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■ほんの本 ミステリー、エンタメ系からフェミ本までの スリルなドライブ感をお楽しみください! by ビッグマウスゆう |
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| はじまりは 「有田浩 自衛隊三部作」 | タナダ ユキ著 『百万円と苦虫女』 | ||||||||||||||||||||||||
| 徐京植・多和田葉子著 『ソウル-ベルリン玉突き書簡 境界線上の対話』 | 桐野夏生著 『東京島』 | ||||||||||||||||||||||||
| 楊 逸著 『時が滲む朝』 | 石牟礼道子・多田富雄著 『言魂 』 | ||||||||||||||||||||||||
| 絲山秋子著 『ラジ&ピース』『ばかもの』 | 津村記久子『ポトスライムの舟』 | ||||||||||||||||||||||||
| 田中喜美子著『漱石を愛したフェミニスト 駒尺喜美という人』 |
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| 『漱石を愛したフェミニスト 駒尺喜美という人』田中喜美子著/思想の科学/2009.12.28 | |||||||||||||||||||||||||
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「へえー、あんたみたいに闊達な人でも思い悩むことあるの?」駒尺さんの目が笑ってて私も苦笑するしかなかった(内心忸怩たるものがありましたが)のは「友だち村」そばの「わかった会館」で高村光太郎講座(正式名は忘れたが)に参加した時だった。 駒尺さんと初めて会ったのは、大阪は江坂のウーマンズスクール。箕面のハウス、伊豆の友だち村にもたま〜におじゃましたが、すべてが印象深く忘れられない情景として残っている。駒尺さんは気持ちの良い会話の達人だ。芸能ネタからフェミネタ、政経ネタまで、ローカルからグローバルまで、敗戦後の激動期から閉塞する現在まで、漱石から山代巴まで縦横無尽に語り尽くすけれど、どこをとっても自前のもの。駒尺節だ。 そして決してこちらに詰め寄ったりはしない。ふんふんと聞き流したり、絶妙に軽く突っ込んでくれたり「他人に関心がないだけなのよ」とボケもかましてみせるけれど。これぞフェミ・リラクゼーション!? 魔女の息がかかれば硬直した心身も快くほどけてゆく…。 で、思うのだ。口幅ったいようだが、この本は、何か決定的なものを伝え損ねているのではないかと。評伝としては上手くまとまっているのだろうが、食い足りなさを感じてしまうのは私だけではないはずだ(しかも突っ込みどころも満載だったりする)。 駒尺さんは、私にとっても最も敬愛するフェミニストの一人で、その著作はほとんど読んでいるし、かつて駒尺さんに勧められて山代巴「論」を刊行した経緯からいろんな話を聞いたり、若干巻き込まれていただいたりもした。だから、びっくりするような新事実や新展開を期待していたわけではないが、それを差し引いてもこのインパクトのなさは残念な気がする。何の引っかかりもなくするっと読んでしまった。 体裁も含めて、きれいに仕上がった感が私を落ち着かなくさせる。駒尺喜美という極上の魔女は軽やかにホーキにまたがりどこへ行こうとしていたのか、そしてどこまで行けたのか? その悪戦苦闘にギリギリまで迫る追跡劇は、もっと山あり谷あり、涙あり笑いありのワクワクドタバタするような旅じゃあないだろうか。 ちなみに、私は「高村光太郎論」が一番好きだったりする。駒尺喜美入門書としてはぜひお勧めしたい一冊である。 |
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| 『ポトスライムの舟』津村記久子(講談社) /2009.2 | |||||||||||||||||||||||||
