サッカーのコーナー
2025.4.29
監督の効果
サッカーほど「監督」によって勝敗を左右される競技はないのではないだろうか。
たとえば、あの強かった横浜Fマリノスでさえ、監督ガチャに失敗しただけで、12試合中わずか1勝で最下位に沈んでしまうのである。
さすがにこれはクラブ側としても看過できず、監督の首を挿げ替えたのみならず、ホーランドを監督にしたのは失敗だったと公式に認めざるを得なくなった。
さらに言うと、昨シーズン最後まで優勝争いを演じ、今シーズンも序盤調子の良かった町田ゼルビアが不調の沼に嵌った。
発端となったのは黒田監督のパワハラ疑惑である。
この話が表に出て以降1分け3敗であり、せっかくそれまで4勝1分け2敗とまずまずのスタートを切り、また今シーズンのJリーグがファウルに対して極めて甘い姿勢を取っていることからも大いに期待されながらこの状況である。
先の2チームはあまりに典型的な例ではあるが、監督の戦術がチームに嵌るか外れるか、あるいは戦術が相手チームに対して功を奏するのか通用しないのか、こういったことがチームの成績に大きく影響することは間違いないだろう。
たとえば野球であれば、ドジャースのようなスター軍団を作ることが出来れば監督が少々ミスしようが居眠りをしようが勝てるだろう。
しかしサッカーは、どれだけスターを揃えたとしても監督がクソだというだけで途端に勝てなくなったりする。
これも極端な例であるが、かつて女子サッカー・なでしこリーグ(当時)のトップに君臨していたスター軍団、INAC神戸に「前田浩二」という伝説の冥将が監督としてやって来たことがあった。
女子サッカーで圧倒的な実力を誇っていた常勝軍団・INACと、率いるチーム全てをどん底に叩き落としてきた「男・前田」の組み合わせは大いに注目されたが、結果前田監督は3連覇していたチームを5位に落としてクビになった。彼の暗黒パワーが勝った訳である。
2025年4月29日現在、トップ3は鹿島、柏、京都である。
鹿島は鬼木達、柏はリカルド・ロドリゲス、京都は曺貴裁がそれぞれ率いている。
それぞれJリーグでのキャリアも長く、名将と言って差支えない実績がある。
その他、前節までトップ3にいた浦和も、来日後すぐチームをACL優勝に導いたスコルジャの下で良いサッカーをしている。
何回も書いてきたが、監督がその真価を問われるのは、チームが思うように勝てなくなってきた時である。
その時にチームを上手く立て直す引き出しがあるかどうかで監督の評価は決まると言って良いだろう。
また、各クラブの戦力、そしてその戦力に見合ったノルマによっても求められる監督像は違ってくるのかも知れない。
たとえば、かつてサンフレッチェを率いていた城福浩監督は、ヴァンフォーレ甲府では神のように称えられたが、広島での評価は今一つであった。
そして今は東京ヴェルディを率いているが、2年前にJ1に昇格、そして昨年は望外の6位に導いてサポーターを喜ばせた。
彼の場合、J1下位からJ2上位のチームでは大いに力を発揮するが、戦力が比較的充実したチームで天下を獲るには向かないと言える。
なので、自身の贔屓のチームが戦力に比して成績が振るわない時には「監督辞めろ」と言うだろうが、どういう指導者がそのチームに向いているのかを考えないといけないだろう。
逆に現在率いているチームでまるっきり振るわず、無能の名をほしいままにしている監督であっても、他のチームに行けば良い成績を残す可能性がある。
そうは言っても程度問題であり、上述の前田浩二のような「実績」を残してしまうと、恐らくどこに行ってもダメだろう、と察しがついてしまう訳だが。
最も可能性の高い選択肢は、現鹿島の鬼木監督のように、何年にも渡って監督を務め、タイトルを獲り続けてきた人材を確保することである。
それを考えると、鹿島は実に上手くやったと言える。
私は恐らく鹿島のフロントは日本一優秀だと思っている。長年に渡って常勝軍団の名をほしいままにし、J2降格どころか二桁順位もたった1回しかないというのだから、これは素直に尊敬して然るべきである。
しかし、そのような監督がそうゴロゴロ転がっている訳がない。
そうなると、上手くいったいかないに関わらず「Jを知っている」監督を連れて来るか、あるいは海外から未知の将を連れて来るか、ということになるだろう。
※海外で実績を残した名将を連れて来るという手も考えられるが、恐らく殆どのクラブにとって現実的ではないだろう。
