天風録(寺本泰輔−中国新聞社論説委員−,中国新聞1992.8.26掲載)

中国へ行ったら至る所で「92友好観光年」の文字が目についた。天安門事件で激減していた海外からの観光客は順調に増え,落とす金は貴重な外貨だ。そこで外国からのお客さんを歓迎しようという運動。

だが,その狙いが不徹底なのか,歓迎が後回しにされ,外貨獲得が先行するケースにしばしば出会った。西安郊外の観光地では,小さな子供たちに土産物を買え,買えとせがまれた。上海では「絵の勉強のため日本へ留学する」という青年に粗末なパンダの絵を売りつけられもした。

買い物をすれば,同じ品物の値段がバラバラで,物によっては五倍も六倍も高く買わされる。観光客が増えると,コツコツ働かなくても,ちょっとした金を手にすることが可能になるのだろうか。あまり行き過ぎると,対外開放政策に批判が出るのでは,と余計な心配もした。

しかしそんなに気にすることもない。つきまとう子供たちを相手に中国語を勉強するのも面白いし,買い物も値段がバラバラであるために,交渉しだいでは相当安く買える。そのやりとりも中国旅行の楽しさの一つ。

上海の大規模な開発は実にダイナミックに映る。港・上海のある黄浦江に巨大な橋がかかり,市中には三十階や四十階建ての高層ホテルが次々に建てられていた。「友好観光年」にもうなずける。もはや中国は後戻りできまい。

天皇,皇后両陛下の訪中が正式に決まった。北京,西安,上海が予定のコース。悠久の歴史と現代の躍動ぶりをご覧になるだろう。両国の親善友好が深まることを期待したい。