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「蟹工船より、こっちでしょ」という山田詠美の選評に惹かれた…わけじゃなく、アラサーの女性作家、関西系は買いかも…というノリで手にした『ポトスライムの舟』。今期の芥川受賞作。タイトルも装丁も好みじゃないし、読みながら涙を流すほどあくびしたけど、それでも気になる「舟」のゆくえ。なんか目が離せなくなってしまう女たちの消息。 ワーキングプアでワーカーホリックの29歳女子ナガセは、大卒で工場の契約社員というありがちなワケありロスジェネ世代。彼女を取り巻くライン労働のおばちゃん、学生時代の友人たち、母親、軽くからむ人々までみんなとても現在的で普通だ。でも女たちが普通に生きようとするとき足元をすくう大波小波を、それぞれのやり方で乗り切り乗り越えながら、そっと見守りあい、さりげなく助け合っている…ってとこが肝だと思うな。 だから工場労働の年収とほぼ同額のピースボート世界一周の船に乗る必要はない。波間にただたゆたうように見える無数の小舟はいつでもどこへでも行けるエネルギーを、支えあう女たちの日常の中で貯め込んでいるのだから。節約生活で旅費を貯めるのは遊び心か趣味の範疇。 ちょっとめんどくさそうなナガセだが、あれ、実は友だちかも…と思わせてしまう雨上がり感はやはり買いかも。併録の『十二月の窓辺』はわかりやすく面白いし、続けて『アレグリアとは仕事はできない』も読んだ。「絲山秋子の非戦闘バージョンか」とも言われるが、確かに男社会に物申している作家だと思うし、書きたいことを自在な文体でスッキリ書ける人だ。賞獲りにいくときの誤読の幅も計算済みのような気がするし。 …というタイミングで絲山秋子の『沖で待つ』が文庫化されたので、めったにしない再読というものをしてみた。芥川賞直後にはまったくピンとこなかったので、今回のど真中ストライクにびっくりしている。均等法施行から数年後、地方都市に配属された新米女性総合職の格闘の日々とそこで切り結んでいく同僚男女の友情の物語なのだが、それがぬるくもクサくならないのは、実体験に基づくという以上に、絲山の批判的なまなざしが会社という男社会をきっちり捉えているからだと思う。 ついでに女子のお仕事ものでいけば、朝倉かすみの『エンジョイしなけりゃ意味ないね』。あんまりうまいのでさらっと読んでしまうし、読んだはしから忘れてしまうタチなので外してるかもしれないが、同じようなベクトルかも。こちらは笑えるOLエンターテイメントながら、彼女らはちゃあーんと見ている、知っている、考えている、会社ってものと自分の立ち位置とこれからのことを。だからなんとなくつながっていく、それとなくつながっている。同じオムニバスなら川上弘美の『どこからいっても遠い町』よりはるかに楽しい。朝倉の新作『ロコモーション』は☆ふたつだったけど。 |
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| 絲山秋子 『ラジ&ピース』(講談社)『ばかもの』(新潮社) /2008 | |||||||||||||||||||||||||
| 『逃亡くそたわけ』以来の絲山ファンである。何がいいって卓越した表現力がいい。媚びない女がいい。男とのクールな距離感、女友達との親密感がまた絶妙だ。恋愛やセックスや結婚や、仕事や家族や世間なんて大したもんじゃない、もっと確かなつながり方や心地よい関係を生きたいし愛しいいのちを抱きしめたいと、水面下でジタバタとそれでもしっかり水を掻きながら、青く冴えた冬空をキリッと見上げるカモのような女たちが好きだ。
