEサーキット」に行くこともあるが、「どうか先客がいませんように」と祈る始末である。
その点で言えば、クローラーは速さやテクニックを競う訳ではない(コースをクリアするテクニックを競う面は勿論あるが、別にそれがないからと言って迷惑がられる訳ではない)し、その気になれば一人でその辺の河原や山に走らせに行くことも可能である。
ただ、周りにそのような環境がない場合はあまり楽しめない。
また、お金がかかるのも難点である。
ニュースの中で店主が「ラジコンは価格の優等生であり、グラスホッパーは去年くらいまでは80年代当時とほぼ同額で買えた」という話をしていたが、これは例外であると言って良く、今のタミヤの復刻モデルは当時に比べると相当価格が上がっている。
物価が違うから仕方ないが、物価は上がっても給料が上がらないので、庶民にとっては相対的に敷居の高い趣味になりつつある。
80年代はまだ「一億総中流時代」であり、お父さんの稼ぎだけで4人家族を養うことが出来ていた。
しかし、今は格差社会となって中流階級は絶滅し、4人家族を養うためにはお父さんとお母さんが2馬力で働くことが必須である。
そのような中で、キット本体が最低でも1万円、プロポとバッテリーが計2万円程度、合計初期投資だけで3万円程度かかるラジコン趣味は、多くの人から見て「金持ちの道楽」と言って差支えないだろう。
ドリフトをやっている人が「実車では出来ないのでラジコンで…」などと言っていたが、そりゃあ実車に比べればゼロが一つ二つ違うかも知れないが、沼に嵌ってしまえば結構なお金が出て行く趣味である。
そうは言っても、県内のローカルニュースとはいえこうして取り上げてもらえるのは有難いことである。
ただ、コメント欄に寄せられた声は決して喜ぶべきものだけではない。
切実なのは、上述のとおり走らせる場所がないことや、あっても常連面をした連中が占拠していて初心者が入っていけないということである。
店の方でも「初心者優先タイム」を設けるなどして敷居を下げる努力はしているが、最終的にはファン、特に常連のモラルに拠るところが大きい。
初心者あっての業界であり、初心者が入って来なければ市場が縮小して消滅し、自分で自分の首を締めるのだということを考えるべきである。
そう言えば最近は暇と金と元気(特に金)がなくてサーキットに行けていない。
そろそろ久しぶりに行ってみようかなあ。
ラジコンというジャンルを守ってくれた先人たちに心の中で敬礼をしながら。
そしてバギーコースに私以外の客がいないことを祈りながら。