前者に関して言えば、もしクラブにとってのノルマが「タイトル」とか「常勝」でないのであれば、ある程度Jクラブで実績を残しながら行き詰って放り出される例もあるので、そういった監督を拾う手もあるだろう。
城福監督を拾った東京ヴェルディや、同じく広島を放り出されたミハイロ・ペトロヴィッチ監督を拾った浦和レッズなどはこの例と言える。
もっとも浦和の場合は本来「タイトル」がノルマであった。浦和にとってはペトロヴィッチ監督よりもそこについてくる愛弟子を引っ張って来れることの方が魅力的だったからかも知れない。
後者に関して言えば、これはある意味博打であり、強化部の目利きが試される。
たとえば「毎回2年かそこらでクビになって多くのチームを渡り歩いている監督は地雷」という考え方がある。
しかし、そのような監督であっても、現浦和のスコルジャのような立派な監督に当たることもある。
無論チームの戦術との相性もあるだろうが。
そこで、あくまで例として4連敗中のサンフレッチェについて俎上に乗せてみる。
私はスキッベは無能であり、すぐに辞めてもらいたいと思っている。
ただ、彼は「毎回2年かそこらでクビになって多くのチームを渡り歩いている監督」に該当するが、だからと言ってそれを理由にして地雷と決めつけるのは早計であることは上述したとおりである。
また、彼のハイプレスが当初(あくまで当初のみ)大いに効果を発揮したことは事実である。
他方、彼は現在のどん底のチーム状態を立て直す術を持たない。
その点では強化部が一生懸命補強をし、良い選手を揃えて「タイトル」をノルマに据えた、そのクラブの需要に応えられる能力がない。
ただ、だからと言って現在のチーム状態を立て直すことが出来る人材がいるのかと言われると微妙である。
スキッベは過日の試合後に審判に暴言(※1)を吐いて出停となり2試合いなかったのだが、代わりに指揮を獲った迫井もあのザマであった。
ペトロヴィッチも森保一も城福浩も、一度は持ち上げられながら最後は袋小路のどん詰まりに入って解任された。
スキッベもそうなる可能性が高いと言えるが、あるいは監督の所為というよりはクラブの伝統的な戦術の宿命なのかも知れない。
あの可変式3バックの戦術に多くの監督が自分なりの色をつけて天下を獲ろうと目論んだが、現状成功したのは森保一ただ一人である。
最後には皆同じようなどん詰まりサッカーに陥って自壊していったのである。
結局のところ、自分が持つ従前からの戦術に固執してアップデートをしない監督は対策される。
一度上位に躍り出て注目されれば尚更である。
その年ごとに選手は違うし、もしかすると自分のやりたいサッカーに嵌る選手を思い通りに補強してもらえないかも知れない。(※2)
また、よそのチームに行けばそのチームの伝統的な戦術があってそれに順応しなければならない。
なので、変わり続けることが出来る、柔軟な思考の持ち主であることが名監督の条件であると言える。
もっとも、そのようなことは分かっていてもなかなか出来るものではないから、そのような人を見つけることは容易ではない。
そうなると、特に現状で苦しんでおり、サポーターから「監督辞めろ」とブーイングされるようなチームにとってはその苦境を脱することが出来るような良い監督を引っ張ってくるというのは難しい。
精々出来ることは、「今よりはマシ」な監督を連れて来る程度のことである。
なので、上述した現状の上位4クラブにおかれては、特に一時の感情で今の監督を簡単に手放さないように、あるいはどこぞの金満チームから引き抜かれるようなことがないように、ゆめゆめ気を付けていただきたいと思う。
逃がした魚は自分が思うより大きいのである。
老婆心ながら、経験から申し上げておきたい。
(※1)
スキッベは今シーズンからファウルに関する判定が急に甘々になって怪我のリスクが増えたことに苦言を呈して出停になった。
私は監督としてのスキッベはこれっぽっちも評価していないが、この発言はもっともだと思う。
とはいえ、サンフレッチェにけが人が続出しているのは半分はてめえの所為じゃねえか、とも思うが。
(※2)
たとえば今シーズンのサンフレッチェは強化部が非常に力を尽くして良い補強をしたと言われ、前評判は非常に高かった。
しかし、補強の目玉と言われたジャーメイン良は全くフィットせず既に失敗の烙印を押され、また抜群の運動量でサンフレッチェのサッカーに不可欠な役割を果たしてきた松本泰志や満田を放り出したことを考えると、あまり胸を張れる結果ではなかったと言える。
もっとも2人が出て行ったのはスキッベの不徳の所為だと思うが。