『ラジ&ピース』に併録されている短編『うつくすま ふぐすま』で回文女子・中野香奈は言う。「はっきり言うけど、自分のオトコより友達の方が、男でも女でもずっと大事だ。…失った友達のことは、悔やんだり憤慨したり悲しんだり恨んだりしながら、いつまでたっても忘れられない」。「凡庸」なオトコへの辛辣さ、「どんなにかわいくても、下半身のにおいがするオンナ」へのダメ出しの分だけ、友だちへの親愛は深々として涼やかだ。 さて、最新刊『ばかもの』は、帯がチンプでチープなのでちょっと引いてしまうが、つかみのセックスシーンから笑えて滑り出し快調だ。チンコは学生19歳、マンコはパート勤めの27歳。男は女に夢中だが、その最中に芋虫を連想し、王将の餃子弁当のことなどあれこれ考えている。女の思いは語られない。ぶっきらぼうなセリフだけ。無邪気な男は調子に乗って言う。「終わったあとの方がかわいいよな」。強気な女は答える。「ばかもの」。 2年後にドSな幕切れ。女は結婚し、男は留年して就職して彼女持ちになり…アルコール依存症になってズルズルと市民生活からすべり落ち、底を突く。唯一の女友達は宗教に走り、数少ない男友達はおじさんになり、男は孤独だ。入院・退院、バイト生活。そして女との再会。女は事故で片腕を失い、田舎でひとり暮らしている。こっちへ来たら「大人になるまで面倒見てやるよ」とせせら笑う女に男は言う。「ばかもの」。 失ったものを取り戻すことはできないけど、いつかやさしい気持ちで笑い合える日がくる。出口は見えないけど、今日とちがう明日を引き寄せることはできるかもしれない。近しいものの体温を感じていられるなら。そんな希望をほんのり抱かせてくれる一冊だ。 2ヵ月早く刊行された『ラジ&ピース』。「ブスでグズ」「水たまりに落ちたレシート」みたいだと自認する32歳のフリーアナウンサー野枝は不機嫌満開、寡黙でテンションどん底の女だ。一人用の冷蔵庫にはもちろん何も入ってない。だが、スタジオのブースに入れば怖いものなし。ここだけが彼女の居場所だ。番組以外のすべてが嫌い、一生喋り続けていたいと思っている。 |
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| 石牟礼道子・多田富雄著 『言魂 』藤原書店/2008 | |||||||||||||||||||||||||
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なるほど。帯にあるように、確かに「渾身の往復書簡」だ。「いのちと魂をめぐる」は要らない感じだけど。かたや『苦海浄土』の石牟礼道子81歳、かたや世界的な免疫学者の多田富雄74歳。石牟礼は進行性の難病パーキンソン病を発症して3年余り、多田は01年に脳梗塞で倒れ、右半身マヒ、構音障害、嚥下障害という重い後遺症を抱える身で、前立腺癌とも闘っている。老い、病い、障がいの三重苦を生きる二人が存在をかけて語る「いのちと魂」の言葉には、全存在かけて耳を傾けたいと思う。
ほとんど「寝たきり」とほぼ「引きこもり」の二人が、言葉を交通手段にしていかに豊かに世界と交信しているか、そしてこの世界の破滅的危機に抗し、いかに命がけで格闘しているかを知るとき、断念の底でわたしは、射し込んでくる一条の光を見上げている気がする。絶望の手前で言葉を紡げ。くりかえし砕け散ってもくりかえし言葉を、という思いに駆られる。 だが、石牟礼と多田の間には、確かに温度差がある。みごとに響きあい圧巻なのは「能」を語り合う部分だ。多分一生わたしには縁がないと思うが、詞章なるものには唸った。一瞬触れただけで感電してしまった。この伝統芸能こそ二人が希求する美の核心なのだろうが、その対極にあって弱者を叩き潰して戦争へひた走る権力への憤怒もまた彼らを強く結びつけている。石牟礼は書く。「ひたすら弱者の立場から、壮絶なたたかいを続けておられるお姿に、水俣の現場から、私もまだ崩おれない一人として、連帯の気持ちを捧げたい」 にもかかわらず感じる体温の違い。「現世では、もはや力つきた感じ」の“姉”の表情はくもりがちだが、悲鳴を上げながらも「苦しみと対抗して…毎日勝利宣言をしている」“弟”は晴れやかだ。石牟礼は「とげられぬ想いのごとき一と世なり 海面にとける雪の花びら」とうたう。これはジェンダー視点でしか読み解けない宿題のような気がする。 「私が石牟礼さんの作品の中に感じる『姉性』は、絶対的な他者としての母性とは違った、もっと身近な存在としての優しさです」という多田の賛辞に対して「いともリリカルなおほめの言葉」と返す石牟礼は、誰よりも多田にとって「姉様」である。姉様は最後に「なにとぞまだ死なないでいてくださいませ」と訴える。祈りにも似た言魂を手渡すのだ。 |
