春の終わりを待ちわびる


早すぎた春

 梅の花、というやつは、固くきりっとしまった冬の風景を、不意に突き破るように、ポン、と春色をはじき出すものなのだなぁ。

 そう思っていると、次の日には、それがもっと沢山連なっていて、まるで梅の花を通して春がほとばしって、その根元に菜の花の黄色を敷いて、冬を飲み込んでいっているようだ。

 暦はすでに3月。そんな風景を今年は2月の初めから見ていて、今では梅も盛りになっている。日の光も柔らかさを増して、もう、疑いようのない春になっている。今日、3月4日の最高気温は19度。この分では、例年3月には一度降る雪も、もう降らないだろう。

 今年の梅は少しばかり力が強かったようだ。


 死の世界(冬)を突き破る梅の生命力に感動し始めた頃、僕の好感度花粉センサーはすでに花粉を探知していた。
 例年であれば花粉症の始まる1〜2週間前から抗アレルギー剤の服用を始めるのだけれど、今年はすっかりタイミングを逸してしまい、症状が出始めてからの服用となってしまった。

 それでも、くどいほど「今年は花粉の飛散量は少ないでしょう」という天気予報等の説明に僅かばかりの期待も抱いていた。

 が、今の僕はどうだ。そして、実際の花粉の飛散量はどうだ。

 花粉症は始まってしまえば僅かな花粉でも症状が出てしまうため(重度の花粉症の僕の場合)、多かろうが少なかろうが関係ない、とは言っているものの、どう考えても今年のこの症状のひどさは「花粉の飛散量が少ない」状態ではない。

 最近は誰もが環境省のHPの「はなこさん」で花粉の飛散量を調べることができる。飛んではいるがびっくりする程ではないのではないかなあ、などと思っていたのだけれど、昨日釣りから帰って出掛けた掛かり付けの医者の言葉は違っていた。

 「今年の花粉の飛散量はすさまじく多い。桁違いだ。予想では少ない、と言っていたけれど...すでにピークに入っている感もある。」とのこと。


 やはりそうなのか。天気予報も含め、ここまでダイナミックに外すなら、いっそ予報など止めてしまえ、と思う。


 ちなみに僕の今の症状は、鼻は完全につまって一切鼻呼吸できない。鼻の奥がはち切れそうな圧迫感がある。激しい偏頭痛。喉も荒れて痛がゆい。
 ちなみに熱はないから季節はずれで猛威をふるいつつあるインフルエンザではないし、やはり風邪でもない。

 そう、丁度先々週、日曜の夜から水曜の朝まで東京にいた頃から非道くなった。それからは、例年であれば会社でも室内ではマスクをしないのに、それでは鼻がつまってどうしようもないため、室内でもずっとマスクをして過ごしていて、少しだけ症状が落ち着いたのだけれど(それでも夜は寝れないし、朝は鼻が詰まって早くから目が覚めるし、起きてから鼻は10回以上かんでも鼻水は止まらない)...

 昨日、やはり釣りに行ったのは失敗だった。
 釣りから帰ってからは先に述べたとおりの状況だ。


 根性なし、と言われるかも知れないが、少し花粉の飛散が落ち着くまでは、もう外に出たくない。今の僕の正直な気持ちである。


 しかし、悲しいかな来週末は指宿に行く予定があるし、行くからには釣り、と思ったのだけれど、この状況で車で指宿まで、というのは少しばかりしんどいし、女房からもダメだしを受けてしまった。
 では、砂風呂だけ入って帰ってくるか、と思っていたのだけれど、同じ委員会のメンバが「開聞岳に登る」というので、これに同行することにした。
 北海道の支笏湖に秋に行った際、樽前山に登ったときの気持ちよさが僕の心の中に強く残っていたからだろう。

 こんな詰まった鼻で登れるのか?とも思うが...でも、折角だからね。


 そんな訳で、「外に出たくない」という気持ちすらも優柔不断な僕なのだった。



 さて、9時過ぎが満潮の桃の節句だ。
 前日が大阪出張だったたこともあって、あまり早くに家を出るのも辛く、5時起きの5時半出発、とすることにした。
 何だかんだで駐車スペースに車を停めるのは7時頃になるだろう。
 上げ5分を過ぎているため、かなり入れる地磯は制限される。


 雲に覆われているものの幸い風もなく、穏やかな一日になりそうだ。

 そうだ。今日は遠投しよう。

 そう思って、ノッコミでも中盤以降に実力を発揮するゴロタのポイントに向かうことにした。


 オキアミの解凍予約をしていなかったため、クラッシャータイプのオキアミを購入。サシエ用にMサイズのオキアミブロック1kgも購入。クラッシャータイプは2.5kgだから、サシエ用を500gとすれば、3kgほどがマキエ用となる。

 年間を通してもっとも水温が低いこの時期。例年難しい釣りになりやすい。ただ、今年は基本的に水温が高めに推移したからな。まぁいいや。釣れなくても。

 マキエは少し多めに作ることにする。ノッコミを意識する時期になった。ただ、固形物は水温が低いこの時期は多く入れない方がいいため、オキアミは先のとおり。チヌパワームギと白チヌを入れることにした。


 車を停めて、ゴロタの浜を歩く。歩きにくい。二重にしているマスクを通しても潮の香りが伝わってくる。気持ちいいな。やはり海は。


 釣り座になる大岩の上に、しっかり混ぜ込んだマキエの入ったバッカンを置く。

 海をみると、今年はしっかりとガラ藻が密生している。このポイントはこのガラ藻の存在で好不調を左右しているような気がする。今年は台風も来ず、冬もさほど荒れなかったためだろう。
 典型的なノッコミ場なのだ。今年は期待できる。

 ただし、ほぼ100%、掛かったチヌは藻に潜るので、釣り上げるのは結構面倒ではある。


 アタリ一帯に10分ほどかけてしっかりマキエを打ち込んでから仕掛けを準備する。


 マスクをしている、ということは、釣り人にとって第3の手である「口」がすぐに使えない。

 これは仕掛けを作るときにかなり不自由を伴うことになる。

 そこで、面倒なので浮きは端から2Bをセレクト。これで一日釣ろう。かなりいい加減だけれど、まぁここならそんなものだろう。


 道糸にBのガン玉。ハリスにG7を2つ打って、浮き止めを4ヒロの位置にセット。ハリスをフリーにするかどうかはあとでもう一度考えるけれど、意志を持ってハリスを沈めるには、完全フリーよりはこの方がイメージしやすい。


 さて、始めよう。仕掛けを駆け上がりより竿1本ほど沖に投げ、マキエを打つ。


 サングラスが曇る。まったくマスクと眼鏡というのは相性が悪い。

 ユニチャームの超立体の「Super」というのを着けている。通常の超立体ははっきり言って駄作だ。鼻の周辺が完全に開いてしまって、花粉も入るだろうし、何より眼鏡が曇りまくる。
 この「Super」はこのユーザの苦情を反映したのか、鼻のところに形状固定できる針金入り?シートが入っている。

 結論的には、これでも結局やっぱり眼鏡は曇る。

 超立体の上に、安物の鼻のところに針金が入ったマスクを被せている。超立体は僕の顔の大きさだと顎の下まで完全に回り込まないため、大あくびをするとマスクの下端が口の中に入ってしまう。やはり普通サイズじゃだめか。
 つまり、鼻周りだけでなくて、顎周りの空間も不安だ。安物マスクは大きいのを買っているので、鼻の上から顎の下まで完全に覆ってくれる。

 それに、2重、という安心感もある。
 けれど、やはり眼鏡は曇る。

 ところで、少し調べてみると、僕が使っているような不織布のマスクは、安物だろうが何だろうが、99.5%〜99.9%花粉はシャットダウンできるそうだ。・・・2重には意味がなさそうだ。


