晩秋、そして初冬。チヌの季節。
10月も半ばを過ぎて、朝晩は肌寒さを感じるようになってきた。
山を見ると、針葉樹に助けられて未だ深い緑のなかに、鮮やかなコントラストをもってハゼの赤が冴える。
秋だなぁ。
今年は松茸が不作らしく、ただでさえ口に入らないのに、さらに縁遠い存在になっている。
まぁいいか、サンマは旨いし。
釣行ペースが掴めないままの日々を過ごしている。釣りから離れて過ごす週末が増えて、悲しいかな、その状況に違和感を感じなくなっている。さてさて、僕の心はどこに向かっているのかな?
金曜の東京出張が続いているのが辛い。飛行機の最終で帰れば、早ければ22時半を回った頃には家に帰れるものの、どうも身体のだるさも手伝って、土曜に早起きしようという気が起こらない。
そうそう、中国出張の移動で(帰り)、土曜が潰されたりもした。
まあ、だからといってとくにストレスを貯めているわけでもない。
出張が多ければ、その分、移動時に読書もできる。
国際線の飛行機なら、行き帰りで映画を2本見ることができる。ちなみに今回の中国出張では、行きにダイハード4.0を、帰りにLife〜天国で君に会えたら〜を見た。小さな液晶スクリーンなので、ダイハードは迫力がなかったけど、退屈しない映画なのでよかった。Lifeは失敗だった。いや、内容が失敗なのではなくて、あの手の涙を誘う映画を飛行機の中で見てはダメだ。まぁホロホロと涙をこぼしながら見ていたわけで、周りの人は、なんだこいつ、と思ったかも知れない。
読書の方は、テレビドラマ化される前に...と、前々から読もうと思っていた「坂の上の雲」(司馬遼太郎)を読んでいて、中国出張中の移動時にはずっとこれを読んでいた。今、まだ6巻。
今回、中国では北京に2日ほど居たのだけれど、移動中、この「坂の上の雲」や「蒼穹の昴」(浅田次郎)で出てきた場所などを通過すると、なるほど、読書趣味はこういうところでも少しばかりの興奮を味合わせてくれるのだなぁ、と思った。
さて、そんな秋。
「広島湾のチヌ釣り」の安芸さんから、「今週あたりどう?」と筏へのお誘い。
竹下さんがこられた9月29日。気がつけばもう一月弱経っている訳なのだけれど、その後、「寒くなる前に、もう一度...」と約束していたのだった。
今回を逃すと、来週は釣りに行けない、その次の週は遠征、となって、11月も終盤まで時間がとれなくなってしまうため、是非とも、ということで、ご一緒させていただくこととした。
前日。つまり金曜日。
会社から帰って一人で食事をする。女房と娘は剣道に行っている。
帰ってくるのを待つ。22時半近くになってようやく帰ってきた。さてと...車にキーを差し込み、東へ向かう。
我が家の近所には大きな釣具店がない。海の近くだというのに、釣具店の真空スポットとなっている。かめやでも、アングルでも、レジャックスでも、ポイントでもなんでもいいから、この界隈に出店してくれないものだろうか。
五日市のアングル本店に到着。団子材を購入。アングルオリジナルブレンドの団子材、オカラダンゴ、荒挽きサナギ。
そうそう、ついでに遠征用の集魚材も買っておこう。チヌパワームギ3袋、オカラダンゴ2袋、チヌパワーV9遠投2袋。実質1.5日分だからこんなもんかな。しかしワンパターンだなぁ。
しかし、フカセ。長いことやっていないが、いきなり遠征に行って大丈夫だろうか?まぁ仕方ないが。
帰って、風呂に入って寝る。
早起きしないといけない、と思うと、どうにも寝が浅くなる傾向がある。妙な時間に目が覚めてしまうのだ。お陰で寝過ごすことはないのだけれど、睡眠不足になってしまう。聞くと、安芸さんも同じような感じだとか。
しかし、今回の睡眠不足は少し拙い。なにせ、中国出張の疲れを引きずっている。出張中、なんだかんだと現地の日本人のおもてなし精神のお陰で夜も楽しく過ごしているのだけれど、毎晩、ホテルの部屋に帰るのは日付が変わった頃なので、慢性寝不足状態になってしまっている。さらに、やはり海外での気疲れ。移動疲れ。土曜に帰国しているのだけれど、飛行機の便の関係で広島に帰ったのは日曜。月曜から当然普通に仕事。もう、一週間眠くて眠くて。
この状態だった。
渡船に揺られ、大野の鳴川海岸沖の筏に上がる。
まだ薄暗かった海の上は、みるみる明るくなってくる。
さて、団子を作ろう。
オカラダンゴ1袋をバッカンにあけて、海水をどぼどぼっと入れる。大丈夫かな?というくらい入れる。
すなちゃんの言うシャブシャブ状態にしてから、団子材半袋を投入。これは前回、あまりに団子が割れなかったことからの変化点。前回は、オカラダンゴ1袋にアングルオリジナル団子材1袋を合わせていた。そして、荒挽きサナギを入れる。
3つほどオキアミを包んだ団子を投入しておいてから、仕掛けを準備する。がまチヌ筏中硬1.2m。バイキングST44。フロロカーボン(Lハード)1.5号通し。針は改良チヌ2号。ゴム張りガン玉Bを針上30cmに打っておく。
オキアミを刺してから、釣りスタート。
う〜ん...
うん?
う〜ん...
底、なんもおらんのちゃうか?
安芸さんはアジなどを掛けて、頻繁に竿を曲げている。
僕はアジも釣っていない。これは意識的に底に留めたこともあるのだけれど、少し淋しい。僕もアジを少し釣っておこうかな、と思った頃には、アジの時合いが終わってしまっていた。
そして、とうとう安芸さんはチヌを釣る。
僕?
底、なんもおらんのちゃうか?
ウトウト...
眠い。何度も竿を持ったまま、筏から海に向けて顔から突っ込みそうになる。
それでも眠いのを我慢していると、偏頭痛がし始めた。この偏頭痛に、この日一日悩まされることになる。
底、フグは居る様子。あまり見かけない雰囲気を身にまとったフグが上がってくる。草フグ?じゃないような気がするなぁ。
このフグは徐々に海底を席捲し始めて、一日、針を取ったり、針に掛かったりし続けることになる。
ウトウト...おっっと!竿を落とすところだった。
筏の上は気持ちがいいのだ。ゆらゆらと波のリズムに身をまかせ、風は強いが寒いということもなく、これまた心地よい。おまけに偏頭痛は非道くなってきていて、もう、目を閉じて、沢山敷いてあるコンパネの上に寝ころびたい。
一人で筏に上がっていたら、おそらく寝ていただろう、と思う。

さて、安芸さんはポロポロとチヌをあげている。
僕もようやく1枚、27cmほどのチヌをあげる。
とくに工夫のないまま、手返しだけは続ける。どこかでスイッチが入るはず、と信じる。チヌが居ないわけではないのだから。
どうにも、チヌが浮いているらしい。
安芸さんは、底で団子を割った後、仕掛けを持ち上げてチヌを掛けているようだ。
どうするかな?
2〜3度、中層で団子からサシエを抜いて、そこから落とし込んでみる。が、今ひとつしゃきっとしない。
まぁいいや、と、結局底釣りに徹する。
後で考えてみると、底にこれだけフグが居る、ということは、チヌが上ずっていることを把握する材料になっていたのだ。
14時半の迎えに対して、13時50分ころ、僕は竿を畳んだ。まもなく安芸さんも竿を畳む。
僕は1枚、安芸さんは5枚。

