スポーツ1
2007.8.23
第89回全国高校野球選手権大会〜敢えて決勝・審判問題について書こう〜
今年の夏の甲子園(上記で生まれて初めて正式名称を書いた)は,いわゆる「公立普通校」である佐賀県立佐賀北高校が,広島代表私立広陵高校を破って優勝しました。
8回表までは広陵高校が4対0でリードする展開でしたが,8回裏に,これまで力投を続けてきた広陵高校の野村投手が突如崩れ,満塁から押し出しで1点を献上,そして続く佐賀北・副島選手に満塁本塁打を打たれ,5対4で逆転。広陵も9回表に反撃しましたが一歩及ばず,そのまま佐賀北高校が勝利,見事優勝を飾りました。
しかし,その試合の後,広陵高校の中井監督が,「おかしな判定がいくつかあった。選手は死ぬ気でやっているんだから,今後のために審判の技術を高めて欲しい。高野連にも考えてもらいたい」と,異例の審判へのダメ出しをしたために,これが結構な騒ぎになりました。
新聞やインターネットを通じていろいろと私も見ましたが,見ていた多くの人は,「少なくとも押し出しとなった最後の球はストライクだった」「何球かはストライクをボールと判定されていた」「あれをボールと言われたらピッチャーはど真ん中に投げるしかない,野村投手は気の毒だった」と感じたようです。(※)
ただ,中井監督の発言については,逆に「誤審も含めて野球ではないか」「負けてからああいう発言をするのはいかがなものか」「潔くない」「名勝負に泥を塗る発言だ」など,批判的な論調が目立ちます。
高校野球では審判への批判は絶対のタブーとされています。中井監督は決して審判の権威を軽んじる監督ではない,と言われています。むしろ,選手たちには「審判は絶対」と教え,審判の判定に不服そうな顔をしようものなら,即刻交代させられた挙句,「お前に野球をやる資格はない」とまで罵倒するそうです。
試合に負けた後でああいう類の発言をしても判定が覆るはずがありません。それどころか,高野連から怒られるわファンからバッシングされるわ,何の得もありません。そのくらいのことは中井監督も分かっていたはずです。にもかかわらず敢えて,特に誰より審判の権威を重んじていたはずの人が審判を批判した,その意味は考えるべきだと思います。
私は広島に住んでいるので広陵高校を応援していました。一応断っておきますが,私は佐賀北高校があの試合に勝ったことにけちをつけるつもりはありません。あの押し出しがなくても多分広陵は負けていたと思います。硬くなっていたのか,試合運びがらしくなかった。6回まで9安打でフォアボールももらっておいて2点しか取れていなかったし,中盤から嫌な予感がしていたものです。2塁ランナーがヒット1本で帰れない辺り,まるでカープの試合を見ているようだった(苦笑)。対する佐賀北高校は優勝を目の前にしても落ち着いていてミスがなく,付け入る隙がなかった。佐賀北の方が強かった,広陵は負けるべくして負けたのだ,と思っております。厳しいですが。
それを踏まえて審判問題です。
「8回から急にストライクゾーンが狭くなった」
「高校野球ではドラマを作るために敢えて作為的な判定が見られる」
このような声がありました。
本当だとしたら大問題です。
野球の試合というものは,いやあらゆるスポーツにおいては,どんな状況であっても同じ条件で競い合うのが当然なはずで,例えば場面によってストライクゾーンがころころ変わったらやっている選手はたまりません。
「ど真ん中に投げないとストライクと言ってもらえない」
バッテリーにこんなことを思わせるようでは,もはや野球と呼べません。
確かにあの時は広陵ファンを除けば日本国中が佐賀北高校を応援する雰囲気だったし,ちょっとでも点が入れば試合が面白くなる,というのはありました。審判もその雰囲気に呑まれたのかも知れない。しかしドラマを演出するのは選手であって審判ではない。審判が「俺がちょいと細工しないと面白くならねえよな」などと思ってやったとしたら,佐賀北の選手たちに対してこれ以上失礼な話はありません。いや,そんなことはないと信じたいが。それを疑われても仕方ない事実があった。
思えば,今大会ほど審判がどうこう言われた大会を私は知りません。
佐賀北高校対帝京高校においても,判定をめぐって批判がありました。
どこの試合だったか忘れたが,私が見ていたとき,やたらオーバーアクションをする審判がいて,「主役は選手やろ」と突っ込みたくなったことがありました。あと,広陵高校絡みで言えば,何が気に食わなかったのか知らないが,野村投手に執拗に何か注意している審判がいて,野村投手が「違います,違います」と大汗をかいているシーンを見ました(何だったんだ?)。今回の一件と合わせ,今大会が野村投手にとって「対戦相手との戦い」ではなく「審判との戦い」という印象しか残らなかった,などということにならなければいいんですが。