 曇るサングラスにイライラしながら、それでもすでに完成度の高い鳴き声を響かせているウグイスの声と、穏やかな波の音に包まれて、やはりゆったりとした時間を過ごす。

 コーヒーでも入れたいところだけれど、コーヒーを飲むにはマスクを外さなければならないので、パーコレータなどは持って来ていない。

 まったく、花粉というやつは、どこまで人の楽しみを奪い、邪魔すればいいのだろう。


 磯ベラが竿を曲げる。

 静かな時間が過ぎる。

 ヒガンフグが竿を曲げる。こいつは30cmほどになる瀬戸内では大型のおなじみのフグ。
 やっかいなのは重たいので引き抜けないことがある、という点だ。まぁ無理矢理ラインを持って引っ張り上げれば対外ハリスが切れるのだけれど。こいつは口もデカイし、殆どの場合飲み込んでいるから。


 釣れるとすれば、9時過ぎの潮止まりが過ぎて、潮が動き始めた直後。ここでだめなら、それから3時間くらいだろう。

 潮止まりを過ぎる。潮が動き始める。

 このタイミングでは、やはりヒガンフグと磯ベラ。それとクジメが一匹掛かっただけだった。

 やはりまだ早いんだろうな。ここは。


 下げ潮に入ってから1時間半ほど過ぎたとき、浮きがスーッと入った。

 おお!?と思っていると、道糸がススッっと動いている。


 よっしゃ!
 ブォンとアワセると、チヌの重量感が伝わってくる。しかし小さいかなぁ。

 浮き下4ヒロで藻の際。そんなところで掛けると、すぐに藻に入ってしまうのも致し方ない。

 こうなると魚とのやり取りを楽しむ、というものではなくなってきて、藻から魚を抜くテクニックだけの話になってくる。

 やれやれ。

 大きく竿をたわませて、ゆっくり揺すってみる。少し手前に寄った。

 もう一度。また少し寄った。

 が、ここで動かなくなる。ラインを緩めてチヌが動くのを待つ。

 動き始める。

 一気に引き上げるように引っ張る。

 お、出てきた出てきた。

 一応玉網ですくい取ったのは、やはり小さくて31cmのチヌだった。

 

 掛けたタナがおそらく2ヒロほどのところなので、これはある程度数が集まって浮いてきたか?と期待した。ならば続くか、と思ったのだけれど、結局それっきりチヌの反応はなくなり、磯ベラが時折掛かり、沖でなにか小魚が時折跳ねるだけとなった。

 3ヒロを完全に馴染ませたときにスズメダイが掛かる。よく分からんやつだ。


 12時を回る。今日は16時までに帰るように言われていたので、14時くらいまでは竿を振っていてもいいのだけれど、どうも僕の周辺で僕に無言の圧力を掛け続けている花粉が気になるし、もう予測した釣れるであろう、という時間も過ぎるので、ここで竿を畳むことにした。


 車に戻り、流れるほど目薬を差しす。

 外したマスクをもう一度つけよう、と思ったら、2枚とも吐息で湿って気持ちが悪い。諦めてマスクなしで帰ることにする。




 ・・・それほど花粉を吸ったとは思わなかったのだけれどなぁ。


 ああ、オーバーかも知れないけれど、今は生きているだけで精一杯だ。こんなものを書いている自分に拍手を送りたい。ああ、頭が痛い...

 やっと一ヶ月。まったく早くから花粉症が始まるから...ああ、辛い。



 

気がつけば桜舞う頃

 周防大島の海岸沿いの道を大島大橋に向かって走る。

 天気予報より風は少し強く吹いていて、もう半分以上散っている桜の木から桜色の吹雪が舞っている。
 道路に落ちた桜色は、車が走ると巻き上げられて、そして僕の車に降りかかる。


 春の終わりを待ちわびる...そんなことを言っていたが、もう春が終わりつつあるようなこの風景には、なんだか寂しいような、勿体ないような、そんな気持ちになる。

 勝手なものだなぁ、と我ながら思うが、これもすでに花粉症が落ち着いてきているからなのだろう。

 未だ檜の花粉は飛んでいるようなのだけれど、おそらく、僕は檜より杉花粉に敏感なのだろう。
 2月〜3月頭は非道い目にあったが、今日は一日マスクもつけずに釣りをしていたのだけれど、ほとんど問題がない。まぁ薬は今しばらく飲まないと辛いだろうけれど。


 さて、こうなってくると勝手なもので、春は長続きしてもらわなければならない。
 花粉さえ飛ばなければ、春はゆっくり釣りができる時期だからね。


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 5時に起きて、5時半に家を出る。

 4月に入ってからのこの1週間。何がどうしたのか分からないが、妙に会社でやることが多くて、帰りが遅くなりがちだ。かなりクタクタなのだけれど、そろそろ釣りに行かなければ...海を見に行かないと色んなところのバランスを崩してしまいそうだ。

 少し眠たかったのだけれど、がんばって起きた。

 いつものようにいつものコンビニでパンとホットドリンクを買って、そして西に走る。

 6時頃にはもう明るくなってくる。これは平日6時に起きている僕は知っているので、とくに驚くことはないのだけれど、それにしても朝が早くなったな。

 釣具屋で解凍予約していたオキアミ3kg、凍ったままのオキアミ1kg、チヌパワームギ、白チヌを購入。釣行ペースがあまりに悪いため、海の状況が分からない。分からないからマキエをどうするか?が難しい。
 ノッコミも盛期であればオキアミ6kgとしたいところなのだけれど、気温ほど水温上昇していなければ、まだ大島の地磯では盛期でないかも知れない。そうなると撒きすぎる固形物は毒になる。
 そんな考えから粉で量を増やすことにした。


 車を停めて荷造りをして、そして歩き始める。
 大した距離ではないが、一部ロッククライミング状態になるので、それなりに息を切らして釣り座に到着。

 浅瀬には草フグが戯れていて、僕の足音に驚いて深みに戻る。どうせマキエを打てば寄ってくるくせになぁ。


 見事なまでの明瞭なウグイスの声が響き渡っている。もやもやしている頭の中がその清冽な声で洗い流される。

 マキエを作り、そして3分ほどひたすら広範囲にマキエを入れて、そして仕掛けを投入するあたりに集中的にマキエを入れておく。


 さて...と。

 CampinGAZのバーナをブタンガスボンベに取り付ける。
 パーコレータにコーヒー粉を入れて、4杯分ほどのところまで重たい思いをして持ってきた水を入れる。

 

 火を着けてから仕掛けをセット。

 釣具屋で思いつきで買ってみた大知浮き0号Mサイズをセットしてみる。大知浮きといえばガラス管内挿で糸滑りがよく、スルスル釣りに持ってこい、ということだったと思うのだけれど、初めて買ってみたのでどんなものかよく分からない。高いんだよなぁ。これ。

 0号の浮きが一つ欲しいな、と思ったのだけれど、釣具屋にプロ山元浮き0号が見あたらなかったため、試しに...と思って買ってみたのだ。


 僕は基本的にスルスル釣りはしないのだけれど、まぁものは試し、ということで、いつもの半円シモリ玉は入れずに浮きを通す。
 ここは水深が竿2歩はあるため、ハリスにG7を2つ打っておく。おそらくこれくらいはしないと、仕掛けは入らないだろう。

 マキエを多めに、面積をもって打つ。面にマキエを入れるのはノッコミの釣りだ。

 思うように仕掛けが入らない。
 いや、入らないことはないのだけれど、チヌが浮いていない時間に上層でゆっくり沈める、ということができない性格なので、だんだんイライラしてきた。

 ・・・後で使おう。

 浮きをプロ山元浮きBに交換して、道糸にG2のジンタンオモリを追加。

 B設定にすれば随分仕掛けを落とすのも楽になる。
 
 仕掛けを投入して、G2が先行して沈まないよう軽く引き戻しながら仕掛けを沈めていく。

 エサは盗られる。が、反応はイマイチだな。まぁこの時期は日が高くなってからが勝負だから仕方ないか。


 パーコレータで淹れたコーヒーは、何かドリップしたコーヒーと違うな。

 コーヒーを飲み始めると、これが旨いのでひたすら飲み続けてしまう。ああ、気持ちいいなぁ。竿などはほとんど持っているだけ。まぁいいさ。どのみち寄せる時間だしな。

 おおそうだ、ついでに...

