貧乏木っ端役人,家を買う。
【目次】
きっかけ編 物件めぐり編 買い損ね編 購入決定編
ローン契約編 直前準備編 引き渡し・引越編
新生活編 あとがき おまけ
家を買うことになってしまった。
きっかけは大した話ではない。
嫁の実家の近所に新築の建売住宅が建ち,オープンハウスをやっていたので,じゃあ見に行ってみっか,と興味本位で見学に行ったことであった。
そもそも私は島根に実家があり,しばらくは賃貸で暮らしておいていざとなれば島根に戻ればいいわい,くらいの気持ちでいた。
ただ嫁はどちらかと言うと持ち家に関心があったようで,毎週週末に新聞の折り込みチラシでついてくる住宅情報に目を通していた模様。
また,義両親もまた,「家賃を払い続けるくらいなら買ったら?」という考えを持っていたようである。
両親については後述する。したくないが。
オープンハウスに行くと,不動産屋のおっちゃんが店番をやっていて,設備などの紹介をしてくれる。
その場で簡単に資金計画表などもこしらえてくれる。
この時点で,この家を買うと大体月にどのくらいのお金が出て行くかを概ねイメージでき,今の家賃などと比較して「このくらいまでなら払えるな,買えるな」ということがおぼろげながら分かってくるだろう。
さて,問題の物件であるが…
2階建ての4LDKで,設備も当然ながら最新のものであり,車も2台駐車可能。私の見る限り申し分のない家である。
家自体は。
ただ,その家にはたった一つ,しかし致命的な欠点があった。
前面の道が異常に狭かったのである。
その道幅は公称2.2m。実際はもっと狭い気がする。
私はトヨタのシエンタに乗っているのだが,ミラーをたたまないと対面の家の塀にこすりそうになるくらい狭い。
もしこの家を買った場合,毎回車で出るたびに肝を冷やすような思いをするのである。
実は面している道が狭いというのは,単に自分が不便をするというだけの意味を持つものではない。
土地には国税庁が定める路線価というものがあり,面している道路に応じて公的な価額が定められている。
当然,狭い道の路線価は安い。
路線価は実勢価格(実際に取引される価格)の80%とされている。(相続税路線価の場合)
逆に言えば,実勢価格は路線価の1.25倍程度となり,路線価の安い土地はそれだけ価値のない土地とみなされるのである。
うちの親父は元税務職員で,現税理士である。
あの性格でよく客商売ができるものだ,と思うくらい,息子の私から見てもアレな性格をした男である。
親父は元税務職員なので,当然路線価のことも知っている。
と言うか,路線価至上主義者,いやそんな生易しいものではない。信者である。
よって,当然の如く面する道が狭い,路線価の安い土地の上に建つ家の購入に対しては大反対を食らった。
不動産屋も一生懸命説得していたが,彼の信念を覆すには至らなかったようだ。
その家であるが,最終的には「買いま~~~~せん!」という結論になった。
理由は,私自身ネットで調べるなどして実際どれくらい価値のある家なのか,ということを検討した結果,割に合わないという結論に達したからである。
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【主宰式新築戸建の計算式】
土地価格=土地面積(㎡)×路線価×掛率1.25(注1)…①
建物価格=建物面積(坪)×坪単価55万(注2)×消費税率…②
その他(外構など)=建物価格の1割…③
①+②+③=新築戸建の推定価格
(注1)掛率は1.25としたが,実際はもう少し高く取引されているようである。
(注2)坪単価は40万~60万とされているが,不動産屋曰く新築戸建は概ね55万円くらいと考えて良い,とのことであった。
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で,上述の家の推定価格であるが,詳細は書かないが次のとおり。
土地価格①≒1450万円
建物価格②≒1910万円(消費税は当時8%)
その他③=②の1割≒190万円
①+②+③=3550万円
これが当時3780万円で売られていた。
「う~ん,ちょっと高いなあ…」というのが正直な感想である。
なお嫁は,水場(洗濯機の置き場所)が1階でバルコニーが2階にあることに難色を示していた。
なるほど,私は一向に頓着していなかったが,興味深い視点である。
この家はなかなか売れず,後日値引きされ,売り出しから2年くらいかかってようやく売れた。
(いくらで売れたかは知らない)
新築戸建の状態でこうであるから,残念ながらリセールバリューはないと言わざるを得ないだろう。
終の棲家とするのであれば関係ない話だが。
不動産屋選びは重要である。
不動産屋が良ければ納得して家を決めることができるだろうし,ボンクラだと悔いを残すことになる。
「家もご縁である」とよく言われるが,それは不動産屋がきちんとしていればの話である。
まず私は,大小問わず市内の不動産屋を徹底的にはしごした。2桁は回ったと思う。
その不動産屋しか持っていない物件があれば紹介してもらえないか,という意図である。
しかし,今にして思えばこれはほぼ無駄であった。
基本的に,SUUMOなどで紹介されている世の中の大多数の不動産は,REINS(レインズ)というシステムにより不動産業界で共有されている。
つまり,どこの不動産屋でも紹介できるのである。(ごく一部例外あり)
逆に言えば,最初組んだ不動産屋が気に食わなければ,他の不動産屋にチェンジしても一向に構わないのである。
どこでも紹介できるのだから。
さらに言うと,不動産屋に物件を紹介してもらう,ということはあまり期待しない方が良い。
「そのための不動産屋だろう!」と私などは思うのだが,自社で独自に扱っている不動産は別として,地域の物件に明らかに無知な不動産屋はいる。
こちらの方から「SUUMOでこういう物件を見たんですが,内見できますか?」と言わないといけないことも少なからずあった。
これではどっちが不動産屋なんだか分かりやしない。
さて,ある日市内で比較的規模の大きな不動産屋に行くと,担当がついていろいろと物件を紹介してもらう運びになった。
条件は,今住んでいる学区の中でというのが絶対であった。
親父が転勤族で,小さい頃から何度も転校を強いられ,結果酷い目に遭ったので,我が子にはそういう思いをさせたくなかったのである。
それ以外の条件は,当初は考えていなかった。
後日様々な付帯条件が出てくる訳であるが。
最初見たのは,前述した極隘路に面した家と,その近所にあるやはり新築の戸建である。
まず頭に入れておいていただきたいことは,不動産屋は新築の戸建を買ってもらいたいと思っている,ということである。
理由は簡単で,まず中古住宅と比べて価格が高いので仲介手数料(物件価格の3%+6万円が上限)をたんまり取れるということ,設備が当然新しいので後から文句を言われる可能性が少ないことからである。
ただ,この2件については,双方とも道が狭いことがネックになり,「買いま~~~~せん!」となった。
私の住んでいる街は昔ながらの路地道が多く,その間で空いた土地にぽつりぽつりと新築の家が建つ,という状況なので,道路問題が避けられない。
あと,やはりネックは価格である。
4000万円近い価格は,親父の反対がなかったとしてもやはり二の足を踏むレベルである。
この当時はあまり考慮していなかったが,「ローンを払えるか」というのは重要な要素である。
当初はこのように戸建を重点的に見ていたが,徐々にターゲットは3LDKのファミリー向け中古マンションに移っていった。
理由は,まず戸建の価格が高いこと。これは上述したとおりである。
次いで,私の住んでいる街においては,2階建てさえ希少で,多くは狭い土地に無理やり建てた3階建ての長っ細い「都市型住宅」であった。
今はまだ良いが,年を取って足腰が立たなくなった時,最悪3階まで階段で上がるのは非常に厳しい。
また,親父は上述のとおり戸建の価格についてやかましく文句を垂れるし,おふくろもどちらかと言うとマンション派であった。
つまり,マンションにしておけば家庭内が平和である,ということも理由の一つであった。
ということで中古マンションを何件か内見したが,なかなか良い物件とのご縁がなかった。
まず最初に大規模マンションが売りに出ていたので見たが,ネックになったのは電話とネットの環境であった。
このマンションは独自の回線を引いていて,インターネットも管理会社で契約している。俗に言うインターネット付マンションである。