筏釣りも難しいな。広島には広島の筏釣りがある、ということだな。
来年、また来てみよう。
冒頭に書いたハゼの赤。
実は僕はハゼという名前に辿り着けなかった。
「あの紅葉、あれ、何て言う木でしたっけ?」
「ああ、あれ?えっと、ハゼだよ。ハゼ。」
「ああ、ハゼですか。」
「海に浮いてましたよね、あれ。」
「ああ、浮いてたね。」
そう、ハゼの紅葉は山の緑の中だけでなく、海の上でもその赤が僕の目を惹きつけていた。
山の緑の中の赤。海の緑の中の赤。
偏頭痛に時折顔をしかめながら、それでもハゼの葉一枚に秋を感じる。
急激に冷え込んできて、すでに寒さに怯えつつあるこの頃である。
寒いだ、暑いだ、と、なんだかんだと理屈を付けて動かなくなると終わりだなぁ、と思いつつも、やはり寒いのはあまり好きでない僕としては、"今年の冬"を前にして萎縮気味なのだった。寒そうな予感がするんだよなぁ、今年の冬は。ラニーニャ...
さて、外せない仕事関係のつきあいで、広島駅ビルASSEにある「かなわ」で牡蠣を食べている。
6年くらい前までは実はあまり牡蠣は好きではなかったのだけれど、かなわの本店である「かき船かなわ」で牡蠣を食べて以来、牡蠣好きに変わってしまった。やはり高いだけのことはあって、旨い。
北陸越前ガニの本場三国港で越前ガニを味わったときもそうだった。もっとも、カニは昔から好きなのだけれど、あれほどカニが旨いとは思っていなかった。
最初に本当に旨い"もの"を食べると、おそらくその"もの"の種類は好きになるのではないかな?
例えば刺身などもそうで、生くさい刺身を子供の頃食べさせられると、刺身は嫌いになる。が、大人になって美味しい(得てしてそういうものは高かったり、安くてもそこにたどり着くまでが困難だったりする)刺身を食べて、自分の錯誤に気づくのだ。
そう考えると、裕福な家庭とそうでない家庭とで、そこに生まれた子の食性は方向性が変わってくる可能性もある。当然、例えば港町に生まれれば安くて美味しい魚を食べることができる、といった別の要件も加わってはくるのだけれど。
この日のかなわには、牡蠣が苦手、という人が来ていて、牡蠣づくしのコースではあまりに惨いだろう、と考えて、その人の分だけ、コースのうち半分を牡蠣以外に変えてもらっていた。残り半分は本人も同意の上での冒険である。
予感はあった。自分がそうだったから。
案の定、「どう?」と聞くと「おいしい」と。次からは牡蠣オンリーでもいいそうだ。
ちなみに牡蠣はやはり殻付き焼き牡蠣が一番だね。焼くとき、殻を開けるとき、食べるとき...おっと注意してね。下側の殻の中の汁をこぼしちゃ勿体ないよ。そりゃぁ旨いから。
ちらりちらりと腕時計を見る。時間が気になっているのは僕だ。
朝、忘れずに冷凍庫から「食わせ練り餌チヌ」を出して、会社に着いたら会社にある冷蔵庫にこそっと練り餌を入れておいて、また忘れずにここから出してかなわまで持ってきている。忘れっぽい僕からすると、これだけでも快挙だ。
のんびりしている暇はないのだ。
僕は行くのだ。2年ぶり。そして2度目の対馬へ。
バタバタと新幹線に乗り込み、一路博多へ。普段ならジーパンなのだけれど、今回は「かなわ」があったためこれが叶わず、ジャケットを着てきている。釣りに行く格好じゃないなぁ。僕のイメージでは。
博多着。いつもながら賑やかな駅だ。僕の宿は駅から10分ほど歩いた、少し寂れた雰囲気の場所にあるホテル。一泊4600円。節約節約。
安いホテル、というのは、やはり安いなりで、このホテルはベッドも小さく、線路脇で結構うるさく、あまり快適ではなかった。
くわえて、朝、寝過ごしてはいけない、と思うと、どうにも眠りが浅くなる傾向がある。寝てはいるのだけれど、2時間おきくらいに目が覚めてしまうのだ。こんな話をすると、釣り友達のAさんも同じだ、といっていた。
そんなわけで寝不足なまま11月17日の朝を迎える。
7時50分の福岡空港発対馬行きのANA便に乗る予定。少し余裕をもってホテルを出る。
そうそう、一つ面白い、というか、間抜けな話がある。
対馬の宿に釣り道具や着替えを一週間前にすでに送っているのだけれど、ここにパンツを2枚入れた。2泊するから2枚だ。
博多に一緒に来たボストンバックにも着替えなどを詰めているのだけれど、基本的には2泊分の着替えを既に送っているのだから、着替えは持って行かなくてもいいな、と。どうしてなのだろう?馬鹿な話だ。女房にもそういいながらボストンバックに荷物を詰めたのにどちらも気づかなかった。
幸い、靴下は予備を一つ。Tシャツはすべてボストンバックに入れることにしていた。
で、博多のホテルで唖然とした訳だ。パンツがない。う〜ん...
仕方ないからシャワーを浴びたあと、履いていたパンツをもう一度履いた。
福岡空港に着いて、そのまま手荷物検査ゲートを通過する。ベンチに座って文庫本を開く。今読んでいる本は今ひとつだ。記憶力がないから、設定が複雑で登場人物が多く、しかもどの登場人物が重要なのかすぐに解らず、状況説明がいちいち言葉で行われているタイプの小説は苦手だ。ひとときにまとめて読めばいいのだけれど、少しずつ暇を見つけて読み進める僕のようなタイプには非常に辛い。
少し前を読み返しながら、頭を整理して読み進める。
搭乗時間が近づいたのでトイレに行こうと立った。トイレ前のベンチの横を通りかかったとき、実は探していた人物と久しぶりに再開。ちぬパパさんだ。僕にとっての対馬遠征はこの人無しでは語れない。
今回もいろいろ手配をしてくれている。
久しぶりなので、会話のペースを探りながら、徐々に馴染んだ空気を取り戻していく。
予定通り飛行機は離陸。たった30分のフライトだ。
文庫本は取り出さず、窓下に広がる風景を眺める。ただ海が広がり、遠景で海は雲とまじわって、雲は光の縁どりを上縁に被せて、そして青い空が広がっている。
まもなく壱岐が見え、そして降下が始まる。
眼下に見覚えのある磯、緑。
対馬だ。
民宿くろいわの迎えの車に、僕たち以外にも3人の釣り人が乗り込んだ。
くろいわに到着。
すでに到着している段ボール2箱を部屋に持って上がる。今回も洋室だ。
部屋に行ってみると、まだ前泊者の荷物が残ったままだった。いま、竿を振っているんだろうな。
しかし、前泊者の荷物があるところに、次に泊まるものが荷物を持ち込んでごそごそする、というのは、なかなかおおらかな話だなぁ。
身支度をして、忘れ物がないようにチェック。集魚材、サングラス、デジカメ...そしてリール。フローティングベストには小物類を詰め込む。
一緒に宿に来た3人の釣り人は東海岸へクロ(グレ)釣りに出かけるようで、僕たちはその船が帰ってきた後、浅茅湾へ向かうことになった。
船頭は宿の親父さんで、もう高齢といっていい歳。しかし元気でサービス精神旺盛で、とても感じが良く、実は僕は一昨年来たときにファンになってしまっている。
さて、いよいよ僕らの出船だ。
船に乗り込み、そしてデジカメを出す。
少し風景を写しておこう。前回は緑一色だったが、今回は盛りを過ぎた感のある紅葉が彩っている。

やはりいいな。深くて、澄み切った海。海から隆起したような陸は深い緑と、そして優しい彩りに飾られている。
狭い緑の水路を抜けて、そしてまた水路に入る。
水路を彩るのは紅葉。少しばかりピークを過ぎたようで、紅葉は枯れ葉へと変わりつつあるのだけれど、それにしても素晴らしい。
水路を抜ければ、山々に囲まれた...そうだな、北海道のカルデラ湖のイメージだろうか。
和田の浦を目指す。
対馬空港に着いたときには風は殆ど無かったのだけれど、出船を前にして風が吹き始めているのが気になっていた。
和田の浦あたりも結構風が吹いている。風裏を...と探すのだけれど、どこも風が回り込んでいて結構大変そうだ。
明日はもっと風が強くなる予報だから、ここは少々の風は我慢して竿を振るしかないかな。

渡礁。
ちぬパパさんが湾奥側、僕が湾口側にお互い斜めに向いて、並んで竿を振るよう釣り座を決めた。
さて、久しぶりのフカセだ。どれくらい久しぶりか、というと、なんと6月2日以来やっていない。半年弱だ。
いったいその間俺は何をやっていたんだろうか?と、我ながら疑問に思えてくる。
解凍済みのオキアミ3kgをバッカンに入れ、海水を入れる。海水には生暖かさすら感じられる。
ここに広島からあらかじめ宿に送っておいたチヌパワームギを入れて馴染ませ、さらにオカラダンゴを入れて海水を足す。馴染ませたあとにチヌパワーV9遠投を入れる。少し海水で調整。
こんなもんかな。
仕掛けをセットする。竿は遠征専用になっているグレ競技SP2 1.75号。すっかり古い竿の仲間入りをしているモデルなのだけれど、滅多に使わないからまだ綺麗なものだ。
また、そういう竿だから買い換える気にもなれないし、ULガイド仕様という点以外はこのゴツイ竿は気に入ってもいる。腰は強いのに、小さめの魚でもしっかり綺麗に曲がってくれるから気持ちがいい。
道糸は少し悩んだ末に3号を巻いてきている。一昨年、ここで高切れでバラしていることが気になったのだ。
しかし、風が...太い道糸は少々辛いかも知れない。ハリスは1.75号からスタート。
とりあえずはプロ山元浮き2Bをセレクトして、浮き止めを4ヒロに。徐々に探ってみよう。
時期的には底を意識した方がいいのかも知れないが、一昨年は10月だったけれど、かなり浮いてきた。それに瀬戸内的に考えると、この時期でも充分浮く。
ちぬパパさんは全遊動で攻めたようだ。
さて...
餌が残る。
何も居ない。
浮きを3Bに交換し、浮き下を下げていく。何も居ない。
風が横から吹き込んでくる。釣りにくい。
「これ、結構キツイですね。どうです?」
「そうっすね。魚っけもまったくないし。」
「早めに場所、変わりましょうか。」
「うん、それがいいかも。」
広島湾の渡船システムはとても不親切だな、と思う。
ここでは、こうやって途中でも電話一本で磯替わりもさせてくれるし、一昨年は頼んでもいないのに様子を見に来てくれて、場所替わりを促してくれた。
広島湾では、朝、決まった時間に出船して、決まった時間に帰るだけ、の渡船だ。対馬では出発時間も帰る時間も、とても柔軟に対応してくれる。
20分ほどして船がやってきた。竿は延ばしたまま船に乗り込む。
釣れなくても風が当たらない、か、風が当たるけど釣れる、か。せめてどちらかにして欲しいなぁ。
次にあがった磯は、湾口のダラダラとした磯。こういう雰囲気がいいんだよな。
湾口を挟んだ反対側でも一人竿を振っている。
今度は湾奥向きに僕が釣り座を構える。ちぬパパさんは真珠筏のロープ脇に釣り座を構えている。釣り辛そうな感じがしたた。
「こっちで並んで竿だしませんか?」
「いや、いいです。」
さて、釣りを再開する。
あまり状況は変わらない。が、餌が触られる頻度は若干こちらが上か。
ちぬパパさんはカサゴ、ベラなどを時折釣り上げているが、僕には何も掛からない。
ちぬパパさんが時折根掛かりをしているところを見ると、かけ上がりの底付近でカサゴやベラなどが食ってきているのかな?