 昨夕、someさんからメールを貰って返信していないことを思い出した。

 竿を持ったままメールを打っていると、いきなり穂先に衝撃。ありゃりゃ...試しにアワセを入れてみるが、案の定掛からない。

 「集中しなくちゃだめだな(笑)」とメールの最後に入れて発信する。


 しかしさっきのは?チヌ?う〜ん...



 しばらくしてこの正体が明らかになった。

 アジだ。小アジだ。おいおい、そりゃないだろう?この時期も小アジなのかい?


 まったくもって近年の周防大島の海は小アジに占拠されている。どこでもいつでもなんどでも。アジばかり。今日も念のためネリエは持ってきているが、小アジだらけだとネリエで待ちの要素の強い釣りになってしまうので面白みが薄いのだ。

 で、ネリエをつけてみる。そうすると案の定デカイヒガンフグ。ああああああ、ほんとにいつもの一番ツマラナイパターンじゃないか。


 アジを水くみバケツに入れておく。あ、逃げた...もう一度釣って入れておく。


 アタリ。しかし何となく鈍いアタリ。なんだ?

 おお、アイナメではないか。30cmにはちょっと満たないが、煮付けが楽しみなサイズ。
 ストリンガーに掛けておく。


 腹減ってきたな。よし、そろそろだな。


 そろそろ満潮潮止まり前の時合いを迎えようという10過ぎの時間なのだけれど、まぁチヌは昼前ころに1〜2枚は釣れるだろうから、心の赴くまま行動することにする。


 スノーピークのパーソナルクッカーNo,3の一番大きな鍋に、家から持ってきた米1.5合を入れる。

 そう、とうとうこんなことまでやり始めた。

 釣り座から海面近くの足場まで降りて、鍋に海水を...おおおっと、波で米が引き出されてしまった。これはイカン。マグカップで海水を鍋に入れることにする。

 米を海水でといて、そして持ってきた水を入れる。

 僕は常日頃から自分が遅い晩ご飯を食べた後、翌日僕の弁当のための炊飯器のセットをしている。
 特技、といってもいいと思うのだけれど、釜の目盛りを見たり、計量カップを使ったりしなくても、水を蛇口からジャジャっと入れるだけで、ほぼ適切な水を入れることができる。・・・何となく悲しい特技だ。

 だから、ここでも適当に水を入れれば、おそらく適当な量になるだろう。

 そして、水くみバケツのなかの18cmほどのアジの頭を取り、内臓を出し、鱗を打って...ついでに邪魔なので尾びれも切って、それから腹側から包丁をいれて開き状態にする。
 これを米の上に置いて準備完了。

 バーナーの上に鍋を置いて、蓋をして火を着ける。

 飯盒に比べると蓋が外れやすい(置いているだけ)なのが気になるが...

 案の定、沸騰し始めたとたんに蓋が開いてしまった。いかんなぁ。マグカップに水を少し入れて蓋の上に置いておく。

 竿を振るが、鍋が気になって仕方ない。湯気がモウモウと立っている。


 どのタイミングで炊きあがりなのか?

 そもそも、いわゆる”アウトドア”にそれほど興味がないので、飯盒で飯を炊いたことも数える程しかないのだ。


 赤子泣いても蓋取るな。

 そうはいっても焦がしては意味がない。試しに開けてみる。

 まだホッチ状態だな。口に入れてみる。これは旨い。

 子供の頃、釣り好きの伯父さんに船で釣りに連れて行ってもらい、そこで海水でといだご飯を食べさせてもらったときの記憶が甦る。海の旨味がかすかに宿る。塩分が甘みを引き立てる。

 もう一度蓋をしてしばらく置く。

 竿を降る。

 ・・・ん?焦げ臭い??

 いかんいかん。再び蓋をとってみると、どうにも底の方は焦げているようだ。
 こりゃぁ鍋が台無しだなぁ。

 しかし鍋の中で炊きあがったご飯は想像以上に旨そうだ。

 

 本当は少し醤油を垂らして炊こうか、と思っていたのだけれど、幸い?醤油を車に忘れてきた。

 これはこれでいい。アジの出汁。海の旨味。これに少し香ばしい香りが混ざって、僕の胃を騒がせる。


 「こりゃうまい。」

 (片手でカメラを持って写したので...背景が斜めだな)

 1.5合の飯があっという間に胃に収まる。アジも旨い。
 
 このアジ飯を次に作るときは、アジをもう一匹くらい入れてみよう。


 夏に紀州釣りをするときは、釣れたチャリコでミニ鯛飯を炊いてみようかな。でもなぁ、紀州釣りは波止だから周りに人がいるんだよなぁ。落ち着かないんだよなぁ。

 地磯はいいな。僕が一番自由な場所だ。

 食べ終わった鍋の中は...


 ああ、やっぱり後始末が大変だなぁ。次はもう少し早く火を止めよう。


 下げ潮がゆるやかに動き始める。

 途端にアジが消える。

 アジの勢力がさほど強くないから、チヌが寄ればそれなりに海況に変化が出る。


 力強く浮きが海中に引き込まれる。
 アワセ!

 ぐぅ〜ん、と久しぶりにチヌの引きを味わう。サイズはいつものサイズだな。でも、やっぱり気持ちいいな。

 顔が大きい瀬戸内らしいチヌ。いい魚体だな。37cm。


 このままチヌが浮いてくるか、と思ったのだけれど、これは叶わなかった。

 つまりはノッコミらしい2桁を意識するような釣りにはならず、一枚一枚を拾うような釣りになる。


 このあともう一枚同サイズを追加。

 それからはアジが戻ってきて、ネリエをつけるとヒガンフグが釣れた。


 潮が下がるのを待ちながら、ゆっくりと竿を振る。


 大きめのネリエを底に止めて待ってみる。もたれるようなアタリに聞き合わせしたところ、確かな重量感が竿に伝わってきた。

 底で釣ったため重量感が増して感じたが、浮いてきたのは同サイズ。


 このあとも少し竿を振ったが、アジとフグしか反応せず、仕方ないので少し良さそうなサイズのアジを4匹ほどキープしてから竿を畳んだ。たまにはアジも家で食べよう。


 久しぶりの海。

 やっぱり海だな。海がいい。

 山に目をやると、半分ほど散った桜が、僕がしばらく海に来ていなかったことを告げる。

 梅の盛りに海を見て、今はもう桜が散り始めている。少し海から離れすぎていたな。



南紀は初夏だった

 ちょっとした思いつきで春の南紀を訪ねた。

 当然、南紀の快人someさんのところにお邪魔することとなる。

 毎年12月ころにお邪魔していたのだけれど、いろいろあって、去年の12月の南紀訪問は見合わせていたため、南紀の温泉に浸かりたいことと、一度ノッコミ時期の南紀に行ってみたいな、という考えが膨らんで今回の南紀遠征となった。

 天気予報では雨は免れそうにない状況だったのだけれど、遠征に行くと天候に恵まれるという僕の得意技(ただし、釣果には恵まれないのが玉に瑕)があって、ひょっとすると雨には打たれず、結局日差しに焦がされるのではないか?という予感もあった。

