熱と力学的エネルギー(仕事)は相互に転換し、両者を合わせるとエネルギーの保存則が成り立つことを示したのは、
ドイツ人ジュリウス・マイヤー(1841年)とイギリス人ジェームズ・ジュール(1844年)だった。
ジュールは、「電流による導体の発熱量は電流の強さの2乗に比例する」という法則を発見したことで知られる。
彼はこの現象の研究を通して、熱の仕事当量(力学的エネルギーと熱量の換算率)を求めた。
彼はまた、摩擦による水の温度上昇を調べるなど、何通りもの方法で熱の仕事当量を出した。
そしてそれらの値がどの場合もほとんど等しいことから、1844年に熱と仕事の等価性を主張した。
彼はその後、おもりを降下させて水中の羽車を回し、それによる温度上昇を測定し、さらに正確な仕事当量を求めている。
ジュールの見事な実験を高く評価したケルビン卿トムソンも、それとカルノー理論との間の矛盾に困惑した。
ジュールの実験は力学的エネルギーが熱に変わる場合ばかりで、その逆がなく、
両者が等価とはいっても、熱には特殊性があるらしいことも問題と思われた。
この矛盾をそのまま自然法則として受け止めたのは、1850年、ドイツのルドルフ・クラウジウスであった。
彼は仕事と熱が転換するというジュールやマイナーの考えを認め、カルノー・サイクル※では、
高温の熱源が与えた熱のうちの一部だけが仕事に転換するのだと考えた。
そして、それを引いた残りが廃熱として冷却器に放出される、と説明したのである。
カルノー・サイクルでは、温度や圧力、密度などの気体の状態は、サイクルを一巡したときに始めと同じになる。
しかしクラウジウスの理論によれば、その過程で放出する熱量は、受け取る熱量よりも少ない。
だからといって、気体が始めより余分の熱量をもつようになったとは考えられない。
とすると、「これこれの状態ではいくらいくらの熱量を保有する」という言い方は正しくないことになる。
熱量というのは、温度や圧力や密度などのように、
状態によって決まる「状態量」ではないのである。仕事量も同様である。
では、熱量や仕事量とは何か。それは系が得たり失ったりするエネルギーの形態の一種だと考えられる。
ちょうど収入が現金であったか銀行振込であったか、というようなものである。
だが銀行預金にしてしまえば、問題になるのは残高だけだ。
その預金高に相当する量が、系のもつ「内部エネルギー」という状態量である。
この量を使うと、ジュールらの示したエネルギーの保存則は次のように表せる。
・
[増加した内部エネルギーの量]=[系が外部から受け取った熱量]+[系が外部からしてもらった仕事]
・
これを「熱力学の第一法則」という。もちろん、その系は力学的なマクロの運動をしていないものとし、
熱量は仕事量と同じ単位で表しておくものとする。
※カルノー・サイクル:気体を作業物質とする熱機関のサイクル
@気体を断熱的に圧縮し、高温の熱源と同じになるまで温度を上げる。
A気体を熱源に接触させ、熱をじわじわと加えながら等温で膨張させる。
B気体を熱源から離して断熱的に膨張させ、冷却器と同じになるまで温度を下げる。
C気体を冷却器に接触させ、熱をじわじわと奪いながら等温で圧縮し、元の状態に戻す。