ギリシャ・ローマ神話

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ユピテル(Jupiter)

:その名は「天なる父」をあらわすローマの主神で、ギリシャのオリュンポスの主神であるゼウスと同一視された。

オリュンポスとはギリシャのテッサリア地方に聳える高峰で、その山上に神々が住んでいるといわれた。天空神

である彼は雷霆(らいてい)と呼ばれる炎の矢を束ねたような武器を手にして戦う。つまり稲妻である。鷲を従え、

豊かな髭をたくわえた高貴な風貌をもち、威圧するような威厳に満ちて、というのが本来のイメージであるが、一

方でユノという正妻がありながら多くの女神や人間の女性たちを誘惑して、数え切れないほどの子をもうけている。

ユノ(Juno)

:ギリシャのヘラと同一視されるユノはユピテルの正妻で最高の女神。ユピテルの姉ということにもなっている。

二人はギリシャの理想郷ヘスペリデスの園で結婚したともいわれる。ユノは結婚生活や出産をつかさどる女神と

して女性の信仰を集め、そうした属性からはさぞ優しい性格と思いがちだが、大変な発展家の夫をもったために

いきおい猜疑心の強い、嫉妬深い正確とならざるをえなかった。ユノはしばしば夫の不実に対して復讐をたくら

んだ。そんな二人の間にも火の神ウルカヌスと軍神マルスという息子があった。

エウロペの略奪(Rape of Europa)

:フェニキアの王の娘エウロペをユピテルが見初めた。彼は白い優美な牡牛に姿を変え、海辺で遊女たちと遊ん

でいたエウロペに近づく。牛の穏やかな様子に安心した彼女は、角に花を飾ったりして戯れる。そして背に乗っ

てみた瞬間、牡牛は彼女を乗せたまま海を泳ぎ渡り、長駆クレタ島に上陸。そこで牡牛は正体を現して泉のほと

りで彼女をわがものとしてしまった。エウロペは神との間に三人の子をもうけ、のちにクレタ王に妃になったという。

この時の牡牛が星座の牡牛座となり、エウロペはヨーロッパ大陸にその名をとどめることとなった。

ダナエ(Danae)

:アルゴスの王アクリシオスは自分が娘ダナエに殺されるという神託を受け、恐れて娘を青銅の塔の中に閉じ込

めた。しかし彼女はユピテルの目にとまる。彼は黄金の雨に姿を変え、まんまとダナエと交わった。こうして生ま

れたのが英雄ペルセウスである。王は母子を箱に入れて海に流したが、漂流して救われ、のち成長したペルセ

ウスがある時競技で投げた円盤が、偶然居合わせた祖父アクリシオスに当って、ついに神託は果たされてしまっ

た。なお、この神によるダナエの懐胎は、のちに聖母マリアの受胎告知の予型とされた。

レダと白鳥(Leda and the Swan)

:ユピテルはある水辺でスパルタ王テュンダレオスの妻レダに恋をした。彼は白鳥に姿を変え彼女に近づき思い

を遂げる。卵で生まれてきた子供は、ひとつからはカストルとポリュクスという双子の兄弟、もうひとつからはヘレ

ネとクリュイテムネストラの姉妹。双子の兄弟は星座にのぼって双子座となった。また、絶世の美女となったヘレネ

はのちにトロイア戦争が起きるきっかけをつくる。

ガニュメデス(Ganymede)

:ガニュメデスはトロイア王家の祖トロスの息子であった。ユピテルはこの美しい少年を天上の酒宴で酒杯を捧げ

る従者にしようと、神の使いの聖なる鷲か、あるいはユピテル自身が鷲に姿を変えて地上に舞い下り、ガニュメデ

スをさらった。神はあとに残った父王にアポロを遣わして不死の神馬などを贈ったという。なお、酒の入った壷を

もつガニュメデスの姿は水瓶座に、彼をさらった鷲はその近くで鷲座となっている。

セメレ(Semele)