 結局はその通りで、土曜にパラパラと降っただけで、日曜はすっかり日差しに焦がされることとなった。天気予報は「雨」だったにもかかわらず、だ。

 もし、どうしても晴れて欲しい。そんな希望のある方。僕を遠征に招くといいかも知れない。


 さて、土曜の朝から移動したのだけれど、広島と南紀はそれはそれは遠くて...南紀にしても秋田にしてもそうだけれど、こんな友人が居なかったら、一生の内、1度いけばいい、そんな時間的に遠い場所である...たっぷり7時間近くかかる。

 someさんの家に着いたのは14時ころ。someさんは仕事が抜けられない、ということで、車を家に置いていってくれている。
 奥さんに挨拶だけして、先に届いていた荷物を開梱して車に釣り道具を積み込み、身支度をして慌てて出発。

 もう何度も南紀に訪れているので、若干の地理感は備わっている。

 今回の遠征では、夏場の紀州釣りでチヌを拝むことができている森浦湾を釣り場に選ぶことにしている。

 何せ時間がないため、一番手軽なポイントを目指す。
 通称”イルカポイント”。

 地磯へ抜ける道の脇には巨大な水槽があり、イルカが僕を迎えてくれる。そして海に浮かんだプール?では、イルカがジャンプを繰り返している。

 車を停めてすぐ下の地磯に荷物を運ぶ。さすがに空模様が怪しいため、荷物は最小限にしておく。


 マキエは、someさんが解凍しておいてくれたオキアミ生3kgと、チヌパワーV9遠投とグレパワーV9。
 本来ならチヌパワームギを使いたいところなのだけれど、南紀ではチヌのフカセ釣りはメジャーでなく、選べるほどチヌ用のマキエの種類がないのだ。

 真珠養殖のビン玉が沖に並び、足下には藻がそれなりに生えている。ノッコミには少し深すぎる感もあるが、雰囲気は御荘などのそれに似ていて、否が応でも期待感が高まる。

 風が強く、ライン操作が難しいが、まぁ釣りにならないことはない。


 遠投浮かせをイメージして仕掛けを入れ、マキエは少し手前に広がるように打ち込む。

 仕掛けはとりあえずプロ山元浮き2Bに、道糸にBのガン玉。ハリスの最上段にG5を一つ。若干過浮力気味だが、これで様子を見てみる。ハリスのG5は状況に応じてハリスの中段に移動させることになるかも知れない。浮き止めはとりあえず4ヒロ。

 風が強く道糸が押され気味になることと、緩やかな当て潮の影響で、仕掛けがどんどん手前によってくる。釣りづらい。


 サシエが残る時間が続く。
 南紀の海は、瀬戸内と比べると明らかにエサ取りが少ない。エサ取りはチヌを寄せる重要なファクターなので、エサ取りが少ないと寄せるのにどうしても時間が掛かってしまう。

 根気よくマキエを入れる。
 徐々に足下に小魚が見え始め、ボラの姿も見え始める。
 さらにコッパグレがマキエに反転している姿もちらほら。

 ここまでにすでに1時間半。予想としては17時くらいに釣れる...か?

 ボラが竿を曲げる。やる気のないボラなので、そのままズリズリと磯に引き上げて針を外す。


 17時。
 計ったように浮きが潜行。

 アワセ!

 グゥンっと重量感が伝わり、グングンと首を振るような手応えが伝わってくる。
 「おお!俺、凄いじゃん!」

 ・・・が...

 様子がおかしい。最初はチヌっぽかったのだけれど、やり取りしているとどうにも違う。潔さがない。これはチヌと違う。まさか...げ...ボラ...時々いるんだよね、こういう紛らわしい引きするボラ。

 結局、浮きをG2に換えてみたり、3Bにして底を探ってみたりといろいろやっては見たのだけれど、そのまま18時半くらいまで竿を振っても、それらしい雰囲気を伺えないまま竿を畳むこととなった。



 旨いものをsomeさんに食べさせてもらい、温泉でリフレッシュする。

 しかし、夜中は激しい雨。雨音で目が覚めたくらいだ。

 あらかじめsomeさんにはこう伝えてある。
 「大荒れの天気でまで竿を出すつもりはないので、そうなったら温泉三昧、付き合ってくださいね。」

 南紀の温泉をハシゴするなどと、これまた夢のような話で、それはそれで非常に楽しみ。夜中の激しい雨音で、すっかり気分は温泉モードになっていた。


 しかし、遠征時に雨に降られない男というのは、本当に我ながら大したものだ。

 携帯のアラームで目を覚ますと、すっかり雨は上がっている。相変わらず雨の予報で降水確率も高いのだけれど、これは...


 someさんと森浦湾を目指す。この日のポイントは”炭焼き”と呼ばれるところ。以前、紀州釣りで永易さんと一緒に竿を出したことがある。

 切れ込んだ湾内に向かって真珠養殖のビン玉が並ぶ。湾内は徐々に浅くなっていて、湾奥ではゴロタの浜となっている。

 湾口あたりに釣り座を構えてビン玉方向に仕掛けを入れれば、ちょうどその辺りに大きな駆け上がりがあって、理想的なポイントとなっている。

 この湾口向きは以前紀州釣りで僕が竿を出した場所で、僕はここに釣り座を構え、someさんは以前永易さんが竿を出した沖向きの釣り座に入る。


 マキエはオキアミ生3kgと、チヌパワーV9遠投2袋と3倍コマセチヌ1袋。
 前日の状況から、あまりオキアミは沢山入れない方がいいだろう、と考えた。エサ取りが少なすぎるのだ。

 竿を出して直後はサシエが残っていたのだが、1時間もしない内にサシエが触られ始めた。
 これは前日に比べれば期待が持てるな。


 時折抜けるような青空が見え、もう春とは言えないような日差しが照りつける。
 山に目をやると、すでに山桜の名残もなく、目に染みるような新緑が輝いている。

 ああ、もう夏に向かっているなぁ。

 のどかである。気持ちがいい。


 よりいっそうのどかさを演出してくれようとしているのか?
 時間が経つと、餌が残りっぱなしになってきた。

 ボラの群れは目の前を右往左往している。何か解らない小魚は目の前に見える。だが、海の中はあまりに静かだ。

 潮が湾奥から左沖に出るような流れのときはまだ良いのだけれど、ビン玉方向から、さらに湾奥に流れ出すといっそうこの状態は顕著となってくる。

 少し遠投気味に仕掛けを入れ、流れに任せていろいろなラインを探ってみるけれど、反応はない。

 青アジ、といわれる、瀬戸内では見かけないアジ。小さなガシラ。磯ベラ。見かけた魚はそんなものだ。


 someさんも似たような状況のようで、僕としては春の南紀で大爆発、を期待していたため、すでに意気消沈してきていた。
 夕方までしっかり釣れば、ひょっとすると夕方にスイッチが入るかもしれない、という期待感はある。

 が、それにしてもあまりにチヌの雰囲気が感じられない。ノッコミのタイミングが合っていないのか?
 いくらチヌの魚影が濃いとは言えない南紀であっても、ノッコミにタイミングが合えば、少しくらい雰囲気が伝わってきそうなものだ。


 昼頃、someさんが魅力的な提案をしてくれた。

 上手い蕎麦屋で昼に蕎麦を食べ、本宮あたりに入って温泉に浸かり、さらにお勧めのラーメンを食べないか?と。

 蕎麦、温泉三昧、ラーメン。

 対するは無愛想な海。


 それは前者の勝ちだろう。13時まで竿を振り、そして、やはり何の雰囲気の変化のないまま竿を畳んだ。


 一筋縄ではいかない。3月頃に来てみたい気もするのだけれど、花粉症がピークのその時期に、遠征をしようという気力が湧かないしなぁ。

 まあいいや。あとは温泉と旨いもので楽しもう。釣りはまた今度...



