樹木の病気

BACK

<T.葉に斑点のできる病気>

@サザンカ褐色葉枯病

(病徴と被害)葉および幼果が侵される。初め暗褐色の小斑点ができ、次第に広がって大型の円形病斑を形成

する。病斑の色も灰褐色から灰白色になる。古い病斑部は脱落し、病葉は最後には落葉してしまう。

(病原菌)分生子堆および分生胞子を生ずる。分生子堆は初め表皮下に形成され、のちに表皮を破って現われ

る。大きさは169〜350×78〜220μmである。この菌の病原性は弱く、健全な無傷の葉や果実を侵すことはで

きない。

(奇主植物)ツバキ・サザンカ・チャ。

(伝染経路)病原菌は傷口、衰弱した部分から侵入して発病させる。とくに過湿の場合に多発する。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

Aリンゴ斑点落葉病

(病徴と被害)葉・果実・枝が侵される。葉では5月上〜下旬ごろから発生し、初め褐色〜暗褐色、円形の小斑点

が生ずる。のち次第に拡大し、互いに融合して不整形の二重斑になったり輪紋状になる。多発すると奇形葉にな

る場合もある。8月に入ると葉が黄変して早期落葉をもたらす。

(病原菌)不完全菌の一種で菌糸と分生胞子世代を繰り返す。分生胞子は分生子梗上に単生または鎖生し、短棍

棒状で縦・横に隔膜を有し、俵形で隔膜部分でくびれている。

(伝染経路)4〜5月ごろの感染は前年の被害葉上で形成された分生胞子の飛散によって起こる。そのほか被害

枝上の病斑・皮目・芽の鱗片などに潜んで越冬した菌が伝染源となる場合がある。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

Bバラ黒星病

(病徴と被害)おもに葉・葉柄・茎が侵される。初め葉に紫色〜褐色の小さなしみ状の斑点ができる。次第に拡大し

て病斑周縁部が不鮮明な羽毛状で、紫黒色〜黒褐色の円形〜不整形の病斑となる。多発するときわめて容易に落

葉する。

(病原菌)子のう菌の一種で、分生胞子は無色、1個の隔膜を有し、ひょうたん形をしている。大きさは10〜20×5

μmである。

(伝染経路)5月中旬〜7月中旬、9月〜11月にかけて発病。病原菌は野外では被害枝の組織内で菌糸の状態で、

被害葉では子のう殻の状態で越冬する。施設栽培では分生胞子の状態で越冬。水滴の存在が発病を助長する。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

Cブドウべと病

(病徴と被害)おもに葉に発生。初め表面に淡黄色の輪郭不鮮明な斑点が現われ、その裏面には雪白色のカビが

密生する。のちに黄褐色〜褐色になり、病斑は互いに融合する。

(病原菌)鞭毛菌類の一種で、分生胞子・卵胞子を生ずる。分生胞子はだ円形〜卵形、無色、単胞。卵胞子は球形、

外膜は褐色、直径27〜36μm。

(伝染経路)被害葉内で卵胞子で越冬し、翌春発芽して分生胞子を形成する。8月中旬ごろから発生し始め、9〜10

月に多く発生。とくに秋季長雨があり、やや低湿が続くと多発する。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