ようやく針に掛かったのはフグ。草フグだ。しかし、海面から身体を持ち上げたときに、ぽちゃり、と落ちた。
その後、ハリスを囓られたり、餌が盗られたりするけれど、ほとんどこの草フグのようだ。
う〜ん...
風はどんどん強くなっていて、道糸が押されてマキエとサシエのズレが大きくなる。こうなると余計に反応が鈍くなる。
浮きを今回の遠征用に買ってきた16gほどある重ためのぼってりとした浮き3Bに交換し、水中浮きをつけてみる。
そんなとき、ようやくそれらしいアタリが浮きに出る。アワセ!
大したサイズではないけれど、それっぽい重量感が感じられ...と思ったら、切れた。
どうにも駆け上がりにハリスを当ててしまったようだ。当て潮気味で、かなり手前でアタリが出たから警戒はしていたんだけれどね。
う〜ん...唸っている間に時間は過ぎていき、この薄暗くなり始めた頃がいいのかも知れないな、と、さっき山の頂に沈んだ太陽の方を見ながら考えて、でも、まぁ無理だな、と、竿を畳んだ。
この日、僕が釣り上げたのは20cmほどのクロ一匹だけだった。
ちぬパパさんはいろいろ魚を釣っていて、唯一、強烈な引きの魚も掛けていたのだけれど、これもラインブレークとなっている。
迎えの渡船に乗り、他の磯にあがっていた人たちを広いながら船着き場へ帰る。一カ所だけチヌが釣れていたようだ。
こうして初日の釣りは終わった...のだけれど、明日はどうしようか...難問が残る。
少し休んでから夕食。ここの夕食は非常にいい。どかっと並べられた料理を見るだけで空腹が増してくる。
「おつかれさまでした。いただきます。」
ちぬパパさんとあれやこれや話しながら、料理に舌鼓を打つ。
天ぷらにつける塩。これが美味しい。テーブルをみると藻塩というものがおいてある。これのようだ。よし、これは買って帰ることにしよう。
ふぅ。食べた。
ちぬパパさんの部屋に移動して、尽きぬ話の続きの時間だ。
その前に僕は外の自動販売機でコーラを買ってくる。風が強い。う〜ん。
ちぬパパさんはクロもやるので、明日はクロの方に気持ちが移っている様子。僕はまだ揺れ動いているけれど、外の風の音を聞いていると、この風に煽られながらチヌを釣る自信が持てない。それよりなにより、とにかく湾内は活性が低いように思える。
かなりクロに気持ちが動いている。
22時を過ぎて、明日もあるし...と自分の部屋に帰る。部屋の風呂にお湯を張り、ゆったりと身体を温め、そしてベッドに入る。
風はビュウビュウと、ゴウゴウと...
6時に起きて、身支度を調えて表に出る。
船頭の親父さんに「どこいく?湾内は風が強いぞ。クロ、やらんか?クロはよう釣れるぞ。」と言われ、確かに風が収まっていない状況から、狙いをクロに帰ることにする。
そうなると親父さんがケーソンを勧めてきた。
ちぬパパさんももともとは磯を考えていたようで、また、僕が基本的に波止からのフカセを好まず、磯を好むことをよく知っていることもあって、少し躊躇することとなる。
ただ、僕は対馬はまだ2度目だし、どこでも新鮮で楽しいことに変わりないから、どこでもいいですよ、という結局他力本願な姿勢でいる。
結局は、釣果がより期待でき、風はほとんど影響がない、という言葉に惹かれて、ケーソンを選択することとなった。
途中から浅茅湾とは反対向きに船は進み、まもなく三浦湾に入る。目指すケーソンはこの三浦湾を蓋するような位置にあった。
船は湾外側に回り込む。途端に海が静かになった。確かにケーソン波止の大きな波返しは北西風を完全に遮っている。
親父さんが魚探で魚の反応を見せてくれる。確かになんだか解らないけれど魚が沢山いるようだ。
昨日のようなさみしい状況にはならないだろうね。確かに。活性の高い海。楽しくなりそう。
ケーソン。
実はこの上にあがるのは初めての経験なのだった。瀬戸内にはたぶんない。
解ってはいたのだけれど、あがってみたらやはり...怖いぞ、これ。
途端にへっぴり腰になる僕である。そもそも僕は高いところが怖い。とくに人工構造物の高いところは非常に怖い。
さらに...このケーソンというやつは、要するに枠だけしかないのだ。外も内もあっちもこっちも海。高さ自体は海面まで3〜4mほどで充分玉網が届く程度なのだけれど、これは十二分に怖い。
「僕、この(隣り合わせのケーソンブロックが)並んでいるところに行ってもええですか?ここならちょっと広いし。足場。怖くてさ。」
「いいっすよ。僕も怖いけど。」
なんだ、ちぬパパさんも怖いんだ。
ともかく、道具も落とさないように注意して荷物を置いておく。
水平線だ。
湾内の景色もいいけれど、瀬戸内育ちの僕は水平線を見ると声を出せなくなるほど感動する。圧倒的な風景なんだ。
その水平線は遠く雲につながり、その低い雲の頂からまさに太陽が昇ろうとしている。
日の出だ。

声を失う。
グレ用の集魚材はもってきていないので、前日の余りにオキアミ生3kgを追加し、チヌパワームギ半袋とチヌパワーV9遠投半袋を混ぜる。グレ狙いであるし遠投も必要なさそうなので粉は入れなくてもいいかな、とは思ったのだけれど、あまり不慣れなこともやるもんじゃぁないだろう、と考えて入れておいた。
道具立ては昨日と同じ。
浮きはプロ山元浮きのBをセットする。
そもそもあまり真剣にグレを狙ったことがないので...いや、そういえば南紀では狙ってるな。単に釣れないだけか...まぁいいや...いつもと同じようにセッティングする。ハリスは早朝の大物に期待して2.5号。ハリスにG5を2段打ち。
マキエを入れ、その少し沖に仕掛けを投入。少しずつ仕掛けを引っ張ってハリスを伸ばしながら、ゆっくりとサシエがガン玉に引っ張られないイメージを頭に描いて仕掛けを馴染ませていく。この間、マキエを追い打ちする。
イメージとしては、最初のマキエの(高さ方向の)層の若干上で浮き止め(4ヒロ)まで馴染ませて、少し引き上げて上から落ちてくるマキエにさらに合わせる感じ。
最初の数投はサシエが残っていたのだけれど、あっという間に周りは小魚の波紋だらけになり、サシエも盗られ始めていく。
エサ取りを少し警戒して、マキエの投点と仕掛けの投点を少し離し、仕掛けをある程度馴染ませてからマキエに合わせるようにする。
マキエとサシエを合わせる位置は投入したマキエの一番外側あたりになるようイメージ。
すると、浮きが綺麗に入る。
アワセ!
お!グレ...クロだ。20cmを少し上回る程度で、まぁコッパグレの部類なのだろうけれど、僕は小さな魚を差別しないので...単に小さな魚しか釣れないだけだけど...立派な本命だ。
同じパターンで続けると、同じように釣れてくる。サイズは27〜8cmあたりのものが混ざる。
持って帰ろうかな?と思いつつも、まぁ30cm以上だけキープしよう、と考え直してリリースする。
4〜5枚釣ったところで反応が鈍くなる。
では、と、仕掛けの投入点をもっとダイナミックに潮下にずらせ、仕掛けを止めてマキエを待つイメージに変更。
するとまたバタバタっと喰ってくる。
お、少しいい引きだな。しかしなにぶん仕掛けが太いし竿も太い。遊べば遊べる、という程度で、引っ張り上げようと思えば何のこともなく引っ張り上げられる。
一応玉網ですくい上げる。
ようやく32cm。ストリンガーに掛けておく。
同じパターンでいくつか釣っていると、また反応が鈍くなってきた。
さて、今度はどうしようかな。
あ、ハリスを落とそう。2号でいいかな。ホントは道糸も落とした方がいいんだろうけれど、まぁいいか。
最初は浮いている大量の小魚はアジだと思っていた。
だから過剰に警戒していたのだけれど、どうにも様子がおかしい。アジであればこの程度のマキエワークでかわせるはずがないし、オキアミをつついている姿に獰猛さがあまり感じられない。
一匹、このエサ取りを釣ってみる。結構難しいが、なんとか一匹掛かった。
ん?なんだこれ?イワシ?なんだかちょっと違うような気もするけど。マイワシの幼魚なのかな。(瀬戸内では波止近くを大量に回遊するのはカタクチイワシなので、あまりマイワシは見慣れていない。)
何にしてもアジでないことが解った。
つまり、過剰に警戒して、活性のあがったクロの位置を外していたわけだな。
無遠慮にマキエの真ん中に仕掛けを引き込み、それでも仕掛けを延ばすように少しずつ引っ張っては送り、引っ張っては送り...を繰り返しながら探っていく。
海面から3ヒロくらいの位置で反応が出る。
これでまたしばらくバタバタと釣れてくる。
お、これもいいな。玉網ですくい上げたクロは、サイズこそ33cm程度だけれどまるまると肥えている。美味しそうだ。