ネット使用料は安く,つなげばすぐに使えるので一見便利だが,欠点もある。
プロバイダーが契約会社指定のものに変わるのでメールアドレスが変わるし,このサイトの更新もできなくなる。回線速度も遅いらしい。
電話は今「フレッツ光」であるが,これが独自回線となり,契約会社が変わるごとに電話番号が変わるとか。
また,現在は「ひかりTV」を契約しているが,これも見られなくなる。
娘は「ひかりTV」の「ディズニージュニア」というチャンネルのファンだが,これが見られない。スカパーも設置不可らしい。
このような事情で,このマンションは諦めることになったのである。
なおこの一件により,「フレッツ光」が引けること,という新たな条件が加わったのであった。
次いで見たのは,小規模マンションであった。
ここはフレッツ光が引けて,築20年弱ということで値段もお手頃であった。
ネックは,ペット不可であることと,修繕積立金が比較的高額であることであった。
まずペット不可という点については,娘が動物好きなので,もしかしたら何十年住むかも知れない住処で,(実際飼うかどうかはともかくとして)ペットを飼う可能性を完全に0にしてしまうことはいささか可哀想な気がしたのである。
さらに重要なのは修繕積立金である。
マンションは戸建と違い,住宅費本体以外に管理費と修繕積立金を払う必要がある(車を使う人は駐車場代も)。
前者は文字どおりマンションの管理に使われるお金で,後者はマンションの共用部分の修繕に使われるお金である。
緊急の場合を除き自分の裁量で修繕をする戸建と違い,マンションは概ね12~15年に1回,全体設備の大規模修繕が行われるのが一般的であり,そこでこれまで積み立てた修繕積立金の多くが費やされる。
修繕積立金は基本的には新しいマンションは安く,年数が経つと上がっていく。また,規模の小さいマンションや機械式駐車場がある場合は高くなる傾向がある。
高すぎるのも考え物だが,逆に安すぎると満足な修繕ができず,設備の劣化ひいてはマンション価値の下落につながるため,難しいところである。
分かっちゃいるけど(いや,当時はあまり分かってなかったが),このお金が若干高額なのではないか,というのが引っ掛かったのである。
ただ,魅力的な物件ではあったので,いろいろと不動産屋に調べてもらい,検討を重ねていた。
そんな中で,事件は発生した。
不動産屋の担当者がいきなり音信不通になったのである。
ある日などは,担当者の携帯に電話をするとガチャ切りされ,「後で連絡します」とメールが入ったがその後音沙汰なし。
あまりに酷い,ということで会社に直接電話をすると,件の担当は退職することになった,と言われた。勿論初耳である。
ほどなく新しい担当(前担当の上役らしい)がついたが,このドタバタの間にこの物件は売れてしまった。
この一件で不動産屋を変えようかと真剣に考えたが,新しい担当がきちんとするから,ということで今回は目をつぶることとした。
この決断が吉と出たか凶と出たかは後述する。
まあ皆さんの予想通りだと思うが。
家探しを始めてから半年が経とうとしていた。
当初はさくっと決めて早々に新居という予定だったのに,どうしてこうなった。
そんな折,例によってSUUMOをチェックしていると,新規で中古マンションの売り出しが出ていた。
値段は2980万円とこの辺では若干お高めではあるが,管理費・修繕積立金は高くなく,何より売物件が出るチャンスも少なくなっていた。
ということで不動産屋に頼んで内見をさせてもらうことにした。
件の物件はいわゆる高層階であり,眺望も日当たりも文句なしである。
売主は上品なご婦人で,部屋も丁寧に使われているようで,清潔感のある内装であった。
プライベートポーチ,トランクルーム,メールボックスと設備も充実しており,フレッツ光も使え,ペット飼育可能であった。
唯一の心配は駐車場の空きがない,とされていることであったが,一住戸一台の権利はあり,とされている。
文句のつけようがない。これは決めてしまうべきか。
家の購入は,事実上先着順である。
「この家が欲しい!」と決めたら,不動産屋を通じて売主に購入申し込みを入れる。
その際,条件(値引きしてほしいとか,ハウスクリーニングを入れてほしいとか)も同時に記入する。
売主がその条件をOKしたら,売買契約の段取りになるのである。
ということで,翌日職場を早退して嫁と二人で申し込みを入れるべきか否か悶々と悩んでいると,不動産屋から電話がかかってきた。
何と,早くも当該物件に他の内見者から申し込みが入ってしまったというのである。
稀に先に申し込みをした人が破談になったとかローンが通らなかったなどの理由で購入に至らない場合があるので,それに賭けて2番手で申し込みを入れたが,当然のことながらそのような都合の良い展開にはならなかった。ち~ん。
今にして思えば,このような好条件のお部屋が早々に売れてしまうことは火を見るより明らかだった訳で,本来即決するべきだった。
しかしその当時はまだその認識が甘く,また決めてしまうことに対する怖さのようなものもあったかも知れない。
それにしてもこれは痛恨の出来事であった。
本来「契約を急かす不動産屋は良くない」とされているが,場合によるだろう。この時は急かしてほしかった。
全て後の祭りである。
この後,マンションや戸建をいくつか見たが,これという物件には巡り合えないまま日々が過ぎていった。
本来秋口も不動産売買の繁忙期に入るはずなのだが,なぜか新物件はなかなか出てこない。
逃がした魚のでかさを思い知らされる日々であった。
そんなある日。
SUUMOに登場してからしばらく経った中古マンションの物件と,中古戸建の物件をダメ元で見に行くことにした。
前者は買い損ねたあのマンションと同額の2980万円で,管理費と修繕積立金もかなりお高いのがネック。
後者は新築よりは安かったものの,戸建としては予算ぎりぎり。
2LDKに物入が2か所。部屋数,広さが家族4人で暮らすにはやや手狭かな,ということがネックではあった。
結局,前者は壁は釘穴だらけで畳もボロボロ,あのマンションと同額とは信じられない状態だったのであっさり候補から外れた。
後者は部屋の状態が大変良く,かなり魅力的なお家ではあった。これはキープかな,といったところ。
で,その帰りに事件は起こった。
帰る途中に新築の戸建があり,オープンハウスをやっていたので,興味本位でのぞいてみた。
お値段は今の我々の予算をオーバーしており,そこにいた不動産屋のおばちゃんに,「いい家ですねえ,でも高いなあ」などと話をした。
その不動産屋は全国的に有名な大手の不動産屋で,私も不動産行脚で一度は訪れたことがあるのだが,今一度「お客様カード」に個人情報を記入させられ,もしいい物件があったら連絡するから,と言われてその場はおしまいとなった。
しばらく経ったある日のこと。
件の大手不動産屋から連絡があり,マンションの売り物件が出たので紹介したい,とのこと。
喜び勇んで資料をもらいに行った。
その物件と同じマンションでいくつかの売出事例があったので,そのくらいの値段を想定して行ったら,お値段が2980万円。
従前の売出事例と比べると2~300万円高い,強気な金額設定である。
中古物件の売出価格は不動産屋が査定し,最終的には売主が決定する。
査定価格の算出方法はいくつかあるらしいが,不動産屋曰くこの物件については周辺の売出価格を参考にした,とのことであった。
恐らく周辺のマンションが軒並み2980万円で売り出されていたこと,従前の事例よりもやや状態が良く,少し広いことを根拠にお高めの査定価格を提示し,高く売りたい売主がこれに乗って2980万円に決めたのであろう。
正直,この値段を見ただけで気持ちが萎えてしまったが,しかしまあ,せっかくなので見てみっか。
その程度の期待度であった。
売主は私より少し年長と思われる夫婦で,お子さんは大学生で離れて暮らしているとのこと。
対応したのは旦那さんで,奥さんは仕事で方々に出ることが多く,ほぼ家にいないとのこと。
内装は(あまり使いこまれていない,という点で)綺麗であった。
リビングはかなり散らかっていた。夫婦住まいとはいいながら,独身男の独り暮らしの部屋のようであった。
なお,旦那さんは呂律が怪しく,赤ら顔で,そのくせ饒舌で,自慢話ばかりしていた。酔っ払っていたのかも知れない。
売主は少々,いやかなり癖のある人物で,人によってはこの時点で却下する人もいるかも知れない。
しかし,部屋には罪はない。
部屋の状態はかなり良く,日当たりや通風は悪くなく,トランクルームも備え付けられている。
フレッツ光OK,ペットもOK。
