プロテスタント

病原体

BACK

@ルター(ルーテル)派

「宗教改革の父」マルティン・ルターによって創始された世界最大のプロテスタント系教派で、信徒総数はやく7500万人。

 教理面は原則的にまとまっているが、教会政治や礼拝様式などを異にする多くの教派があり、教皇を中心としたカトリック教会

組織のように、ルター派全体を束ねる確固たる中央集権組織はない。ただし、主要なルター派教会同士の協力・連絡機関として

1941年創設のルーテル世界連盟(本部スイス・ジュネーヴ)があり、平和運動や世界教会一致運動などに力を注いでいる。

 ルター派の教理の核心は次の2点に要約される。聖書中心主義と信仰義認説である。前者は、『聖書』の権威は、教会の伝統

に優る絶対至上のものという立場である。後者は、神が現実的には義でない人間を義と認めるのはキリストゆえであるが、その

義認の恩寵はカトリックのいう「善行」ではなく、「信仰」を通してのみ与えられるというものである。

 ルター派教会では、信仰の規範として「アウグスブルグ信仰告白」(1530年)とルターの「大小教理問答」などを受け入れてい

る。ただし、伝道地の事情などに応じて、それ以外にも信仰告白を持つ場合もある。

 信者はルター派発祥地であるドイツ東部、北部を中心として広く分布。北欧諸国では国教、あるいはそれに準ずる扱いを受け

ている。そうした地域からの移民が北米大陸に移住したことにより、アメリカやカナダにもルター派教会が確立。それと並行して

外国伝道が行われ、アジア、オセアニア、アフリカなど、世界に普及するようになった。

 日本では戦前、日本基督教団に合流していたが、条件面の違いから離脱。現在は日本福音ルーテル教会を中心に組織され

ている。

★★★★★★★★★★★★★★

A改革派・長老派教会

 改革派には、プロテスタント派全般の教会の意味もあるが、普通はカルヴァン派の意味で用いられることが多い。

 ルター派と並ぶプロテスタント2大宗派のひとつである改革派系教会の特徴は、全体的にルター派以上に聖書中心主義

基づいた教義の徹底化と厳格化が図られている。神は完全性や絶対性をともなう存在であり、原罪をもつ人間は神に服従する

ほかはないこと、また、神の啓示は『聖書』に全面的に現われており、キリストを媒介にした各人の救いか滅びかの決定はすで

に神によって定められていること、さらに厳正清浄な信仰生活の遵守などが思想の根幹を成している。

 教会制度では長老制をとり、各教会の信仰告白が重視されている。

 具体的には、長老制は牧師(宣教長老)と単一もしくは複数の信徒代表(治会長老)から構成され、職能は異なるが、まったく

同等な立場で教会の一般信徒を指導する仕組みになっている。長老制を含む教会組織は、神のこの世の秩序のしるしとして

位置づけられているという。

 改革派は全世界に約4000万人ほどいるといわれ、17世紀に大量のピューリタンが移住したため、北米大陸では最も有力な

教派のひとつとなっている。

 また、ヨーロッパでは、16世紀ジョン・ノックスの伝道によって早くから国教の地位を獲得していたイギリスのスコットランド、

さらに歴史的にピューリタンの避難地でもあり、伝統的にもカルヴァニズムと密接な関係があったオランダが改革派教会の中心

領域となっている。ハンガリー、旧チェコスロバキア、スイス、ドイツ南部でも優勢で、南アフリカ、オーストラリア、ニュージー

ランドでも改革派の影響が及んでいる。日本にも、日本基督教会、日本基督改革派教会など多数ある。

 世界的な趨勢として、長老派(改革派)と会衆派の各教会がそれぞれ合同化する傾向もある。

★★★★★★★★★★★★★★

B会衆派(組合派)