<U.葉・新梢の病気>

@ウバメガシうどんこ病

(病徴と被害)葉や新梢が侵される。初め葉の表面ときには裏面や幼茎上に白色粉状のカビを生じ、やがて葉面全体

を覆うようになる。いちじるしい場合は新梢の茎葉全体が真っ白になり、縮れたりゆがんだりして奇形になる。

(病原菌)子のう菌の一種で、子のう殻は球形〜だ円形で特徴ある付属糸を有する。

(寄主植物)ウバガメシ・シイ・カシワ・クヌギ・アラカシなど。

(伝染経路)被害葉は多くは落葉するが、一部は着生したまま越冬して翌春の伝染源になる。その後は病斑上に形

成された分生胞子の飛散によって周辺にまん延を繰り返す。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

Aモミジうどんこ病

(病徴と被害)葉および新梢が侵される。初め葉の裏面のちには表面に白色粉状のカビを生じ、次第に円形に広が

って葉面全体を覆うようになる。病斑は初め白色であるがのちには灰白色になる。被害葉は健全葉にくらべて遅く落

葉する傾向がある。

(病原菌)子のう菌の一種で、分生胞子は分生子梗上に連鎖状に生じ、子のう殻は扁球形〜レンズ状で直径154〜

189μm、付属糸は多数形成され、先端はかぎ状〜螺旋状である。

(寄主植物)モミジ・ヤマモミジ・イタヤカエデ。

(伝染経路)病・落葉上で子のう殻状態で越冬し、これが翌春の伝染源となる。春と秋に発生が多く、通風・日当たり

の不良なところで発生しやすい。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

Bナシ・ボケ赤星病

(病徴と被害)おもに葉に発生するが、幼果・果枝・葉柄・新梢にもつく。葉では初め4〜5月ごろ表面に直径1mmほど

の光沢ある鮮やかな橙黄色〜橙赤色の円形斑点を生ずる。のちに拡大、直径4mm〜5mmになり、病斑中央部に黒

褐色の小点が多数形成され、甘味のある粘質物が分泌される。

(病原菌)担子菌の一種で、柄子・きび胞子・冬胞子および小生子を生ずる。ナシ・ボケの上で柄子および銹胞子世

代を、ビャクシン類で冬胞子世代を過ごす。このように病原菌がその生活史を全うするのに、まったく異なった2種類

の寄生植物を必要とするものを異種寄生菌といい、そのような性質を異種寄生性という。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

Cシャクヤク灰色かび病

(病徴と被害)葉・花・新芽に発生する。葉では初め暗緑色水侵状の小病斑を生じ、次第に拡大して暗褐色やや大型

病斑となるが、若葉では周縁部が油侵状を呈する。葉・花・茎いずれの場合も湿度の高いときには病斑上に灰緑色の

カビを生ずる。

(病原菌)不完全菌の一種で、分生胞子と菌核を生ずる。分生胞子はだ円形〜卵形、ほとんど無色、単胞、大きさ8

〜17×5〜10μmm。

(寄主植物)きわめて多くの植物を侵す多犯性の菌。柑橘類・カキ・モモ・ウメ・オウトウ・ブドウ・イチジク・トドマツなど。

(伝染経路)病原菌は被害組織内で菌糸のままあるいは菌核などで越冬し、伝染源となるばかりでなく、本菌は多犯

性であるため種々の植物に寄生して存在し、伝染源となる。とくに葉ずれによる傷跡に発生しやすい。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

Dスギ赤枯病

(病徴と被害)苗木・幼令樹・生垣などの新しく出た芽や葉に発生する。とくに当年生苗では多発すると全滅すること

もまれでない。初め地面に近い下葉の一部に褐色の小斑点を生じ、広がって枝葉が褐色〜暗褐色になり次第に上方

におよび病針葉は乾固してもろくなる。

(病原菌)不完全菌の一種で、特徴のある細刺を有した分生胞子を生ずる。分生胞子は淡黄褐色〜橙黄色、棍棒状、

円筒形、直またはゆるく湾曲し、3〜7個の隔膜を有し、大きさは30〜85×5〜9μmmである。

(寄種植物)スギ・ギガントセコイア・ラクショウ・センペルセコイア・エンコウスギ。

(伝染経路)発生は梅雨期と8月下旬〜9月上旬。病枝葉中で越冬した病原菌は4月中〜下旬ごろから分生胞子を形

成し、これが雨滴・風などによって飛散し、高温・適湿条件で発芽して寄種の気孔から侵入する。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

Eすす病

(病徴と被害)おもに葉に発生。一般には葉の表面にすす状のカビがはえ、次第に広がって葉全面を覆い煤煙をか

ぶったような状態になる。吸汁性害虫に随伴して発生する場合はおもに葉の表面に発生。病斑の色は寄生する菌

の色によって異なる。寄生性すす病菌による場合は、葉の表面だけでなく、裏面・葉柄・幼梢・果実に発生する。

(病原菌)すす病菌というのは、植物の外皮に黒色のすす状のカビを生ずる菌群の総称である。子のう菌に属する

ものが大部分であるが、一部に不完全菌に属するものもある。すす病菌には昆虫の排泄物から栄養を吸収する腐生

性のものと、葉の生活組織から直接養分を吸収する寄生性のものとがある。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