餌が盗られ始めた。ちょっと様子がおかしい。なんだろう?
浮きがじわっとした動きで魚の反応を伝えているのだけれど、綺麗に入らない。喰わせる棚がズレているのかな?いや、そんな感じでもないよなぁ。
すこしオーバに誘ってみる。スッっと浮きが動く。間髪入れずにアワセ!
お、何か乗った。あ、なんだ、こいつか。犯人は。
ウマヅラハゲだった。キープキープ。いただきます。
結局その後もハゲには随分悩まされることになる。掛けたのはこの1枚を入れて2枚だけだ。
パターンを変えながら、型はともかく、ではあるのだけれど、クロを掛けていく。くどいようだけれど型はともかく、であるのだけれど、何枚釣ったか解らなくなってきた。
反応がなかったため、少し流してみる。すると綺麗に浮きが入る。
アワセ!
お、乗った。大したサイズじゃ...
おお!
急に魚が竿を絞り込み、ケーソンの中に突っ込み始めた。ガンガンガンガンと竿が叩かれ、なんとも下品な引きだ。
ああ、そういや久しぶりだな、こいつは。
たぶん、奴だなぁ。
海面下でその魚体が金属的にギラリと光る。
やっぱこいつか。
バリ(アイゴ)だ。
面倒くさいなぁ。アイゴバサミ、持ってきてないのに。

そっと、しかししっかり足で踏ませて貰ってから針を外し、海にお帰り願う。このバリは30cmを少し超えた程度のサイズだった。
このあと、少しクロを釣るとバリが釣れる、という循環に陥ってくる。しかもこのバリが徐々にサイズアップして、非常に面倒な思いをさせられることになる。釣り上げたバリは4枚。足下に落とした1枚もいる。
海面を小魚の群れが駆けて、ときおりその海面が爆発する。どぼん!と青物が小魚を補食している。
豊かな海だな。ここは。

結局、いつものように驚くような大物に出会うこともなく、竿を畳む時間が来た。
クーラーの中に放り込んだクロは、結局33cmを頭に30cm以上を4枚と、少し小さめを1枚。
数は20だか30だか解らないくらい釣ったけれど、釣り方の問題なのかも知れないが、ともかく大きなクロには出会えなかった。それでも、真剣にクロを狙ってみての感想は...これも結構面白いなぁ。
魚の動きを読んで、パターンを変えながら探っていく。うまくはまればバタバタと釣れるし、外すと釣れない。確かに競技会向きだよな。これは。
また真剣にやってみたい。
でもなぁ。南紀は不調らしいのだよなぁ。
迎えの渡船に乗り、ケーソンを回り込み三浦湾内を走り始めると...おわ!なんだこりゃ。
風が強いせいか、潮を被るどころのさわぎではないくらい、どばどばと水を引っかけられるかのようだ。
ちぬパパさんも僕も船室の裏側に回り込んでいるのだけれど、容赦なく潮を被っている。僕はともかくロッドケースを濡らさないように船室の壁に押しつけている。
このまま送らないといけないからなぁ。
対馬遠征は終わる。結局チヌには出会えなかったし、グレ釣りは楽しかったけれど、やはり型はでなかった。
そして南紀はどうにも不調らしい。ということは、こりゃぁ南紀は厳しいかなぁ。
遠征専用のボロボロのロッドケースは、グレ競技SP2とアテンダーとマキエ杓3本を入れたまま、対馬から南紀へと旅立っていく。
釣りは釣果だけではなくて、その海、空気、土地、これらに育まれた食べ物など、いろいろなものを楽しむきっかけとなるものだと最近は思っている。
今回の対馬遠征も思いで深いものになった。ちぬパパさんと親父さんと、対馬に感謝。
「また来年。しっかりお金、貯めておいてね。」とちぬパパさん。
「はい、じゃ、また。」
JR博多駅でしばしのお別れ。
そして、僕は、12月の最初の日を南紀で過ごすことにしている。
またお世話になります。someさん。
何度乗っても新大阪から南紀へ向かう特急は疲れる。
特急オーシャンアローはまだましなのだけれど、スーパーくろしおは結構辛いし、ただのくろしおなどは最低、と言い切ってもJR西日本に文句は言わないだろう。文句があるなら自分で乗ってみなさい、といいたい。
紀勢本線はほとんどまっすぐ走っている区間がないようで、とにかくよく揺れるし、線路自体もとにかくガタガタしている。おまけにカーブで車体を傾斜させる車輌の機構は下手をすると気持ち悪くなるものだ。
11月30日金曜の夜、特急スーパーくろしおの車窓からは大阪の都会の灯りが過ぎていき、静かな闇と、やさしい生活感のある灯りがときおり流れてくる。
借り物の「陪審評決」(以前、映画になったもの)を読んでいたのだけれど、あまりの揺れに読書が辛くなってきて、少しだけ目を閉じる。
新大阪を20時過ぎに発って、紀伊勝浦に到着したのはもう0時前だ。身体がギシギシいっていて、すぐにでも温泉に飛び込みたいところなのだけれど、到着時間が遅すぎて温泉にも入れない。
JR紀伊勝浦駅はホームから一端階段を上がり、高架を通って2階にある改札をくぐり抜けることになる。小ぎれいな駅だ。
改札を抜け、階段を下りていると、someさんの車がロータリーに入ってきた。
someさんの顔が見える。
南紀に帰ってきた。
someさんの家で風呂をいただく。出てみると、手みやげの焼酎「達磨」の一升瓶の
蓋が開いていて、仏壇に供える前に「川通り餅」も開封されていた。
「ありゃ、もう食べてんの?」
「これは、焼酎に合うなぁ。」
翌日、といってももう日付が変わっているため今日なのだけれど、土曜は地磯で竿を出すことにしている。ターゲットはチヌ。
沖合を通過した低気圧の影響がいまだ抜けていない南紀の海は、かなりうねりも強そうだ。沖磯はそもそも厳しいはずだし、地磯も湾内以外はダメかも知れない。それほど気合いを入れる状況ではなさそうだ。
それにそもそも夜遅いと翌日早起きは辛いし...
そんな理由で、朝はまぁ8時くらいに起きればいいか、ということになっている。
someさんと半年間の積もった話を少しずつ交わしていく。夜も更ける。
さすがに温泉と違って普通の風呂に入っただけだと湯冷めしてきた。ストーブで少し身体を温めて、そしてぐっすりと眠る。
思えば、そもそも僕は枕が変わるとなかなか寝付けないタイプだったようにも記憶しているのだけれど、このsomeさんのところへの遠征が恐らくきっかけになって、どこでも寝れる便利な人間になっている。南紀とsome家の遠慮の要らない雰囲気がいいんだろうね。
予定通りに8時ころ起きだし、ゆっくりと身支度を調える。
古座川河口周辺の地磯を考えていた。
春なら森浦、と考えて、今年は4月に森浦湾でボウズをいただいているのだけれど、その僕の読みが、この晩秋の南紀なら古座川河口周辺だろう、と回答を出していたのだけれど...
僕は基本的に晴男、とくに釣りの遠征においては高い確率で雨が降らない、ということを自負してるのだけれど、風は押さえ込むことができないし、ましてや、もう何日か前に沖合を通り過ぎた低気圧の影響によるウネリなど押さえきれるはずもない。自然は偉大なのだ。
とりあえずsomeさんの車で古座方面を目指す。海を見る。う〜ん...こりゃ無理だね。
湾内はともかくとして、湾外はかなりうねっていて、低い古座周辺の磯は...やっぱり無理だなぁ。
かなり波を被っている。チヌを釣る雰囲気ではない。一部波の影響を受けていないところもあるのだけれど、なにせもう9時を回っていて、普通の釣り師はとっくに腰を落ち着けているころなのだから、そんなおあつらえ向きの場所が空いているはずがない。
諦めてUターンし、浦神か森浦か、そのあたりの湾内で竿を出そうか、と考える。
浦神はいい思いをしたことがなく、それだけが理由であまり魅力を感じないのだけれど、湾の道路側でなく、反対側の様子を見に行って、あっさりと「よし、ここにしよう」と決めた。
浦神の湾内は独特の濁りが出ていることが多く、この日もそんな薄濁り。
湾の反対側の道路の行き着くところまで行き、車を停めて海を見る。
チヌっぽい雰囲気は伺える。コンクリートの護岸からでも竿を振ってもいいかな、とも思ったのだけれど、少し山を登ると地磯に出ることができるようで、それなら折角だから、と、地磯に回った。
里山の小道、といった山肌を斜めに登るささやかな坂道を少し登り、両側から岩がせり出した狭い天然の門を抜けると、如何にも滑りやすそうな落ち葉の積もった山肌の小径の下に、こぢんまりとした磯場が見える。
釣り人が垂らしたと思われるロープが磯場へと伸びている。
someさんが用心深く、このロープを握りながらずるずると磯場へと降りていく。僕は上から余裕をもって見守る。
someさんが下に降りたのを見計らって、僕はなお余裕をもって山肌を下り始める。当然ロープなど使わない。
・カッパの川流れ
・猿も木から落ちる
そんな訳だから、僕が滑ってもさほど珍しいことではない??かどうかはともかく、ちょっと滑った。
まぁ滑ってもどれくらい滑降するかは予測していて、だからこそ、さほど用心することもなく降りていたのでな、僕はあまり驚きもしなかったのだけれど、someさんはちょっと驚いたようで、そのあと、笑っていた。