 会衆派とは、教会員の互選によって選ばれた役員による教会管理と、教会同士で支配・服従関係にならず、各教会の自主独立

を標榜、実践する教会をいう。たとえばバプテスト派であると同時に会衆派であるというように、会衆派は教会組織面の考え方を

同じくする者の総称といえる。

 会衆派の元来の考え方は、長老派と同様にカルヴァニズムに由来する。その後、ピューリタン、とくにピルグリム・ファーザーズ

と呼ばれるアメリカに移住した勢力が長老派とともに会衆派の旗手となり、この両派がアメリカのプロテスタント系教会の2大バック

ボーンとなっていったのである。

 会衆派教会は他教会との合同に対する指向性が強い。アメリカではキリスト合同教会が合同化によって誕生。イギリスでは1972

年に会衆派と長老派が統合し、合同改革派教会を設立した。日本でも会衆派教会が設置されていたが、1941年、日本基督教団と

して合流した。

★★★★★★★★★★★★★★

Cバプテスト派

 カトリックなどのように幼児洗礼を認めず、自覚的な信仰告白によってバプテスマ(洗礼)を受けることを主張するのが、バプテ

スト派である。同派では、『聖書』に根拠を持たない信仰や生活規範を認めない。また、強制的な信仰を否定し、本人の信仰告白

によって受洗した者のみを信者とする。信仰告白こそ救いの唯一の決定であるとしていることから、聖餐も二義的にみなすことが

多い。

 教会制度に関しては、プロテスタントの根本主張のひとつである万人祭司説に基づき、教師と信者の身分上の差は認めない

真に霊的な賜物を与えられた者だけに教師の資格があるとしている。

 バプテスト派は1639年にアメリカに伝播し、信仰覚醒運動と結びついて発展し、現在アメリカ最大の宗派として大きな影響力を

もっている。アメリカのバプテスト教会は、全体としてパティキュラー派が支配的で、エヴァンジェリカル(福音派)の典型とされて

いるが、信仰傾向の振幅の差が大きい。すなわち、排他的でファンダメンタリズム(原理主義)の指向性がきわめて強い「南部バプ

テスト教会」系と、比較的穏健な北部の「アメリカン・バプテスト教会」系の2系統がある。

 数の上で優る前者は『聖書』の記述のすべては絶対無謬であるとし、進化論にも反対、処女懐胎、キリストの奇跡や復活も歴史的

事実と主張、政治にも隠然たる影響力があるとされる。

 後者は前者ほどではないが、それでも個人的な回心体験を強調、信仰と生活の唯一の基盤としての『聖書』と伝道を重視し、

中産階級の保守勢力として急速に勢力を伸ばしてきた。

 ヨーロッパでは、ドイツのヨハン・オンケンの1834年からの伝道活動によって進展。日本伝道は1860年からで、日本バプテスト

同盟と日本バプテスト連盟が主流となっている。信徒総数は北米を中心に世界で2500万人とされる。

★★★★★★★★★★★★★★

Dユニテリアン派

 三位一体説とイエス・キリストの神性を退け、神の単一性を信ずる教派で、合理主義的キリスト教解釈の最先端を標榜。

 ユニテリアンの元型は、キリスト教成立初期に異端として断罪されたアリウス派に遡源されるが、キリスト教会史では通常、宗教

改革運動の中から生成されたもの以降を指す。三位一体論を論理的に破綻した空虚な観念論にすぎないとして否認した代表人物

に、スペイン出身の神学者セルヴェトゥスがいる。

 その後、1568年にトランシルヴァニア(現在のルーマニア)の複数の教会が改革派教会からユニテリアンの信条を掲げて独立。

その後、プロテスタント主流から迫害されたが、存続を保った。

 現在、同派系の世界的機構として国際自由宗教連盟がある。今日、進歩的ユニテリアン派は、宇宙意識や宇宙エネルギーを

祈りの対象とし、個人の信教の自由を謳うなど、キリスト教の枠を完全に超えている。

★★★★★★★★★★★★★★

Eフレンド派(クェーカー)