 温泉に浸かると、someさんは日焼けで痛い、と言っていた。僕はそうでもない、と思っていたのだけれど、よく見ると顔も黒くなっているし、袖をまくっていた腕の先はしっかり日焼けしている。

 釣果より、こうして少し早い南紀の初夏に炙られることの方が幸せかな。
 南紀の青空、温泉、旨いもの、友。今度は夏にでも来たいものだな。竿は無くてもいい。someさんのカヌーで熊野川下り、なんていうのも本当に楽しそうだ。

 

静かな春

 ゴールデンウィーク。今年は9連休なのだけれど、いつものことながら、休みの日、というのは早く過ぎる。
 釣りに行こう、と思っても、女房は暦通りの出勤だし、何だかんだと家の用事もあって、結局二日くらい釣りに行ければいいところ、というのがいつものパターンだ。

 子供も大きくなって、皆それぞれが何かと用事を持っていて、だんだんと時間が思うようにならなくなってきているように感じる。
 車が一台しかない、というのもかなり辛いところだね。


 いつの間にか出来ていた「昭和の日」という休日。まぁ休みなら何でもいいのだけれどね。以前は天皇誕生日だったっけ。

 我が兄貴分、Kabe兄が連休初日の土曜から京都から帰ってきていたのだけれど、土曜は車が使えなかったこともあって、日曜、昭和の日に竿を並べることにした。Kabe兄は連休前半しか地元岩国に居られないようなので、この連休はこの日しか竿を並べられそうにない。

 いつもならこんなに早くは出掛けないのだけれど、7時半ころが満潮の潮回りなので、少し早めに出ないとそれこそどこの地磯にも入れなくなる、と考えて、5時半にKabe兄をピックアップすることにした。

 4時半に起きる。

 5時前に家を出て、どうにも最大で5分ほど約束の5時半に遅れそうなので、途中で「遅れそうです、近づいたら連絡します。」とメールを入れておく。

 3分遅れで到着。
 「全然遅れてないやんか!」とKabe兄。

 僕は、待つのは苦痛ではないのだけれど(限度はあるけど)、人を待たすのは凄く苦痛なのだ。

 5時半、と約束したら、5分前には着いて、ぼーっとしておくのが僕の精神衛生上は良い。


 あれこれと近況報告しながら、釣具屋で餌を買い、釣り場を目指す。

 大島大橋を渡り、周防大島に入る。当然ながらすでにかなり潮位が高い。

 Kabe兄のリクエストもあり、ゴロタ浜のポイントに向かうことにしている。ここは最高潮位が高いときの満潮時には入れないが、この日はさほど最高潮位が高くないので、満潮時間の少し前に入れば十分に入れるだろう。

 車を停め、身支度をする。
 車の中には、パーコレータ、コーヒー(お土産でももらったコナのブレンドコーヒー。100%コナが良かったのだけれど、あれは高いからなあ。)水2L、マグカップなどがある。
 しかしこれらは置いていく。コーヒーなどはわざわざ前夜に新品を開封したものだ。
 しかしこれらは置いていく。

 なぜなら...ガス、忘れた。

 「使えないヤツだなぁ〜」とKabe兄。ははは。


 釣り座の大岩の脇に荷物を降ろし、少し急いでマキエを作る。
 チヌの活性が高ければ、早めにマキエを聞かせて、下げ始めの時合いで少し釣っておきたいところ。

 マキエはオキアミ生3kg。チヌパワームギ、白チヌを各1袋。ここのところこのパターンが多いが、粉成分が多く、白チヌは粘りも出るので、こういう遠投ポイントでは使いやすい。

 大岩の上に重たいバッカンを押し上げ、たっぷりとマキエを入れておく。さあ、食事の時間だぞ。


 仕掛けはとりあえず大知浮き0号Mサイズをセットし、浮き止めを4ヒロあたりに着ける。

 駆け上がりの際に藻が密集しているため、駆け上がりの沖で浮かせて釣るのがここの釣り方になる。大知浮きは結構遠投が効くし、浮かせて釣るなら0号でいい、というのが理由。

 ただし、スルスルで釣る訳でもなく、ハリスにはG7のジンタンを2つ段打ちしている。


 仕掛けを作る合間にもマキエを入れる。


 さて、始めよう。

 しばらくはサシエが残るが、これは仕方ない。まだこの時期は早朝よりある程度日が高くなってからの方がいいはずだし、どのみちそのうち草フグ、スズメダイ、磯ベラが活性を上げてくるはず。


 Kabe兄は大岩の上のスペースが狭いことを嫌って別の場所から竿を振り始めた。

 大岩の上は定員2人だから並んで釣ろう、と思っていたのだけれど、スペースが狭いと足下が不安、というので、ここを譲ろうか、と言うと、いや、いい、いい。とのこと。


 少しして...穂先にからみついた道糸をほぐそうとして竿先を振ると、身体にリールのハンドルが当たったのだと思うのだけれど、糸が巻き取られ、穂先が変な方向に向いた。

 ・・・あっちゃぁ〜

 久しぶり穂先を折ってしまった。しかも思いっきり。アテンダーは折れ難いのだけれどね。


 仕方なく竿を換える。チヌ競技スペシャル。Kabe兄からの無期限借り受け品だ。
 Kabe兄はいまシマノファンで普段使わないことと、昔僕がG杯に出るのに予備ロッドが無かったことから無期限で貸してくれている。貸してくれている、というと聞こえはいいが、殆ど貰ってしまっているに近い。なんとも有り難い。
 このチヌ競技SPは、G杯広島湾予選を勝ち抜いた時に使ったため、僕としても思い入れが深い(中国地区予選で敗退。ただし、じゃんけん負けだけど。)。

 思い起こせば、ちょうどこのポイントでこの竿を預かったのだ。
 そのとき、丁度僕が当時使っていたプレシードSPの穂先を折ってしまった。Kabe兄から預かったチヌ競技SPも穂先が折れた状態だった。

 車に戻り、近くの釣具屋にいって、間に合わせでトップガイドをつけた。実はそのときのままの状態でずっと使っている。

 アテンダーも穂先は買わずにおこうか、と思っている。ガイド一個分詰めて、穂先を着ければいい。

 かなりいい加減な話なのだけれど、僕の普段のスタイルだと、穂先でアタリをとるような釣り方はしない。
 浮きにアタリを出すことに喜びを感じる方だし、いざとなれば道糸の動きでアワセを入れている。
 また、穂先をひったくるようなアタリには穂先の繊細さなど関係ないし、そもそも僕は道糸と竿の角度は非常に小さくしていることが多い。

 当然、我流で染みついた釣りなので、理に適っていない部分もあるだろうけれど、まぁ無理なく楽しめて、そこそこ釣れればいいや、と思っている。


 じわっとした、あまり気持ちよくない反応が浮きに出る。
 念のため、と思ってアワセを入れてみると、これはチヌ。藻に突っ込んだのを半ば無理矢理引き出して抜き上げよう、としたのだけれど、チヌ競技の柔らかさだとこのサイズのチヌは引き抜けない。
 玉網ですくい取る。31cm。



 竿を振りながらKabe兄の釣りを見ていると、低い釣り座から仕掛けを入れているため、どうにも充分に駆け上がりの沖に仕掛けが入っていないようだ。高い位置からみるとよく見える。

 これは...と思い、半ば強引に大岩の上に移動を勧める。

 バッカンを僕が持って、大岩の上に...

