好奇心と想像力 ●惑−構築 ●落語4 ●やばい ●偶像 ●遠いむかしのことだ ●崩れて壊れて

ビル崩壊現場中継 ●崩壊 ●彼と彼 ●Just A Test


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「好奇心と想像力」

                                                                

「われわれは、”しかし”と言わなければならない。ダーウィンにもアインシュタインにもホーキングにもフロイト

にも、そうキリストにも。彼らは偉大だ。あまりにも正確で、ひょっとすると真理でさえあるかもしれない地図を

描いたことによって。さて、われわれに地図は必要だ。地図がなければ目的地に辿り着くことはおろか、冒険

さえすることはできない。だが、われわれに必要なのは”道しるべ”ではない。われわれが常に失い、常に得て

いる何かを、われわれの”時空の地図”に書き込まなければならないのだ。その地図には境界も中心点もない。

あるのはテーゼとアンチテーゼ。好奇心と想像力の地図。その地図に書き込む筆が、そう”しかし”なのだ」


「惑−構築」                                                                                                                                

「しかし...おい、しかしってことはないだろ。おい!」

「....」

「ばぁか。解ってるんだよ、お前がオレに喋らせてるってことはよ」

「...え?」

「お前だよ、お前。けったくそワリィ。とっとと顔出せってんだ」

「は、はあ。何でしょうか」

「しかし、とは何だっつってんだよ」

「あの、何かいけないことでも...」

「解んねえか?俺の口調考えてみろよ。何で俺がここで、しかし、なんだよ!国語の本でも読んでんのか?目上の人

に反論してんのか?」

「は、はあ」

「この口の悪さも、どうせお前の設定なんだろ?けっ!こういうときは、オレはしかし、とかだから、とか使わなくていいんだよ。

けっ!とかうるせぇよ!ですむんだっつぅの」

「....」

「あ、怒った?...って、お前が悪いんだぜ?見つかるような...う...うわ!...uwa...wwww!」

「...地球人の口の悪さはひどいな」


「落語4」

                                                                

それはトーマスのポケットの中に焼き焦げを作っていた。神経まで燃えるようだ。

                                                                

♪ダ〜ラリ〜ララ〜 ダラリリ〜ララ〜♪

                                                                

他の人がどこへ行くにしろ、今の僕は地獄へ行かなければならない。生まれた家の側を流れていた小さな川になる。

行き着く先は?

国際文化交流センター

受験票は僕にとって意外なごちそうだった。レンタオールさんのお宅ですか?おめでとうございます!あなたに大学

受験への挑戦権が与えられました!ガチャン!!

コックは国家、スパイスはちと辛い。

このテストに限っていえば、インフルエンザと同じようなものだった。

その進化に人間がついていけない。

だから僕が行くのは地獄だった。天国への扉は、天国側から開ければそこは地獄だ。

                                                                

下りた静寂も、舞台の上で手持ち無沙汰の様子。やっぱり、教室を取り囲む軍服姿の大人は誰だって気になる。

テストがこんなところ−さっきまで陽気なジャマイカ人が折り紙を折っていた−で実施されるのは、カモフラージュの

ため。何に対する?

そんなこと、誰が教えてくれる?

とにかく、受験者にテスト用紙が配られた後も、ねずみ色の大人は僕らに自殺を迫るような表情を顔に貼り付けたま

まだった。もしかすると本当に、国家ごとグルで僕らに自殺を迫っていたのかもしれない。

自殺専用テスト用紙−説明書をよく読んで...

                                                                

地獄行きを確信する気分ってどうだい?隣の奴にも、前の奴にも聞きたい気分だ。

結論に達するには早かったかもしれないが、覚悟には早すぎるということはない。

それも行くのが地獄ともなれば。

前の奴の背中が物語るのは...

現実の羅列だった。並んでいたのが時間にか、それとも他の何かにかは神のみぞ知る。

ともかく僕は、僕から一枚の紙片を受け取っていた。その紙片と同じくらい、いやそれ以上に、背番号9から浮かび

上がった僕も現実だった。

なんてテストだ!

                                                                

レンタオールさんのお宅ですか?おめでとうございます!あなたに...

