ハワセ釣りの魅力 〜理屈編〜

ここまで説明し、また「紀州釣りマニア」(釣りサン刊)で説明した釣り方は、チヌが多い地域で、しかも小型の数釣りするには効果的な面があると思います。
しかし、一方で、平均水温の上昇に伴う餌取り種類と量の増加、またもともと餌取りが激しい釣り場、さらに少しでも良型を釣りたい場合等、必ずしもベストな釣り方とは言えない面もまたあります。

例えば私が紀州釣りの当初トレーニングをしていた岩国港新港あたりや、私のホームグランドである周防大島でも広島湾向きなどでは、当然場所によるものの、この釣り方でも釣れると思います。
しかし周防大島の南側など餌取りが多い地域に行くと、下手をすると団子が底まで届かない、或いは幾らやっても餌取りしか釣れない、などということになってしまいます。
現実的に私もこういった紀州釣りでは釣りきれなかったポイントも沢山あったのです。
ましてや、和歌山の湯浅湾のような場所では、餌取りのパワーが段違いですので、恐らく全く歯が立たないことになってしまいます。

ここでは、近年私が取り組んでいる「ハワセ釣り」、特に紀州釣りの第一人者である永易啓裕氏(FREEDOM会長 マルキューフィールドスタップ等)の展開されている「永易流紀州釣り」について、そのサワリだけ書いてみたいと思います。

このハワセ釣りは、まだハワセ釣りの本質が全く世間一般に理解されていなかった頃から独自の理論と全身全霊を掛けた膨大な釣行量により永易会長が会得したものであり、私自身未だ全く自分のものには出来ていません。その辺を差し引いて読んでいただければ幸いです。

1.紀州釣りから「反射食い」という要素を忘れる

従来の紀州釣りには、
・団子が割れてそこから出てくる刺し餌に反射的にチヌに食いつかす。
という要素がありました。
一般的に反射食いとかリアクションバイトとか言われるものですが、これはこれで動くものに反射的に食いつくという魚の本能(食餌のための)を利用したものですから、有効なものでもあると思います。

ところが、チヌが反応する、ということは、当然に餌取りも反応するわけですから、餌取りの多い場所だと餌取りばかり釣ってしまうことになるのは明白です。

つまり、団子が割れても、刺し餌は飛び出ず、理想的には団子の着底点に「じっとあり続ける」ということです。

すなわち、これがハワセる理由なのです。

「ハワセ幅は大体どれくらいにするの??」

回答は、刺し餌が動かないようなハワセ幅。千変万化の海と気象条件。刺し餌を動かさない、ということの難しさは単純に何センチとか何ヒロ、とかでは表せないのです。
なお、ハワセると言っても、実際に道糸が海底に這っているのではありません。

2.団子にアタックしてくる魚の個性を利用する

そこに殆どチヌしかいないのであれば、団子はすぐに割れてくれてもいいのです。更に言えば、警戒心より好奇心の強い小チヌであれば、団子の着水音、濁り等に興味を示し、そこから出てくる刺し餌に食いついてくるのです。

ところが、現実的には餌取りだらけ。チヌは大半の餌取りより団子にアタックしてくる、あるいは団子に寄ってくるタイミングが遅いわけです。

つまり、ボラが、またベラ類が団子に当たってくるタイミングでは団子は割れていない。ひとしきり餌取り達が団子に当たり、一呼吸おいてチヌが寄ってくる。そのときに刺し餌が出てくる、というタイミングを計るわけです。

従来のように10秒以内で割れるような団子ではこれは実現出来ません。

チヌの時合いという言葉が一人歩きしていますが、このタイミングを確実に釣るには、餌取りのアタックに耐えきれる団子を握る必要があり、そこにいる魚の個性を、また状況により変化する活性を把握しないといけません。
例えば、竿3本、4本といった深場で餌取りが濃いことを想像してみて下さい。団子を着底させるだけでも難しい、その上でタイミングを見計らえるだけの団子を握らないといけないのです。
まさに言うは易し、為すは難し、です。

3.ちゃんと刺し餌を食べてもらう

団子の集魚効果。これに注意しないといけません。
団子の握りがあまく、モウモウと煙幕を、そして団子の成分をまき散らしながら沈下するような団子だと、必要以上に餌取りを集めてしまうということは勿論のこと、チヌも自らを取り巻く団子の成分に狂ってしまい、刺し餌に対する反応がなくなってしまうのです。