 1646年、イギリスで神の啓示を得たというジョージ・フォックスが創始した神秘主義的プロテスタントの一派で、クェーカーという

名でも知られる。

 礼拝は無形式で、特定の聖職の存在せず、黙祷の時間が優先される。その際、霊的体験に与かった者が、体を激しく震わせた

ところから、クェーカー(体を振動させる者)と通称されるようになった。

 キリストを救い主とすること、信仰による救いを説き『聖書』を尊重するのは一般的なプロテスタントと同じだが、ユニークなのは、

その救いの成就は各人が「内なる光(インナー・ライト)」(精霊の別名)を見出すことにあると説く点にある。フレンド派では、歴史上

のキリストよりも永遠に生きるキリストが強調される。また、信者を問わず、すべての人間に内なる光の恩恵が与えられているという。

 特筆に値するのは、その社会改良運動である。歴史に先駆けて奴隷解放、女権解放、監獄改良、精神病患者に対する人道的取り

扱いなどの社会活動に積極果敢に取り組んできたが、それは「内なる光の霊的作用」だからという。

 信者数は世界で約20万ほどにすぎないが、その社会的影響力は他のプロテスタント系教団を凌駕するものがある。日本には1886

年にアメリカから伝道が開始、キリスト友会日本年会として活動を薦めている。

★★★★★★★★★★★★★★

Fメノナイト派(再洗礼派)