Fアジサイ・モザイク病

(病徴と被害)おもに葉にモザイク症状を生じ、激しい場合は全葉にモザイクを示し、葉面の凹凸を生じて小葉化し、

奇形葉になるものが多い。

(病原ウイルス)キュウリ・モザイク・ウイルス(CMV)は直径30nmの球状粒子。アブラムシにより非永続的に伝搬さ

れる。アジサイ・リングスポット・ウイルス(HRV)は長さ500nmのひも状粒子で、汁液伝染する。

(寄主植物)HRVは人工的にはセンニチコウやゴマに局部病斑をつくる。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

<V.枝・幹の病気>

@サクラてんぐ巣病

(病徴と被害)枝に発生する。初め枝の一部がふくれてこぶ状になり、その先から小枝が不規則にほうき状に発生す

る。病枝は健全枝よりも春早く小型の葉を生じ、花蕾はまったくつかないか、またはきわめてまれである。

(寄主植物)ソメイヨシノ・ヒガンザクラ・ヤマザクラなど。なかでもソメイヨシノがもっとも侵されやすい。

(伝染経路)病枝梢の組織中で菌糸の状態で越冬する。翌春開花後に病斑を形成し、胞子をつくって伝染する。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

Aマツこぶ病

(病徴と被害)枝および幹が侵される。病患部は球形に肥大してこぶ状になる。こぶは初め豆粒ぐらいで、半球形に

ふくらんでいるが、年々生長肥大して直径約10cmに達するものがある。その内部の材は健全部にくらべて柔らかい

ため、害虫などが侵入しやすく、風害その他の障害に弱く、しばしばこの部分から折損する。

(病原菌)さび病菌の一種で、マツのこぶに柄子およびさび胞子を生じ、他の中間寄主上で夏胞子および冬胞子を

生ずる。だ円形・卵形・亜球形で粗疣を有する。

(寄主植物)落葉性のクヌギ・ミズナラ・カシワなど。常緑性ではアラカシ・シラカシ・シイ・クリ属など。

(伝染経路)中間寄主上の冬胞子は、9月上旬までに成熟し、十分の湿度と15〜20℃の温度条件下で発芽して小

生子を形成し、9月〜11月ごろにマツに侵入するといわれている。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

Bすえひろたけ

(病徴と被害)老木とか衰弱した木に発生する。老木の樹幹や枝に自然に生じた亀裂・日焼けあと・傷口・虫害あと

などから病原菌が侵入し、おもに形成層付近を侵して樹を衰弱させる。

(病原菌)担子菌の一種で、特徴のある子実体を生ずる。普通は群生しているが、1個の大きさは10〜30nmぐらい

である。その大きさは一定でないだけでなく、子実体の発生位置により、形態もさまざまに変化する。担子胞子は、

長だ円形・紡錘形または円筒形、無色単胞、大きさ4.0〜7.2×1.6〜3.2μmである。

(寄主植物)リンゴ・モモ・アンズ・オウトウなど果樹類のすえひろたけ病を起因する。

(伝染経路)病原菌は諸種の傷や組織の死んだ部分から侵入するが、せん孔虫の虫孔・日焼けした部分・氷結した

組織・枝打ち(剪定)した部分からも侵入する。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

<W.花・果実の病気>

@ツツジ花腐菌核病

(病徴と被害)花に発生する。開花後すぐに、赤色種の花では褐色の斑点、白色の花では淡褐色の斑点を生じ、

次第に広がって花弁全体におよび褐変してしぼんでしまう。

(病原菌)子のう菌の一種で、子のう胞子と分生胞子とを生じる。菌核は黒色不整形、扁平で小さい。発芽して子

のう盤を形成し、子のう胞子を生ずる。

(寄主植物)サツキ・ツツジ類。

(伝染経路)病原菌は病花上に形成された菌核の形で地上で越冬し、伝染源となる。翌春ツツジの開花期に菌核

が発芽して子のう盤を形成し、そこから子のう胞子を飛散して周辺にまん延する。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