管理費や修繕積立金,駐車場代もまあこんなものだろう。
問題はお値段だが,聞くところによると「2980万円じゃないと売らない,という訳ではない」とのこと。
さてどうしたものか。
一応キープとして考えている中古戸建との二択である。
とりあえず親に相談してみた。もちろんおふくろにである。
おふくろは間取りの広いマンション推しであった。
曰く,「娘が嫁に行った後,家族で帰省して部屋が狭かったら困る」。
結局最終的には親の言うことを聞いてマンションに決定した次第である。
不動産屋もこれで鞍替えとなった。
今まで付き合ってくれた前の不動産屋の担当者には申し訳ないが,仕方がない。
私はお宅から買いたかったのだが,恨むなら己の行動の遅さと運のなさを恨むが良い。
不動産の購入を決定すると,前述したように「購入申込書」を出すことになる。
購入の条件として,購入希望価格を記入する。
前述したように,2980万円はさすがに高いと思ったので値引き交渉をお願いすることにした。
価格交渉は,本人に代わって不動産屋が行う。
一般的には,売主側の不動産屋と買主側の不動産屋がそれぞれの代理人となって交渉する。
ただ,私の場合は少し特殊な状況であった。
売主側の不動産屋と買主(私)側の不動産屋が同一だったのである。
これを業界では,「両手仲介」と呼ぶらしい。
「両手仲介」は,不動産屋から見れば売主からも買主からも仲介手数料をいただけるので,おいしい話である。
しかし,価格交渉において日本の民法では認められていない「双方代理」に該当するとも言われ,「不動産業界の悪習」と見る向きも多い。
少し考えれば分かるが,売主は高く売りたい訳で,買主は安く買いたい訳である。
利害が相反する両者の代理を一者が行うことは普通はない。どちらかを立てればどちらかが立たなくなってしまう。
不動産屋から見れば高値で売買した方が仲介手数料が増えるので,特に買主が不利になる可能性が考えられる。
勿論少々の値引きが仲介手数料に与える影響は微々たるものなので,「売りたい」ということを優先させれば売主が不利になる可能性もあるが。
ということで,買主としては通常の不動産取引以上にしっかりと心を決めて価格交渉に臨む必要がある。
購入申込書に記入した金額は,2780万円であった。
確かに部屋の状態は良かったが,それでも同じマンションの他の部屋の事例を踏まえ,このくらいが妥当だろうと考えたのである。
交渉術としてはもう少し安い値段で申込を出す手もあった。
しかし,あまり安い値段(特に根拠がない場合)で出すと,売主が「なめとんか!こいつには売らん!」とへそを曲げる恐れがある。
へそを曲げられない範囲で,一応根拠のある価格として提示したつもりである。
不動産屋の担当者も了承し,この価格で交渉する,と請け合った。
しかし,200万円の値引きには売主が難色を示したようで,「間を取って2880万円でどうか」と言ってきた。
内見した限り,売主は金持ちそうである。
金持ちなのだから,貧乏人に対する慈悲の心をもう少し持ってくれても良さそうなものだ。
どこまでなら歩み寄ってもらえるか,へそを曲げないで話をしてもらえるかを不動産屋とともに検討し,もう気持ちだけの値引きを求めることとした。
結局,最終的には2850万円で妥結した。もう少し安く買いたかったところだが,仕方がない。
金額で折り合いがつくと,今度はすぐに売買契約になる。
家を買う時に最も困惑するのが,申込を入れて条件面で妥結するとすぐに売買契約になるところであろう。
しかもこの時,手付金+仲介手数料の半額が必要になる。
私の場合,合計で約150万円であった。
前日に銀行にお金を下ろしに行ったら,「何に使うんですか」と訝し気な顔で聞かれたことは言うまでもない。
売買契約は不動産屋の一室で行われた。
まず我々買主側だけで重要事項の説明を受ける。
とはいえ,事前に重要事項説明書の写しをもらっており,既にそれを熟読しているため,内容は分かっている。
当初あった誤字脱字が直っていることだけ確認して安心する。
重要事項の説明を受けているうちに売主(旦那さん)が現れた。
彼は当日持参するように言われていた,契約書に貼付する印紙を持ってきておらず,またお金も持ってきていなかった。
私から手付金を受け取った後,そのお金の中から所定の仲介手数料の半額を支払う始末である。
この人は本当に大丈夫なのだろうか。非常に不安になったものである。
ただ,金持ちだけあって確かに気前はよさそうな人である。
カーテンやエアコンといった部屋にあるものは全部あげよう,との提案をもらった。
勿論壊れて動かないものをもらっても困るので,後日の物件確認の席で動作確認をしてから検討する,と返答しておいた。
役に立つものであれば,是非ともいただきたいものである。
この場では物件状況の報告も行われる。
売主の自己申告によれば,設備や近隣との人間関係等を含め,問題はないとのことであった。
この点についても,後日の物件確認の席で確認をすることになる。
契約関係の分厚いファイルをもらい,その中の数々の書類に目を通す。
その中で,このマンションが新規分譲された時のパンフレットの写しが出てきた。
見ると,新築当時の価格より今の方が高くなっている。
裏を返せば,リセールバリューが高いという言い方もできるが,それでも損をした気分である。
当時よりマンションそのものの価値が上がっているからとか当時は金利が高かったから,と言われるが,慰めにならない。
ちなみに,同一マンション内でも価値の格差は存在する。
価値が高いとされる部屋は,高層階,角部屋,南向きの部屋である。
このたびの物件は高層階でも角部屋でもないので,マンションの中でもあまり価値の高いお部屋ではない。
それを考えても,もう少し安い価格が適正ではなかったか,という思いが残った。
とはいえ,売り出されたばかりの物件であったため,これ以上の値引きは難しかっただろう。
放っておけばもう少し安く買えたかも知れないが,こちらにも時間がなかったことは事実である。
また,放っておいた場合,以前の例のように他の人に買われる危険性もあった訳ではある。
こればっかりは「if」の話になるので何とも言いようがないが,とにかく家をお得に買うにはつくづくタイミングが重要だと痛感する。
なお,最近はAI(人工知能)を用い,周辺の物件価格や当該物件の諸条件を加味して中古物件の推定価格を計算してくれるサイトも存在する。
勿論,直近の価格動向(たとえば急激な相場の上昇など)に対応しきれない,などの弱点があり完璧な精度のものではないので,盲目的にこれを信じて高い安いを論じることは現実的ではないが,まあ現状は参考程度,といったところになるだろうか。
将来的には精度を高め,売主買主双方が(極端にボラれない程度に)適正な価格で取引できる環境作りに資するものになれば良いのだが。
まあ何はともあれ,ついに売買契約を結び,購入物件決定となった。
しかし,売買契約=購入,という訳ではないのがまた辛いところである。
まだ乗り越えなければならないハードルが残っている。
それは次章で述べる。
前述した,売買契約≠購入となる(即ち,破談となる)最も大きな理由は,ローンが通らないことだろう。
キャッシュで家を買えるごくごく一部のブルジョアジーを除けば,ローンを使わないと家は買えない訳で,その成否が死命を決すると言って良い。
「お前は公務員だからローンに通らないなんてことはないだろう」と言われるが,さにあらず。
私も個人的な事情でローンを借りられないかも知れない危険はあったのである。
私がローンを借りる上で唯一にして最大のネックになったのは,健康状態である。
銀行の住宅ローンを借りる際には,基本的には「団体信用生命保険」,略して「団信」への加入が必須である。
これは生命保険の一種で,万一のことがあった場合にローンがチャラになる,というものである。
加入した場合,その保険料はローンの利率に上乗せされるのが一般的である。
私の場合,詳細は書かないが持病があるため,前の不動産屋のお世話になっていた時に「とりあえず団信を申し込んでみましょう」と言われたものの,己の健康状態からまず通常の団信は通らないだろうと考え,より門戸が広く,持病があっても通る可能性がある「ワイド団信」を申し込んでみた。
通常の生命保険と同様告知をしなければならなかったので,告知書に正直にありのままを書いたら見事に落ちた。
よって,この時点で一般の住宅ローンの利用は不可能となった訳である。
こんな私に唯一ローンを借りることができる可能性を与えてくれたのが,「フラット35」である。