「審判=絶対,神聖にして侵すべからざる存在」という不文律の裏には,「審判はアマチュアで野球を愛する人たちが,仕事を休んでボランティアで来てくださっている。しかもこの酷暑の下でやってもらっているのだから感謝しなければならない」という考えがあります。確かに手弁当でわざわざやってきて暑い中で審判をやって,ちょっと間違ったら全国的に叩かれる,というのでは審判はとてもやっていられません。
ただ,「審判はアマチュアが手弁当でやらなければいけない」と誰が決めたのでしょうか。まず,そこまでしてやってもらっている,しかも誤審をすれば全国的に叩かれるというリスクを背負っている審判に対してろくすっぽ報酬も出さない,というのがそもそもいかがなものか。
また,確かに高校野球はアマチュアの大会かも知れないが,もはやプロのそれと遜色ないほど注目されているし,事実上セミプロ化していると言って良い(高校野球で活躍した人がその後プロに入ったり野球のおかげで進学・就職しているのだから)。高野連は不本意かも知れないが,ならばその大会に相応しい舞台装置を用意してやるべきではないか?そもそも,プロのホームグラウンドを使用して,しっかり入場料も取っているわけだし。
審判がそれに相応しい報酬をもらい,相当の技術を持った人に来てもらえるようになったならば,この種の批判は減るでしょう(なくなることはないかも知れないが)。むしろそうなってこそ初めて,「日本で最高レベルの審判に来ていただいているのだから」ということで審判の権威が確立されるのではないかと思います。(プロの審判の権威も最近怪しいが,今回のようなレベルの話はさすがに起こっていないので…)
何度も言うように,本来審判の権威を尊重している広陵・中井監督が敢えて,ぼろくそに非難されることを承知でああいう発言をした真意を,高野連のお偉方にもせめて頭の片隅には置いておいてもらいたいと思います。
…ただ,石頭で悪名高い彼らにその種の問題意識があるかどうかははなはだ疑問なわけで…何せ高野連の脇村会長は,佐賀北高校の優勝に際し,「普通公立校が優勝して嬉しい」と言ったようです。本来公平中立であるべき主催者が,片一方の学校に肩入れしていたという事実がここに発覚したわけで,むしろこっちの発言の方が非難されるべきなんじゃないかと私なぞは思うんですけどね(苦笑)
今回の中井監督の発言は,「誤審で負けた」という単純で感情的な憤りというよりは,むしろ割り切れない感情を抱えて甲子園を去らざるを得なくなった選手たちの気持ちを代弁して敢えて悪役を買って出た,という側面が強いようです。「これで辞めろと言われるなら僕は監督を辞める」とまで言い切ったその姿勢は,私は個人的には素晴らしいと思いました。広陵の選手やOBに「尊敬する人は?」と訊くと,10人中10人が「中井先生」と答えます。「宗教か!」と突っ込みたくなる信奉ぶりですが,それも頷けることだと思いました。この強い師弟の絆は賞賛されこそすれ,非難されるべきものではないでしょう。高野連の幹部の皆様,この姿を…見ないだろうな(苦笑)
ちょっと話がそれてしまったが,どこの学校とどこの学校が対戦しようと,場面がどうであろうと,判定の基準だけはしっかりしておいていただきたい。それができる人に審判として来ていただきたい。もちろん,それなりの報酬でもって。これは審判の属人的な責任ではなく,運営する側である高野連の責任でやってほしい。
「筋書きのないドラマ」だからこそみんな熱狂して見るのであって,「脚本家が書いたドラマ」なんてやられた日には私も見ませんよ。頼むよホント。
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最後に,優勝した佐賀北高校の皆様,おめでとうございます。準優勝の広陵高校の皆様,惜しかったですね。でも全国2位は立派な成績です。その他の全国大会に出た学校の皆様も,予選で負けた方々も,本当にお疲れ様でした。充実した悔いのない夏だったと皆様が胸を張って言えることを願ってやみません。
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(※)あの後,私自身問題の,押し出しとなったボールをしっかりと見てみました。確かに際どいな,と思いました。ただ,ピッチャーから見たら会心の一球でしょう。コントロールで勝負するピッチャーであればあれは取ってもらわないと,という印象でした。7回まではあのコースは取っていたと思われます。
キャッチャーのミットが動いた,ということに若干影響されたかも知れませんが,プロではありませんから,それを理由にボールにされたらキャッチャーも辛いところです。
ただ,高校野球の審判としてはなかなか難しいシーンだったかも知れないですね。
何にせよ,選手たちが納得して試合の結果を受け入れることができるかどうかが一番大切なことですから,それさえきちんとしていれば,私は何も言わないのですが。主役は選手たちなので…。
(2007.8.25追記)