オキアミ生3kgに、チヌパワーV9遠投半袋、オカラダンゴ半袋を混ぜる。someさんにはオキアミを2枚(6kg)と集魚材を買っておいてもらったのだけれど、オキアミは余れば翌日に回せばいい。
もっとも、翌日のグレはボイルで釣ろうかな、とも思っているので、ひょっとすると使い道がなくなってしまうかも知れないな。
プロ山元浮きBをセットして、ハリスにはG5を2段打ち。慣れた仕掛けで様子を探る。
遠近左右とマキエを入れ、そして仕掛けを入れながら、潮の状況、魚の状況を確かめていく。なにせ初めての場所だ。
大型のマダイが食う可能性、というものもあって、竿はグレ競技SP2 1.75号。もっともこの竿はこういう場所でしか使うことがないので、半ば無理矢理使っているところもある。2週間前の対馬でも使っていたが、当然ながら火は噴いていない。そしてそのまま対馬から南紀へと渡ってきている竿である。
道糸は3号。リールは対馬から一旦自宅に持って帰ったのだけれど、2日間しか使っていないので勿体ない、という思いと、まぁ南紀だから、ということで、そのまま使っている。この太糸はあとあと風が吹いて少々面倒なことになった。
ハリスはとりあえず2号を張っている。いつも狙いは大物なのだけれど、釣れるのはいつも小物なのだ。
サシエは残ったり、盗られたり。
釣り初めは潮が湾奥から湾外に出る方向に流れていて、このときはそれなりに魚の活性を感じていた。餌をさわっているのはフグ、ベラ、そして...アジ。その他、瀬戸内育ちの僕には判別できない餌取りもいるようだ。足下には金魚、と呼ばれる、まぶしいほどのコバルトブルーの小さな魚体がうろうろしている。スズメもいる。あ、あれはツノダシ。南の海だなぁ。
潮が湾口から湾奥へ、と向きを変える。こうなるとどうにも魚の活性が落ちてきて、欠伸の連発状態となってくる。
グンっと、極軽いが、しっかりと主張して竿を曲げる魚。コッパグレ。大きさはいいとこ22〜23cmくらいだろうか。
「コッパですわ。」といいながらリリースするのだけれど、まさか、このコッパが今回の南紀遠征で最大寸のグレになろうとは、さすがにこのときは想像だにしなかったな。
ちらりちらりと時計を見る。
今回、実は行ってみたいところがあった。
それは、テレビなどでもよく見る、磯にある露天風呂だ。ホテル浦島の玄武洞や、ラクだ湯がこれにあたる。雄々しい南紀の海を見ながら磯で露天に浸かる。これは幸せなことだ。そう、僕は温泉好き。
しかし、明るいうちにこれに行こうと思うと、早々と竿をたたまなければいけない。竿を出したのはすでに10時ころだった訳だから、さすがに14時や15時で竿をたたむのはどうか...
someさんとああだこうだといいながら頃合いを見計らっていたのだけれど、明日、樫野の沖磯に出て、仮に14時あがりであれば...(すでに帰りの時間を考えているあたりが、釣果を約束しているのかも知れないなぁ)...それから勝浦に戻っても充分間に合うな、ということになり、この日はもう少しゆっくり竿を振ることにした。
結局、翌日は15時に迎えの渡船が来たため、磯の露天風呂は次回以降に持ち越しになった。
結局、これ、といった盛り上がりのないまま、一方で風が徐々に激しくあたってきて、16時過ぎには早々と竿をたたんだ。
さぁ、とにもかくにも温泉だ。
どこにしようか?やはり「きよもん」か。しかし、あそこは露天がない上に湯温が高めだからゆっくり入れないんだよなぁ。お湯はいいんだけどなぁ。
桜湯の露天風呂か。あそこは長湯ができるからいい。掛け流しでないのが欠点だけど。
近くではあとは四季の里か。ここはsomeさんがいうに、僕も行ったことがあるはずなのだけれど、今ひとつ記憶がない。
ということで、四季の里に向かうことにした。
ここも露天はないのだけれど、湯温が低めなので、それなりにゆっくりと浸かれる。また、きよもんや桜湯がメイン道路脇にあるのに対して、四季の里は少しばかり山手に入ったところにあるため、比較的空いている。
ゆっくりとお湯に浸かる。何人も、僕たちがお湯に浸かっている間に入ってきて、そして出て行く。someさんもかなりの温泉好きなので、気兼ねなく長湯ができるのが嬉しい。someさんと温泉に浸かると、短くても1時間。長ければ2時間に迫る可能性もある。
身体の疲れがお湯に溶け出していく。
some家に一端帰り、someさんの奥さんであるみーぽんと、someさんの三男とで再び出掛ける。
去年も連れて行ってもらった地のものを扱う居酒屋だ。ここは旨い。
が、19時半にみーぽんが予約を入れていてくれたところ、早く出発しすぎたため、着いてみるとまだ席ができていなかった。
実に小一時間時間を潰さないといけなくなり、どうしようか?と迷ったあげく、勝浦港の足湯に行くことにした。
広くて綺麗な足湯だ...が、ぬるい...
なにせ外気温が低い。はっきりいって寒い状態に、ぬるめの足湯に浸かっている、というのは、結構震えるものがある。ぬるい足湯にそれでもぬくもりを求めながら、しばし時を過ごす。
20分前に足湯を出て、店に行く。まだ予約していた座敷は空いていなかったのだけれど、テーブル席が空いていたのでここに座って宴のスタート。席はあとで移動させてもらった。
名前は違うけれどマグロ、そして鰹の刺身。鰹などはタタキで食べることが殆どで、完全な刺身などは普通はなかなか食べることができない。これが旨い。
そしてクエの刺身。上品でかつしっかり主張するこの刺身も絶品だ。
酒のあてがその役割なのだろうけれど、鮫の干物のような というもの。これも結構美味しい。そもそも酒のあては酒が飲めなくても大好きなのだ。
ビール、酎ハイと進んでいるsomeさんとみーぽんに対し、僕ははなから白いご飯を注文して、むしゃむしゃと食べ続ける。三男君はピザなど頼みながら食べているのだけれど、割と食が細いようだ。
ちなみに、暗黙の了解で帰りは僕が車を運転することになる。酒を飲まない人間は、ある意味では重宝ではないかな。
閑話休題 〜ポルターガイスト〜
someさんの家に敷いてもらっている布団。お腹も膨れて、また翌日は3時半には家を出ないといけないという予定なので、この日は早めにこの布団に入った。
頭...というより、ほぼ胸の真上にカバーで覆われた蛍光灯がある。
早起きしなければならない、となると、眠りも浅くなり、何度か目を覚まし、また寝る、という状態を繰り返していて、今は眠っている時間。
突然、ガッコーン!という激しい物音。おどろいて目を覚ます。
暗闇の中周りを見回すがとくに何もない。
someさんたちは大丈夫だろうか?
しかし、とくに騒いでいるようすもないし、そもそも起きているようすもない。
時計をみると2時10分を回った頃。いかんいかん、日中が辛くなるから気にせずもう少し寝よう。
そして携帯のアラームで目を覚ます。
準備をしよう、と思って、頭上の蛍光灯の紐を引く。灯りが点く。
・・・ん?「おわ!なんだこりゃ」
声が出た。
頭の上をみると、蛍光灯を覆うカバーの一端が外れて斜めになってぶら下がっているではないか。
なるほど深夜の物音は、このカバーが外れた音だったわけだ。
危ないなぁ、と思いながら、取り付けようとカバーを上に持ち上げるように押していると、バコッっと完全に外れて落ちてきた。これを頭上でキャッチ。
しかし、何故これがいきなり外れて落ちてくるのだ?常識的には考えられない。何せ前夜もここで寝ているのだ。
考えられるのは...霊の仕業か?
しかしここはsomeさんの家の中だ。someさんの先祖の霊が僕を攻撃する理由も思い浮かばない。ひょっとすると、悪い霊が入ってきて、僕の顔に蛍光灯のカバーを落とそうとしていたのを、someさんの先祖の霊が守ってくれた結果が、カバーが斜めにぶら下がった状態を作り出したのではないか?
そんな予想を起きてきたsomeさんにぶつけたところ、「ああ、そりゃ俺のせいだわ。はめたの俺だから。」
なるほど、つまり子孫、もしくは息子の不始末で客人に怪我をさせてはならない、と、someさんの先祖の霊が守ってくれた訳だな。
時間は流れて、その日の夕食。みーぽんが準備してくれた鍋と、someさんがした人助けの御礼で送られてきたマグロに舌鼓を打っていた。
ここでこの話をしたところ...
「あ、あはは、やっぱり落ちてきた?」と、みーぽん。
「・・・」
「蛍光灯のちっちゃい電球が点かなくなってたから、昨日の昼に換えたのよね。そしたらカバーがちゃんとつかなくて、とりあえず引っかけておいたんだけど、やっぱりね。」
ようするに、霊でもなんでもなくて、みーぽんの気楽な性格が生み出した笑い話だった。
途中でフカセ青年ことTさんと合流。
毎回、僕の遠征に付き合ってくれる地元の釣り師。その熱心な取り組み姿勢もあって、かなりの腕をもっていて、実績も着々と積み上げている。
もっとも実績といってもあまり大会などには興味がないようで、自分の釣りをしっかり見つめて楽しんでいるようだ。
明るくて、また周りに配慮できる気持ちのいい青年だ。
串本を目指す。串本大島に渡り、樫野地区へ入る。
樫野は南紀ではもっとも来ている沖磯だ。これはTさんが樫野が好き、というところにも起因しているのだと思う。
つまりは、南紀の沖磯はTさん頼りということで、行く前からTさんの情報で「調子が悪い」と言われていれば、間違いなく殆ど釣れずに帰ることになる。
ちなみに、今回も「調子が悪いよ」という事前の情報を得ているので、多分、釣れないのだけれど。
樫野港。すでに沢山の釣り師が身支度をして、一日に備えている。
眠い...という思いも頭から消えて、言いようのない高揚感に満ちた渡船場の雰囲気に浸り、そして、僕も身支度をしてその雰囲気の一員となる。
荷物をもって乗船場所に移動し、船を待つ。先に出船する渡船に次々と釣り師が乗り込んでいく。
さて、僕らの番だ。
船に乗ってしまえば、あとはTさんと船頭さんにお任せだ。ここに行きたい、などという知識も思いもない。ただ、南紀の波に、うねりに身を任せて、いつものようにいいようのない不安で、しかし落ち着く船の上の時間を楽しむ。
未だ夜中の闇の中、次々に渡礁していく。
僕たちが呼ばれたのは、ウスのマエシマの西。Tさんがもっとも好きな場所の一つだそうだ。臼島周辺は一級の磯場で、僕も以前、マエシマの東で何度もハリスをとばされる幸せを経験している。
真っ暗な磯の上。いつものように頭上を仰ぎ見る。満点の星空だ。田舎なようで、それでも灯りに満ちた我が家の周辺では出会えない星が沢山輝いている。「すごいなぁ」声が出る。
東の空が徐々に明るくなってくる。絶え間なく、そして少しずつ、確実に夜が明けてくる。こんな時間を過ごせるのは、釣り師の特権だなぁ。そう思う。
・・・そんな清々しい闇と光の狭間、someさんが妙におとなしい。
ははぁ。
「なに、someさん。酔ったの?」
それほど揺れてはいなかったようにも思うのだけれど、someさんは基本的に船に弱くて、すっかり酔ってしまったようだ。こればっかりはなぁ...
Tさんはせっせと準備をしている。
僕もとりあえずバッカンに海水を注ぐ。暖かい。気温の低さを差し引いても本当に海水温が高いようだ。20度を超えているとか。
結局、オキアミはボイルを選択していて、ボイルは海水を吸わせてから使わないといけない。昨晩買ったボイルはまだ解凍すらできていないので、早めに溶かして、海水につけ込んでおかないとね。
ようやく手元が見えるくらいに明るくなってきた。
さて、準備しよう。
・・・と思ったら、すでにTさんの竿、こだわりのダイコー「スーパーロイヤルサリュート」がひん曲がっている。おわっ凄いな。
やり取りをみていると、良型グレ?という感じ。迫力、面白そう。
が...「イズスミだぁ。ひょっとして尾長、と思ったんだけど。」
俺も早く準備しよう。
自分の右斜め後ろにロッドケースがあった。
竿、グレ競技SP2にリールをセットして、道糸をガイドに通し、道糸にウキを通して、僕はいつもサルカン使用。サルカンを結ぶ。針にハリス2号を結んで、ハリスをサルカンに結ぼう、としたときだった。
竿はもともと、僕の右側にあった。ロッドケースに預けて、僕の背中より右側に竿先が来るように置いていたのだ。
左肘を後ろに引いた。
何かに左肘が当たった。滅茶苦茶嫌な予感がした。だが、何故?
後ろを振り返る。
何故か穂先が僕の左手の後ろにある。どうやら斜めに置いているロッドケースに立てかけた竿が滑ってしまっていたようだ。
半ば諦めムードで穂先を見ると、案の定、穂先が見えない。やれやれ...
ULガイドはこういうとき最低だ。チタンガイドならライターで炙ってトップガイドに残った穂先を抜いて、とりあえずの応急処置はできる。(というより、穂先が短くなったことなど僕は気にしないのでそのまま使うのだけれど。)
ULではそんなことはできない。
やれやれ、ここで使おうと思って持ってきた竿が朝から使えなくなってしまった。
やむなくアテンダー1号を取り出す。
仕掛けを直しているとsomeさんに見つかって笑われた。はいはい、どーせドジですよ。僕は。
樫野ではどのみちハリスを細く落としていく必要がある。そう考えると1.75号のグレ競技より、アテンダーの方がいいかも知れないな、とは思った。
そんなこんなでようやく準備完了。
Tさんが勧めてくれたここでは一番の釣り座で竿を振る。
足下にボイルをパラパラと撒く。エサ取りがすでに反応している。去年の小ガツオの無反応さに比べればよほどいいように思う。
サシエも盗られる。
釣り座の左側には磯の背後側に抜ける細い水道があって、水道を挟んだ反対側にマエシマの東がある。
この水道の部分にサラシが出るのだけれど、東側からだとこのサラシの下に潜り込む潮が釣れないらしい。
西側、つまり僕の釣り座からここへ入れ込むのが最高のパターンとのことだ。
しかしなかなか難しい。南紀の海に翻弄される。
瀬戸内の潮であれば、少々波気があっても仕掛けの位置というのは、ある程度コントロール、あるいは把握ができるのだけれど、外海では、仕掛けが存在しているその周辺の海水ごとズドン、とウネリで動かされてしまう。
背後ではsomeさんが何だかんだと小型のグレを釣ったりしているのだけれど、僕は全くだめ。
去年の小ガツオでもsomeさんにしてやられたのだけれど...どうにも才能ないなぁ、俺は、と思いつつ、いやいや、積み重ねてきた経験をフルに活用してだね...と頭の中で自分を説得しつつ、あれやこれやとやってみる。
タカベ×3
コッパグレ×2
小型のイズスミ×1
なんだか知らない魚×1
ようやく針に掛かった魚はこれだけ。時間が過ぎ、昼ころになると、Tさんも「だめだね。」と言い始めた。