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| 時が滲む朝 文芸春秋/2008 | |||||||||||||||||||||||||
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旬の在日中国女性、楊逸の『時が滲む朝』を読んでみた。日本語を母語としない初の芥川賞作家誕生と話題騒然だが、ざっくり確かな歯ごたえと、輸入品でも地物でもない境界の味わいに軽くやられた。これを「たんなる通俗小説」「残酷な、政治のもたらす人生の主題について書かれてない」と評したのが、通俗的なクソおやじ作家であり残酷な強権政治家、石原慎太郎なのが笑止だが、それも本作の高評価を煽っているのだからご苦労なことだ。 ついでに上から言わせてもらうと、前二作『ワンちゃん』『老処女』に比べて文章のこなれ方といい日本人受けしそうな見せ方といい、いい編集者がついた感じだし、北京五輪のタイミングを狙ったのも透けて見えるが、楊逸は「仕事として書いた」のだから計算も駆け引きもあって当然。その上で、やっぱりこれ書きたかったんだろうなと納得させる確信犯的なノリとハリがあって飽きさせないし、凝縮した思いを言葉にして解き放っていく息づかいさえ伝わってきて思わず呼吸を合わせてしまう。ニッポン疲れしたカラダに効くかも。 キャッチコピーは「天安門事件前夜から北京五輪前夜まで」の「中国民主化勢力の青春と挫折」。否応なく文革の影をひきずるこの物語はマラソン向きかもしれないが、あえて短距離走150ページで思い切りよくまとめてある。親友の梁浩遠と謝志強は1989年春、青雲の志を胸に農村から地方の名門大学に入学。さまざまな出会いのなかで愛国民主の熱情に駆られ学生運動に飛び込んで行く。授業をボイコットし校門を押し開け街頭へ。集会デモ、市政府前座り込み・ハンストの日々から5月末天安門広場に結集。帰郷後、市政府の懐柔策に乗って学内に戻った彼らを痛恨の一撃が打ち抜く。「6月4日、装甲部隊が天安門広場に突入!」そこから有望な若者たちの前途は思いもかけぬ方向へ転がり始める…。やがてめぐりくる再会の秋。2000年、日本。かつて中途半端に折れた青年たちもいまは仕事と家族を愛し、世俗にもまれて暮らすオトナになった。大げさなものは何もない。どこで何をしてこようが、ただ生きのびてきたことを確認し喜び合う。そして明日もまたどこかで生きのびていく力を伝え合う。共有した時代、闘い、挫折。理想、情熱、涙。国境を越えていまもゆるやかにつながっている思い。地殻は静かに変動し続けている。それでいい… って、そうかなぁ。出直し入会した民主同志会日本支部のトホホな現状に、革命家は孤独だ!と嘆く浩遠の勘ちがいぶりは可笑しいし、彼はまた幹部の日和見に撃沈されるや「しなびた大根の声」で田舎の老父に電話して元気づけられ、泣き笑いするヘタレ男である。妻の梅(残留孤児2世)の方がはるかに底力を持っていそうだ。浩遠がリスペクトするアメリカ亡命中の有名活動家が、娘のバイオレンスに狼狽し全面否定に恐慌をきたし「児童虐待する中国人の独裁家長になってしまった気持ちがわかるか」と泣きを入れてくる件も痛烈だ。そこでしょぼくれる浩遠を眠りにつかせるのは妻子のリズミカルな鼾である。 これは、男たちの青春と友情と挫折、再生と家族愛を描いた作品に見えながら、実はにっこり笑って男の物語、男社会を斬る女のブンガクなのかもしれない。全編に響く漢詩、BGMのテレサ・テンと尾崎豊。このクサさ、暑苦しさは「闘う男たち」へのララバイの匂いだ。 |
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| 桐野夏生著『東京島』 新潮社/2008 | |||||||||||||||||||||||||