とくに集魚成分の強い団子だと、この傾向は顕著です。

「あれだけ餌取りがいたのに刺し餌が全然盗られなくなったぞ。なのにチヌも釣れない。あれ?」

これが最悪の状況なのです。

団子は確かにチヌを集める、という機能も有していると思います。
しかしチヌが団子自体を食べるような集魚は必要ないのです。

餌取りが団子に当たります。数の多量少量は関係ありません。その魚が口を使う行動が振動、音となって回りに伝播します。そして徐々に餌取りが集まり、その振動、音は大きくなってきます。
魚を集める、ということはこれの蓄積なのです。これはフカセでも何でも一緒。

いたずらに強烈な味と匂いで集魚効果を強めた集魚材の怖さ。団子でもフカセでも認識しないと、集魚材のせいでチヌが刺し餌に反応しなくなるという本末転倒な結果を招いてしまいます。

集魚は充分気をつけて。餌取りが団子にまったく当たってこないような活性の低い状況であれば、ほんの少し団子に興味を持ってもらうためにアミエビを摺り潰して混ぜる。少しずつ、少しずつ。です。

そうはいっても...という声もあるかも。
確かに集魚を強めれば一瞬魚の活性が上がることがあります。それで幾つかは釣れるかも知れません。しかしこれでは食いは持続しないのです。
持続する集魚は振動と音。私はそう思っています。

4.ハワセ易い浮きを使う

私の自作浮きは浮力が小さく、また表面積も小さく、波に乗らないものです。
ハワセ釣りをするためには、この浮きは使い辛い面があります。
つまり、波に乗らない、ということは沈んでいる時間がある、ということであり、沈んでいる、ということは浮きは浮き上がろうとしている訳です。

また、浮きが沈むということは、浮きは団子に引っ張られている訳です。

この状態で団子が割れると、浮きが浮き上がろうとしている、またテンションが掛かっている訳ですから、刺し餌が動く、というのが道理です。

これに対して浮きが潮に乗ってしまえば、浮きは波に合わせて上下します。
「余計に刺し餌が動くだろ?」と思われるかも知れませんが、潮に乗った状態で常にあり続ける、ということは、潮に合わせて一番高い位置に浮きがあっても沈んでいないのですから(当たり前ですが)、どんな状態でも浮きの浮力で刺し餌が引っ張られることはない(実際はそれほど単純ではないですが)訳です。

すなわち、これがハワセ幅を決定する要素の一つとも言えるのです。

波に乗りにくい浮きでは僅かなテンションでも浮きが沈んでしまいますので、扱いにくい、という訳です。

また、仕掛けに錘はつけないようにした方がよいようです。
錘をつけると浮きと錘までの間にテンションが掛かった状態となりますから、浮きや道糸にかかる表層の潮の動きや風の影響が刺し餌に伝わり易くなるのです。

では、どんな浮きがいいか、です。
広島のあたりでは、あまり寝浮きを使っている人も多くありません。和歌山あたりで使われているシンプルな発泡素材の寝浮きなど殆ど売っていないのも事実です。
しかし、寝浮きはハワセをするには適した浮きであると言えます。

そして、何といっても永易浮きでしょう。
感度を保ちながら、浮きを潮に乗せる、という相反する要素を併せ持った浮きです。

(左から「永易浮き」、発泡寝浮き3本、自作浮きのハワセ意識版)


最近、形が似た浮きが大手メーカから発売されているようですが、店頭で見る限り、似ているのは形だけ、のようです。いえ、正確には似て非なるもののようでした。
あの形状、重さ、表面処理では、感度と波乗り性を両立した永易浮きに近い機能は期待できそうにありません。おそらくコンセプトというか浮きに求めている機能、開発の狙いが違うのでしょう。この種の特殊な浮きは、その性質を理解して、それにあった釣法をしないと逆効果にもなりがちですので、私には使えそうにありません。

永易浮きは完全手作りですから、大量生産できません。広島あたりでは店頭で手に入れることは不可能です。
しかし、私のHPからリンクしている、釣り仲間まけらいおんさんHP「糠と砂のラプソディー」では、永易浮きのネット通販をやっておられますので、これを利用すれば入手も可能です。あとは大阪の釣具店ブンブンを機会あれば訪問されるとよいかと思います。

非常にざっくりとした説明ですが、従来の紀州釣りとハワセ(永易流)の考え方の違いが解っていただけましたでしょうか。
では、どうやってその考えを実現するのか?については、追々書いてみたいと思います。