花ことばいろいろ

天国と宇宙論

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天国と宇宙論

 千年王国が地上につくられることでは、キリスト教徒の意見は一致している。しかし、天国の所在地については、

見解が一致したことはない。ある者は、最後の審判後に神が創造する新しい地上のどこかに、その国ができるもの

と信じ、ある者は霊的な世界に神の国は築かれると信じた。

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 教会を、いわば神の国の物質的反映と見なす道を歩んだカトリックでは、現世を肯定する立場上、神の国を、

すでにどこかの次元でできあがっている霊的な王国と見なし、その天界で、人はアダムとイブのように裸体のまま、

いかなる苦役や悩みからも解放されて、無垢の至福生活を送ると想像した。

 天国がすでに存在しているとすれば、現世界との空間関係はどうなっているかという疑問が当然湧いてくる。これ

については、教会は基本的にはギリシアのモデルを受け入れた。すなわち、球状の地球が宇宙の中心にある。その

内部には地獄があり、外は惑星の空間領域、さらにその外郭に恒星天がへばりつき、その向こうに不可知の神の領

域が広がるという同心円宇宙モデル(主にアリストテレスに基づく)がそれである。

 このモデルをもとに、12世紀以降のスコラ学者たちは、神の領域についての神学的説明を行なった。神界は地上を

構成する4元素(土・水・空気・火)とは別の「第五元素」でできた光り輝く2層から成り、第一が「至高天」、第二が「三位

一体の天界」と呼ばれる。第二層は究極の天界で、信者や聖人はもとより、マリアや天使すら入ることがかなわない。

人間その他が入りうる最高の天界は、第一の至高天だと考えられていたのである。

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 こうしたモデルを、より精密に描いてみせたのが、永遠の恋人ベアトリーチェとともに、地獄・煉獄・天国を遍歴する

という壮大なドラマを描いたダンテであった。

 彼の宇宙論では、宇宙の中心に地球がある。地球の陥没部分は「地獄」(リンボ界はその最初の層に置かれる)、

突出した山状の部分が、中世キリスト教の発明にかかる「煉獄」で、死後、罪を清めるために霊魂がおもむく。ここは

地獄のような永遠の牢獄ではなく、“懲役刑”者用の監獄である。また、天は10層にわかれ、その上に「宇宙のバラ」

が浮かんでいる。そこは「三位一体の天界」のすぐ下にある聖域であり、ここで人は、至福の「見神」体験に浴するの

である。

 こうした宇宙論は、その後も改編を経たが、とくに重要なのは、死後生活についての考え方の変化だった。中世に

おいては、死後の霊魂の仕事は、ほとんど神を称えることに費やされると信じられており、司祭によっては、霊魂は、

最後の審判までは、死んだようにまどろんでいると説く者もいた。しかし、スウェーデンボルグ(1688〜1772年)に

代表される神秘家は、死後も学問や修行、結婚など−つまり現世の延長の“生活”があると説いた。この説が、19世紀

以降の心霊主義(スピリチュアリズム)に受け入れられ、霊界のより精緻な構造(基本構造は現界・幽界・霊界・神界)

と、そこの暮らしぶりが言い立てられるようになると、天国・地獄のイメージはいっそう拡大した。と同時に、現実世界と

の著しい接近という俗化も進み、今日に至っているのである。


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