妖怪事典(中部・近畿)

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新潟県

●ウブ

:亡霊の怪。佐渡。嬰児の死んだ者や、堕ろした子を山野に捨てたものがなる。大きな蜘蛛の形で赤子のように泣き、

追いすがって命をとる。履いている草履の片方をぬいで肩越しに投げ、お前の母はこれだといえばよい。

●オボ

:動物の怪。南魚沼郡に現れた怪獣。新墓をあばき、脳味噌を食うという。山犬のようだが、名のみある神秘な獣らしい。

●ススケジョウチン

:火の怪。刈羽郡。少し蒸し暑く、雨の降る晩などに飛び回る火の玉の化け物。湯灌の湯の捨て場から飛び出るという。

●タテクリカエシ

:道の怪。手杵のような形のもので、スットン、スットンと音を立ててトンボ返りをしながらやってきて、出会い頭に人をひっく

り返す。これと気づけば寸前で身をかわせばよい。早い方向転換がきかないからという。

富山県

●ミズチ

:水の怪。羽咋郡掘松村。川辺に淵端某という旧家でかんの薬を売っていた。この家の先祖が駒引きに失敗した河童から、

助命の礼として製法を伝授されたものという。

●ヨウユウ

:動物の怪。「ヨウユウ」という家で召し使っていた姥。ある山伏が夜更けて呉服山の古阪を登ると狼の群れがつきまとった。

山伏が喬木によじ登ると、狼は打ち重なり、その上に姥が跨って彼を引き降ろそうとした。山伏が短刀を抜いて姥の肘を

切り落とすと下の狼も散った。翌朝駒見村に入り、少し休もうと「ヨウユウ」の家に入ると姥が傷の痛みに泣き叫んでいたが、

山伏の姿を見ると逃げ出して行方不明になった。

石川県

●アオオニ

:家の怪。金沢。加賀中納言死去のとき、加賀越中能登の武士が残らず詰めかけている広間を、夕方背丈二丈ばかりの

青鬼が奥から出てきて玄関から表の門を出ていった。三国の武士は見送るだけであったという。

●カブソ

:木の怪。鹿島郡灘地方。大きさは子猫ほどで、尾は先のほうが太い。十八、九歳の美女に化け、石や木の根と相撲をとら

せる。また人の後からつけてきて呼ぶこともある。

●ナマクビダケ

:植物の怪。金沢。寺西氏の屋敷の寝所が臭うので探してみると、天井から十四、五歳の若衆の、生きているように雅やか

な笑みを含んだ生首が出てきた。屋敷の隅に埋めて首塚とした。秋になってここから、茎が二つに分かれた怪しい茸が出

てきた。裂いてみるとあの若衆の顔を彫りつけたような形があらわれたという。

●マクラガエシ

:家にいる怪。ある家の座敷に寝ると、隣室に引き出されてしまうという。特に二本差しや髭を立て洋服を着て高慢な顔を

したものが泊まるとやられる。

福井県

●ガキ

:道の怪。ヒダルともいう。石徹白村。シナノキの下にいた。その下を通るとさもしい気持ちになる。その時はツバを吐けば

いい。

●ニンギョ

:海の怪。御浅明神の死者という人魚は、頭は人で襟に鶏冠の様にひらひらする赤いものがあり、その下は魚である。乙見

村の漁師が櫂で打ち殺し海に投じると、大風が巻き起こり海鳴りが十七日続いた。三十日ばかり過ぎて大地震が起き、御浅

嶽の麓から海辺まで地が裂け、乙見村一郷がおちいった。

●ミノムシ

:火の怪。坂井郡。雨の晩に野道を行くと、傘の雫の大きいものが正面に垂れ下がる。手で払おうとすると脇に退き、やがて

また大きい水玉が下がり、次第に数を増して目をくらます。狸の仕業とされ、大工と石屋には憑かないという。

山梨県

●アズキババア

:道の怪。北巨摩郡清春村中丸柿木平。諏訪神社の近くにアマンドウという大木があり、その樹上にいたという。毎夜ザアザ

アと音をたて、「あずきあんなすって」という。うろたえる人は大ザルですくい上げてしまう。

●カンチキ

:水の怪。南都留郡の砂原に近い大淵に住む怪。人間の尻ごう玉から細い手をさしいれて、五臓六腑を引き出して食うとい

う。引く力はものすごいが、押されればすぐひっくり返るという。

●ホオナデ

:道の怪。南都留郡道志村大羽根。小暗い谷間の小路に出る。青白い手が暗闇から出て頬を撫でる。

長野県

●ケッケ