 16世紀のオランダの宗教改革指導者メノー・シモンズが開いたアナバプテスト(再洗礼)派系の穏健派である。

 『聖書』を信仰と実践の唯一根本の基準として幼児洗礼を否認、信仰告白によるバプテスマと聖餐式を最も大切な教会礼典である

とする。また、教会への他権力の介入を拒む自主独立、政教分離の立場をとるなど、バプテスト派と共通するところが多い。男女平

等主義を採用し、教会では女性の説教も認める。

 現実社会との関わりについては、イエスが最高の王として再臨するという立場から、世俗機関での宣誓を一切拒否し、非戦主義を

堅持して兵役を否定、基本的に公職にも就かない。

 アナバプテスト派のほとんどは弾圧によって壊滅したが、メノナイト派が迫害を乗り越えてきたのは、シモンズが敷いた平和的で

穏健な路線をほぼ忠実に踏襲してきた結果による。現在、北米やヨーロッパを中心に約70万の信徒が存在する。



病原体

BACK

病原体

「病原体」という言葉を聞くと、有史以来人類を悩ましつづけてきたペスト菌やマラリア原虫などのおそろしい微生物を

思いがちである。しかしこれらの病原体が、衛生状態のよい今日の先進諸国で広い範囲にわたって伝染病を引き起こす

ことはまずない。

 しかし伝染病とまではいかなくとも、われわれは肺炎や下痢などの病気にかかる可能性をもっている。これらの病気も

病原体が引き起こすことにはかわりはない。しかもその原因となる病原体は身近なところにいるのである。

 人体内に侵入してきた病原体は、免疫機構によって的確に排除されるため、健康なヒトの血液や尿から病原体が検出

されることはほとんどない。しかし体と外部環境との接点に相当するところ、たとえば皮膚、消化管、上気管、膣などには、

いつでも多種多様の微生物が存在している。このような健康なヒトの体にさえいつでもいる微生物を「常在菌」とよんで

いる。

 常在菌を取り除くことは不可能であるし、またその必要もない。なぜなら多くの常在菌はわれわれになんの害もおよぼさ

ず、ときには侵入してくる強力な病原体の定着を防ぐからである。

★★★★★★★★★★★★★★

真菌

 病原体とは病原性をもった微生物の総称である。病原体はさらに三つのグループに分けられる。大きなものから順に

真菌(カビ類)、細菌、ウイルスである。このうち真菌と細菌は栄養素を含む寒天の培地で容易に培養でき、光学顕微鏡

を用いてその世界を観察することもできる。

 このうち真菌による病気は一般に軽症である。健康なヒトでは白癬菌によるみずむし程度の感染が中心で、それに気

づかないでいることもある。しかし外科手術が進歩するにつれて、真菌の感染が新たな重要性をおびてきた。臓器移植

の場合を考えてみよう。

 患者が臓器移植を受けた場合、体内では新しい臓器が異物として認識され、免疫機構が過剰にはたらいて拒絶反応

を起こす。そのため新しい臓器を定着させるには、人為的に免疫機構を抑制しなければならない。この結果、健康なヒト

ではなんら脅威とならない常在菌に対して、患者はまったく無防備な状態に置かれてしまう。

 原因は異なるものの、この問題はエイズ患者や白血病患者にとっても同じである。エイズの場合は免疫系が破壊され、

強力な真菌の侵入を許してしまう。血液のがんである白血病の場合は、治療に使われる制がん剤によって腫瘍細胞のみ

ならず、異物をたたく白血球の大多数が損傷され、真菌の侵入を招くのである。

 このように、免疫機構が抑制された患者にとって、正常時にはあまり問題にならない真菌の存在が、生死を決める問題

となるのである。

★★★★★★★★★★★★★★

 臓器をおかす真菌としては、アスペルギルスカンジダとよばれるものがよく知られている。これらの真菌は、空気中に

浮遊する胞子がヒトに吸収されることによって増殖する。

 アスペルギルスは土壌中や動物性の肥料に多く生育している。カンジダは、皮膚や鼻咽頭に常在する真菌であり、重い

病気によってヒトの抵抗力が弱ると全身への感染を引き起こすこともある。両者とも病原体として作用するだけでなく、アレ

ルギー源としても作用し、ぜんそくやアレルギー性鼻炎の原因ともなりうる。

 真菌による感染の治療は必ずしも容易ではない。たとえば真菌に対する抗生物質は細菌に対するものより副作用が強

。しかも真菌がヒトに害を与えるのは、患者の全身状態が悪く抵抗力が弱っているからであり、そのため治療そのもの

ができないこともある。

 また原因不明の発熱をくりかえす患者に各種の抗生物質を投与し、血液や尿から細菌がまったく検出できない場合に

は、真菌に感染された疑いが強い。死後の解剖のときに、はじめてアスペルギルスが全身に感染していたことが明らかに

なる不幸な場合もある。

★★★★★★★★★★★★★★

細菌

 細菌は露出した皮膚の上でもよく生育するが、暖かく湿潤な環境を好む傾向がある。膣はそのような場所の一つであり、

ふだんは乳酸棹菌とよばれる細菌が生育し、その発酵活動の結果、乳酸がつくられている。このため膣内は低いpH(水

素イオン指数)に保たれている。この酸度のためにほかの細菌の定着がさまたげられているのである。

 だが乳酸棹菌の数が減少すると、ほかの細菌による感染がおこる。たとえばマイコプラズマとよばれる細菌は、乳酸棹

菌の数が減少した出産直後に感染しやすく、産じょく熱の一つの原因となるだけでなく、重い病気を引き起こすこともしば

しばある。

★★★★★★★★★★★★★★

ウイルス

 法定伝染病は明らかに減少し軽症化してきている。しかし残念ながら感染症のすべてが減少の一途をたどっているわけ

ではなくい。現状はけっして満足すべき状態ではなく、むしろ治療が困難になる傾向を示している。

 病原性をもった微生物のうち、細菌による感染に対する治療は抗生物質で比較的容易にできる。ただしペニシリンが

万能であった時代は過ぎ去った。今日では市販されている抗生物質の数は150のも上り、治療が一面では困難になって

きたことを示している。

 その最大の理由は、抗生物質に対抗する能力をもった細菌(耐性菌)が出てきたことである。しかもかりに適当な抗生物

質が開発されたとしても、同一の細菌でも抗生物質に対する感受性が一様でないという問題もある。

 耐性菌の登場には皮肉なことに人類が大きく貢献している。なぜならダーウィンの自然淘汰説をあげるまでもなく、抗生

物質で細菌を排除するという行為は、細菌を選抜し抗生物質に強い細菌だけを残す行為となるからである。

 そもそも耐性菌を生む遺伝子は突然変異によってあらわれる。その遺伝子は主として細菌どうしの接合によって、または

細菌に感染する能力をもったウイルスによって耐性菌から別の細菌に伝達され、短期間で細菌の耐性が一気に広まる

とになる。このような耐性に関する遺伝子(多剤耐性因子)の中には、ペニシリン、ストレプトマイシンなど数種の抗生物質

に対する耐性をまとめてもっているものもある。

 抗生物質の開発と遺伝的な変化をくりかえす耐性菌の出現は、いわば人類と微生物の知恵くらべであり、将来も果てし

なくつづく競争になるだろう。

 一方、免疫不全にともなった毒性の低い細菌(弱毒菌)の感染が増加しているという問題もある。これを防ぐには体の抵

抗力が弱った患者を、無菌室のような環境に置いて回復を待つか、弱毒菌にもきく薬を開発するしかない。患者を免疫

不全状態にしない予防法の研究も今後の課題である。