天風録「シルクロード」(寺本泰輔−中国新聞社論説委員−,中国新聞1992.9.6掲載)

シルクロードはロマンの旅といわれる。だが,日本語の達者な現地のガイドはシルクロードを逆に読んで「道路苦し」と厳しい気候の変化を教えてくれた。

ウルムチ,トルファン,敦煌を駆け足で回ったが,確かに苦しかった。ウルムチでは寒風に身を縮めた。それでいてウルムチからバスで三時間のトルファン,さらに南東の敦煌に行くと,昼間の四十度近い暑さにグッタリ。

トルファンの火焔山,敦煌の鳴砂山といった砂山の地表温度はもっと高い。とても登れるものではない。そこら辺りは,いわゆるゴビ砂漠。どこまでも広がる小石と砂はまさに熱砂。だが,乾燥しているから汗が出ない。

夜になると気温はグングン下がり,セーターは離せない。一日のうちに四季を味わうようだ。熱砂のはるかかなたに雪をいただいた天山山脈がそびえ,真夏の大地から冬の峰峰を見上げるような妙な気分がする。体調を崩しやすい。皮膚の炎症やノドの痛みを訴えた旅行仲間も何人かいた。

それだけに木陰の涼しさにはホッとさせられる。ウイグル女性の華麗な民族舞踊を観賞しながら,ブドウ棚の下で食べるヒツジの串焼き・シシカバブーのおいしさ。現代の飛行機とバスの観光旅行でもオアシスのありがたさは理解できた。かつての隊商たちは,どれほど助かったことか−

過酷な自然は歴史の歯車を遅らせ,二千年もの昔を色濃く残させている。苦しくても,もう一度行ってみたい,という思いを抱く。その旅情がシルクロードのロマンなのだろう。