釣れないので、渡船店の弁当は暖かいうちに...と、10時過ぎには食べてしまった。そんな時間が過ぎる。

決して面倒になって座り込んだ訳ではない。someさんにはそう思われて証拠写真としてシャッターを押されてしまったのだけれど、さすがに南紀まで来てそんな横着なことはしない。
あまりに反応がないため、海に自分の影を落とさない方がいいのではないか?と思って工夫をした結果が座り込んだ僕の姿だ。
そういば以前、グレ釣りでは海に自分の姿を落とさない方がいい、と聞いたこともある。
また、足下の磯際を狙うにも竿の長さが邪魔になるため、少し引いた位置で座って竿を出した方が楽だった。
が、そんな僕の気持ちはグレには通じない。
時間がなくなってきた。
思い切った発想の転換が必要だな。
ウキを3Bに交換して、道糸に2B、ハリスの中段にB。
さらに、ウキ止めを竿2本以上の位置に移動。
沈め、少し引き戻し。これを繰り返しながら仕掛けをどんどん入れ込んでいく。
その3投目。竿2本分ほど仕掛けを入れたときだった。
ウキがグゥ〜っと入る。これは魚だ。
アワセ!
確かに乗った。重い。よっしゃ!
・・・あれ?確かに引いてるのだけれど、なんだか重いだけだな。違うなぁ、こりゃグレじゃぁないだろう。当然イズスミでもないし、マダイでもない。青物であるわけもない。しかし重さだけは相当なものだ。
someさんもTさんも、おお!やったか?という顔で見ている。それくらい竿は曲がっている。
ともかく慎重に持ち上げていく。海面下で少し赤っぽい魚影が見えた。なんだ?こりゃ?
そこでようやくコイツが横方向に走った。走ったといっても大した走りではないので、余裕をもって引き留める。
そして、とうとうコイツと対面。
ゴボッっと、巨大な顔が海面を割る。
「・・・・・・・・・」言葉を失う。
もしかして、あなた、フグですか?
半端な大きさではない。が、どうみてもフグのようだ。あまりの意外な大物になんだか嬉しくなってきた。
俺らしい。過ぎるほどに俺らしいではないか。
丁寧に玉網に入れる。持ち上げようとするとやはり相当重い。玉網の柄がほぼ垂直になるようにして引き上げる。