ご存じの向きも多いと思うが,住宅金融支援機構が銀行と提携して扱っている住宅ローンで,団信加入は任意である。
悪用する奴が多いため最近ではネガティブな印象を持たれる方も多いと思うが,現在のところ持病のある人にとってはローンを借りて家を買うための唯一の手段となっている。
フラット35で家を買うためには,本人の属性もある程度は問われるが,どちらかと言うと購入対象となる建物が大きな問題となる。
簡単に言うと,床面積と技術基準において住宅金融支援機構が求めている基準を満たす建物である必要がある。
中古住宅の場合はこれらに加え,耐久性や劣化状況,耐震性などが条件となる。
特に,建築確認日が昭和56年5月31日以前の場合は,耐震評価基準への適合が必要となる。
※以上,フラット35公式サイトからの受け売りでした。
よって,フラット35で中古住宅を購入する場合は,比較的新しく耐震性に優れた建物であることが条件になってくる。
また,さらに厳しい基準をクリアした住宅については,「フラット35S」が利用できる。
これは最初の5年間又は10年間に限って金利が通常のフラット35より安くなるという,貧乏人にとっては有難い制度である。
基本的にはフラット35(S)を利用しようと思えば,対象となる建物の適合証明書なるものを取らなければならない。
建築士に建物をチェックしてもらい,フラット35(S)の適合条件に対応しているかどうかを調査した上で合格すれば適合証明書が発行される。
勿論有料であり,費用は買主が負担する。
ただ,マンションによっては,最初からフラット35(S)の物件検査を受けていて,適合証明書を改めて取らなくてもフラット35(S)を利用できるという夢のような物件も存在する。これはフラット35の公式サイトに掲載されているので,中古マンションをフラット35で買いたい人はチェックしてみると良いだろう。
なお,私がこのたび購入を決めたマンションは対象となっておらず,適合証明書を取得しなければならないこととなった。
ちなみに以前買い損ねたマンションは既にフラット35Sの対象となっていた。やはり逃した魚は(以下略)。
当初不動産屋からは,「フラット35は大丈夫だと思うが,フラット35Sは難しいかも」と言われていたので,あまり期待していなかった。
しかしその後,「フラット35Sも大丈夫そうです」という話があり,話半分で聞いていたところ,「フラット35Sの適合証明書が出ることになりました!」というお知らせが届いた。フラット35(S)の適合証明を取るための審査は部屋の中に入って行われると聞く。売主の協力なしではそれはできない訳で,協力してくれた売主には感謝しなければならないだろう。
ということで,これでローンが通ることがようやく確定した。
ちなみに,団信が通らなかったため,その代わりとして某外資系の収入保障保険に加入した。
保険代理店の人が奔走してくれたおかげか,私の健康状態でも加入することができた。
保険料がお高いのが残念なところだが,仕方がない。私が死んだときのことを思えば,入れただけ良しとしなければならない。
あとはお互いがちゃぶ台返しをせず,無事ローン契約(金銭消費貸借契約,略して金消契約)を済ませた上で,できるだけ綺麗なお部屋の状態で無事に引き渡されれば晴れて購入完了,ということになる。とはいえ,それまでまだまだ油断はできない。
さて,普通の人は購入前にやっておくことだろうが,この頃になってようやく,購入後の家計について考えるようになったので記しておく。
資金計画は前述のとおり不動産屋に頼めば出してくれるが,大体の金額であれば自分でも算出することができる。
ただし,あなたの家にエクセルの入ったパソコンがあればであるが。
ここでは長くなるので書けないが,「エクセル pmt関数」で検索すれば,やり方が詳細に書かれたサイトが見つかるだろう。
という訳でローン月額をざっくり算出し,年間の収支を出してみた。
結論から言うと,予想以上にカツカツであった。
俗に「手取りの25%が住居費の理想」と言われるが,我が家の場合はほぼその辺りではあるものの,年間で入ってくるものと出ていくものを計算してみると,殆ど残らない。以前は「収入の30%」と言われることもあったようだが,そんなに出したら間違いなく破産するだろう。
中でも,借家住まいの人に支給される「住居手当」がなくなるのが地味に,いや派手に痛い。
トータルでは毎月の住居費(ローン,マンション管理費,修繕積立金,駐車場代+団信代わりの保険料)は今の住居費(家賃,駐車場代)とあまり変わらないが,手当分の毎月2万7千円がごっそりマイナスとしてのしかかる。さらにボーナス払いで年2回,計30万円の支払が加わる。
「ローンなんて家賃に毛が生えたようなもんでしょ」とおっしゃる向きもあろうが,結構な剛毛であると思った方が良い。
ちなみに,条件を満たす住宅であれば,購入した翌年に確定申告に行けば住宅ローン控除を受けられる。
税金が10年間にわたり,40万円(場合によっては50万円)を限度に,現存の借入金額の1%が減税されるという制度(注)である。
これが適用されれば,初年度は20数万円が浮く(注)が,住居手当のマイナスを埋め合わせるには及ばない。ううう。
もし家を買おうという方がいらっしゃるならば,これを機会に家計のチェックをしてみると良いだろう。
特に,「無駄遣いをした記憶がないのになぜか金がない」という方は,家を買わない人であってもやってみた方が良い。
給与明細と通帳を見れば,おおよそ何にどれくらいお金がかかっているかは分かってくると思う。
ちなみに我が家の場合何がでかいかと言われると,何といっても保険料であろう。
家族を含めて生命保険,医療保険,学資保険,年金保険,自動車保険と保険をかけまくっており,年間約92万円を支出している。
学資保険と年金保険は将来への貯金という側面があるが,この2つで月5万超→年間60万円以上出費している。
やめる訳にはいかないと思っているが,何らかの見直しは必要かも知れない。
また,現在嫁は専業主婦だが,今はアルバイトで小金を稼いでいる。本格的に働いてもらわなければならないかも知れない。
お前にも苦労をかけるねえ。おとっつあん,それは言わない約束よ。
その場合は私が家事を率先して行うことが必要となってくるだろう。
かつては亭主一人の稼ぎで家族4人くらいなら養うことができたものだが,今はもはやそうではない。
こんな時代に誰がした。
(注)
これは新築で購入した場合(消費税がかかった場合)の計算である。
私の場合は中古住宅なので,控除対象となる借入金額は最大2000万円であり,このため毎年の控除額の最大は20万円である。
また,住宅ローン控除の延長措置(10年→13年)も対象外である。
新築か中古か迷う場合,こういったことも考えて決めた方が良いかも知れない。
金消契約及び引き渡しまで1か月となった。
上述のとおり,契約時に物件状況の報告があり,設備については特に故障なし,とのことであった。
そのことの確認及び残置物をどうするかの整理をするため,内見以来2回目の訪問を行った。
その日に対応したのは,やはり旦那さんの方であった。
奥さんは今日も仕事で遠方にいるらしい。一度でもご尊顔を拝することはあるのだろうか。
ある程度荷物を片付けているようだが,相変わらず部屋は散らかっていて雑然としていた。
和室には前回いなかった娘さんがいて,「腰が痛い」と言いながらTシャツ姿で寝そべっていた。
相変わらず緊張感の感じられない人たちである。
設備については,ガスレンジを実際に点火したりレンジフードや浴室乾燥機のスイッチを入れたりして確認をした。
給湯器なども本当はきちんとお湯が出るか確認したかったが,普通に生活しているからということでそこは目をつぶることとした。
なお,これらの設備については契約上,引き渡し後一週間以内に不具合が見つかった場合,売主に修復を求めることができる,とされている。
引き渡し後,実際に一通りいじってみる必要があるかも知れない。
エアコンやカーテン等の残置物については,結局売主が全部持って行くことになった。
やはり転居後使う当てがあるということと,もう十数年経過しているもので,特にエアコンについては劣化の可能性が高いから,ということである。
いただけるならいただきたかったが,まあこればっかりは売主の厚意あってのことだから仕方ない。
ちなみに,部屋にはピアノがあって,「重いから安く買ってくれませんかねえ」と言っていたが,スルーしておいた。
一つ困ったのは,売主が引き渡し日の意味を今一つ理解していなかったことである。
