2. 局所麻酔剤の使い方

          ラジオたんぱ ”歯科医の時間”

                  

                      門前 弘美   広島市 開業


  歯科における局所麻酔法のうち、伝達麻酔、浸潤麻酔のいずれも、カートリッジによ

る注射方法が主流をなしております。

使用されているカートリッジ剤型が、国内でどの位、生産され、患者に使われているか、

大体の見積りで、年間6,000万本であります。つまり毎日約120万人の歯科患者の う

ち大多数が歯科麻酔の患者になりうるわけです。したがって、日常の歯科診療におい

て局所麻酔に負うところが大であります。

局所麻酔剤は古くから、プロカインにはじまり、今日まで多くの種類の製剤が市販され

て きました。1940年にアミド型のリドカイン(商品名:キシロカイン)が開発され、臨 床

的にも、すぐれた効果が得られ、多くの研究、文献などで明らかにされ、今日、カート リ

ッジ型として、現在最も広く使用されています。

キシロカインは、血管収縮剤アドレナリンとの併用で有効的に麻酔作用が増強され

ています。

濃度として1/80,000のアドレナリンを配合したものが、一般に広く用いられてい

ます。 しかし症例によってはアドレナリンの種々な副作用から、その使用が好まし

くなく 他の血管収縮剤を添加された局所麻酔剤の選択もありうるのです。

 同じカテコールアミンであるノルエピネフィリン添加のキシレステシンカートリッジも

使用されています。アドレナリンと比べて、血圧の上昇は大きく、また強い末梢血

管 収縮作用があります。

 エピネフィリン、ノルエピネフィリン添加のいずれの局所麻酔剤カートリッジは、全身

的 に 異常のない患者投与には、こだわる必要はありません。

 一方、高血圧患者、動脈硬化、心不全、甲状腺機能亢進症、糖尿病などの患者に

は この 種のアドレナリン、ノルエピネフィリンの含まない別の局所麻酔剤を選択す

べき ものです。カテ コールアミンによる急激な血圧上昇を招く恐れがあるためです。

 キシロカインと同じ成分である塩酸リドカインに酒石酸水素エピネフィリンを添加した

オーラ注カートリッジは、すでに文献発表された野口、門前らが2%キシロカインと同

様 の効力を有す るものと報告しております。

  オーラ注の酒石酸水素アドレナリン濃度は1/80,000のアドレナリンに比べて

約9%高いもので、麻酔時間の延長が若干みられるものです。

 一方、血圧上昇作用の少ないシタネスト・オクタプレシンが高血圧患者に安全に使

用することが できます。

 シタネストは1961年に臨床に使用されていましたアミド型の局所麻酔剤であります。

 キシロカインと比較して、発現時間がやや遅く、効果はやや弱いもので、カートリッジ

剤型とし て「歯科用シタネスト」は、アドレナリン添加のものです。

「歯科用シタネスト・オクタプレシン」は、フェリプレシンを配合したものです。シタネスト

は2種類のカートリッジ剤型があります。

 エピネフィリン禁忌で、使用できないケースはオクタプレシン配合のシタネストを選

択します。 このように患者に応じた使いわけが大切であります。

 フェリプレシンはアドレナリン、ノルエピネイリンと比較して、末梢血管の収縮作用

が弱 く、また交感神経系への刺激が少なく、血圧上昇も軽度であります。

ただ大量使用は冠血管の収縮作用を認め、冠不全患者には注意すべき事項であり

ます 。

   現在、国内で市販されている局所麻酔剤──カートリッジはキシロカイン、キシレ

ステ シンA、オーラ注、シタネスト、それにシタネスト・オクタプレシンです。これらのカー

トリッジ(局所麻酔剤)は麻酔作用も、毒性も、臨床上ほぼ同程度であるので、いずれ

の カートリッジを選択するか、配合された血管収縮剤の種類や含有量を参考にして、

患者に 応じた使い方がポイントであります。

 局所麻酔剤は簡単に、容易にでき、効果も期待できるものですが、局所麻酔の効

果 は すべて一様に得られるとは限らないものです。

 患者の全身状態、局所状態によって、また患者の精神状態などで、麻酔効果発現

に影 響を及 ぼしてくるものであります。

 したがって、局所麻酔時にみられる異常反応は添加の血管収縮剤の影響よりも、む

し ろ注射時の疼痛、精神的緊張によるほうが大きいものです。

例えば、コントロールされた高血圧患者や心疾患の症例では術前の抗不安定剤を投

与 するか、また笑気吸入鎮静法を施行して、緊張や疼痛の緩和をはかれば、アドレナ

リン などの使用は可能である。

最後に、安全な麻酔を行うために、使用している局所麻酔剤カートリッジをもう一度見

直してみる必要 があるものと思われます。





歯科局所麻酔剤(カートリッジ)

商品名 会社名おもな組成
歯科用キシロカイン藤沢塩酸リドカイン36mg(2% )
アドレナリン0.0225mg(1/8万)
オーラ注昭和
薬品
塩酸リドカイン36mg(2%)
酒石酸水素アドレナリン0.045(1/4万)
キシレステシンA白水塩酸リドカイン36mg(2%)
1ー ノルエピネフリン0.072(1/2,5万)
歯科用シタネスト藤沢塩酸プロトカイン54mg(3%)
酒石酸水素アドレナリン0.0108mg
歯科用シタネスト
 オクタプレシン
藤沢塩酸プロトカイ ン54mg(3%)
 フェリプレシン0.054単位(0.03単位/ml)