:テバイ王の娘セメレがユピテルの子を孕んでいることを知ったユノは、巧みにセメレに近づき、貴方の愛人は本

当にユピテルか確かめてごらんという。いつも人間の姿で神に会っていたセメレは一度だけ神の姿で来てと頼む。

神の光をまとって現れたユピテルの稲妻は、セメレの身体を焼き尽くした。しかし胎児は奇跡的に救われ、のちに

酒神バッカスとなる。

パンドラ(Pandora)

:ユピテルはプロメテウスが天の火を盗んだことに激怒して、一計を案じ泥土からパンドラを造らせる。最初の人間

の女性である。彼女は神々から贈り物を授かった彼女を、プロメテウスの弟エピメテウスは妻に迎えた。贈り物の

箱を開けた途端、あらゆる禍いが飛び出して地に満ちた。彼女は慌てて箱に蓋をしたが、残ったものはただひとつ、

「希望」だけであった。

アポロ(Apollo)

:巨人族の娘レトはユピテルの子を宿し、彼女はユノの嫉妬を恐れて転々と逃れた末にデロス島でアポロを出産

した。女神ディアナは彼の双子の妹であり、二人そろって弓の名手。彼はまず古代ギリシャの文明と知性を代表

する存在で、凱旋車で大空を天がける太陽神とも同一視されている。さらに音楽の神であり、詩や芸術の女神ム

―サたちを従えてパルナッソス山に住んでいた。

アポロとダフネ(Apollo and Daphne)

:ある時アポロに自分の弓を嘲笑されたクピドは、この若い神に恋の炎を燃やす矢を、河の神の美しい娘ダフネ

にはそれを消す矢を放った。恋におち彼女を追うアポロ、逃げるダフネ。力尽きたダフネは父なる河神に私の姿

を変えて、と祈る。するとみるみるその手は月桂樹の枝に、胸は樹皮に覆われていった。アポロは樹に話し掛けた。

せめて私の樹になっておくれ。枝はかすかにうなずいたようだったという。

パルナッソス(Parnassus)

:パルナッソスはギリシャの名山、その南斜面の壁にはアポロの神託所デルポイがあり、デルポイの北東には聖な

る泉カスタリアが湧き出ている。この山はアポロとムーサたちの聖地で、詩や音楽のふるさとである。頂きはアポロ

の聖木である月桂樹の木立に囲まれ、そばには清らかな小川が流れている。

ムーサ(Muses)

:ユピテルは記憶の女神ムネモシュネと結婚し、九夜連続して九人の娘をもうけた。これがムーサたちである。ちな

みにこれはユノと結婚する前のこと。彼女たちは諸芸術の知的活動を司る女神で、またいくつかの泉を支配してそ

こから霊感を汲んだ。クレオは歴史、エウテルペは音楽と叙情詩、タレイアは喜劇、メルポメネは悲劇、テルプシコ

レは歌と踊り、エラトも一種の叙情詩または恋愛詩、ウラニアは天文学、カリオペは叙事詩、ポリュヒュムイニアは讃

歌を担当する。

ミネルヴァ(Minerva)

:ギリシャのアテナと同一視される最高の女神。知恵と諸学芸を司る。ユピテルの最初の妻が身篭った時、彼女の

次に産む男児がユピテルの王座を奪うだろうという予言があり、彼は妻を呑み込んでしまう。月の満ちた時、火神ウ

ルカヌスがユピテルの額を斧で叩き割ると、そこから完全武装のミネルヴァが飛び出してきた。彼女は戦略の女神

でもあり、トロイア戦争ではギリシャ方をひいきにした。機織りの女神でもあり、アテナイの守護神。そこのパルテノン

神殿は彼女の聖域として知られる。

ディアナ(Diana)

:ユピテルの娘でアポロの双子の妹にあたり、ギリシャのアルテミスと同一視される。元来は多産を象徴する地母神

で、また野や山を支配する野性の動物たちの守護神だったが、いつしか森の中を駆け巡る処女の狩人としてのイ

メージが定着した。純潔に厳しくこだわる彼女はみずから異性を寄せつけないばかりか、つき従う森の精のニンフ

たちにも処女であることを守らせた。また、怒りにかられると残忍な性格の一面を見せることがある。

ウェヌス(Venus)