合格発表まで4年かかった。オリンピックも繰り返す。前回フィギアスケートで金メダルをとったのは大柄で不器量な

女の子だったが、今年もやはり大柄で不器量な女の子だ。同じ娘かもしれない。歓喜はインチキ売薬。

−使用を中止しないかぎり、絶対無害。

そして僕は、ポケットの中に4年前のテストの答案を忍ばせている。何をすればいいのかわからない。そうそう。

この世は、何が起こるか神のみぞ知る。

緊張もインチキ売薬。

だから僕は、あの時のテスト用紙と同じもの、同じ真っ白な配水管洗浄液を飲み込んだ。自殺にはこと足りる。

さいわい、なんの害も起きなかった。

                                                                

♪ダ〜ラリ〜ラリラリラララ〜♪

                                                                

手を伸ばせばそこにトーマスがいた。天国と地獄は隣合わせ。


「やばい」

                                                           

こんな駅で降りるのは初めてだ。子供ができたら、あなたも料理のひとつくらい、なんてこと言われたのも初めてだ。

ああ、初めて初めて。うるさい。もっとも、彼女の言葉の意味は解る。解らいでか。だからこうして汚い駅前商店街を

歩いている。なぜ空缶を道に捨てる。空缶はゴミ箱に捨てて、ボランティアか何かが集めて適当に潰して業者に渡し

て、で結局リサイクルだろうが。なぜ吸い殻を拾わない。ひとり暮らしはしようと思ったさ。思ったんだよなあ。家で料

理の練習なんかできるか。「あれ、どうしたの?」どういう風の吹き回し?何が風の吹き回しだ。「あれ、どうしたの?」

なんて声しないだろうな。ここには知り合いはいないはずだ。あ、ああ、ちょっと親戚の家が。なぜリハーサルでどもる。

親戚の家がどうした。料理学校に男なんているかな。だいたい料理学校なんてネーミングが間違いだろう。いや、名

前は違ったか。ええと。暗いビルだな。暗いってば。ホントにここか?看板も暗いぞ。もっと明るいのにしろよ。一週間?

いやもう十日になるか。虹色の看板、あんなのにしろよ。もう一回誘ってくんないかなあ。ノーパンでシャブシャブだも

んな。だもんな。あ、あ、ライター。どこやったっけ、あれ。やばい。あの時着てたのは、これか?ない。タバコやめな

きゃなあ...やばい。


「偶像」

                                                           

問題になるのは、「願い」があなたの心から発せられたものなのか、それともあなたの口から発せられたものなのかという

ことです。「一億円が欲しい」と言えば、彼は一億円をくれるでしょう。それが本物の一万円札1万枚であるか、”一億円”

と書かれた空缶であるかはあなた次第。決して、彼は意地悪でもなければ解らず屋という訳でもありません。彼はあなた

の心に純粋に耳を傾け、あなたの「願い」をかなえようと努力してくれるのです。その「願い」が本物である限りにおいて。

                                                           

彼はどこから来たのでしょう。それはどうやら、われわれの知ることのできることではなさそうです。なぜなら、皆、神の創

造物であり、彼もやはり、神の贈りしものだからです。そう、神のみぞ知る。彼がかなえる三つの願いは、神のわれわれ

への何らかの道標なのです。

さあ、願いなさい。招き猫の形をとった彼が、神への架け橋となってくれるでしょう。みなさんの、そう、そして私の願いを

彼はかなえてくれます!

                                                           

株式会社トーマス・レンタオール営業部内招き猫教

教祖香取重三

一口十万円より受付け中!


「遠いむかしのことだ」

                                                           

遠いむかしのことだ。

たいそう深い森の中の城に、器量よしの姫がいた。だが姫は、自分の美しさに満足していなかった。

「鏡よ鏡よ鏡さん、私がこの国で一番美しいことは分かってるわ」

「ああそうだとも。お前が一番美しい」

「でも世界にはもっと美しい方がいらっしゃるに違いないわ。ねえ、鏡さん。私を世界一の美人にしてくださいな」

一瞬、姫の目がくらむほどの眩い光が鏡から発せられ、姫の美貌に一段の磨きがかかった。

「まあ、鏡さん、ありがとう」

                                                           

