発掘調査についての考え(1998年12月)

 この4月から遺跡の発掘調査の仕事をしています。まだごくわずかの経験しかないのですが、当然のことながらいくつかの疑問や意見を持つようになりました。

 1 発掘調査には保険が必要だ。  

道路や建物、ゴルフ場などの開発予定地で遺跡が発見され、保存か開発かでもめること がよくあります。
 文化財保護法では、すでに遺跡があることがわかっている場所で、道路や建物の工事を しようとする場合、事前に各地の教育委員会に届け出て発掘調査をしてもらわなくてはな らないことになっています。現在の日本各地でおこなわれている発掘調査のほとんどが、 この種の事前調査です。
 遺跡がないと思われていた場所でも、工事の途中で遺跡や遺物(土器のカケラなど)が 見つかった場合にはやはり届け出て、工事を一時中止して調査してもらわなければならな いことになっています。
 こうした発掘調査に必要な費用はだれが負担するのか、文化財保護法にはハッキリと決 められてはいません。しかし慣例として「原因者負担」という原則があり、工事をしよう とする者が費用を出すことになっています。国道の工事なら建設省が、農道の工事なら農 林水産省が、県道の工事なら県が、ゴルフ場の場合にはそのゴルフ場を開発する会社が費 用を負担するわけです。
 こうした発掘調査は工事のためにおこなうわけですから、本格的な工事をはじめる前に 期限をきって調査を行い、調査が終われば遺跡などはこわしてしまうことが前提となって います。しかし予想以上に大規模だったり、重要な遺跡だった場合には、建設計画そのも のを変更したり中止したりして、遺跡を保存する場合もあります。
 工事をするがわからいえば、早く発掘調査は終わらせて本式の工事をおこない、道路で も橋でもショッピングセンターでも早々に完成させてしまいたいものですが、不幸にして 大発見にぶちあたったりすると、発掘調査が長引いて完成予定もずれ込み、大ゾンしてし まいます。しかも遺跡保存ということになれば、計画変更のためにさらに莫大な費用が必 要となりますし、工事計画そのものが中止になったりすれば大損害をうけてしまいます。
 市町村や都道府県の教育委員会も、軽々しく遺跡の保存を決定すると補償問題に発展し てしまいますから、保存には消極的であるのが普通です。
 工事の途中で遺跡が見つかった場合には、工事を中止して発掘調査が終わるまで待たな くてはならない上、その調査費用まで負担させられるのですから、これもまた大変です。 そこで文化財保護法に罰則がないのをさいわい、早々に遺跡を破壊して「証拠隠滅」をは かる場合も少なくないそうです。

 「発掘調査保険」が必要です。
 遺跡や遺物はどこから出てくるかわかりません。しかしその可能性の高い地域と低い地 域のちがいはあります。そこでたとえば、日本全国を次の5種類のどれかにくまなく指定 しておくのです。
 ・特別地域 =すでに遺跡が発見され、保存されている場所。
 ・第一種地域=絶対確実に重要遺跡がある場所。
 ・第二種地域=遺跡があることは確実だが、あまり重要ではなさそうな場所。
 ・第三種地域=遺跡がある可能性が高い場所。
 ・第四種地域=遺跡がある可能性は低い場所。
 保険料は第一種地域は高く、第四種地域は安く設定します。工事を計画する個人や会社 は、その工事の規模に応じて保険料を払います。またその工事を認可した地方自治体や中 央官庁も保険料を負担します。
 地域の指定や保険料の設定は、この保険を主宰する「埋蔵文化財発掘調査保険機構」と でもいうべきものが行います。もちろん専門の考古学者が多数参加して、純粋に考古学上 の見地から指定が行われなくてはなりません。新しい発見によって指定が変更される場合 も多いでしょう。
 第一種地域と第二種地域では工事の前に必ず事前調査をおこないます。第一種地域の保 険料はとてつもなく高いので、ふつうはここで工事をしようとする者はあらわれないでし ょう。
 事前調査による工事の遅れなどの損害は、保険から支払われます。また重要遺跡の発見 により保存が決定した場合にも、それによる損害に見合う金額が保険から支払われます。 こうすれば発掘調査の費用も問題なく調達でき、保存決定の場合にも開発がわにもおおき な損害をあたえないですむでしょう。

 2 発掘現場の公開が必要だ。
 この夏、青森県の三内丸山遺跡に行きました。
 三内丸山遺跡は運動公園建設のために発掘調査がおこなわれた縄文時代の大きな村のあ とで、保存が決まる前にほぼ完成していた野球場の観客席も、今は取り去られています。
 この遺跡の公開・利用のしかたで、いくつか感心したことがありました。

 ・ ボランティアガイド制度
 15分ごとに出発する無料のガイドツアーがあり、出発時間には遺跡の入口に「ボラン ティアガイド」の人がやってきます。そして1回40分程度で遺跡全体を案内してくれま す。途中で遅れてしまってもすぐに次のガイドの人がまわってくるので、その説明を聞け ばよいのです。

 ・ 発掘現場の公開
 三内丸山遺跡では現在も発掘調査が続けられています。その発掘現場にはロープを張っ て見学用の通路がつくられており、だれでも自由に調査中の場所を見学することができる のです。私が行ったのはちょうど土曜日だったので残念ながら発掘調査はしていませんで したが、それでも現場を見ることはできました。