ちゃんと引き渡し日までに部屋を空っぽにして鍵を渡すように,と不動産屋から改めて説明を受ける始末である。
今にして思えば,引き渡し日の扱いが契約時にかなりあいまいで,「あくまで仮決定だからね」という言い方だったように思う。
この点については,一概に売主だけを責める訳にはいかないように思った。
上述したように,部屋は相変わらず雑然としていたが,荷物を少しずつ整理しているようではあった。
また,台所や風呂(排水口なども含む)も掃除をしているらしい。
一応それなりの自覚はあるようで,この点は良かったと思う。
こちらはまだ何もしていない。年末の大掃除(と言えるほどきちんとしたものではないが)をしただけである。
また見に来る必要があれば,不動産屋を通じていつでも言ってもらいたい,と売主から言われた。
あまり再々来る訳にはいかないだろうが,こう言うからには引き渡し日まで内装や設備等について善管注意義務くらいは果たしてくれるということだろうか。
こちらとしては,きちんと暮らせる状態で,できるだけ綺麗な状態で引き渡してくれれば良いので,それだけはお願いしたいところだ。
さて,残り1か月となり,さまざまな準備をしなければならなくなった。
項目ごとに紹介しよう。
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【引越準備】
まずは引越業者及び引越日の決定である。
ネット上の引越に関するサイトで予習していたので,ある程度の流れは分かっているつもりである。
まず最初に引越会社から提示される金額は,はっきり言ってぼったくり価格である。
それをどこまで値引きさせるかが本当の勝負である。
このためには,2社以上での見積競争が不可欠なのである。
ということで,大手の2社を呼んで見積を取らせた。
仮にA社,B社とすると,まずA社から見積もりを取る。
最初に出てくる価格は間違いなくぼったくりなので,「高えなあ」と嫌な顔をし,希望額を伝える。
(この時のため,引越関係のサイトで相場を調べておくことをお勧めする。)
で,A社からある程度の額を引き出し,B社を呼ぶ。
B社もまず最初の見積額を出すが,もちろんこれもぼったくり価格である。
B社の営業担当に「A社は○○万円と言っていますが,いかがでしょうか?」と聞いてみる。するとB社がより安い価格を提示する。そうしたらA社の営業担当に電話をして,「B社は△△万円と言っていますが,どうでしょうか?」と聞く。
この繰り返しである。あとはどちらかがギブアップするまで値引き競争が続く。
最後の方になると,「ちょっと上司に相談します…」と言われる。
ここまでやって初めて適正な価格に近付いたと言えるだろうか。
泥仕合,チキンレースに付き合うのは非常に疲れるのだが,引越でボラれないためには必要な儀式である。
なお,私の場合引越の期日は2月下旬であった。
引越業界では3月が繁忙期とされ,この時期は値引きがきかない,とされている。
しかし,2月下旬も3月を避けて引っ越す人が多いため,隠れた繁忙期と呼べる時期なのである。
よって,閑散期の引越に比べたら若干高くついた印象だが,まあ納得のいくところに落ち着いた。
お願いすることにした業者と日程を詰めて,準備完了である。
一つ注意しなければならないのは,引越予定日のかなり前から業者に声を掛けておかなければならないことである。
私は1か月前に話をしたが,これでも遅いくらいなのだそうだ。
特に繁忙期の場合,下手をすると運送トラックの確保ができなくなるため,早めに準備をしておいた方が良い。
【ハウスクリーニング準備】
中古住宅の場合,新居で快適に暮らすためにはハウスクリーニングは不可欠であろう。
前の住人の生活の痕はできるだけないに越したことはない。
ハウスクリーニングは,購入申込時の条件に書けば売主にやってもらえる場合もあるが,「納得いくようにしようと思ったら自分でやった方が良いのでは」と不動産屋に言われたので,こちらでやることにした。
費用を不動産屋に聞いたら,「7~8万円くらいです」と言われたのでそのつもりで某大手から概算で見積を取ったら,基本料金だけで10万円,ワックス掛けなどをすると追加料金が加わり,14万円程度になるとのこと。倍やないかい。
「話が違うんですけど」と不動産屋に言ったところ,提携している別業者を紹介してもらい,そこから概算見積を取ったら6万円ちょいだそうだ。
信頼性など不安があるが,不動産屋曰く,「今までやってもらっていて,特に問題はなかった」と言っていたので,そちらにお世話になることに決めた。
【現在住んでいる賃貸住宅等の解約】
契約書に書いてあるが,賃貸借契約を解約する場合,大抵の場合1か月前に貸主に通知する必要がある。
賃貸住宅の管理会社に行き,所定の解約通知書に必要事項を記入して認め印を押して出す。
「出て行くのだなあ…」としんみりした気分になる。
なお,万一解約を取り消したい場合(売主が土壇場でちゃぶ台を返した場合など)は,早めに管理会社に伝える必要がある。
原則解約の取り消しはできないが,新しい借主が決まってしまう前であれば取り消しを認めてもらえる場合もある。
逆に新しい借主が決まってしまうと取り消しはまず無理になるので,早めに伝える必要があるということだ。
また,月極駐車場を借りている場合は,これも解約する必要がある。
仲介してもらった不動産屋にその旨を伝え,不動産屋が帳面に書き込んでそれでおしまいであった。
なお,これも大体1か月前には言わなければならないことになっている。
私の場合敷金を1か月分払っているため,「最終月は払わなくていいです,敷金で精算しましょう」と言われた。
↓
後日談だが,このように不動産屋に伝えて解約したにもかかわらず,その数か月後複数回にわたり,駐車場の貸主から「賃貸料がずっと払われてない」と電話がかかってきた(しかも毎回仕事中に)。
そのたびごとに「解約したんですが」と説明してその場は収まったが,大変迷惑であった。
手続きが不動産屋への口頭通知のみで,書面のやり取りがなかったことが原因でないかと思う(あとは貸主が老人ボ…げふんげふん)。
やはり契約に関する手続きはきちんと書面でするべきだと痛感した。
【火災保険】
銀行でローンを借りる場合は,ほぼ火災保険加入が必須なのだそうだ。
銀行が,自行が提携している保険会社から火災保険の見積を取って送ってきた。
この他,不動産屋からも系列の保険会社からの見積を送ってきた。
ただ,実際のところ,条件が同じであれば価格的にはどこの保険会社も似たり寄ったりである。
補償内容が充実していれば高くなるし,そうでなければ安くなる。
どこまでの補償を求めるかが保険料に直結するので,見積書やパンフレットとにらめっこをして,いるものといらないものを取捨選択する必要がある。
この判断は素人にはなかなか難儀なことである。
また,当然のことながら,保険料は保険金額によって変わる。
住宅には評価額が定められていて,評価額≒保険金額とするのが望ましいとされる。
ただし,評価額を所在地,構造,延床面積により概算で定める場合には,見積における保険金額には幅を持たせており(プラスマイナス30%),特にマンションの場合,評価額に比して高めに設定される場合もあるらしい。自分の家にどれだけの保険金をかけるべきなのか,それを判断することは素人にはかなり難儀である。
難儀なことが多いので,信頼できる知り合いの生保のお姉さんに頼んでレクチャーをお願いした。
彼女の会社は上記の提携会社に含まれていなかったので,見積も新たにもらった。
そして残念ながら,学べば学ぶほど「提携している保険会社は似たり寄ったり,提携していない保険会社は損」ということが白日の下に晒された。
結局,銀行提携の某保険会社に決めることとなった。彼女には面目ないが,仕方ない。実力の世界である。そこに情の介在する余地はない。
【金消契約】
まず最初に驚いたのは,「金消契約=決済,引き渡し」ではないことである。(※)
金消契約はあくまで銀行とのローンに関する契約のみであり,そこでお金は動かない。
金消契約を締結するローンセンターではお金のやり取りができないので,決済及び引き渡しの手続きは別途銀行の支店でするのだそうだ。(※)
聞かされていなかったのでちょっと混乱した。そういうことは早く言いなさい。
(※私の場合はそうであった,ということである。他の銀行の場合は違うかも知れない。)
金消契約に必要なものについては,銀行の住宅ローン担当者から聞いたところ,次のとおりであった。
○新住所の住民票