 大岩に登る足がかりに、少し離れた岩の上から足を伸ばす。

 楽勝なはずだった。が、バッカンの重さで身体が大岩から引き離される。こんなはずはないのだが...どうにもここのところの釣行不足と運動不足で、明らかにバランス感覚が悪くなり、また筋力も落ちている様子...だめ。必死で岩を掴むが支えられない。落ちる、というか、転ぶ。

 これを理解すると経験がものを言ってくる。岩場で落ちそうになったら、変に逆らわないこと。これが大事だ。

 まず、どこにどう落ちるか、を落ち着いて観察する。
 ここは大小の岩がごろごろと転がり、積み重なっている場所なので、しっかり確認しないと大けがのものととなる。

 平らな岩を確認。あとは落ちるというより、そこに目掛けて身体を押し出す。
 着地。が、バッカンの重みもあり、立てない。そのままそこに腰を落とす。やれやれ。

 Kabe兄が笑っている。ふん!だ。


 しかし、立とう、とすると、右足首に痛み。どこでどう捻ったか解らないが、軽い捻挫のようだ。こんなことで捻挫をするなど、自分としては考えられないのだけれど、40も近づいて来て、身体も硬くなっているのかも知れない。冗談抜きで少し鍛えないとヤバイかな。


 さて、Kabe兄と肩を並べて竿を振る。


 アタリ!
 アワセ!...漂う道糸。げ、フグだ。

 大知浮きが流れて...いかない。沈んでいった。ありゃ、ホントにチヌが食ってたな。
 高い浮き。ああ、勿体ない。やっぱりあんな高い浮きを使うものじゃないな。


 時間が経つにつれ、風が強くなってきた。朝から風はあったのだけれど、徐々に釣りづらくなる。
 浮きを2Bにして、水中浮き−Bをセット。遠投性の確保と、仕掛けの落ち着きを優先する。


 ヒガンフグや磯ベラが時折竿を曲げる。どうにもチヌの気配が出ない。
 ここはノッコミの時期には2桁も充分期待できる場所なのだけれど、どうにも...


 潮位が下がってきて、Kabe兄は干出した岩の上に移動。

 僕はもう少し大岩の上から竿を振ることにする。

 

 またすっきりしないアタリ。しょうがねぇなぁ。

 アワセ!

 グゥンっとそれなりの重量感。お、これはまずまずかな。
 強引なやり取りをせず、ゆっくりとチヌを扱う。もの切れ目に遊動して引き寄せる。僅かに藻に掛かるが、これは揺すれば切れるので問題ない。

 ふと背後を見ると玉網がない。大岩に立てかけるようにおいている。
 玉網を拾い上げていると、Kabe兄が玉網をもって駆けつけてくれた。

 しかしすでに足下はゴロタの浜。掬ってもらおう、としている間にほとんどずり上げ状態。
 念のためすくい取ってもらった。これは40cm。しかし、どうも腹が膨れていない。どうなってるんだ?雄か?


 ノッコミらしくない状態は続く。すなわち、アタリは続かない。


 いい天気だ。
 「ああ、こんなところでコーヒー飲んだら旨いんだけどなぁ」とKabe兄。ったく。

 しかし、本当にこうして穏やかな海を眺めて、またアタリがない時間が続くと、コーヒーでも潮風に吹かれながら飲みたいものだ。本当に僕の忘れっぽさには困ったものだ。



 僕もゴロタに降りて竿を振る。海面が近づいて風の影響を受けにくくなるのは助かる。
 また海岸線も随分前に出たため、駆け上がりが近づいている。

 ノッコミのシーズンは、午後に入ってからアタリが出ることが多いように思う。
 これは未だ水温が低い時期であるためで、太陽光線が当たることによって、魚の活性が上がってくることと、撒けば撒くほど寄ってくる(理想的には)このシーズン特有のことなのだろう。

 が、どうにも勝手が違っていて、まったくアタリもなくなり、餌も残りっぱなしになっている。

 う〜ん...Kabe兄も同じような状況だ。


 もう拾い釣りするしかないなぁ、と考えて、
 怪しげな?藻際に止めてアタリを待つ。いっこうにアタリは出なかった...のだけれど、ようやくもたれるようなアタリ一つ。
 アワセてみるとチヌ。が、小さそうだ。藻の中から引っこ抜く。


 引き続いて竿を振っていると...まぁ集中力が切れていたんだろう...気がつけばリールがバックラッシュして道糸ぐちゃぐちゃ。解こうにも解けない。

 随分慣れては来たのだけれど、やはり昔使っていたBBXテクニウム(古いモデル)の方が使い勝手がよかったな。あれはロック状態でも糸が引き出せるし、ブレーキが掛かりながら逆転してくれるため、常時ロック状態で使えた。だから、不用意に逆転してしまうこともないし、そもそも完全にフリーにして道糸を出すことなど無いチヌ釣りには最適だった。

 今はBBXタイプ1を使っているが、このモデルのレバーロックはダイワのクイックオンオフもどきになっていて、つい、レバーから指を離した状態で注意を怠ると、テンションが掛からない状態で道糸が巻き取られて、それがまたパラパラと解け、これに気付かずリールを巻いて致命傷となる。

 どうにも解けないので、諦めて道糸切断。
 マキエの残りも少ないので、これで竿を畳むことにした。

 

 Kabe兄にその旨伝え、そして「ゆっくりやってね。」言ってから、荷物を片付け、横になる。
 太陽が眩しい。タオルを顔に掛け、風が木々を揺らす音と、波の心地よい音に身を任せ、心を解放する。
 鶯が無く。鳶が飛び、その影が僕の顔の上を通過する。

 時折タオルを持ち上げて空を眺める。

 

 ブーツを履いていると暑いので、ブーツを脱ぎ、ついでに靴下も脱いで、一段高い岩の上に足を放り投げて、また横になる。

 さっきまで感じなかった風を感じる。

 ああ、気持ちいいなぁ。


 Kabe兄が竿を畳み、厳しいながらも心地よい一日が終わった。






 ・・・・・・・

 少し日が経って5月3日。
 週間天気予報と潮回りからすると、できれば4日に釣りに行きたかったのだけれど、どうにも4日は雨っぽい。仕方なく3日に釣行することにした訳だ。

 遠浅の普通ならフカセはやらないような地磯を狙って家を出た。

 満潮が9時前なので、早起きすればそれなりに面白いポイントに入ることもできたのだけれど、どうにも眠くて...6時前に駐車スペースに車を停めようとすると、遅くても4時半、できれば4時15分には起きないといけない。これはキツイ。

 もうこんな浅い地磯がいい時期ではないかな?という期待も込めての釣り場選びだったのだけれど...


 こんなところにフカセ師は居るはずがない。もっとも、最近周防大島で地磯でフカセをやっている人もあまり見かけないような気もするのだけれど。そうでもないのかな。一度釣り場に入れば動かないから、他の地磯の状況が解らないだけなのかも知れない。


 確かにフカセ師は居なかった。

 が...投げ釣り師が居た。砂浜を歩いて、飛び出した岩場を回り込んだところに居た。

 無理をお願いして邪魔をしないように竿を出すことも可能だったかも知れないのだけれど、こういう地磯で竿を出しているような人は、ひょっとすると一人静かな時間を過ごしたいのかも知れないな、と勝手な想像を膨らませて、邪魔をしないように引き返した。


 しかし、こんなことをやっているとどんどん時間が過ぎて、そして潮位が高くなってくる。


 結局、入る釣り場がなくなって、やむを得ず、4日前と同じ釣り場に入った。

 まぁ先は見えていた。


 結果も想像通りだった。

 ただ一つ違ったのは、今度はちゃんとバーナーとガスボンベ、それにパーコレータもコーヒーも水も持ってきて、ちゃんとコーヒーを沸かして飲んだことくらいだろうか。


 ああ、旨い。悪いね、Kabe兄。


 状況は4日前と本当に同じようなものなので大幅割愛。

 釣果はさらにサイズダウンして、26と28cmの2枚。この時期にしては釣れてないに等しい結果ではあったのだけれど、チヌと同サイズのアジを3匹キープして、このチヌも持ち帰って、十分な夕食のおかずになった。