:ギリシャのアフロディテと同一視される愛と美と豊饒の女神。天空神ウラヌスの生殖器を息子クロノスが切断した時、

滴る精液が海に落ち、その泡から生まれた。彼女は火神ウルカヌスの気まぐれな妻であったが、軍神マルスと通じ、

その間に生まれた息子がクピドであるとも伝える。従者には三美神がおり、持物には白鳥や鳩があり、その聖なる植

物にはバラやカリンがある。ヴィーナスは英語読み。

クピド(Cupid)

:クピドは欲望を意味し、有翼の愛の神。彼の持つ黄金の矢はそれに射られた者の心に激しい恋情を植えつける

が、鉛を先につけた矢で射られた者は恋する心を失うのである。彼の矢は効果絶大なだけに、いたずらが過ぎると

手ひどく罰せられた。また誰もがこの愛の神に好意的だったわけではなく、特に女神ディアナやミネルヴァの覚えは

めでたくなく、目の敵にされた。

ウルカヌス(Vulcan)

:火と鍛冶の神で、ユピテルとユノの息子。誕生した時、彼があまりにも醜かったので母がオリュンポスから投げ捨て

たという。またのちに父が彼の足をつかんで投げたことから足が不自由になったともいう。美神ウェヌスを妻に迎え

たが、妻はさっそく夫を裏切り、マルスと不貞を働く始末。それでも彼は腕の良い働き者の鍛冶屋だったので、神々

や英雄たちの武具の注文は後を絶たなかったという。

マルス(Mars)

:ギリシャのアレスと同一視される軍神。ユピテルと息子。戦を好むが、凶暴で思慮に欠ける性格が災いして神々の

間での評判はまるで芳しくない。トロイア戦争ではトロイア方で参戦するが、あまり良いよころを見せてない。ローマ

においては彼は、建国の双子ロムルスとレムスの父として人気が高い。

メルクリウス(Mercury)

:ギリシャのヘルメスと同一視され、ユピテルと巨人族の娘の子。彼は神々の使者であり冥界への案内係であり、そ

こから旅人の守護神。素早い彼は詐術にも長け、泥棒、賭博、商業の守護神ともされる。彼は竪琴やアルファベット

の発明者としても知られる。

ネプトゥヌスとアンフィトリテ(Neptune and Amphitrite)

:海神ネプトゥヌスはギリシャのポセイドンと同一視され、妻は海の精(ネレイス)のひとりアンフィトリテである。海馬ヒ

ッポカンポスが引く専用の凱旋車を持ち、普段は海底の宮殿に暮らしている。馬の創造者でもあり、そこから競馬の

守護神とされる。

トリトン(Triton)

:海神トリトンはネプトゥヌスとアンフィトリテの息子で、上半身は人間で魚の尾を持つ男の人魚として表される。一人

であったと複数だったともいわれる。ボイオティア地方のタナグラではバッカスの祭のときに沐浴する女たちを襲い、

この酒神に撃退されている。

フローラ(Flora)

:古代イタリアの花と春と豊饒の女神である。詩人オヴィディウスは西風ゼフュロスが彼女に贈った花園について語っ

ている。その庭はそよ風が渡り、泉からあふれる水に浸されている楽園のごときイメージである。ローマ人たちはギリ

シャの花神クロリスが生まれ変わってフローラになったと考えた。

バッカス(Bacchus)

:ギリシャのディオニュソスと同一視される酒と劇と豊饒の神。ユピテルとセメレの息子であるが、セメレがユピテルの

稲妻に打たれて死んだ時、まだその胎内にあった彼はユピテルの腿に縫い込まれて救われた。彼の祭からギリシャ

の悲劇や喜劇が誕生したといわれ、またのちにその信仰は次第に秘教的な性格を深めていった。彼は大いなる放

浪者で、小アジアやエジプトからはるかインドへも旅して、各地に葡萄の栽培を広めた。

サテュロス(Satyr)

