「呪われた十七歳」

「それは彼の女のための喪章。
十七の春の、葬送の痕跡」

(「呪われた十七歳」p251)

*

後に「過ぎる十七の春」と改題、改稿されて再出版された。

  呪われた十七歳            過ぎる十七の春
隆の家の庭の野草       

 格子戸をくぐると前庭が広がる。桜の内側に植えられたのは山梨と海棠。庭の周りを埋め尽くした白い花の木々。玄関までは石畳が続いていて、その両脇は一面の緑。伸びきった芝のように見えるが、まだ花を付けていない野草の群れだ。/野草に埋もれた家だった。(p10)

 格子戸をくぐると前庭が広がる。道に面した桜の古木、露地のほうへ向かって植えられたのは黒竹と業平竹。(中略)緑の間には白木蓮が一本、すっきりと背伸びするように立っていた。木蓮を中心に、淡い色の群生をつくっているのは、黄色の母子草、白い蒲公英、青は瓢箪草と十二単の濃淡、赤い捻花に烏野豌豆。とえいまく緑は大葉子に、蓼、酸葉、芹に露草、霞でもかかったように淡い色に見えるのは、混じった薺が微細な花をつけているからだ。/野草に埋もれた家だった。(p.18)
庭だけでなく、里の景色の様子の書き込みも増えて「異境」の雰囲気を醸し出している。
隆の家   勝手知ったる家(p.11)
ほとんど描写がない。
長い廊下と、ただ白いだけの漆喰の壁、襖と障子で出来た家(P.22)
三和土から、土間、玄関の三畳、長く、曲がりくねったよく磨かれた廊下・・などの様子が微細に書き込んである。
翌日 直樹の十七の誕生日。三人で映画を見に行く。 直樹の十七歳の誕生日。典子のリクエストで、裏山に筍を掘りに。
直樹・典子過去の夢。   直樹:大きくなったらカンガルーになりたい・・・と思っていた過去がある。
典子:隆のお嫁さん。(←しかし、叔母に困った顔をされる。後々の伏線)
文章 「どうした?飯だぜ」/直樹の声に振り向いた。が直樹の後ろで焦点を結ぶ。/「具合でも悪いのか」/中に入ろうとした刹那、隆はふいと横を向いて低い声を投げた。/「今、起きる・・・・」/直樹はどこか胸の騒ぐ思いで、その造られたように堅い背中の線を見ていた。(中略)何だろう、この違和感は。まるで隆ではないようだ。声も姿も気配までも、隆本来のそれに何か異なる影をかぶせたように見えた。(P.41) 「どうした?飯だぜ」/直樹の声に振り向いた。が直樹の後ろで焦点を結ぶ。/「――なんだ?具合でも悪いのか」/なんだかおかしい。まるで魂を置き忘れてきたような風情。いぶかしんで中に入ろうとした刹那、隆はふいと横を向いて低い声を投げた。/「いま、起きる・・・・」/直樹は少し胸の騒ぐ思いで、その造られたように硬い背中の線を見ていた。(中略)なんだろう、これは。まるで隆ではないようだ。声も姿も気配までも、隆本来のそれになにか異なる影をかぶせたようだ。――そう、違和感。(P.79)
     
     
     
美紀子の遺書 原文のまま綴られている。 最初の四行、手紙の原文を綴った後、美紀子の回想によって手紙の内容がプレイバックされる。子供のすり替えのことは告白していない。
     
出版元 朝日ソノラマパンプキン文庫
1990.7.30 初版発行(ISBN4-257-75001-4)
講談社X文庫ホワイトハート
1995.4.5 初版発行(ISBN4-06-255201-9)
挿画 生嶋美弥 波津彬子

構築中

  呪われた十七歳            過ぎる十七の春
プロローグ ――やめてください、お願いします。
――その子はわたしの子供です。

――おかあさん。

――やめてください、お願いします。
――この子は私わたしの子供です。

――おかあさん。

第1夜   ――雨が降っていた。

――やめてください、お願いします。
女の悲鳴が走った。
――この子は私の子供です。

雨は降る。

――おかあさん。              (一章:終)

第二夜 雨が降っていた。

――やめてください、お願いします。
母親の悲鳴が走った。

――その子は私の子供です。

――その子はわたしの、たったひとつのものです。
伸ばした腕には、滴った血が流れて伝った。

雨は降る。

――おかあさん。             (一章:終)

――雨が降っていた。

――おかあさん。
子共に向かって女が走る。
――やめてください。

――やめてください、お願いします。
男の足が女の膝を蹴り、下腹を蹴る。女の悲鳴が走った。
――この子は私の子供です。

手首を裂いた血が流れて伝った。

雨は降る。

――おかあさん。              (二章:終)

  雨が降っていた。

――やめてください。
空虚な暗い空間に、引き裂かれる痛みの声が響く。
――やめてください、お願いします。
母親の悲鳴が走った。

――この子はわたしの子供です。
全霊を託して爪を立てた。
弱い肌には血が滲み、それでも子供は否を言わない。
――たったひとりの子供です。

――この子はわたしの、たったひとつのものです。
伸ばした腕には、滴った血が流れて伝った。

雨は降る。

――おかあさん。             (二章:終)

――雨が降っていた。

男もまたずっしりと濡れていた。

――おかあさん。
子共に向かって女が走る。
――やめてください。

――やめてください、お願いします。
男の足が女の膝を蹴り、下腹を蹴る。女の悲鳴が走った。
――この子は私の子供です。

――この子はわたしのたったひとつのものです。
子供の手首を裂いた血が流れて伝った。

――母親とはその程度のものか。
――なにを。

雨は降る。

――おかあさん。              (三章:終)     