○新住所の印鑑証明
○実印及び銀行印
○通帳
○2万円の収入印紙
○免許証(住所変更は不要)
この他,提携外の保険会社と契約する場合は,火災保険の申込書(保険契約締結後のもの)が必要であるとのこと。
ということで,住民票を新住所に移す必要がある。
まだ引っ越してもいないどころか,引き渡しも受けていないのに住民票を移すのは違和感しかないが,仕方ない。
で,役所に行った。
転居届を出したところ,売主がまだ当該住所に住民票を置いていることを指摘されて冷や汗をかいた。そりゃそうだ。当然である。
結果的に書類は取れたが,非常に気分が悪い。
これは役所の人を騙す行為であり,厳密に言うと違法であると言われている。
SUUMOのサイトには「金融機関が行うローン設定の実務と自治体が行う住民票異動の手続きに矛盾があるため現状では仕方がない」「自治体もそのあたりの事情はよくわかっており…」」と言い訳がましいことが書いてあるが,私の見た限り自治体が理解しているとは思えず,また引っ越してもいないのに(短期間とはいえ)嘘をついて住民票を居住実態と異なる状態にしておくのは心情的にも寝覚めが悪い。
自治体からの書類がまだ売主が住んでいる新住所に届くとか,子ども医療費など公費による扶助を受けるのに不都合が生じないかとか,実際にトラブルが生じるのではないかということも心配である。
そもそも日本は法治国家であるから,法が銀行の都合と合わないのであれば,銀行の実務の方を法に合わせるのが当然ではないだろうか。
客に違法行為を唆して平然としている銀行はいかがなものか。
金消契約自体は,銀行のローンセンターの人の言に従って粛々と書類を記入し,粛々とハンコをついて終わったが,あまりに不愉快だったので上記の内容を述べて説教してやった。迷惑な客だと思われたかも知れないが,嫌いたければ嫌えば良い。ふんだ。
引き渡しの日がやってきた。
前項のタイトルでは「長い?短い?」とつけたが,この日が来てみるとやはりあっという間,という感が強い。
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【決済】
まず,決済の手続きである。
某銀行の某支店の隅っこの一角で行われた。
当然平日である。また,不測の事態(忘れ物など)に備え,基本は午前中に行われる。
司法書士のお姉さんが来ていて,登記の手続きをする。
私も腐っても法学部だったのだが,何をやっているかを横から見る余裕もない。
書類をひたすら書き,ひたすらハンコを押すのみである。
権利書は後から送付します,と言われ,そうですか,と言ったのが唯一の会話であった。
で,金のやり取りである。
約2700万円が私の通帳の上に入り,そして出ていく。
さあ,ローン生活の始まりです。
ローン地獄にならなければ良いのだが。
横にいた嫁は売主さんご一家と会話をしている。
旦那さんと奥さんと娘さんが同席していた。
奥さんは初めて拝見したが,確かにしっかりした感じの方である。旦那さんにいろいろと教育的指導をしていた。
奥さんはお家に非常に思い入れがあるらしく,「住みやすいですよ」と仰っていた。
そして,私は見ていなかったのだが,嫁曰く,「泣いていた」らしい。
「花粉症かと思っていたが,本当に泣いていた」と。
「いい方に買ってもらえて良かった」とも仰っていた。
嫁はともかく,私は「いい方」なのだろうか。値切ったし。
娘さんは「○○で働いているから来てくださいね~」と屈託なく話していた。
あまり話をする機会のなかった売主さんご一家であるが,良い人たちだな,と感じた。
それが分かっただけでも良かったと思う。
手続きは1時間ほどで終わり,鍵類をもらって散会となった。
その後昼飯を食べて,実際に新居に行ってみた。
【新居訪問】
まずは管理人室にご挨拶。
管理人さんはちょうど交代の時間だったらしく,2人いらっしゃった。
お二人ともきちんとした方で,いろいろと教えてくれた。
最も懸念される機械式駐車場の使用方法なども教えてもらった。
また,手続きの書類もいくつかもらった。
まあこれなら安心かな,と思った。
よく考えたら,お茶菓子でも持ってくれば良かった。
そして,新居となるお部屋とご対面,である。
部屋は当然ながら何もない。きちんと片付けられていて,それは良かったと思う。
何もなくなった分,やはり傷や汚れは少々目立つが,これはまあ仕方ない。
気になった点であるが,主には次の点である。
○生活臭: 最初の内覧時にはなかったと思うが,前回の最終確認時から気になっていた。ソースの臭い?が染み付いているようだ。
○天井はがれ:照明を取り外したときに内装が少しはがれたようだ。
○ベランダの庇の傷:今すぐどうこうではないが,大規模修繕の際には言っておいた方が良い,と売主が言っていた。
○残置物:浄水器,ネット配線,プラスチックの大きな覆いの板などが残っていた。
生活臭はハウスクリーニングで消えるかどうか,といったところ。消えなければ消臭の処置をお願いしないといけない。
天井はがれは照明をつければ隠れるし,ベランダの傷はまあ仕方ない。
残置物は…どうしましょうかね。用途や意図を場合によっては聞かないといけないかも知れない。
【ハウスクリーニング】
前述のとおり,某大手に頼んだらくっそ高かったため,不動産屋に紹介された業者に格安で依頼したのだが,不安は絶えない。
その不安を増幅させたのが,当日私は仕事で立ち会うことができないという事実である。
立ち会いについては嫁に全権を委任したのだが,さらに悪いことに,当日はフローリングにワックスを掛けるため,作業後に中に入ることができないのだそうだ。
よって,出来栄えについてはお引越しの日になるまで分からない。
勿論文句があれば後日言ってやり直してもらうことは可能ではあるが,不安は募るばかりである。
【引越】
引越代を少しでもケチるために,梱包は自分でやることにしたが,これが大変であった。
正確に言うと,大変な思いをしたのは嫁だった訳だが。
私も前日の午後から半休を取って嫁と一緒に梱包をしたのだが,やってもやっても終わらない。
情けないことに私は夜以降ダウンしてしまい,最後は嫁に任せてしまった。
最終的に終わったのが日付が変わった頃である。
梱包代は4万円+消費税だったが,確かにその価値はあると思うくらいしんどかった。
で,引越の当日である。
差配については,嫁が全て完璧に遂行した。
私はと言うと,出て行く元のマンションにいて,荷物の運び出しを監督するのが役目であった。
その他,電話等連絡に備えたり,簡単な掃除をしたりして過ごした。
荷物を運び出し終わると,部屋のチェックである。
元々パソコンやラジコンなど,引越業者に運ばせるのが不安な精密機器については私が車で運ぶつもりだったのだが,こちらで捨てられず向こうで捨てるつもりのごみなども運んでくれるよう嫁に頼まれた。これが予想外に多く,車に積むのに往生した。
その他忘れ物も若干あり,これも車で運ぶこととなった。
また,この間に学校に行っていた娘二人のお迎えも必要となり,結構忙しかった。
諸々を積んで新居に着いたが,困ったのは駐車場である。
前述したとおり機械式なのだが,幅が予想外に狭く,ぎりぎりであった。
嫁がたまたま通りかかってくれたので,エスコートしてもらって何とか停めたが,何度も両脇にこすりそうになった。
今後ここを使わないといけないのかと思うと暗澹たる気分である。
今一度申し上げておくが,駐車場は平面式に限ると思う。
あと,他社より安いからという理由で引越業者を選んだはずが,やれエアコンが老朽化していて取り付けできないだの,やれ洗濯機の下にマットを敷かないといけないだの言われ,結構いろいろなものを売り付けられて余分な金が掛かった。
エアコンが一番でかかったのだが,9万円で依頼したはずが,最終的に出て行ったのが16万円超である。
これは予想外の出費であった。
ということで,何とか引越終了である。
引越前の懸念として挙げた部分については,次のとおりであった。
○生活臭:ほぼなくなっていた。ハウスクリーニングと換気,あとはファブリーズで随分改善されたように思う。
○天井剥がれ:ハウスクリーニングの際に貼り付けてもらえたらしい。
○ベランダ:これはどうしようもない。翌年に行われた大規模修繕で補修。
○残置物:浄水器は使ってほしいとのこと。プラスチック板は持ち帰られたらしい。ネット配線は取り外しできないとのこと。
【その他】
住宅購入及び引越に伴う気がかりについて少し書いておく。
○不動産取得税:私の場合は0円とのこと。手続きは決済時に立ち会った司法書士がすべてやってくれる,とのことであった。