 ・ 内業作業の公開
 発掘作業の結果、土器のカケラなどの遺物がたくさん発見されます。遺物は発掘調査事 務所に運ばれ、ドロなどを洗い落とし、発見した場所や日付を書きこみ(「注記」といい ます)、カケラの場合にはくっつけて復元(「接合」)し、図面に記録(「実測」)しま す。こうした一連の作業を業界用語で「内業」といいます。
 三内丸山遺跡の資料館の入口には、この内業作業をしている部屋があり、そのようすを ガラスごしに見学することができるようになっていました。人々は内業作業のようすを見 てから、実際に三内丸山遺跡で発見された出土品にふれることになるのです。

 ・ 体験コーナ
 たくさんの出土品を見た後でさらに資料館の奥へ進むと、「体験学習コーナー」があり ました。このコーナーでは縄文時代の道具を使って火をおこしたり、縄文時代の服を着て 写真をとったり、自分は縄文人か弥生人かをコンピューターに判定してもらったり、現代 語を縄文時代の言葉に通訳したりなど、縄文時代についてのさまざまな体験をすることが できるようになっていました。

 発掘現場では時々「現地説明会」というのをひらき、一般の人々にも現場を見学しても らい、調査の結果わかったことを説明したりします。「現地説明会」の前後には「○○遺 跡で大発見」といった記事が新聞にのったりすることもあります。
 多くの発掘調査では「マスコミ発表までは部外者にはナイショ」ということになってい るようです。同じ調査事務所の中でも担当者以外には知らせないという場合もあるそうで す。これは毎日バラバラと見学者やマスコミがおしかけてきたら対応に困ってしまうとい うことが大きな理由のようです。
 発掘調査の現場ではパワーショベルなどの機械が動いていたり、そこらに穴があいてい たり、出土品が掘りかけたままだったりして、一般の人々に勝手に歩き回られるとちょっ と困ります。駐車場やトイレなどが少ない場合もあります。そこでほとんどの現場はまわ りに柵やロープを張りめぐらし、「関係者以外立入禁止」の看板をかかげています。調査 員もそれなりに忙しいので見学者の相手をする時間もあまりありません。

 発掘現場やその結果わかったことは、もっと広く公開されるべきです。
 ほとんどの発掘調査は国民の税金で行われ、私たちの祖先の生活の場を調査して、国民 が共有すべき歴史的財産を発見しているのですから、国民にはそのようすを知る当然の権 利があるのです。三内丸山遺跡の場合には保存が決まっており、見学者のための予算や人 手も足りているからこそできることなのでしょうが、本来はすべての発掘調査現場がすべ ての国民に公開されるべきでしょう。
 さらにさまざまな体験ができる場所として遺跡を活用できるのではないでしょうか。  一般の人々にも実際の発掘を体験してもらう企画(考古学に興味がある人は、ぜひ発掘 調査を体験してみてください。遺跡の見方が変わります)や、竪穴住居に寝泊まりして、 縄文時代の服を着て、縄文時代の方法で火おこし、料理を体験するという企画などもおも しろいでしょう。弥生時代編(赤米を古代のやりかたで栽培)、奈良時代編、戦国時代編 (鎧兜に身を固めて日本馬に乗って走る)など、いろいろできそうです。

 3 郷土の出土品は各市町村のものに。 重要でないカケラはみやげ物として販売したら・・・。
 発掘調査ではたくさんの遺物が発見されます。とくに土器のカケラは非常に大量に出て きます。しかしその大量の土器のカケラのうちで、他のカケラとくっついてもとのかたち が復元できるものはごく一部です。
 もちろんカケラのままでも重要なものもあります。カケラからその遺跡の時代を特定す ることができたり、他の地域との交流を証明することができる場合もあります。
 それでも発見された土器のカケラのほとんどは、そのまま発掘調査事務所の倉庫に保管 され、二度と出してみることはありません。どこの発掘調査事務所も大量の土器のカケラ が収蔵庫(倉庫)に充満しており、保管場所に困っています。
 こうしたカケラをもっと活用する方法はないでしょうか。
 文化財保護法では、地下から発見された出土品は持ち主が見つからない場合(見つから ないのが当然なのですが)には、国の持ち物となることになっています。場合によっては 国が地方自治体に所有権をゆずることもできるのですが、重要な出土品は必ず国の所有物 となります。
 この法律を変えて、出土品は基本的にその遺跡のある市町村の所有物にしたらどうでし ょうか。そうすればその市町村の小中学校では、簡単に地元の遺物を借りてきて歴史の授 業に活用することができるでしょう。
 各地の遺跡ではあまった土器のカケラを売店で販売します。それぞれの土器片が、いつ どこで発見されたものか、何年くらい前のものかなど、説明のカードもつけます。観光客 にはよいみやげ物となり、考古学への興味関心もぐっと高まるでしょう。発掘調査や遺跡 保存の費用にもささやかながら貢献します。発掘調査事務所の倉庫にも余裕ができます。 縄文土器、弥生土器、土師器、須恵器の4種類をセットにしたものなど、けっこう人気が でるのではないかと思うのですが、どうでしょうか。

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