全人的医療(comprehensive medicine)と 歯科医療

 5) 全人的医療(comprehensive medicine)と歯 科医療

        


          日時 平成8年11月27日(水) PM7:30

          場所 広島県歯科医師会館

          演題 全人的医療(comprehensive medicine)と歯 科医療

           講師 浜松医科大学保健管理センター(心身医 学)

                            永田 勝太郎  講師




(要旨)

1. 今日の先進国の医療では、量(延命)の保証はされ るようになったが、質の充実

はいまだ十分とは言えない。量と質を同時に満足する医療とし て全人的医療(compre

hensive medicine)がある。これはいついかなるときでも患者を「病める人」として

全人的に理解し、効率の良い医療、バランスのとれた QL(生命の質)の高い医療

を求めるものである。今日、全人的医療は世界の趨勢である。

2. 全人的医療は身体・心理・社会・実存医療モデルに 則った全人的な患者理解をベ

ースにしている。その実践に当たっては、現代医学をベースに しながら、伝統的東洋

医学的アプローチ、そして両者を結ぶ「橋」(インターフェー ス)としての心身医学

を重要な医療資源とし、三者の相互主体的 立が必須の条件で ある。さらに治療者ー

患者関係についてもメスを加えて行かねばならない。

3. 治療者はそれぞれの医学的方法の適応と限界を理解 し、それぞれを患者という個

のなかにシステマティックに用いて行かなくてはならない。全 人的医療は人間につい

ての分析的 ・系統的・包括的人間科学であ る。現代医学は 法(手術・化学療法・

放射線療法)などに優れ、伝統的東洋医学や心身医学は補法 (補う治療)に優れてい

る。患者の自律性を尊重しつつ、生体全体のバランスを取るこ とが重要である。

4. 全人的医療の基盤は心身医学的アプローチにあり、 その核は「バリント方式の医

療面接法」である。こうした方法で治療者は患者を絶えず全人 的に受容し、支持し、

保証を与えてゆく。これは医学教育上「治療的自我」(態度教 育)である。

5. 具体的に全人医療を実践するには、患者の自律性を 支持しつつ、「キュア」に加

え、「ケア」の可能性の追及がなくてはならない。「キュア」 と「ケア」は医療にお

ける車の両輪である。そこに、全人的医療の哲学、方法論、実 践がなくてはならない

。特に慢性疼痛の治療にあたってはこうした考え方が必要と なってくる。

6. コミュニケーションは歯科医ー患者関係を構築する とき、重要である。医師が患

者に質問するときには、3種の質問の仕方がある。解放型質 問、中立型質問、閉鎖型

質問である。前2者をされても患者は傷つかないが、後者では 傷つく。上手な質問と

は前2者を上手く使い、後者を少なくするところにある。

7、患者の心に入って行くこと、すなわちチューニング・イン (琴線にふれる)する

には患者の実存問題に焦点を合わせることがコツである。それ は禅の  (そったく

)そのものである。

8.歯科は「食べる」ことの入り口の医学管理である。食べら れない生物は生きられ

ない。さらに、「おいしく食べる」ことができるのは人間だけ である。癌性疼痛患者

の補法による効果をQOLをもって測定したと き、まず最初に改善したのは、疼痛と食

欲であった。食べるための工夫がケアに重要な意味を持つ。

9.こうした効果はdehydroepiandrosterone sulfate(DHEA-S)の代謝産物と考えられ

ていて17ーketosteroid sulfates(17-KS-S),17-hyddroxycorticosteroids(17-OHCS

)により、 客観的に評価できるようになった。

 

 


目次にもどります。