○車庫証明:マンションの場合,管理会社から必要書類をもらって提出する必要あり。手続きはディーラーに言ってやってもらった。
ということで新居に引っ越し,今までより広くて綺麗な家で,それなりに快適に暮らしている。
引越直後のドタバタもだいぶ落ち着き,日常を取り戻しつつあるところだ。
前より綺麗で広く,近代的な住まいに住めるようになったことは幸いである。
風呂はこれまでできなかった追い焚きができるようになったし,トイレは温熱便座,ウォシュレット付きである。
何より,「俺の物だ~!」という安心感である。
やはり賃貸の時は他人の所有物であるからして,何をするにも気を使っていたのが,その呪縛がなくなるのは有難い。
まあ今は中古とはいえ綺麗な状態なので,別の意味で気を使ってはいるのだが。
ただ,手放しで喜ぶ訳にいかないのが残念なところである。
新居での諸問題をここに記す。
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【経年劣化】
状態が良いとはいえ,やはり中古の悲しさ。
引き渡し後に見つかったボロ,ガタは次のとおり。
なお,一部は不動産屋のサポートにより,無償で修理をすることができた。
○給湯器:一番の懸念だったが,やはり不良あり。追い焚きと浴室乾燥ができないエラーが出たため,即刻直してもらった(無償)。
○浴室:鏡の左下隅に黒ずみあり。腐食とのことで,根本的な解消方法は交換のみ。これはまあええわ。
○浴槽及びトイレ:黄ばみが散見される。各種洗剤等でこすったが落ちず。どうも経年劣化によるものらしい。これもまあええわ。
○洗面所:ここだけ床が鴬張りのような音が出る。シロアリが原因なら補償対象だが,マンションなのでその可能性は少ない。当面保留。
○ふすま:1枚だけしみがひどく,また日光の所為かやや茶色に変色しているものあり。ふすま紙の張り替えを検討中。
○キッチン:キャビネット引き出しのレールの戸車がなくなっていて,それが原因でガタつき,開閉しづらい。メーカーから取り寄せてDIYで交換。
○〃:シンクの奥から水が垂れ,キャビネットが水浸しになっていた。水道の蛇口の取付が緩かったためで,蛇口ごと交換(無償)。
新品のおうちではないので仕方がないが,やはり各設備の細かいところのしみや汚れ,経年劣化は避けがたい。
将来はリフォームを検討しなければならなくなるかも知れない。
まあ遠い将来のことだと思うが。金ないし。
【修繕積立金】
1回目の引き落としのお知らせを見ると,契約当時言われていた額より高くなっている。
管理会社に問い合わせると,1か月前から上がっていたとのこと。
このようなことは,契約時の「重要事項説明書」に明記すべきことであるが,書かれていなかった。
不動産屋に問い合わせると,「聞いていない」と言う(売主との精算も値上げ前の額で行っていた)。
結局,不動産屋が契約書並びに「重要事項説明書」を作成するに当たって管理会社に問い合わせた際,管理会社がその旨を不動産屋に伝えていなかったことが原因であるらしい。
勿論,この一点をもって契約の無効を主張する気はないが,これは立派な契約の瑕疵である。
管理会社は自らの非を認めて謝罪したが,もやもやしたものが残った。
【光熱水費】
新居になって値上がりするのか,どれくらい上がるのか戦々恐々である。
○ガス代:昨年同月と比べ,使用量は変わりなく,代金はむしろ安かった。
○電気代:以前と同じか,むしろ安いくらいである。問題なし。
○水道代:以前と異なり,管理会社の徴収なので戦々恐々であったが,前の家とほぼ同レベルだった。
結局,前の借家時代と大差は出なかった。
ということで,降って湧いた「家買い狂騒曲」もここに幕を閉じた。
弟にお知らせのメールを送ったら,「お父さん,ローン頑張ってください」と返事が来た。
思えば以前弟が先に家を買ったとき,「2100年ローンの旅」と揶揄したものだが,今や自分がそうなってしまった。
私の場合今から34年ローンなので(無論繰り上げ返済でそれより早く完済するつもりだが),余計にリアルである。
そしてさらに残念なのは,ローンを背負う身となったせいで公務員を辞める訳にいかなくなってしまったことである。
何気にこれは自分にとって結構痛いことであると思う。
これを書いているのは日曜日の夜である。
明日から憂鬱な一週間がまた始まるが,頑張らなくてはいけない。とほほ。
3か月程度で終わると思っていた家探し。
結局まる10か月かかってしまった。
おかげで,不動産を見る目はだいぶ肥えてきたつもりである。
宅建さえ持っていれば,明日から開業してもいいところだ。
そこで,これから家を買う方へのアドバイス,というとおこがましいが,気づきをちらほら。
【総論】
今見ていて思うが,物件は二極分化されている。
即ち,売れる物件はさっさと売れてしまうし,売れない物件はいつまでも残っている。
(某大手不動産屋から聞いた話で,新聞の折込広告に載せようとしたら載る前に売れてしまった物件もあるとか…)
良い物件を当てたいと思うなら,出た瞬間に判断してとっとと買ってしまうのが理想的である。
自分の条件をきちんと整理した上で,購入に値する物件かどうかを判断する判断力と瞬発力が必要となる。
とはいえ,「お買い得物件」に巡り合うことは,よほど幸運に恵まれない限りなかなかないのが現実である。
安い物件には安いなりの理由があり,売れ残っている物件には売れ残る理由があるものだ。
掘り出し物だ,と思って見てみたら看過できない欠点があってがっかり,ということも少なくない。
当然だが,表面的な情報や不動産屋のセールストークに惑わされることなく,自分の目で見て,ある程度知恵をつけた上で決めなければならない。
「慎重かつ大胆に」。これは某クイズ番組だけでなく,家を購入する上でも必要な要素である。
【戸建の場合】
戸建のメリットは,何と言っても資産として土地を持てる,ということである。
即ち,立地にメリットが大きい場所に家を持っていれば,将来もし売ることになった場合でも高額での売却が期待できる。
ただ,このようなメリットを享受できる新築戸建は非常に限られており,現実に巡り合うことは難しい。
実際には戸建よりはマンションの方が売りやすい,というのが定説である。
他にメリットとして挙げられるのは,まずマンションのように管理費や修繕積立金などのランニングコストがかからないこと。
ただ,これについては,「強制的に徴収されるランニングコストが安い」というだけで,実際には遅かれ早かれ修繕自体は必要となる。
マンションと違って多くが単体の木造住宅なので,構造上年数が経つと雨漏りやシロアリ被害との格闘が不可避である。
修繕を自分の裁量でできるというのはメリットだが,決してゼロにはできないことと,思うより早い時期にやって来ることは肝に銘じた方が良い。
次いで挙げられるのは,前述したように全て自分の裁量でできる,他人の都合に左右されないということである。
後述するが,マンションは管理や修繕に係る費用をマンション入居者全員で賄わないといけない。
払わない人や出て行く人が多いとその分が穴となり,管理や修繕に悪影響を及ぼす恐れがある。
戸建であればそのような,「他人の所為で自分が損害を被る」ということがない。
さらに,プライバシーが比較的確保されやすく,近隣からの干渉を受けにくいのもメリットである。
マンションと違い,家でいくら楽器を弾こうが部屋の中を走り回ろうが,それ自体によって苦情が来る可能性は少ない(ゼロではないが)。
もちろん例外はあり,隣に近すぎる家や,近所に変な人がいる場合などは苦労することになるだろうが。
個人的にメリットとして挙げたいのは,多くの場合駐車スペースが確保されていることである。
マンションでも多くの場合駐車場が備え付けられているが,戸建のそれと比べるとデメリットが多く,使い勝手は雲泥の差である。
これについてはマンションの項にて後述する。
デメリットは,何といっても購入価格が高いことである。
特に,上述した「資産価値の高い立地」に建つ戸建は,希少であるのみならず非常に高い。
故に,現在一般家庭で家を買おうとする場合は「郊外の住宅地」という場合が多いだろう。
しかしそうなると,土地の資産価値としてはどうしても劣るし,生活の便も悪くなりがちである。
たとえば私の両親は,松江市郊外の丘の上の住宅地に中古住宅を購入した。
確かに間取りは十分だし状態も良い。見た目で言えば文句の付けようのない家であるが,近所にスーパーもコンビニもない。