:動物の怪。下伊那郡。異常妊娠によって生まれ出ると信じられた怪獣。

●シタナガババ

:道の怪。諏訪千本松原。道に迷って宿を乞うと七十歳くらいの婆が出てきて泊めてくれた。しかし眠った男の頭を五尺ほ

どの舌でねぶった。人の命を取る怪であるという。

●ツケヒモコゾウ

:道の怪。南佐久郡田口村大奈良の小豆とぎ屋敷の近くに出る怪。夕方、付紐を解いた七、八歳の子供が歩いてくる。紐を

結んでやろうと近づくと、皆だまされて一晩中歩かされて朝帰るという。

●ヤカンズル

:木に宿る怪。夜遅く森の中を通ると、木の上から薬缶となって下がってくる怪。

岐阜県

●カイナンボウ

:家にいる怪。囲炉裏の中の鉄輪、つまり五徳をたたくと出るという。出てくると、人の持っていないものをくれとせがむ。

●ガワイロ

:水の怪。武儀郡で河童のこと。子供に化けて相撲を挑み、手をぬくとそのまま抜ける。頭の皿には毒が入っており、これを

入れると川の水が粘って上がれなくなり尻子を取られる。きゅうりを食べてから川に行くとガワイロに引かれる。

●ムネンコ

:動物の怪。飛騨の丹生川村では、死人を猫がまたぐと、ムネンコが乗りうつるという。そして死人が踊り出すといって、死人

の部屋には猫をいれないように警戒する。

●モウリョウ

:道の怪。御勘定を勤める者が旅先で一人の下僕を召し抱えた。旅宿で夢ともなく下僕が「自分はモウリョウで、死人の死骸

を取る順番が巡ってきたので暇をくれ」といった。翌朝下僕の姿はなく、やむを得ず一人で一里余下ると村人が「野辺の送り

に黒雲が立って覆い、棺桶中の死骸が失せた」と騒いでいるので、夢との符号に驚いた。

●ヤジロウギツネ

:動物の怪。老狐で、出家に化して古い事を語った。特に一休和尚の高潔な人柄を賞揚したという。

静岡県

●ウミコゾウ

:海の怪。賀茂郡南崎村で語られる怪談。目の際まで毛をかぶった小僧で、釣り糸をたどってにっこり笑ったという。

●カネダマ

:道の怪。沼津地方ではカネダマを拾って床の間に安置すると大金持になれるという。しかし、それを自然のままで保存しな

ければならない。もしそれを傷つけると家を絶やしてしまう。カネダマは夜一人で歩いているとき、運のある人の足下にころこ

ろと赤い光を出して転がってくる。

●テングサライ

:山の怪。子供が急にいなくなり、死んだものとして四十九日の法要をしていると、その子供が木の枝を軽々と歩いているのが

見えた。しばらくして戻ってきて言うには、天狗にさらわれ、毎日お饅頭だといって馬糞を食わせられ、木の枝をとび歩く術を

教えてもらったという。

●ベトベトサン

:道の怪。静岡市。人の後をつける足音だけの怪。小山をおりてくるとき出会ったので、道の傍の寄り「お先にお越し」というと

足音は消えたという。

●ヤマババア

:山の怪。磐田郡の某家に、昔山婆が来て休んだ。木の皮を綴ったものを身にまとった柔和な女で、釜を借りて米を炊いたが、

二合で釜が一杯になったという。特に変わったところもなかったが、最初縁側に腰掛けたとき床がミリミリと音をさせたという。

愛知県

●カンタロウビ

:火の怪。名古屋付近。二つの火が同時に出る。勘太郎とその婆の火という。

●クビツリダヌキ

:動物の怪。髪結の男と親しくなり、男に心中を承知させた淫乱放蕩の女がいた。榎の枝に腰紐をかけ、両端を互いの首に巻

いて死のうとした。男は木の股まで吊り下がって死に、女は地面に足がついて死にそこなった。夜が明けて人が見ると、死んだ

のは狸で本物の男は約束の時間に遅れていったのだという。

●マドウクシャ

:動物の怪。知多郡の日間賀島で、死人を取りにくる百年以上も経た猫をいう。死人の上に目の多い筬をあげて防ぐ。

三重県

●カシャンボ

:山または水の怪。熊野地方。頭は芥子坊主で、青い衣を着ている美しい六、七歳の男児だという。人を惑わし、涎のようなも

のをたらして牛馬を苦しめる。足跡は水鳥のようだという。

●ショウジョウ

:動物の怪。油井正雪が武者修業のため大和から伊賀に入り、名張町の西方黒田で少女を奪い人を食うという狒々を退治し

たという伝説がある。

滋賀県

●アブラボウ