  雨が降っていた。
ぽっかりと暗がりに開いた戸口からは、強い雨と濡れそぼった風とが吹き
込んでくる。その四角い空間を、立ちはだかった男の影が大きく切り取る。

――おかあさん。
子共に向かって女が走る。子供の、空いた方の手がすがるように女の髪
をつかんだ。

――やめてください。
空虚な暗い空間に、引き裂かれる痛みの声が響く。
――やめてください、お願いします。
母親の悲鳴が走った。

――この子はわたしの子供です。
全霊を託して爪を立てた。
弱い肌には血が滲み、それでも子供は否を言わない。
――たったひとりの子供です。

子供が母親を呼ぶ。母親が子供を呼ぶ。離されまいとして悲鳴をあげるふた
りを、濡れた腕が容赦なく裂こうとする。

母親は救いを求める。

――あなたも女ならわかるはず。

――この子はわたしの、たったひとつのものです。どうぞ盗らないでください
伸ばした腕には、滴った血が流れて伝った。

雨は降る。
暗い軒の下には叫びが降る。

――母親とはその程度のものか。
――なにを。

――おかあさん。             (三章:終)

――雨が降っていた。

薄暗がりに軒を打つ雨音が響く。
男もまたずっしりと濡れていた。
――おかあさん。
子共に向かって女が走る。
――やめてください。

――やめてください、お願いします。
男の足が女の膝を蹴り、下腹を蹴る。女の悲鳴が走った。
――この子は私の子供です。
女は全霊を託して子供の腕に爪を立てた。
子供が母親を呼ぶ。母親が子供を呼ぶ。

――この子はわたしのたったひとつのものです。
力と力の拮抗で子供の手首を裂いた血が流れて伝った。

――母親とはその程度のものか。
――なにを。
――わが子の命よりわが身の執着の方が愛しいか。
雨は降る。

――おかあさん。             (四章:終)

  雨が降っていた。
ぽっかりと暗がりに開いた戸口からは、強い雨と濡れそぼった風とが吹き込
んでくる。その四角い空間を、立ちはだかった男の影が大きく切り取る。

――おかあさん。
子共に向かって女が走る。子供の、空いた方の手がすがるように女の髪を
つかんだ。

――やめてください。
空虚な暗い空間に、引き裂かれる痛みの声が響く。
――やめてください、お願いします。
母親の悲鳴が走った。

――この子はわたしの子供です。
全霊を託して爪を立てた。
弱い肌には血が滲み、それでも子供は否を言わない。
――たったひとりの子供です。

子供が母親を呼ぶ。母親が子供を呼ぶ。離されまいとして悲鳴をあげるふた
りを、濡れた腕が容赦なく裂こうとする。

母親は救いを求める。

――あなたも女ならわかるはず。

――この子はわたしの、たったひとつのものです。どうぞ盗らないでください
伸ばした腕には、滴った血が流れて伝った。

――菅田のものは菅田に返してもらう。
女の声は表情を持たない。
――その子の身体を流れるものは、半分は泥でも半分は菅田の血。
――では裂いて持っておゆきなさい。

――母親とはその程度のものか。
――なにを。

雨は降る。
暗い軒の下には叫びが降る。

――おかあさん。             (四章:終)

――雨が降っていた。

薄暗がりに軒を打つ雨音が響く。
ずっしりと濡れた薄闇、四角い明かりを、立ちはだかった男の影が大きく切り取っていた。
男もまたずっしりと濡れていた。
――おかあさん。
子共に向かって女が走る。
――やめてください。
空虚な暗い空間に、引き裂かれる痛みの声が響く。

――やめてください、お願いします。
男の足が女の膝を蹴り、下腹を蹴る。女の悲鳴が走った。
――この子は私の子供です。
女は全霊を託して子供の腕に爪を立てた。弱い肌には血が滲み、それでも子供は否を言わない。

子供が母親を呼ぶ。母親が子供を呼ぶ。濡れた腕が容赦なく裂こうとする。
母親は救いを求める。

――この子はわたしのたったひとつのものです。
力と力の拮抗でたわむほどに伸ばされた腕には、子供の手首を裂いた血が流れて伝った。

雨が降る。――暗い軒の下には叫びが降った。

――母親とはその程度のものか。
――なにを。
――わが子の命よりわが身の執着の方が愛しいか。
雨は降る。軒を叩く。地を、人を叩いた。
――裂けというなら、自分で裂けばよろしかろう。

――おかあさん。             (五章:終)

  十四年ぶりに見る我が子の顔は幼い頃の面影を色濃く残して、しかもなお荒んだ色が深かった。

女は泣いた。泣いた末に言わずにおれなかった。
――わたしが貴方の母親です。

子供はそれだけで理解した。     (六章:終)

十四年ぶりに見る我が子の顔は幼い頃の面影を色濃く残して、しかもなお荒んだ色が深かった。

女は泣いた。泣いた末に言わずにおれなかった。
――わたしがあなたの母親です。

子供はそれだけで理解した。     (六章:終)

エピローグ    

<一言>

表紙のイラストが典子ちゃんであることが「呪われた十七歳」最大の謎かもしれない・・・・。いえ、ホラーだから、謎じゃないんですけど(^^;。

 

 

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