<6月例会のようす>  

 場所  松江市国際交流会館
 日時  6月24日(土)12時半から
 参加者 (例会8人 学習会19人)

<重債務国の債務帳消し問題について>(拡大学習会)

 この運動の中心となっている<ジュビリー2000>のメンバーであるポール・マッカーティンさん(オーストラリア出身のカトリック神父。東京在住)の話を聞きました。

(1)<ジュビリー2000>とは?
(2)累積債務問題とは
(3)累積債務問題の原因
(4)「構造調整プログラム」の問題点
(5)累積債務が重債務国の人々にもたらす影響
(6)累積債務が先進国の人々にもたらす影響
(7)<ジュビリー2000>が主張している債務帳消しの内容
(8)日本と債務帳消し問題

(1)<ジュビリー2000>とは?

・「ジュビリー」とはキリスト教の聖書にある、50年に一度すべての借金が帳消しとな
り、奴隷が解放される年のこと。国連は2000年を「ジュビリーの年」と決め、今年を
重債務国の債務帳消しの年にしようとしている。この問題は、7月に沖縄でおこなわれる
先進国首脳会議(沖縄サミット)や、9月の国連総会で話し合われる予定。
・<ジュビリー2000>運動は世界の130カ国で1700万人の署名を集めている市
民運動。ローマ法王、ダライ・ラマ、モハメド・アリ、ナオミ・キャンベル、坂本龍一な
どが賛同している。日本の実行委員会は1998年10月に発足した。
ジュビリー2000のホームページへのリンク

(2)累積債務問題とは
・現在世界には15億人以上の絶対的貧困層(食べるもの、飲める水など、最低限生きて
いくのに必要なものさえ手に入らない人々)がいる。その大きな原因のひとつが貧しい国
々のかかえる累積債務問題。
・アフリカ諸国を中心とする重債務国の借金は、ますます増えている。
・発展途上国全体では1970年に591億ドルだった債務が、1980年に4453億
ドル、1999年には1兆6500億ドルになっている。
・先進国と発展途上国との間の経済格差は年々広まっている。ある試算では、1850年
に先進国2:途上国1だった格差は、1950年に10:1、1960年に15:1、そ
して2000年には30:1になるという。
・マイクロソフトの社長と2人の副社長の合計3人の財産は、重債務国41カ国のGNP
の合計と同じ額だという。
・日本が重債務国に対して持っている債権は約9000億円。そのうちの約5000億円
がミャンマー(ビルマ)に対する債権であり、アフリカ諸国に対して約4000億円。
・アフリカの重債務国に対する債権国の中では日本はフランスに次いで2番目。
・重債務国の債務全体では約2070億ドル=約20兆円

(3)累積債務問題の原因
・発展途上国では先進国の植民地支配により、人々は奴隷として連れ去られ、農産物
や地下資源を奪われ、工業製品の市場とされ、自前の経済発展を阻害された。発展途上国
のがわには「先進国はかつての植民地支配の時にうばった財産を返していない。それなの
になぜわれわれだけが借金を返さなければならないのか」という意見もある。
・独立後もかつての支配国に経済的に支配される状態が続いた。安い原料を輸出し高い工
業製品を買うために、貿易は赤字となり借金がふえていった。
・先進国は途上国に貸した資金で自国の企業を中心とした大規模開発をさせたり、自国の
製品を買わせたり、自国の人材を雇わせたりしてきた。その場合、援助するがわの都合が
優先され、採算や必要性を無視した事業も多かった。援助が途上国の産業や人材を育てる
のではなく、ぎゃくに産業を破壊してしまった例もすくなくない。
・ザイールでは資金は独裁者のモブツ大統領個人の銀行口座に振り込まれていた。独裁者
に私物化されることを知っていながら、世界銀行や先進国はザイール政府に資金を貸し続
けてきた。モブツ大統領亡命後、新しい政府はこの資金の返済を拒否している。
・二度の石油ショックにより、産油国の豊富な資金が先進国の銀行に集まると、銀行はそ
の資金の貸付先を求めるようになった。こうした資金が先進国政府の援助による大規模開
発に投入された。
・1970年代末、アメリカ政府の政策によって世界的に高金利となった。同じころ途上
国の生産する農産物や地下資源の国際価格が軒並み値下がりした。このため途上国の債務
は一気にふくれあがった。
・東西冷戦の終結によって、それまでソ連と欧米諸国が競争しておこなっていた途上国へ
の援助が急に減ってしまった。
・借金を返すために新たな借金をし、どんどん借金がふえていく。

(4)「構造調整プログラム」の問題点
・IMF(国際通貨基金)と世界銀行は、経済危機におちいった国々に対して「構造調整
プログラム」の受入れを求め、それとひきかえに資金援助をおこなっている。その内容は
<輸出の拡大><通貨の切下げ><貿易の自由化><政府支出をへらす(そのための教育
や医療予算の減額)><国営企業の民営化>などとなっている。
・通貨の切下げによって、途上国がドルや円で借りていた借金は一気に数倍に増えてしま
う。その一方で国内の資産価値は数分の一に目減りしてしまう。物価や賃金の格差もとて
つもないものになる。
・貿易の自由化により、輸入品との競争に負けて国内の産業が壊滅してしまう。
・国の基幹産業が先進国の企業に買収される。
・IMFと世界銀行への出資額は日本はアメリカ合衆国に次いで2番目に多い。日本
はIMFや世界銀行に対して大きな発言権を持っている。