:火の怪。野洲郡欲賀村。春から夏にかけ、夜出る怪火をいう。その炎の中に多くの僧形が見えるからという。昔、比叡山の僧

侶で灯油料を盗んだ者の亡霊がこの火になったと伝える。

●グヒンサン

:山の怪。天狗の類。高島郡柏のある人が幼いとき、絵にかいたグヒンサンのような男に連れられて大空を飛び、祭見物をした

という。翌日、その男がまた現れてその人を阿弥陀山の頂上に置き、高島町大溝に火をつけにいったが、隙間がなくて失敗し

たという。

京都府

●カイナデ

:家にいる怪。節分の夜、便所に行くとこれに尻をなでられる。どうしても入りたいときは「赤い紙やろうか、白い紙やろうか」と

いって入ればよいという。

●コロモダコ

:海の怪。与謝郡でいう。小さい蛸だが衣を広げて人も船も包む。衣は六畳一杯くらいある。貝の中に入っている。

●トビモノ

:火の怪。古椿の根が光って飛んだという。

●ノッペラボウ

:家にいる怪。中京区室町。化け物が出るという家があり、男三人が待ち構えた。怪はつっかい棒をしたはずの裏から現れ、

いつものように唐臼を踏みならした。見ると丈七尺ばかり。目、鼻、口もない坊主であった。

大阪府

●オワレザカ

:道の怪。南河内郡では、夜に入ってある坂を通ると「おわれよか、おわれよか」という声がする。気丈な男が「負うたろか負

うたろか」というと、ずしんと乗りかかったものは松の株太だった。家に帰ってナタで割ろうとすると古狸が正体を顕わして詫

びたという。これは各地に伝わる。

●テングサライ

:山の怪。天神橋の上にひらひらと一人の僧がふってきた。岡山の出身で高野山で修行中だったという。

●テングツブテ

:家に来る怪。大阪石町。さる町に石が投げられることしばしばであった。七つか八つ、多くても十四、五くらい。音がころこ

ろするもの、音のしないものと様々だが、庇までは落ちてこない。天狗が礫を打つ家は必ず焼失するから御祓いをせよとい

ったが、一向宗なので断った。しかし信仰心が強かったせいか、なにごともなかったという。

兵庫県

●オクリイヌ

:動物の怪。加東郡では送り犬は人が躓いて倒れたら食おうと思ってついてきたが、幸い転ばずに家まで帰りつくと、送って

もらったお礼の草履片方をくわえて帰ったと伝える。オクリイヌ、オクリオオカミの話は全国にある。

●スナカケババ

:道の怪。西宮市今津のとある松の木に出た。晩にそこを通ると、狸が頭の上から砂をかける。ただし砂をかける音をさせる

だけで砂は見受けないという。

●タヌキビ

:動物の怪。川辺郡東多田村。うなぎ縄手に燐火があって、狸火といった。この火は人の形を表し、ある時は牛を引いて火を

携えていく形をしていた。これを本当の人間と心得て、煙草の火を借りたり、話をしても、尋常の人間と変わりなかった。

奈良県

●オシロイバアサン

:道の怪。吉野郡十津川の流域でいう。鏡をジャラジャラ引きずってくるという。

●ダル

:山の怪。飢えて死んだ者がトリミズ(邪悪な妄念)になっており、人に取り憑く。ダルガツクといい、冷たい汗が出て体が氷の

ようになり、ちょっと休んでもぐらっと寝てしまう。腹が減ってないときでも憑く。魚を持っていると余計憑く。この時は掌に「米」

という字を指で書いて水を飲めばよい。または飯を一口、口に入れて吐き出し、二口目から飲めば治る。

●ヒトクサイ

:山の怪。玉置山でヒトクサイが「人臭い、人臭い」といってやってきたので狼にかくまってもらって、ようやく助かったという。

一本足ともいう。

和歌山県

●ウシオニ

:動物の怪。熊野地方。一種の有蹄類で、山中、人に会うと見つめて去らず、人はついに疲労して死ぬ。これを「影を飲まれ

る」という。その時は「石は流れる、木の葉は沈む、牛は嘶き馬吼ゆる」と逆さごとを唱えればよい。

●モクリコクリ

:山・海・動物の怪。蒙古高句麗と当てる。三月三日は山に、五月五日は海に出るという。麦畑に、たちまち高く、たちまち低く

人の形をして、一顕一消するという。また神子浜では、鼬に似た小獣で、麦畑にいて夜くる人の尻を抜くという。クラゲのような

形で、海上を群れて漂うともいう。蒙古襲来時、水死した霊魂という。