懸け橋の小学校(河尻 清−日の丸産業(株)社長−,中国新聞夕刊2001.3.15掲載)

平成10年夏,中国長江流域に発生した洪水被害に対して,広島県日中親善協会は見舞金320万円を四川省政府に届けた。2年後の昨年秋,この見舞金で再建された小学校の落成式に参列した。

小学校は四川省成都市から夜行列車と車で東へ数百キロ,中国でも再貧困地区,四川省達州市渠県涌興区安北郷南山村にあった。目下,中国政府は沿海地方に比べ甚だしく遅れた西部地域の開発に懸命だが,四川省でも急速に開発の進む成都市周辺と,ここ南山村とでは大きな格差が感じられた。

小雨の煙る中,熱烈歓迎の子供たちの隊列の前方に,周りの景色とはおよそ不釣合いな真新しい白亜の小学校が見えてきた。すぐに何百人もの児童,村人,関係者に囲まれて式典が始まった。私の目を引き付けたのは,三階建て800平方メートルの校舎の前の大きな石碑であった。表面に太い朱色の文字で「四川広島中日友誼小学」と彫られ,裏面には小学校建設までの経過が詳細に説明され,特に広島県の援助が強調されていた。これを450人の児童が毎日,見ながら成長してくれるのかと思うと,両県省の16年間の交流により醸成された信頼関係が,辺境のこの地にまで伝えられていることに大変感激した。

今回の援助は,われわれには大したことではないかもしれない。しかし,目を輝かせ熱心に学ぶ子供たちの学力の飛躍的向上,さらに680世帯,2,800人の村民が抱くであろう日本に対する友好的感情は,決してささいなことではないと確信し,小学校を後にした。