45cmの玉枠からはみ出すこのフグは46cmのイシガキフグ。イシガキフグは釣ったことがあるけれど、こんなサイズになるんだなぁ。

嬉しくなって写真を撮りまくる。なにせ40cmバッカンを前においたら、よほどの遠近感を利用した写真に見える。
つまりは...だ。

何か文句あるか?お?こら!
という、迫力をもって、どこに行ってもフグに愛される男の樫野での一日が終わったのだった。
エピローグ(南紀編)
なんだかんだといいながら、今年も想い出深い2日間が終わった。楽しかったなあ。
あのフグは一生忘れないだろう。
樫野でTさんと別れる。また...今度はたぶん、春〜夏に間に一度くることになるから、よろしくね。年に一度か二度顔を合わし、竿を並べる程度なのだけれど、この釣り師は本当に快い友人になった。
桜湯に寄る。
ここは少し温めの露天風呂が魅力で、ひょっとすると一番多く通っている温泉の一つかも知れない。
someさんと並んで湯船にゆったりと身体を横たえ、空を見る。
「贅沢な時間だよね。」
太平洋の夜明けを見て、今度はこうして温泉に浸かって空を眺め、刻一刻と夜に染まっていく豊かな時間を楽しむ。本当にこれほど贅沢な時間の過ごし方があるだろうか。
1時間半ほどはこうして静かで豊かで友が居る時間を過ごした。
そのころ、someさんの家には小型のマグロが一本届いていた。
マグロの刺身、旨い。しかも沢山。
ミーポン特製のツミレ、マグロなどなど入った鍋。
名前は忘れたけれど鯨料理。
どれもこれも旨くて、ご飯、おかわり!となってしまう。旨いものを食うとき、僕には白いご飯が必須なのだ。折角の旨いものはご飯と一緒に食べなければ勿体ない。これはひょっとすると”酒飲み”でないが故の幸せかも知れないなぁ。そんなことを考えながら、楽しく美味しい夜が更けていく。
someさんが今度はしっかりと蛍光灯のカバーを取り付けてくれて、僕は安心して深い眠りについた。
「優海ちゃんが来てくれると、今年も一年、終わりだなぁ、と思うのよね。」とみーぽん。
そうか、毎年12月に来ている僕は、some家にとって、そういう位置づけになってきたんだな。ほんと、嬉しい話だよなぁ。いつもいつもお世話になるばかりなのに。
朝、紀伊勝浦駅。someさんと別れる。
車窓の...もう見慣れてきたその風景が後ろへと走り去っていって、僕はまた現実へと帰っていく。充電させてもらったな。今年も。
一年が終わろうとしている。
例年、12月はかなり熱を入れて落ちのチヌを求めるのだけれど、今年の12月は、まず南紀、三重、上海、出勤、最期の29日は車がない、という状態で、一応チヌを狙ったのは南紀の浦神湾、それと、三重から帰った翌日、疲れた身体を引きずって...というとオーバなのだけれど、ここくらいしか行けそうにないな、と9日の日曜に周防大島に向かっただけ、となった。
当然、大晦を迎える明後日、そして明日30日も釣りには行けないことは無いのだけれど、全国的な荒れ模様で、少々気持ちが萎えてしまった。恒例のKabe兄との納竿釣行は初釣りにシフトしている。
日常的な睡眠不足もあるのだろうけれど、たまに更に睡眠不足が加わると、相当疲れが残る。最近、そんなことを感じる。四十路を迎える2008年。だんだん中年としか言えない身体になっていくのだろうなぁ。
ということで、結局今年最期の釣りとなってしまった9日、日曜日の釣りを振り返って、全く堪能できなかったチヌの季節を一旦閉めることにしようか。
三重、鳥羽から広島の我が家までは、ほぼ5時間。南紀よりは少し近い。
家に帰り着いた頃にはそれなりに疲弊していて、翌日曜日の朝早くから釣りに行く、という気力はない。のだけれど、釣りに行きたい、という気持ちだけはある。
さて、ではこうしよう。
家は10時ころに出よう。当然朝の10時。なめている、としか言いようのない出発時間だけれど、これならゆっくり眠ることができる。それに寒くない。
12時には周防大島の釣り場へ向かう駐車スペースに到着。潮待ちのために文庫本を持って行って、少し車の中で過ごす。
下げ5分で歩き始めて釣り座へ到着。
潮が下がって干出した岩の上から釣り始めて、下げ止まりまで約3時間。下げ潮が止まって竿を畳んで、車に戻るのが16時過ぎ。遅くとも18時半には家に帰れるから、翌月曜に出勤、その夜にそのまま新幹線、特急はるかに乗って関西空港ちかくのりんくうタウンまで行って、翌朝中国へ飛ぶ、としても、まぁ疲れは残らないだろう。
予定通りに行動した。
オキアミは解凍予約しなかったのでキザミッコ。サシエは家の冷蔵庫の中にあった生イキくんオキアミ。夏場に団子をやるときに買ったと思うのだけれど、この手の加工餌は少々古くなっても大丈夫のようだ。
気持ち的にはその分、なんだか釣れないような気もするのだけれど。
対馬であまった食わせ練り餌チヌも冷蔵庫にある。これも何度も解凍されているけれど、まぁ大丈夫だろう。
久しぶりに...考えてみると、本当に久しぶりに地磯に立つ。
潮の香り、磯の匂い、波の音、身体をなでる風。どれも素晴らしく、自分はここに立つのが一番自然なのではないかな、などと、ふと、そんな気持ちになる。
冬場にはコーヒーを沸かしたり、という楽しみを覚えたのだけれど、時間がないので釣りに集中する。
マキエを入れてみる。理想的、といえるような飛ぶような速さではないのだけれど、それなりに楽しそうな潮が走っている。風もおあつらえ向きの西風だ。この磯は西風で道糸を押してくれる方が釣り易い。
短時間の釣りだ。一気に海の活性を上げる。どうせこの暖かいほどの水温ではエサ取りなど減っている訳がない。仕掛けを作る前にどんどんマキエを入れる。
仕掛けを作り、また多めにマキエを入れる。うまくチヌの落ちにタイミングがあっていれば、エサ取りの動きに陽動されて、早いタイミングで反応してくるはず。
予想通りエサ取りは多い。殆どが磯ベラで、フグが混じっている様子だ。近年、ここも小アジに悩まされるのだけれど、こいつらだけは居ないようだ。
磯ベラの勢いだけは相当なもので、あっという間に餌をつつき、さらに針に掛かってくる。
サシエをマキエに対してかなり先行させ、マキエを5段、6段に打ってサシエに追いつかせる。速い潮に載せた仕掛けを張りながら、イメージに合わせていく。
2Bのセッティングでスタートしたのだけれど、思ったより潮が速い。3Bのウキを取り出し、いやいや、とエアゾーンを取り出し直して、ウキを交換する。負荷は3B+。道糸に2B、ハリスにG2、G5、G7。
段打ちしたハリスの錘は、位置を少しずつ動かしながら様子を探ってみる。
ここのところ釣行回数が激減していて、どうにも海がうまく掴めなくなってきている気がする。「こうだろう」と思ったことがうまく当たらない。自分の釣りが如何に感覚に頼っていたかがよく分かる。
流れにサシエが上ずらないように、止め、流す、張る、緩める...ガン玉の位置は?
相変わらずベラが針をくわえ込む。
お!と、思ったアタリは大きなウミタナゴ。
流れに載せて仕掛けを流し込む、ウキは見えなくなるので糸の出る速度の変化を見て、潮のよどみを探る。よく分からない。しかし、活性が高ければこのまま道糸が弾け飛ぶように出て、チヌと潮の重みが竿を綺麗に曲げるのだけれど、それもないようだ。
仕方がない。
ピンポイントで食わすか。
釣り座から20mほど沖の干出し岩の左側のシモリに向けて仕掛けを集中的に流し込み、ここで仕掛けを止め、サシエを舞い上がらせ、そして沈める。
ウキが入る。
よし、来た!
アワセると久しぶりのチヌの重みが竿に乗ってくる。やっぱり好きだなぁ、これ。
相変わらずのサイズ。玉網で掬う。36cmの綺麗なチヌ。刺身はとれそうだな。