Aミカンそうか病

(病徴と被害)葉・枝・果実などに発生する。葉では若葉に発生し、初め水侵状円形の小斑点を生じ、のちにこれ

が隆起した病斑(いぼ型)になったり、隆起せず表面ががさがさしたかさぶた状の病斑(そうか病)を形成する。果

実では茶褐色の斑点を生じ、のちに隆起して淡褐色となり、はなはだしい場合には金平糖のようになる。

(病原菌)子のう菌の一種。分生胞子はだ円形〜紡錘形、普通単胞、大きさ約10〜4μm。発芽して発芽管を生

ずるが、さらに芽出法によって小型分生胞子を作ることがある。

(寄主植物)柑橘類全般。温州ミカン・レモン・ダイダイなど被害が大きい。

(伝染経路)病原菌は被害葉・枝などで菌糸の形で越冬し、翌春降雨にあって病斑上に多数の分生胞子を形成

し、雨滴とともに飛散して伝染する。秋には夏秋梢が発病して伝染源になる。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

<X.根の病気>

@サクラ根頭がんしゅ病

(病徴と被害)根や幹の地際部に発生する。初め患部にわずかに盛り上がったところができ、のちに急速に膨ら

んで、球形〜半球形の大きな瘤となる。翌春には再び生長し、樹の生長とともに年々大きくなり、大きいものでは

人のこぶし大から人頭大にも達するという。

(病原細菌)桿菌の一種で、単極毛1〜3本を有する。大きさは0.4〜0.8×1.0〜3.0μmのグラム陰性、肉汁

寒天状のコロニーは白色、円形である。

(寄主植物)ポプラ・ヤナギ・ユウカリ・クリ・クルミ・サクラ・モモ・ナデシコ・カキ・リンゴ・ブドウ・イトスギ属など。

(伝染経路)病原細菌は、瘤および瘤のくずれた組織とともに土中に残って伝染源となる。苗木などが植えつけ

られるとその傷口から侵入して数週間の潜伏期間ののちに発病する。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

Aサツキ苗立枯病

(病徴と被害)育苗床・さし木床で発生し、根・茎の地際部が侵される。初め地際部の一部分が褐色になり次第

に暗褐色になる。葉は黄化し生気がなくなりしおれる。さらに症状が進むと地際部の皮質部が破壊して材質部が

露出することがある。

(寄主植物)サツキ・ツツジ・マツ・ヒノキ・ニセアカシア・ユウカリなど。

(伝染経路)病原菌は菌糸まれには菌核形で被害株の残さとともに土中で越冬し、伝染源となり土壌伝染する。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

<Y.生理障害>

@ゴヨウマツのかん害

(被害)盛夏期に発生し、おもに苗木・幼樹で被害がいちじるしい。土壌中の水分が欠乏し、水分不足のため

針葉は黄化し、葉先から赤く枯れ込み、はなはだしい場合には枯死する。また土壌中の有機質肥料の分解が

妨げられ、そのために肥効が現われないので栄養不良となり生育阻害される。

(防除)適度の灌水を行なうことによって発生を防ぐことができる。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

Aタケ開花病

(病徴と被害)初め小枝に穂軸が短い2〜6個の小花からなる花器をつける。開花するとやがて枯死する。一連

の地下茎から発生したタケはすべて順次に開花し、枯死していくので伝染するかのように見えるが、伝染病で

はない。

(原因と発生条件)タケ類は普通20年ぐらいで枯死するが、開花しないのが普通である。しかし、50〜60年以上

更新を続けているうちに開花現象が現われる。開花の原因については、60年の周期で開花するという周期説、

土壌の感想・栄養欠乏などの生育不適な状態になった結果、種族保存のために開花するという栄養説、土壌

病害虫による誘因説および気候説などがある。

(防除)開花したタケは桿に青味があるうちに伐採して利用する。開花中に回復ササと呼ばれる細い小さな竹が

多数生ずるが、これは次代の開花しない地下茎を生ずるものとなるので、数年間は立てておく。