:バッカスの従者で野山の精。ローマのファウヌスと同一視され、毛深い山羊の脚、蹄、時には角を持ち、好色な性

格。彼の姿はキリスト教美術の悪魔の図像にも影響を与えている。

ケンタウロス(Centaur)

:テッサリア王イクシオンと、ユピテルがユノを象って作った雲との間に生まれた、上半身が人間で下半身が馬の怪

物の種族である。性格は粗暴で好色、時にバッカスの従者をつとめる。

ニンフ(Nymphs)

:自然のいたるところに宿る若く美しい女性の姿をした精霊たちで、海神ネレウスの娘。神々の従者であり、純潔の

女神ディアナのお付きのニンフのように主人と同様の属性を持つ。どちらかというと性格は享楽的で、惚れやすい

恋多き女性たち。

プロメテウス(Prometheus)

:ティタン神族の一人プロメテウスは泥土から人間を創造した名人職人だったが、神々には反抗的だった。彼はユ

ピテルの厳命に背きウルカヌスの鍛冶場から火を盗み、人間に与えた。激怒したユピテルは彼を山頂に鎖で縛りつ

け、大鷲にその肝臓をついばませた。肝臓は夜の間に元通りになり、不死身の彼は永遠の苦痛に苛まれる。最後

に英雄ヘラクレスが大鷲を退治してプロメテウスを救った。

ギガンテス(Giants)

:怪力の巨人族。彼らはティタン神族のクロノスが父の天空神ウラヌスの生殖器を切断した時に流された血から生ま

れた。大胆にも神々に挑んだ戦いでは予言があり、巨人族は神々によって滅ぼされることはないが、人間の英雄が

神々に味方すれば神々の勝利に帰するであろうとのこと。ユピテルは息子ヘラクレスの参戦を得て、激戦の末巨人

族をついに滅亡させた。

イカロス(Icarus)

:クレタ島の迷宮を造った名工ダイダロスは、捕らわれていた島から息子イカロスと共に脱出を計った。二人はダイ

ダロスが作った翼を蝋で身体につけ天空に舞い上がった。しかし父の警告を忘れ気分も舞い上がってしまったイカ

ロスの翼は、太陽の熱で蝋が溶け外れ、イカロスは海に撃死してしまった。

オルフェウス(Orpheus)

:トラキアの音楽家で詩人のオルフェウスは歌と竪琴の名手。彼にはニンフのエウリュディケという愛妻がいたが、彼

女は蛇に噛まれて命を落とした。冥界に下りた彼の悲痛な嘆願に心を打たれた冥界の王は、後ろを振り返ってはい

けないという条件付きで妻を返してくれた。靄に包まれた冥界の坂道を地上に向かって登っっていったが、あとわず

かというところで妻の様子が不安になったオルフェウスは振り返ってしまった。再び、そして永遠に彼女は冥界にの

みこまれてしまった。絶望したオルフェウスは全ての女性を避けた。それを恨んだトラキアのバッカスの信女たちは

彼を八つ裂きにして殺した。その後彼は冥界で愛妻と散策を楽しんだという。

カロン(Charon)

:死者たちの霊が冥界に行くにはスティクス川を渡らなければならない。この川の渡し守りがカロンである。彼は暗黒

の擬人像エレポスとその姉妹で夜の擬人像ニュクスの息子。船賃も決まっていて、ギリシャでは死者の口の中に銅貨

を一枚入れる習慣があった。

ヘカテ(Hecate)

:ティタン神族の血を引くヘカテはユピテルさえも一目置く、天上と地上と海中を支配する力を持つ女神であるが、冥

界や夜と関連して魔術や呪いを司る存在とみなされる。彼女は三つの身体と顔を持ち、たいまつを手にし、獰猛な冥

界の番犬を従える。そして冥界の三叉路に居座り、それぞれの顔が三本の道を眺めている。