 

 結局、4日も、そして5日も、雨予報に反して雨など降らず、相変わらず、というより、どんどん精度が落ちてきているような気すらする天気予報に腹を立て、まぁエエか、と考えて、そして釣りに行けない明日で9連休は終わる。

 ああ、何にもないゴールデンウィークだったなぁ。だって、娘が部活で忙しくて、どこにも行けないのだものなぁ。もっとも、宮島界隈の混雑ぶりを見ていると、とても観光地に旅行に行こう、なんて思わないのだけれどね。




広島湾、5月、ノッコミ...ボウズ

 年に一度くらいはね、いつもと違う雰囲気で竿を振ってみるのも悪くない。

 マルキュー杯全日本チヌ釣り選手権・広島湾予選大会。

 予選しか出たことがないので、全日本、といわれてもピンと来ないところに虚しさはある。

 知らなかったのだけれど、今年から、予選大会のあとに地区代表決定戦(セミファイナル)なるものがあるらしく、これまでのように広島湾全域に散らばった選手で一番釣れた人が全国へ!ということではなくなって、渡船ごとに上位1名もしくは2名がそのセミファイナルに出場出来るそうだ。

 まぁそんなことも知らずに参加しているのはひょっとしたら僕だけかもしれないなぁ。

 このルールだと、特定のエリア内での勝負になる。トーナメント方式に比べればやはり運の作用する範囲は大きいものの、昨年までのルールに比べれば大幅に公平感が保たれる。

 これは行けるんじゃぁないか?

 ・・・甘い期待を抱いて、結局やっぱり甘かったのだけれど...


 大会の受付は4時〜5時。あまりギリギリに行くのも性格上耐えられないので、それでもほぼ地元の利ということで、朝4時5分ころに家を出た。
 草津漁港までは朝なら15分もあれば着く。

 到着すると、おそらく山陰や岡山、山口あたりからの遠征組が大半を占めるのだろうと思うけれど、すでに沢山の車が駐車場に停まっている。
 マルキュー杯広島は、キチンとした駐車場を準備してくれるのが非常に有り難い。


 すぐに受付。抽選の結果141番。渡船表を見ると大知渡船の末番で阿多田島。

 去年、一昨年と2年連続で似ノ島に上げられ、一昨年などは道路脇の小磯に降ろされていきなりやる気を削がれたりしたのだけれど、今年は阿多田、ということであれば、一応キチンとした磯で釣りができることだけは保証された訳だ。一安心。


 いつもなら駐車場でマキエを混ぜておくのだけれど、それだと水が入れられない。こうなるとオキアミの水分がすべて粉に吸い取られてしまう。

 まぁいいや、と考えて、今年はマキエは作らずにおいて、渡礁後に作ることにした。


 草津漁港から阿多田島に行くと、結構遠い。

 うつらうつらしながらようやく阿多田島。猪子の北にはすでに釣り人の姿有り。おそらく平内渡船のお客さんだろうな。他は大丈夫かな?


 船が最初に着けられたのは港入り口。夏場に何度か上がった磯で、東向きの磯で逆光は頂けないが、結構釣れるポイント。それからすぐ外側にあるヒナダンへ。

 内浦、長浦あたりに選手を降ろしたあたりで、未だ末番の僕の順番は回ってこない。釣れるなら北向きのこの辺りまでなのではないかな?などと一人悶々とする。

 0番のチョボへは一人で降りている。良さそうだなぁ。隣の芝...


 ようやく最後の僕らの番。同礁の人と一緒に降りる。ここは何という磯なのだろう?位置的には阿多田島の南西の角になるはず。2番か3番かどちらかだろうな。
 どうせならそのまま走って、官舎の下あたりに降ろしてくれると嬉しかったのだけれど。

 向かい風気味の風は気になるけれど、足下は浅く、そして藻が生えていて、少し沖に駆け上がりがある。
 見た感じだけならノッコミ時期の釣りには悪くないように思う。


 ゼッケン番号が若い同礁の方に釣り座を決めて貰う。すると、幸いなことに風上に向かう方向を選択された。
 初めての場所なのでどちら向きがいいのかは解らないけれど、釣り易さだけ考えれば、僕の釣り座の方が楽そうだ。楽なのが一番。


 「時間が無くてマキエ混ぜてきていないから、準備できたらいつでも初めてもらっていいですからね。」
 と声を掛けておく。


 今日のマキエはオキアミ生3kg、チヌパワームギ、白チヌ、そして普段なら絶対使わないメガミックスチヌを混ぜてみる。すると、マキエが臭い。ああ、止めておけばよかった。
 しかし、高集魚MP酵母+ウルトラバイトαとやらも、食わず嫌いはよくない。


 同礁の方は遠慮されているのだろうか?なかなかマキエを入れない。仕掛けがすべて整ってからようやくマキエを入れ始めた。
 そのころには僕のマキエも仕上がっていて(実は混ぜムラだらけなのだけれど)、逆に僕もマキエを大量に打ち込むのを躊躇してしまう。

 相手が釣り始めたのを見て、いつものように広範囲にしっかりとマキエを入れておく。


 杓の具合はいいようだな。

 実は、プロ山元さんのマキエ杓を使っていたのだけれど、どうにもチタンカップが薄すぎるのか?はたまたカップに沢山孔を空けすぎているのか?おそらくどちらも原因だと思うのだけれど、使っていると半年ほどでカップが変形してきて、カップと柄をつなぐ部分の溶接部分に亀裂が入ってきた。
 おそらく山元さんはグレ系の方なので、チヌ用の粘りの強いマキエにはこの杓は不向きだったのかも知れない。

 とはいえ、高い杓を放棄するのも勿体ないので、釣研のチタンカップ(のみ)を購入。1890円也。
 亀裂が入ってきているカップを外して取り付け換えすることにした。

 ところが、山元杓はカップの部分をドライヤーで熱しても全く接着部分が溶けてくれない。仕方なくライターで炙ってみてもだめ。外れない。う〜ん...

 やむなく、木工用の糸鋸で切断して、そして新しいカップを2液エポキシ系接着剤で取り付けた。


 釣研の浮きは、塗装が弱いのであまり好きではないのだけれど、昔からマキエ杓は気に入っていて、今もプラスチックカップで木の握りがついた杓を愛用している。これはかなり使い込んでいる。

 釣研のチタンカップも、プラスチックカップと同じ形状だ。


 マキエを打ってみると、前より具合がいいようだ。高くついたけれど、お気に入りの杓になってくれたので、それはそれで良かったかも知れない。



 さて、釣りの話をしようか?

 朝から草フグが非常に嬉々として、また揚々として舞い踊っている。

 おまけに沖に仕掛けをいれるとアジまでいる。


 フグはチヌが寄れば消えてくれる。大事なバロメータ。そのうち...そのうち...