| やっぱキリノは読ませるなぁ…と吐息まじりなのは、直前に読んだ桜庭一樹の新作『荒野』に脱力したせいもある。『少女には向かない職業』以来のサクラバ読者としては、『赤朽葉家の伝説』で極めちゃったのかなという感しきり。直木賞受賞作『私の男』も残念賞の間違いじゃないかと…。不朽の名作ホラー『墓地の見える家』や『妻の女友達』等々、短編ミステリーの花形だった小池真理子も直木賞以来、官能系に転向してしまった。サクラバもなぜにそっち行く?「私は女性作家じゃない、作家だ!」という気概も一緒に買ってたのに。次は図書館で会いましょか。
というわけでこれまた直木賞作家だが、ミステリアスに深化し自在に変容しながら、毒を仕込んだ作品で世界をぐらり反転させる桐野夏生の新作『東京島』である。 舞台は放射性廃棄物の不法投棄先と思しき絶海の孤島、邪悪な意志さえ感じさせる太平洋の涯の無人島。上陸第一陣は、那覇から世界一周に旅立ち敢えなく撃沈したクルーザーの船主夫婦・清子と隆。「貞淑な」中年妻は不敵なサバイバーに、50を前に早期退職した元銀行マンの夫は無能な椰子酒飲みに。そこへ与那国から首都圏フリーター男23人が漂着し「トウキョウ島」と命名。続いて密航船から遺棄されたタフなハミダシ中国人11人が流れ着き、異物登場(終盤フィリピン女性7人も参入)。不穏と緊張を孕みながら、ギラギラとクレージーな物語が疾走を始める。出てくるのは最低な野郎どもと最悪な女。海と空とジャングルと灼熱の太陽と太古の闇。食欲と性欲と生存欲。そしていくつかの事件を転回点に「こうくるか!」の結末へ。物語の力にぶんぶん振り回される快感も加速度あげてフィニッシュに向かう。 清子は、共感などつけいるスキも与えない自己愛満開の女だ。隆亡き後は島で最年長、誰よりもデブっているが、唯一のマンコ持ちであるがゆえ女王として君臨し放埓の限りを尽くす。4番目の夫を迎える頃には飽きられ疎まれているが起死回生、妊娠を契機に「島母=絶対的母」として再君臨を謀る。空気を読んで臨機応変、躊躇なく子どもをダシにわが身を守る手前勝手さは笑えるが、どんなときも男への依存心や信頼など持たないところが頼もしい。信じるのは愛ではなくI、不動の行動原理は欲望。「母性愛もまた、文明のもたらすものなのだ」と気づいて少しもたじろがない。欲情は男の性にあらず。男たちはへたれコミュニティに埋没しようとする。 「その憎悪の芯は、嫉妬にある。…欲しいときは他人を殺してでも欲しがり、共同体を揺るがす争いの元だと感じれば、平気で抹殺する男の性癖」と清子に看破されるクソ男集団の暴力性は清子の男版・棄民ワタナベ、僧侶マンタ、堕ちた偶像GM、壊れ行くめがね・オラガなど傑出したキャラ男を生み出すが、そのグロテスクさには思わず魅了されてしまう。明日そこに出現するかもしれない極限状況・東京島。生還の命綱は無力な女こどもの希望を握りしめたこぶしと向こう見ずな共闘なのだ。 |
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| 徐京植・多和田葉子著『ソウル-ベルリン玉突き書簡 境界線上の対話』 岩波書店/2008 |
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初出は『世界』07年4月号〜08年1月号。わたしは多和田葉子(と笙野頼子)が好きで、読むたびに心身がざわめき、踊りたくなる(町田康のようにでなく)書きたくなる(川上弘美のようにでなく)。言葉の力と希望をみせつけてくれる表現者だ。 そんな多和田と徐京植が刺激満載の、感度・密度・鮮度ともに高いコラボ本を生み出した。多和田はドイツ在住25年、日本語、ドイツ語で創作する詩人であり芥川賞作家。徐は在日コリアン二世の作家で大学教員(書簡往復中はソウル在住)。かつて朴独裁政権下、「在日韓国人政治犯」のシンボル的存在として獄中19年・17年を闘い抜き生還した徐勝・徐俊植兄弟の弟で、政治犯救援・韓国民主化運動を担った人でもある。ともに国境を越え、さまざまな境界を行き来しながら感受し思考し表現する旅人でもある。 二人は06年ケルンの日本文化会館で「ディアスポラと芸術」をテーマに講演・対談し出会った。直後に徐がベルリンの多和田を訪ね、玉突き遊びに興じたあたりから対話は始まっていく。 第一信「家」。「くつろげる『ホーム』をもたない」徐は、多和田の住まいを「運送屋の事務室」の印象と書き送る。