買い物は生協の宅配に頼むか,自転車かタクシーで下界に下りるしかない(運転免許は返納している)。
今はまだ良いが,さらに年を取って足腰が立たなくなったらどうするのか,息子としては非常に心配である。
なお,場所柄降雪が多いため,雪害による修繕が嵩んでいることも付け加えておきたい。
その他,私が家探しをする中で,一見良さそうに見て実際に行ってみたらこんな家だった,という例を挙げてみる。
○面している道が狭く,幹線道路に出るのに往生する。
→資産価値が低く,生活にも不便。
○幹線道路にもろに面している。
→騒音,排気ガスが入ってくる。また,駐車場があっても停めにくい。
○北向き。
→南側に一軒家が背中合わせに建っている。当然日当たりは望み薄。
○海や川,または山肌に近い。
→災害リスクが高い。水害や地震が来たらひとたまりもないだろう。
○隣家に近すぎる。
→隣に神経を使う。また,窓から隣が見える・見られるのは不快。
○いわゆる「旗竿地」
→建物に囲まれていたり,車が入りにくい場合がある。
また,最近よくあるのが「狭い土地に無理をして建てた3階建ての家」。「都市型住宅」などという美名がついているが,例えば年を取ってから3階まで階段を上り下りすることを考えたら…
またこの種の家では,LDKが2階にある場合も多い。玄関から団欒の場まで毎度階段を上らないといけないのはさすがにちょっと…ということで,私個人は御免被りたいと考え,スルーさせていただいたところだ。
私の探していた地区でも過当供給気味になっており,不動産屋は必死に売ろうとしているが,苦戦しているようである。
という訳で,戸建についての感想をまず述べてみた。
私は個人的には戸建派だったのだが,価格が高く,またそれに見合う価値があると認められる物件が見つからなかったため,最終的にマンションにした。
マンションにはマンションのメリット,デメリットがある。これについては次で詳述する。
【マンションの場合】
マンションのメリットは,何と言っても「戸建と比較して良い立地条件に建っている場合が多い」ということである。
駅近の新築戸建は今や希少であるし,実は新築マンションも良い立地に建つケースが少ない,と言うか,新築マンションの建設自体以前に比べると減っている印象がある。その点で言えば,好立地に建った中古マンションを購入する,というのは賢い方法なのかも知れない。
当然このようなマンションは多少古くても資産価値があるし,売却もしやすい。やはり「マンションは立地が命」なのである。
私が賃貸で住んでいたマンションはかなり年季の入った建物だが駅近であり,同マンションの売り物件は(多少時間がかかったが)ちゃんと売れたし,私が出て行った部屋は賃貸の問い合わせが何件か入っているという。やはり駅近は強し,である。
今度購入したマンションは,駅からは若干遠いのが泣き所であるものの,バス停から近く,交通の便は良い。また,近所にスーパーやコンビニなどの生活に必要な施設が揃っており,生活に便利な環境である。
次に挙げられるのは,その多くが鉄筋コンクリート造であるため,地震や風水害で根こそぎやられる可能性が低いことである。
ただ,マンションといえども大地震で液状化現象が起これば被害を免れないし,電気設備が浸水した所為でトイレもエレベーターも使用不能になりどえらい目に遭わされたタワーマンションの例もあるだけに楽観はできない。
ハザードマップを参照の上で,安全性の高いところを選ぶか,万一の際の被害は覚悟した上で他の要素を優先するかの判断となる。
ちなみに広島の場合平野部が狭く,「浸水か土砂崩れか好きな方を選べ」的な地形になっているのが残念なところである。
さらに,セキュリティがしっかりしており,管理がきちんとしているというのもメリットに挙げられる。
ただ,管理会社がろくでもない場合はこの限りではない。
「マンションは管理を買え」という格言があるが,管理状況についてはきちんと調べる必要がある。
また,タワーマンションや大規模マンションであれば,魅力のある共用設備を備えている場合も多い。
高層階に住めば眺望が良い,害虫が出ないなどのメリットもある。
高級マンションでなければ,多くは戸建より安価で購入可能であるのもメリットと言えるだろう。
ただ,上記のメリットを踏まえても,私はお金の面で折り合えるのであれば,マンションより戸建を勧めたい。
投資目的であるなら別だが,「終の棲家」として考えているのであれば,私は未だに戸建優位と考えている。
理由は,マンションが孕む以下のデメリットにある。
マンションの最大のデメリットは,「強制的に徴収されるランニングコスト」,即ち管理費と修繕積立金,そして駐車場利用料である。
マンション管理の肝は,各入居者から徴収したお金で管理と修繕を適切に行うことである。さながら会社経営と同じである。
管理費や修繕積立金が高過ぎるマンションは確かに敬遠したくなるが,逆に安過ぎるのも危険である。
管理や修繕がおざなりになる可能性もさることながら,いよいよ深刻になると,後になって不足分を補填するために値上げや臨時徴収を余儀なくされ,ついていけなくなった住民が離反して空室だらけのマンションになる恐れがある。こうなると,事実上経営破綻と言って良い。
こういう経営状況は購入段階では見えにくい。
本気で購入する気があるのならば,可能であれば次の事項は調べておいた方が良い。
○長期修繕計画
→定められていないようなマンションは論外として,きちんと見直されているか,遠い将来大赤字になっていないか要確認。
○直近の決算状況
→管理費でマンション管理を賄えているか,修繕積立金はきちんと積み立てられているかなどを確認したい。
修繕積立金については,新築時は売りたいがために安く設定され,年を追うごとに上がっていくのが一般的である。
それでも安過ぎる,と感じた場合は一歩立ち止まった方が良い。最悪大規模修繕時にお金が足りず,何百万円単位の臨時徴収があるかも知れない。
適切な修繕積立金がいくらくらいであるかは,国土交通省のガイドラインに示されているらしいので,調べてみると良いだろう。
管理費は一度設定されると上がり下がりすることはあまりないと思われる。
近隣の類似物件と比べて安い場合は,マンションの管理状況や上述した決算状況を確認することをお勧めする。
マンション管理を管理費収入で賄えていないのであれば,管理費が安過ぎる可能性がある。これを是正するのは非常に難しい。
逆に,それなりの管理費を取っているのに賄えていない場合は,無駄な出費が多い可能性がある。
管理会社がぼったくっているのかも知れない。
なお,駐車場利用料をマンション管理費に流用するマンションが少なくないらしいが,私はこれは危険だと感じる。
あくまで個人的な見解だが,駐車場利用料はあくまで駐車場の維持管理に充てるべきものであり,特に機械式駐車場であれば,その維持修繕や遠い将来の交換に当たって多額の費用がかかることから,安易によそに垂れ流す類のものではないと思う。
その駐車場についてであるが,とにかく機械式駐車場のマンションはお勧めしない。
理由は上述したとおり維持管理に金が異常にかかる上,車高車幅に制限があり,車種によっては駐車不可の場合もある。
幅は超ぎりぎりで停めにくいことこの上なく,隣からのドアパンチを食らう恐れもある。
さりとて,例えば1階を駐車場にして2階以上を住居にしている,いわゆる「ピロティ方式」のマンションは耐震性が弱いという泣き所がある。
できることならば,広々とした敷地に平面駐車場が戸数分揃っている,という状態がベストだろう。
平面駐車場にも防犯とか,運が悪いと遠い場所になるなどのデメリットはあるが,機械式駐車場のそれに比べればはるかにマシだ。
ただ,十分な台数を平面駐車場で確保するのは容易ではない。かく言ううちのマンションも機械式であり,現状最大の懸念材料である。
さらにデメリットを挙げると,共同住宅ゆえ,戸建と比べて制約が多い。
ペットを飼ってはだめとか,ベランダに物を干してはだめとか,ネット環境が限られるとか,スカパーをつけてはだめとか,私も数多くマンションを見ていく中で,様々な制約にぶち当たり,それが原因で断念した物件もあった。
マンション選びの上では,上述した管理費や修繕積立金,駐車場に加えてこのような様々な制約を考慮した上で,どこを妥協できるかを検討して購入する物件を決めることが必要となる。ここを失敗すると,先々後悔することになるかも知れない。
購入した段階では答えは出ない。10年,20年と暮らしていく中で後悔がなければ,正解だったと初めて言えるのかも知れない。