○ブラックホール話D○

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《降着円盤》(アクリーション・ディスク)

:近接連星系では超巨星とブラックホールの間の距離が近いため、星の外層大気がブラックホールの重力によってはぎとられてしま

う。はぎとられた大気−ほとんど水素ガス−はブラックホールの重力圏に流れ込むが、連星系が公転運動をしているために、ガス

はブラックホールのまわりを渦を巻くように落ち込み、ついには回転するガスの円盤を形成することになる。

ガスは回転しながら降着円盤内を次第にブラックホールに向かって落下していき、最終的にはブラックホールに吸い込まれてしまう。

(現象)

:降着円盤内をガスがブラックホールに向かって落下していくにつれ、ガスの回転速度はどんどん速くなり、ブラックホールの近傍で

光速に近くなる。しかも同時に、ガスどうしの摩擦によってガスの温度はどんどん高温になり、ついには数百万度、数千万度にも

なってX線を放射し始める。

つまり、はくちょう座X−1などで観測されるX線は、ブラックホール自体から放射されているわけではなく、ブラックホール近傍で高

温になったガスから放射されているのである。

★★★★★★★★★★★★★

《X線スペクトルモデル》

@ハイステートの軟X線成分

:おおまかにいって、約1000万度の高温ガスから放射される熱放射に近い。ブラックホール近傍の降着円盤のガスの温度もだいた

いその程度。

もっとも、、細かく言えば、降着円盤の温度は場所(ブラックホールからの距離)によって異なるのだが、その効果も考えて詳しく計算

した結果、軟X線の成分は、降着円盤の内部からのX線放射(熱放射)によって非常によく説明できる。したがって現在では、軟X

線成分はブラックホールのまわりの降着円盤の確かな証拠だと考えられている。

Aローステートなどの硬X線成分

○2温度円盤モデル

:ブラックホールのまわりでは、降着円盤は非常に高温になっており、水素ガスは陽子と電子とにほぼ完全に電離している。ただし、

標準的な降着円盤のモデルでは、陽子の温度と電子の温度は等しいとしている。

しかしあるモデルでは、降着円盤の内部が標準的なモデルより非常に高温になっており、おまけに陽子の温度が電子の温度よりか

なり高いと想定されている(温度が2ちあるので2温度と呼ぶ)。硬X線は、そのような2温度の領域から放射されている、とするのが

ひとつの可能性だ。

○円盤コロナモデル

:普通の降着円盤の下に、降着円盤をはさむように、非常に高温のコロナが存在していると考える。ちょうど表面温度6000度の太陽

の上空に、数百万度のコロナが存在しているようなイメージだ。そして、このコロナから硬X線が放射されているとする。

★★★★★★★★★★★★★

《銀河中心の超巨大ブラックホール》

@巨大楕円銀河M87

:春の星座おとめ座の方向に、たくさんの銀河が集まったおとめ座銀河団がある。そのおとめ座銀河団の中心には、M87と呼ばれ

る普通の銀河の10倍くらいの大きさの巨大な楕円銀河が存在している(M87というのは、メシエ・カタログの87番目の天体という意

味)。地球からの距離は約5900万光年。

(特性)

1.典型的な銀河の10倍くらいの質量をもっている。もともとは普通の大きさの楕円銀河だったが、おとめ座銀河団という銀河の密

集地の中心にいたために、他の銀河と衝突合体し、現在のような巨大な銀河になったのではにかというのが通説。

2.M87の露出を抑えた写真を撮ってみると、中心部から銀河間空間に向けて、光の噴流が飛び出していることがわかる。これは

おそらくはプラズマ・ガスの高速流で、いわゆる「宇宙ジェット」と呼ばれている現象である。このジェットはM87中心部の異常な活

動を示している。

3.この銀河からは、非常に強い電波が出ている(おとめ座でもっとも強い電波源であることから、「おとめ座A」という電波名がつけ

られた)。

(観測)

(1)M87の中心を横切る直径方向に沿ってM87銀河の明るさを調査。

(結果)M87の中心では、普通の銀河に比べて、非常に鋭いピークがある。この明るさ分布を作っている光は星からきているわけ

だから、M87の中心が非常に明るいということは、そこに星が集中していることを示す。これが、超巨大ブラックホールの影響らし

い。

(2)銀河中心にブラックホールをおかずに星の集団と点光源の組み合わせで計算

(結果)観測データに合わない部分が残っている。

(3)中心に超巨大ブラックホールを置いて、その影響で星の分布がゆがんだとした場合の計算。

(結果)観測データに非常によく合っている。このモデルでは、超巨大ブラックホールの質量を太陽の約30億倍としている。

★★★★★★★★★★★★★

Aアンドロメダ銀河M31

:われわれの銀河の隣の銀河であり、230万光年という比較的近い距離にある渦状銀河。このM31は、強い電波源を出していると

かX線を出しているとかいったことはなく、見かけも典型的な渦状銀河で、ごく普通の銀河だと考えられていた。

(観測):M31銀河の中心付近での星の運動を調査。

(1)速度分散

:中心から遠くでは星の運動速度は毎秒150〜170キロメートル程度だが、中心から約50光年以内では速度分散が急激に増加

している。つまり、星の運動が非常にかき乱されている。

(2)回転速度

:M31は観測者の視線方向に対して時計回りの回転しているため、中心の左側ではわれわれから遠ざかる方向に回っており、回

転速度は正の値をとる。他方、中心の右側では、われわれに近づく向きに回っているため、回転速度は負の値をとる。

(結果)

:もし、M31銀河の中心が星しか存在しない平穏な場所であるなら、左側と右側の回転曲線は銀河の中心でスムーズにつながるは

ずである。ところが実際には、M31の中心から約50光年の範囲で回転速度が急激に増加している。星がこれだけ振り回されるに

は、M31の中心に巨大な質量、つまりブラックホールが存在しなくてはならない。

★★★★★★★★★★★★★★

Bわれわれの銀河系

:われわれの銀河系の中心は、いて座の方向、赤経17時46分、赤緯−28度56分の位置にある。いて座Aスターと呼ばれる強い電

波源だ。太陽系から銀河系中心までの距離は約2万7000光年。中心部の周辺は電波アークやジェットなど、中心核の活動に起因

すると見られる特異な構造がいろいろ見つかっている。

(観測)

:電波などの観測から、銀河系中心には多数の電離したガス雲が存在することが分かっており、それらの電離ガス雲に含まれるス

ペクトル線の解析から、電離ガス雲の運動状態もある程度分かっている。

(推定)

:銀河系の中心のいて座Aスターには、太陽の500〜700万倍の質量の巨大ブラックホールが存在すると推定される。