「わたしにとって『家』とは家族でも建物でもなく、文化と友人から成り立っている空間」で「今、家とは、歴史を眺める展望台のようなもの」と多和田は受ける。 二信「名前」ではジュンパ・ラヒリの『その名にちなんで』を読んだことありますか、と多和田が先攻し「名前は、すくなくともディアスポラにとっては、『歴史が残した引っかき傷』のようなものかもしれません」と徐が応答していく。 三信「旅」以降、「遊び」「光」「声」「翻訳」「殉教」「故郷」「動物」と続く往復書簡は、「網の目状に」広がりつつ深化し続ける二人の問題意識を映し出して響きあい、「ヨセとチラシ」「タテとヨコ」のズレも含みこんで興味が尽きない。 言葉遊びは「思考のひとつの形式」という多和田はやはり詩人だし、広島、アウシュビッツを学生たちと歩き、原民喜を語る徐のまなざしはやはり実践者の強度をもっている。ソウル―ベルリンから世界に開かれた「ことばの玉突き台」は渋い光沢を放ちながら、知的興奮に満ちて楽しい。やはり、わたしは踊りたい。 |
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| タナダ ユキ著『百万円と苦虫女』 幻冬舎/2008 | |||||||||||||||||||||||||
| 出張帰りにふらり本屋に立ち寄って、車中で読む新刊本を物色するのは楽しい。そんなとき目が合ってしまう物件は大抵ビンゴだ。今回のお持ち帰りは『百万円と苦虫女』(タナダユキ 幻冬舎)。著者はぴあFFでグランプリデビュー、『タカダワタル的』『赤い文化住宅の初子』等で注目度も高い若手映画監督である。この作品も7月からの全国上映に先がけ発売されたものだが「ちょっとビターで憎めない女の子の旅物語」は拘置所から始まる。だからどうってこともないのだが、「鈴子はずるずると看守について行く」「そしてまた、ずるずると歩き始めた」の「ずるずる」でもっていかれた。つかみはOKである。 可もなく不可もなくいたって普通に無難に暮らしてきた佐藤鈴子(短大卒の21歳、就活出遅れフリーター)は何の仕打ちか「前科もち」になってしまう。たかが拘留23日、されど罰金20万円。行き場をなくした鈴子は国内エグザイルをめざす。短期決戦で貯めた百万円を懐にカートをゴロゴロ転がしながら、海辺の町から山間の村へ一所不住のバイト暮らし。所持金が百万円に戻ったら次の土地に向かう。ゆく先々ですてきな人たちと出会い、温かい人情にふれ、豊かな自然に和み、スローライフに癒され、恋あり別れあり、涙あり笑いあり…そして鈴子は成長し、自立し、家族は再生していく… みたいな話なら何を今さら!なわけだけど、そりゃそのフシもないとは言わないしジェンダー視点があるとも言わないけど、まぁ突っ込みどころも満載だけど、それでも家族から逃走し続け、安易に他者とも社会とも馴れ合おうとしない女子の放浪記が、恋愛・結婚・再生家族へと容易には着地せず、ケータイも友達も定職も夢も持たない苦虫女は今日もひとり流れゆく、果たして何処へ? そんな旅の途上感が心地いいし、ちょっとクールなはぐれゆきくれ感が好きだ。 リアリティ希薄な物語なのに女子の生きがたさはリアルで、法の境界を越えながらも国境を越えていけない翼のない背中がちと寂しい。映画の主演は蒼井優、こちらも楽しみだ。 |
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| うちは出版社だから、書評充実! はじまりは、有川浩著「自衛隊三部作」 | |||||||||||||||||||||||||
