インド映画のすすめ (1997年8月)
インドは世界一の映画大国。
年間700本から900本の映画が製作され、映画会社の
集中するボンベイはハリウッドに対抗してボリウッドとよばれています。インドは多民族
・多言語国家なので、映画もヒンディ語、ベンガル語、タミル語などの各言語に分かれて
作られており、ヨーロッパの各国の映画をまとめてひとつの国の映画としているようなも
のなのですが、それにしてもすごい映画大国なのです。
国際的にはサタジット・レイの「大地のうた」シリーズが知られていますが、これはイ
ンド映画の中では特殊な作品のようです。大多数のインド映画は全編のほとんどを歌って
踊るインド版ミュージカルで、3時間にわたる恋愛娯楽大作なのです。歌のほとんどは吹
き替えで、プレイバックシンガーとよばれる吹き替え専門の歌手が何人もおり、プレイバ
ックシンガーはプレイバックシンガーとして有名で、映画俳優と同じくらいに人気が高い
のだそうです。
私がインドで映画を見たのは1997年の8月21日(木)、首都デリーの代表的繁華街コ
ンノートプレイスにある「イーグルシアター」という劇場です。
作品はポスターによると 「Aur Pyar Ho Caya」監督はRahul
Rawail。主演男優、女優は定かではありませんが、後
でビデオ屋に行くと同じ男女がいろいろな作品のパッケージを飾っていたので、インドで
も代表的なペアであると思われます。女優の方は日本人の目で見てもかなりの美女ですが
男優の方はニヤけた顔つきで日本の基準とは多少ちがうようです。
映画は12時半、3時半、6時半、9時半の1日4回の上映であり、全席指定の入替え
制です。1000人ぐらいも入る巨大な劇場で、スクリーンはなくてむきだしのコンクリ
ートに映写するようになっていました。席は前の方ほど安くて、後ろほど高くなっていま
す。一番高いのは2階席で60ルピー(約200円)、安いのは20ルピー(約65円)
で、間に30ルピー、40ルピーの席があります。私は3時半の回の1時間半ほど前に4
0ルピーの席を買いました。
2時45分ごろに劇場の前に来て見るとすでに300人くら
い集まっています。安い席の切符売り場に人々が殺到していて、その中でガードマンらし
い人が1メートルくらいの棒をふりまわしていました。3時すぎに荷物検査、身体検査を
受けてロビーに入り、ここで前の回が終わるのを待ちます。
前の回の観客がゾロゾロと出たあとで中へ入るわけですが、ここで切符に書いてある座
席の番号が読みにくく、自分の席がどこか分からない人が何十人も右往左往するという、
いかにもインド的な混乱がはじまります。懐中電灯を持った案内係が10人くらいもいる
のですが、彼らもよく分からないらしく、あいている席を懐中電灯で示したり、人々を動
かして席を詰めさせたりゴタゴタしています。CM、予告編が終わって本編が始まってか
らも10分くらいこのゴタゴタは続きました。
さて本編はインド映画の常として、平均的インド人の生活からは隔絶した大金持ちの美
男美女が恋する物語で、最初からひたすら歌い踊りまくって話は進んでいきます。
映画の 最初の方でヒロインの大学卒業記念パーティー?があり、何十人もの踊り手の中からだん
だんとカメラがヒロインに迫っていくのですが、いよいよヒロインの顔がアップになると
観客は拍手と口笛で大歓声をあげるのでした。一方ヒーローの方はヒロインの写真を手に
持ってシンガポール?の風景をバックにして延々と歌い踊ります。この2人がスイスの旅
行先(飛行機に乗ったり海外旅行に行くインド人なんてインド人全体の何%いることか)
で出会うわけですが、ここでもスイスの湖、公園、ホテルの中、街角、列車内をバックに
また延々と歌い踊るわけです。服装もサリーからミニスカート、ドレス、ジーパンと次々
と着替えていきます(デリーでさえ洋服を着ている女性はめずらしい)。
そして車を運転 して逃げる女と追う男のカーチェイス(インドでは自転車を運転する女性さえまれ)の末
に二人が相思相愛となると、場面は一転してアルプスの山頂ちかくのお花畑となり、また
2人が延々と歌い踊りまくるのです(インド映画では露骨なセックス描写はもちろんキス
もしません。せいぜい2人が抱き合う程度)。
休憩をはさんで映画は後半となります。2人はインドへと戻ってきますが、これもイン
ド映画の常として2人の仲は周囲の反対にあいます。何回か「ジャーティ(カースト)」
という台詞が出てきたのでカーストが原因なのかもしれませんが、このあたりはよくわか
りません。娘の父親が警察の連行されるシーンもでてきたのですが、この辺はまったくわ
けがわかりませんでした。
いよいよ娘は父親と一緒にインドを去ることになり空港へ向か
います。男は車で空港へ駆けつけ、空港職員をつきとばし、ボーディングブリッジから飛
び降りて飛行機を追って走っていきます。そしてタラップ車に駆け登り飛行機に向かって
手をふると、女も気がついて席から立ち上がりスチュワーデスともみあいになります。男
は運転手を突き飛ばしてタラップ車を滑走路へと乗り入れます。こちらからはオモチャの
飛行機、あちらからはオモチャのタラップ車があわや正面衝突という「特撮」があって飛
行機がとまると、女が飛行機のドアをあけて非常用のシューターを滑り降りてきます。下
で待ち構える男とひしと抱き合うと警察が駆けつけて、男の腕に手錠をかけます。すると
今度は娘の父親がシューターを降りてきて手錠の片方を女の腕にかけ、2人の仲を認めて
ハッピーエンドになるのでした。
観客は拍手や口笛、大爆笑、大喝采で映画を楽しんでいるのですが、ラストシーンの瞬
間にはもう立ち上がってゾロゾロ帰りはじめます。余韻を楽しむという感覚はインド人に
はないようでした。
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