 そのうち消える、と思っていたのだけれど、消えないまま納竿時間となった。以上、お終い。


 針はどんどん無くなるし、ハリスにも容赦なく噛み後をつけてくれて、5時間で3度ハリスを張り替える羽目になった。これも、2.5ヒロ近くハリスをとっておいて、それが1.5ヒロ程度になるまで使って、の話だ。


 アジ対策の練り餌はフグを呼ぶ。

 風が強いため2Bで仕掛けを落ち着けていたところを、途中、G2に変更して見たけれど、草フグのアタリをより鮮明にとらえるだけの結果となった。また2Bに戻す。

 遠投、駆け上がり、右には投げられないので左方向に前後左右。どこに投げてもフグ。


 唯一、駆け上がりの際ではときどきギザミ、ヒョコタン、小メバルが顔を出すが、小メバルが泳いでいるようではやはりチヌの気配はない。



 まさか、この時期の広島湾で5時間竿を振ってボウズとは...まったくもってヤレヤレ疲れた、という感じだ。

 昔、G杯が広島湾で予選をやっていたころ。2時間あれば1枚2枚は釣れていたのだけれどな。

 間が悪いのか、腕が悪いのか...おそらく両方なのだろうけれど、どうにもマルキュー杯は箸にも棒にもかからない結果しか出せない。


 竿を畳み、同礁の方とあれこれ話をして時間を過ごす。同礁の方は、やはり向かい風で苦労された様子。その影響もあってのことと思うのだけれど、僕が竿を振っているとき、僕の目の前をコントロールを失った浮きが2つほどプカプカと流れていった。「そうなんです。切れたんです。」
 なんとなく申し訳ない気がする。


 帰港後、例によって検量は僕には関係ないので、お楽しみ抽選会を待つ。

 どうせ当たらない。それでも...と思って待つ。

 お楽しみ抽選会。やはり当たらない。


 同礁の方とも話をしたのだけれど、G杯、マルキュー杯と広島湾で色々大会に出ても、僕が上がった島は、宮島、阿多田島、似ノ島、それと甲島が1回だけ。極めて限定的な島...大黒髪とか奈佐美とか行ってみたい磯はあるのに、いつも似たような磯ばかりが当たる。


 根本的に引きが弱いのだろうなぁ。・・・まぁいいのだけれどね。


なんでこがいに釣れんのんじゃろうかのぉ

 何度も口を突いて出る言葉を文字に落とすと、こうなる。

 「なんでこがいに釣れんのんじゃろうかのぉ」


・・・・・・・・・

 10時半ころが満潮潮止まりという、地磯アングラーには最適な潮回りの5月20日。

 ここのところの貧果にも飽きてきて、たまにはしっかりチヌを釣りたいな、という思いで釣り場を選択する。

 オキアミ生3kgとチヌパワームギ、白チヌを混ぜ合わせたマキエの入ったバッカンを、なるべく足場が確保できるように考えて置く。

 ここは満潮時には孤立する小さな釣り座。玉網も上下両端が岩から飛び出るような形にそっと置いておくしかない。

 

 このポイントは僕にとってはお助けポイント的なところがあって、ノッコミの時期もタイミングが合えば2桁は期待できるし、秋も、また夏場でもフカセができるところだ。もっとも、ここのところ周防大島を取り巻く海は、どこに行っても小アジに埋め尽くされているから、ちょっと面白みはなくなっているのだけれど。

 小アジだらけの海は、結局ネリエに頼らざるを得なくなり、ネリエをつけて草フグを我慢したら、そのうち釣れる、というパターンばかりとなる。これはとてもつまらない。
 大島でフカセ、というのも、水温上昇が一因であろうこの海況の変化を考えると、最近はあまりワクワクしなくなってきている。

 

 さて、プロ山元浮きG2をセットしたワンパターンな仕掛けでスタートする。

 いきなり草フグ。いきなり、とは言っても、仕掛けをセットする前にマキエをしっかり入れて、さらにパーコレータでコーヒーを入れて、またマキエを入れて、一服してから竿を振り始めているので、草フグたちにしてみれば、もう全開モードに入っているのかも知れない。キミタチじゃなくて、チヌを寄せたいんだけどねぇ。

 草フグが騒げばチヌも寄る。それも期待してはいるのだけれど、足下から...そう、たとえば目の細かい投網を打てば、おそらく100じゃ効かないくらい草フグが捕れるのではないか、という海を目の前にすると、なんとなく意識が遠のいていく感もあり。

 仕方なく、浮きをエアゾーンの小粒のものに交換して、さらに遠投して攻めてみる。


 すると...ほどなくして浮きが妙なアタリを拾い始める。とても嫌な予感。案の定、小アジ。はぁ(溜息)。


 沖はダメだ。

 本来、あまりこういうことはやりたくないのだけれど、マキエを足下に集中させて草フグを見える範囲だけでも寄せておく。

 すでに2時間経過しており、どうにもこうにもさほどチヌの活性が高いとは思えないため、気持ちが拾い釣りに入ってきている。草フグを蹴散らしてチヌが浮き上がってくる景色は想像できない。

 そうなると、底のあたりでウロウロしているチヌに喰っていただかざるを得ないかなぁ。
 だから、邪魔な浮いているフグを寄せておく。


 ようやく、浮きがそれっぽい沈み方をする。

 アワセ!

 重量感はあるが引きはさほど強くない。そのまま竿で矯めて浮かせ、浮かせたまま水面近くでバシャバシャしている状態のまま寄せてくる。

 もう、すっかり夏を思わせるような太陽光線を浴びて、銀鱗がキラキラと水面に映える。

 玉網ですくい取ったチヌは40cm。


 ここまで、このポイントでは理想的な右から左への流れが出ていたのだけれど、ここで流れが反転。

 アジはかなり近くまで寄ってきていて、やむなくネリエを使い始めている。
 こうなると、待ってました、と言わんばかりにフグが食いつき、ハリスに歯形を付け、また針を奪っていく。

 やれやれ。

 ネリエは魚玉のハードタイプというのが出ていたので、これを買ってきた。硬い、というより、ノーマルの魚玉よりネバリケが強いようだ。

 調子の悪いときに新しい餌を使う、というのは、難しい面がある。

 この餌で釣れた、という記憶が残れば、その餌は自分にとって心強い餌にその後なっていくのだけれど、最初に使って釣れないと、どうにも次から手が出なくなってくる。
 だから、こんな調子の悪い日に使うのは失敗だったかな。


 不安になってきて、喰わせ練り餌チヌを開封。まぁ両方とも余ったら持って帰って冷凍して、そして次に使おう。

 その喰わせ練り餌。駆け上がりに仕掛けがもたれ掛かったかな?というタイミングでアタリが出た。

 これは26cmの小さなチヌ。塩焼きサイズでキープしておく。

 本当は朝方釣れていた20〜25cmほどのアジをキープしておきたいところなのだけれど、ストリンガーには掛からないからなぁ。日が高くなってから釣れているアジは小振りだ。これでは帰り際に数匹型のいいのをキープ、という訳にはいかない。


 それから...

 「なんでこがいに釣れんのんかいのぉ。ほんまにもぉ。」
 (どうしてこんなに釣れないのだろうか。ホントにもう。)

 独り言でも言ってないとやってられないくらいに、ひたすらにフグとアジ。本当に極まれにヒョコタン(磯ベラ)が顔を出す。


 14時まで真剣にがんばってみたのだけれど、結局その後、それらしいアタリも、それらしい雰囲気も味わえないまま、納竿となった。


 

 会社の同僚が広島湾白石灯台で入れ食い状態だったとか...そんな景気のいい話も聞こえては来るのだけれど、腕の悪さもあるとはいえ、今年の周防大島のノッコミは、どうにも僕には冷たいようだ。


 もう春、といえる時期では当然ないのだけれど、チヌ師にとっての春はノッコミが終わるまで。
 
 早くノッコミと、その後の休息期が過ぎて、本当の夏になってくれないものかな。

 釣ったチヌは身が柔らかくて、食味は今ひとつだった。チヌの美味しい時期は終わったな。

 広島湾の渡船場からノッコミ狙いの混雑が消えれば、広島湾で竿を出そう。
 それに紀州釣りもある。

 早く夏の釣りにならないかな。

 夏を思わせる気温と日差しが原因なのか...今年のノッコミはもういいや、と、妙な気持ちで過ごす、春の終わりである。