| オーラ、アミーゴ! いきなりですが、桜4月の日本からサマータイムのメキシコへ行ってきました。 帰ってくるなりテンション落ちまくりで、『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』(本谷有希子、講談社文庫)な日々を過ごしていたら、あれ、ホームページがリニューアルしてる。やばっ!と、あわてて顔を洗い、ワード画面に切り替えたのも、「出版やってるのに、書評コーナーがないなんて、ちょっと残念やなぁ」とエラそうに口走ったのも、ダルビッシュ有ならぬ、わたくしビッグマウスゆうでございます。以後、お見知りおきを。 さて。当初の目論見としては、「図書館シリーズ」で大ブレイクの有川浩(ありかわ・ひろ 30代、女性作家)あたりが槍玉に挙がるはずでしたが、あいにく攻撃目標の自衛隊三部作『塩の街』『空の中』『海の底』もサイドストーリー『クジラの彼』も、「買ってまで読みたくないけど…(貸してくれ。ちょうだい)」という友人宅などへ総員出動中で、ベタ甘ラブストーリーにおなじみ自衛隊オタク色をひとはけ添えた『阪急電車』まで借り出される(狩り出される?)という憂慮すべき事態が発生したため、しばし作戦停止です。しかし有川浩、売れっ子ですね。ものすごヤな感じやけど。 「ほな、明日ビッグマンで。うん、マルフタマルマルで…(笑)」って、大阪は阪急北千里線車内でケータイ通話中の女子に遭遇したときは、思わず二度見しちゃいました。(ちなみに『阪急電車』の舞台・今津線での目撃談なら、もっとネタだったかも…)。これは「じゃ、明日、阪急梅田の紀伊国屋書店前にある大型テレビ・ビッグマンのあたりで2時に待ち合わせでよろしく(笑)」と変換できるわけだけど、学生さんが面白がって自衛隊式カウントを採用しているように思えたのは、私の過剰反応でしょうか。うーん。 ともあれ、「国防に命を賭けるかっこいい自衛隊に萌え〜、かわいい恋もするステキな隊員に萌え〜」みたいなくっさい、いやキナ臭い物語に対して、「なに、これ! ありえへんっ、ムリやわっ!」という叫びを、心ある人たちと共有したい!じゃないですか? みなさま。なお、「戦争・内乱・危機・革命」の「図書館シリーズ」も、うちの兵站庫から娘の下宿へゲリラ的に転戦したまま行方知れずです。今頃はブックオフを経由して、関西方面で進軍を続けているのでしょうか。健闘を祈りたくない気持ちでいっぱいです。(注、軍事用語と若者ことばって何気に毒されやすかったりします) というわけで、最近読んだ本ですが、いま話題の『食堂かたつむり』(小川糸、ポプラ社、08年1月)だったりします。ま、たまたまそのへんに転がってる場合や、ちょっと疲れ過ぎたり心がへたってるときに、絵本や『きょうの猫村さん』や情報誌代わりによいかも。わたしの場合、からだはメキシコから帰ってきたけど、中身がまだ帰れずにいた数日から心身合体前後の揺り戻しまで、読んでは眠り覚めては読みしたうちの一冊でした。 『かもめ食堂』もそうだけど、おいしそうな料理が、皿さらにほんわか湯気を立てている本には、痛みをやわらげる力や、胸ふさぐ思いを少しずつ溶かしてくれる消化作用があるのかもしれません。 ただし先頃、美食ミステリーと絶賛された『禁断のパンダ』(拓未司、宝島社)だけは「ごめん、むり!」でしたので、気まぐれにもオーダーしない方が賢明かと思われます。 最後に。今回の旅のお供は『フリーダ・カーロ 引き裂かれた自画像』(堀尾真紀子、中公文庫)、『オラ!メヒコ』(田口ランディ、角川文庫)、『上と外(上・下)』(恩田陸、幻冬社文庫)、『旅をする裸の眼』(多和田葉子、講談社文庫)ほかミステリー2冊に、お約束通り『地球の歩き方・メキシコ』。長い機中やシェスタ(お昼寝)で、さっぱり眠気を誘われないラインナップでした(ということは選択ミス?)。 旅の途中で26歳になった連れが持参したのは、なぜか「おじさん系」ばかり。村上龍のなんちゃら(忘れた)、池澤夏樹の『やがてヒトに与えられた時が満ちて』、五木寛之の『大河の一滴』、川端康成の『雪国』など。えーっと…。彼女の本はさっさと読み切られ、ゲストハウスの本棚にある本とトレードされていくのでした。いろんな読み方、ありますね。 というわけで、本日はご挨拶まで。ミステリー、エンタメ系からフェミ本まで気ままに選り好みし、読みとばし書きとばしてみたいと思っております。願わくば、基本笑いとばし、たまに叱りとばしつつ、このドライブ感をお楽しみいただければ幸いです(笑)。ではまた。 |
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