翌日

「ねえ、鏡。私が世界で一番美しいことは分かってる。当然のことね」

「ああそうだとも。お前が...あなたが一番美しいです」

「でも、宇宙では、そうもいかないんじゃない?ねえ?」

「...わかりました」

ピカ!姫の美貌は、もうこの上ないほどのものになった。

「わかればいいのよ」

ところが、道行く姫とすれ違うのは、素っ頓狂な悲鳴や限界にまで開かれた驚きのまなこ。王は姫の姿を見た途端、

卒倒してしまった。王室の鏡に映った姫の姿は、タコの足のようなものが2本尻から生え、絞られた雑きんのような形

の腕を宙浮かせた猛禽類を思わせた。

                                                           

「ねえ、鏡様。鏡様ぁ」


「崩れて壊れて」

                                                           

「うっかりしてた、で済む問題かね、これが! 我々の実験への影響は...シャレにならんて」

「すみません、総統閣下! てっきりバイスボールの球だと」

「まあ、それも解らんではないが。しかしなあ、あれほど貴重かつ希少な...お、韻踏めるな。ちょっと待って

おれ。今、詩をつくるから」

「...でもなあ、あんなのどこにでも転がって...あ、総督閣下! 詩の出来栄えは?」

「ヤックン元気かい? それはともかく嬉しい話だよ。君に嬉しい話だよ...ふふふ、どうだ?」

「お見事です! 傷ついた少年の郷愁とセクハラが...あ、またボタン押しちった!」

「それは地球だ。壊れても差し支えない」


「ビル崩壊現場中継」

                                                           

小さな風が生まれる。無音。北に伸びる影が揺れ、また一瞬止まる。微かな音がひっそりと跳ね、その子供たち

もその跡を追う。立ち上がる埃。地上に戻る前に風に舞う。無音。埃を抱いた風は崩壊の時を待ち、陽光を乱反

射させる。待たれていた音は角を丸められ、ぶつかる場所を求めてただよう。影が無秩序に濃く、薄く変化し、埃

の中に埋もれる。再び無音。


「崩壊」

                                                           

稲妻の穂先が、眼球から眼球を掃いて過ぎた。苦い果肉に立てた歯が、24時間の監視に抗議の悲鳴をあげる。

「彼」が暴力をふるう。魅せられた陰鬱な精神が、法廷の審理で熱弁をふるう。 阻止され続けた水路が、巨大な

地下に光を通す。巨大な地下の世界。

「どうかしたの?泣いたりして」

「いいえ。何でもありません」

熱病患者のように赤くほてらせた頬に注ぎ込まれた息は、やがて接吻の跡もなまなましい大理石の首に吹きつけ

られる。眼前にようやく現出した醜怪なもののけは、痛烈な嘲笑を浴びて悩ましげに身をくねらす。血におののく

仲裁者は去った。


「彼と彼」

                                                           

脱ぎ捨てられたユニホームが小さな溜息をついた。スタンドで振られていたフラッグと同じ青だ。

内容では勝ってたよ、という彼の言葉に男は首をふる。日本に帰ってから、その言葉はいくらでも聞くことができる。

男の不要論とともに。皮肉なことに、マスコミだけが勝負の厳しさを適格に言葉にすることができる。

ゴールに見放された男は、厳密な意味で不要なのだ。ユニホームは男のこういう様子を、一種微妙な快楽を味わいながら

見守っている。

合宿所で会ったあの気迫に満ちた青年とはなんという違いようだろう。男は常に現実を追いかけてきた。

しかしここに来て、男は彼に奇蹟を願ったのだった。彼には、茶番でしかなかった。ユニホームは彼に言った。

君は今夜、どうかしてたよ。


「Just A Test」

                                                           

闇を切り裂く光は無数の眼球を襲い、憐れんだ。お前の片足はどうした?役立たずのコンパス、羽を休める湖を忘

れたフラミンゴよ。埃にまみれたお前が粘着質の雨を浴びたのはいつだったか。約束をせびる子供の小指のように、

縄張りに闖入した何か異質なものを威嚇する野良犬の毛のように、お前は生まれた時から神の目にさらしたままの太

い骨を殊更に伸ばし、闇から光へと移行する。眩しいだろう。お前の無数の目は何を見る? そこには深い青を称え

た大空もなければ、深い心を称えた海もない。お前の目に映るのは小さな、お前が待ち続けた永劫の時間と引換え

にするにはあまりにも小さな舞台。だが、失望するな。お前の歌は誰もが聞くところになるだろう。

                                                           

「チェックワンツー、チェックワンツー、ただいまマイクのテスト中。」