(5)累積債務が重債務国の人々にもたらす影響
・企業には倒産、個人には破産があり、借金を返せなくなった時点で借金は清算される。
しかし国家の場合にはそうした制度はなく、借金の返済を停止したら貿易はストップし、
資金も入ってこなくなってその国の経済は破綻してしまう。そのためどこの国も国民の生
活を犠牲にして必死になって借金を返している。
・借金の返済が優先されるため、教育や医療にあてられる資金がへらされ、国民の生活に
決定的な影響をあたえている。アフリカの国々では初等教育が有料となり、1980年に
60%だった就学率は1990年には50%に下がっている。幼児死亡率や予防接種率も
同じ傾向。
・発展途上国でみられる子どもの強制労働の背景にも、累積債務問題がある。
・国内で充分な収入が得られないため、医師や教師、技術者などが国外に出てしまう。シ
カゴ市内の病院で働くシエラレオネ出身の医師の数は、シエラレオネ国内で働く医師の合
計数よりも多いという。
・食料が不足している国々で、米や麦などの穀物ではなくカカオやコーヒーなどの商品作
物の栽培がひろがっている。作物を輸出して資金を得るためであり、これも債務返済のた
めである。しかし商品作物の市場価格は不安定であり、巨額の貿易赤字を生み出し、これ
がまた新たな借金の原因となっている。
・熱帯雨林を伐採して木材を輸出する、大きなダムや農場を開発するなど、債務返済のた
めに大規模な自然破壊がおこっている。
・債務の返済のために人々の生活が圧迫され、資源の奪い合い、内戦や戦争の原因となる
場合もある。債務は戦争を生み出す。

(6)累積債務が先進国の人々にもたらす影響
・重債務国では生活していけない人々は、豊かな先進国で高い収入を得ようとする。累積
債務による先進国と発展途上国の大きな経済格差は、先進国への不法入国、不法労働問題
の原因となっている。
・通貨切下げにより、発展途上国の物価や賃金は先進国とは比べ物にならないほど安くな
っている。そのため発展途上国の非常に安い製品が先進国の市場に流れ込み、先進国の産
業に打撃をあたえ、失業を生み出している。
・発展途上国から安い新製品が流入するために、リサイクルするよりも新しい製品を買っ
た方が安くなってしまっている。かつて日本国内でさかんだった古紙やビンのリサイクル
大打撃を受けてしまった。累積債務問題はゴミ問題を生み出す。
・手っとり早く資金を得るために一部の途上国では麻薬の栽培が広まっている。先進国の
社会を悩ます麻薬問題の背景にも累積債務問題がある。

(7)<ジュビリー2000>が主張している債務帳消しの内容
・今回<ジュビリー2000>が主張している債務帳消しには、ミャンマー(ビルマ)に
対する分は含まれていない。これは独裁国家ミャンマー(ビルマ)の場合、債務を帳消し
しても一般民衆の利益にはならないと考えられるため。
・債務帳消しの実行にあたっては、国際的な実行・監視機関を設立する。この機関にはN
GOの代表も参加する。
・債務帳消しは今回一回かぎりとする。
・債務を帳消しすれば問題は解決、というわけではない。現在のような深刻な累積債務問
題がおこったのは、世界経済のしくみ、途上国援助のやりかた、国際政治などに、大きな
問題があるからだ。今回の債務帳消しはそうした問題を解決していく出発点とされなけれ
ばならない。

(8)日本と債務帳消し問題
・日本の発展途上国への援助額は世界一。しかし他の援助国が贈与(無償援助)中心なの
に対して、日本は約半分が円借款(円だての資金を貸す)だった。そのため日本の持つ重
債務国への債権も巨額になっている。
・日本が発展途上国に貸している資金は、郵便貯金や年金が中心となっている。つまり重
債務国の人々は、我々日本国民が得る利子収入のために死んでいるのだ。
・日本の援助は日本企業が相手国で行う大規模開発事業の資金となっている。日本政府の
援助は、日本企業には巨額の利益を、相手国には巨額の債務を、そして郵便貯金や年金会
計には巨額の不良債権をもたらしている。
・今回<ジュビリー2000>が日本に要求している債務帳消しは約4000億円で、住
専問題の約6000億円、長銀、興銀に投入された4.5兆円の公的資金に比べるとそれ
ほど多いとはいえない。
・日本の援助はアジア諸国が中心だったが、国連の安全保障理事会の常任理事国入りを目
指して、アフリカ諸国の票をえるためにアフリカむけの援助を増やした。
・日本政府は主要先進国の中で唯一、債務帳消しに反対している。そして40年かけて借
金を返済する方法を提案している。しかし40年のあいだの利子は巨額であり、実質的に
は債務国に非常に重い負担を要求することになる。日本政府案では、その間毎年の返済額
に応じた額の日本製品を現物で無償援助する、というが、これでは援助が相手国の産業の
発展には生かされず、医療や教育の発展にむすびつく保障もない。
・日本は今回債務帳消しの対象とされていない、インドネシアやフィリピンにも巨額の債
権をもっており、日本政府は債務帳消しがそうした国々にもおよぶことをおそれているの
ではないか、と思われる。
・サミットの決議は1国でも反対すると成立しない。それだけに今回の沖縄サミットでの
日本政府の態度が注目される。


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