もう一つ二つ...と思ったのだけれど、これっきり、僕にはチヌの気配を感じ取ることができず、そして潮が止まった。
竿を畳み、磯を歩き始める。
西に沈む太陽が海面を遠くまでキラキラと光らせている。
さて、来年は少しは釣行ペースを取り戻せるだろうか?
我が家には一台しかない車。これを思うように使えないのがネックだなぁ。それに週末にかかる仕事が多いのもなぁ。
まぁいいか。ゆっくりゆったりと来年も楽しめるように楽しもう。
何れにしても明後日は大晦日。今年の終わりと来年の始まりは、少し寒くなりそうだね。
2008年が始まった。
Kabe兄との納竿釣行が荒天で流れてしまったため、初釣りに一緒に行くこととしている。
1月3日。予報では雨はないようだ。しかし、風が出るだろうなぁ。
1月2日の20時ころ。Kabe兄に「じゃぁ解凍予約頼んでおきますね。」などとメールをしていたため、周防大島への道中にあるK釣り具に電話をした。
・・・
誰も出ない。
あ、週末じゃなかった...
「すみません。キザミッコでいいですか。」
「はは(笑)」(Kabe兄)
すっかり緩い釣りが身に付いてしまっている僕は、この日の釣りも7時半に迎えにKabe兄を迎えに行く。
どうも早起きが苦痛だ。かといって、普段仕事に行くために6時ころに起きているから、放っておいても6時頃には目は覚める。
だから正月休みに入ってからは、徹底的に2度寝入りを繰り返している。実に幸せだ。
Kabe兄を迎えに行ったところ、注目の岩国市長選について父親と議論していた、ということだから、Kabe兄はもっと早く出掛けてもよかったのではないか、と思うのだけれど、7時半にKabe兄の家であれば、2度寝入りしなければ目の覚めた時間に起きればいいので苦痛は少ない、という僕の勝手な判断でこんな時間になっている。
岩国市長選。僕も注目。地元の方々はいろいろな思いがあるはずなので、難しいところだと思う。
僕のように岩国の近くに住んでいる人間としては、現職、がんばれ、と勝手に思う。
基本的に僕の家の上は米軍機の飛行コースに入っていないはずなのに、あまりルールを守る、ということが徹底されていないのか、米軍機は時折頭上に轟音を響かす。
それに、話題に上る飛行コース下の阿多田島は広島湾でも屈指のチヌ釣り場。ここで釣りをしていると、「やかましい!」と怒鳴りたくなるくらい煩いことがよくある。ロッドケースに地対空ミサイルが入っていると、衝動的に打ち落としてしまいたくなるくらいだ。マキエは空に向かって打ってみたのだけれど、これは残念ながら当たらなかった。
島民の方は本当に大変だろう。
周防大島で竿を振っていても似たようなことがよくある。
貴重な石油資源を大量かつひょっとすると無意味にまき散らしながら、おまけに騒音もまき散らすこの問題。
日本に米軍基地を置いておく必然性が一切説明できないような時代が来ることを願いたい。
さて、Kabe兄とはそんな話も含めていろいろ話をしながら、釣具屋でキザミッコを購入して、釣り場を目指す。
なにせ早朝満潮、昼頃干潮の潮回りだ。
最近の僕の好みのパターンで、引き5分から潮止まりまで3時間だけの釣り、というのも何となく申し訳ないように思って、どこに行くかをずっと考えあぐねていた。
なんとなく意見の一致。
グレも期待でき、ハゲも多い、ということで、紀州釣りでよくいく波止で竿を振ることにした。
そもそも波止でのフカセというのはあまり好きではないのだけれど、対馬でのケーソンからのグレ釣りが面白かったこともあり、抵抗無く波止に釣り座を構えることができた。
すでに時計は9時を回っている。西風が強まることが予測されていたのだけれど、すでに結構吹いている。もっとも釣りに支障があるほどの風ではない。
が、お湯を沸かすには結構支障がある。
Kabe兄がちゃくちゃくと釣りの準備を始めているのを横目に、僕はパーコレータに水を入れて、昨晩、手挽きのミルで荒挽きにしてきたモカを入れた。Campingazのバーナーに火を着けてコーヒーを淹れようとしているのだけれど、風が強くてなかなかお湯が沸かないのだ。
仕方ないので身体で風を遮ってお湯を沸かすことに専念し、とりあえずコーヒーを飲んでから釣りに取り組むこととする。
ようやくお湯がコーヒー色になってきた。シェラカップに少し注いで飲んでみると、まだ薄い。
さらに3分ほど待って、まぁもういいや、とマグカップにコーヒーを注ぎ、Kabe兄に渡す。
僕はシェラカップにコーヒーを注いで飲む。
飲んでみるとまだ薄かったようで、折角の僕の好きなモカも何のことやら解らない程度の味にしかならなかった。
それでも、外で飲むコーヒーは、その空気と風景を取り込むことができるので、ふーっとカップに行きを吹き、波の音と風の音、潮の匂い、山の緑を一緒に飲み込めば、それなりに旨く感じられるものだ。
コーヒーをお代わりして、それからようやく釣りの準備に取りかかった。
すでにKabe兄からはアジだらけの海、という情報が入っている。
実際仕掛けを入れてみると、これは確かにアジの海だ。
周防大島は近年、本当にどこに行ってもアジばかりになってきている。これも水温の関係なのだろうか。フカセをやるにあたっては本当に面白くない状況だ。
グレも見えず、チヌも感じられない。
昼頃にはもう気持ちが負けてきて、とりあえず波止の付け根付近の釣り座から、その先端に逃げることにした。
先端から港内向きであればひょっとしてアジが少ないか、という淡い期待を抱いたのだけれど、やはりどこに行ってもアジだった。
30分ほどで元の釣り座に戻る。
僕のまとっている気怠い雰囲気を察してか、はたまた、Kabe兄が自嘲的にいうように「我らヘタレ兄弟」であるが故か、
「早めに切り上げて、スエヒロでラーメン食おう。」と提案してきた。
「そうしましょう。そうしましょう。」二つ返事だ。
とはいえ、Kabe兄としては久しぶりの釣りでもあり、あと1時間ほどがんばってみよう、ということになった。風は強まってきているけれど、男はがんばるのだ。
そして僕はとうとう釣り上げた。
やはり正月だ。こうでなければ。

真鯛だ。しかも天然物。
いやぁ、めでたい、めでタイ。
しかし、チヌ針1号が大きくみえるなぁ。
ともかく、スエヒロのラーメン大盛りを以て、今年も緩い一年がスタートした。
そんな不完全燃焼な初釣りをKabe兄に味わせた翌々日。
今度は朝9時前に家を出て、一路大島に向かう。一人なのでさらに緩い。が、これは下げ5分からの3時間釣行を狙っての行動だ。
本当は道路の混雑も気になっていたのでもう30分ほど早く家を出ようとしたのだけれど、郵便局への用事を仰せつかったため、郵便局が開く9時前に家を出た。
13時半ころが干潮潮止まりなので、10時半には駐車スペースに着いておきたい。ちょっと微妙だな、と心配していたのだけれど、道路は全く問題なく空いていて、しかも、途中にコンビニにも釣具屋にも寄らなかったため、10時半には楽に駐車スペースに着けた。
ちなみにコンビニに寄らなかった理由は、家に2007年12月30日に賞味期限が切れていたポカリを発見して、カロリーメイトも買い置きがあったことが理由。賞味期限は改ざんするから問題なのであって、少々過ぎたものを食べたり飲んだりしても、殆どの場合健康に影響はない。
釣具屋に寄らなかった理由は、前日買い物にいったついでに、家の近くの釣具屋でオキアミだけは買っておいたことと、Kabe兄に3日の釣りの後余ったチヌパワームギとオカラダンゴ(何れもほぼ半分残っていた)を貰っていたことによる。
3時間の釣りならこれだけあれば充分だ。
車を停め、砂浜に降りて、そして磯を歩く。
釣りは関係なくても、こうやって磯を歩くのは大好きだ。
磯の地形を受け入れて、柔軟に歩を進める。そうすると岩場も柔軟に僕を受け入れてくれて、磯歩きは、その疲れさえ心地よくなってくる。自ずと歩みも速くなるのだ。
磯はいいよね。本当に生命感が溢れている。
こんな場所を次から次へと潰していく地方自治体はその責任の重さをもっと知るべきだ。お金に換えられないものは沢山ある。
道路幅を拡張するにしても、その干潟を、小磯を、砂浜を埋めなくてもいいケースもあるのでは?その荒れた山裾を地権者から買うとか。
年明けから何となく気持ちが重い話だけれど、僕の目の前にある周防大島は少しずつ形を変えて、僕にとっての魅力が少しずつ削り取られている。僕の価値観だけの一方的な感想でしかないのだけれど、ある意味、これは日本全体の土木行政の縮図なのだろう。きっと...少なくともタヌキにとっては住みにくい島になってきているはずだ。
釣り座の磯場の前に立つ。
そういえば一昨日、忘れていたな、と、海に向かって手を合わせる。
今年は前厄、ということもあって(僕は全く気にしないのだけれど、女房が気にするもので)初詣にキチンといって、しかも厄払いをしてもらっているのだけれど、僕にとって拝む対象はやはり海であるような気がする。
「今年も一年、皆、無事に過ごせますように。」
晩秋から初冬の時期は、場所とタイミングが上手く合わさると思わぬ爆釣をすることがある。
この場所は年末ころにいい思いをすることが多いのだけれど、12月9日には無理矢理ようやく一枚、という状況だった。
水温が高めに推移していることを考えると、ひょっとすると今回くらいがアタリではないか、と思っていたのだけれど...
まず、中潮初日のこの日、干満差が非常に小さくていつもなら釣り座にできる干出し岩がいつまで経っても波に洗われている。こんな状態だから当然のように潮も走らない。
活性があるのは磯ベラだけ。ほとんど磯ベラの入れ食い状態が続いている。
1時間ほどマキエを入れても状態が変わらない。
例年なら、型のいいメバルが混ざったりするものなのだけれど、それもない。ひたすらベラだ。
なんとなく残り2時間が見えたような気がしてきた。
ひとときの間、ベラの活性が落ちた。
おそらくチャンスはこのときだけだったと思うのだけれど、あれこれやってみたがチヌは反応してくれなかった。チヌが居たのかどうか?それすら僕には解らない。
とにかくベラと遊んで2時間半経過。潮が止まってきている。
やれやれ...
ん?
よし、来た!

フク(フグ)来る。
めでタイ。そしてフク来る。縁起よろしいですなぁ。
・・・お後がよろしいようで。
もう帰ろっと。
そんな一年の幕開けなのだった。なんとなく、チヌが遠そうな一年だなぁ。まぁいいか。

3連休なのだけれど、どうにも土日と思わしい天気予報ではない。月曜は冬型が強まるようだし、そもそも娘の剣道の試合の送り迎えで自由が効かない。
釣りは無しだな。
・・・と、思っていた。
ふと、「海と波の掲示板」を見ると、友波さんからのメッセージが。
「例のブツ」の準備が出来た、とのこと。
例のブツ、とは、友波さんの友人の家で作っているミカンであって、毎年、友波さん経由で分けて貰っている。女房が心待ちにしている品である。
さっそく友波さんに電話したのが土曜日。
周防大島に行けるとすると、翌日の日曜日。これを逃すと再来週の土曜日まで行けない。来週の土曜は出勤だし、日曜は用事がある。
翌日で大丈夫だろうか?と思ったのだけれど、友波さんからOKを貰えた。
ミカン自体はまだ友波さんの手元にはないのだけれど、朝早いうちに取りに行ってくれるとのこと。
いつも手間ばかりかけるなぁ。
本当に有り難い。
さて、あまりすっきりとした天気予報ではないのだけれど、雨は大丈夫かな。しかし、風が出るのではないかな、と予測する。
天気予報での風速予測は3〜4m程度なので、一見差し支えないように見える。おそらく秋田のKishiさんあたりがこの風速を見れば、「なんだ、凪ぎだべ。」といって笑顔になるだろう。
しかし、この季節の北西風は周防大島はなかなか一筋縄ではいかない。釣り場自体がどちらかというと西方向に向いたところが多いこともあるけれど、風向きが決して一定しないところが辛いのだ。
瀬戸内の複雑な地形がそうさせるのだろうけれど、北風なら南に向いて背後に山を背負えばいいじゃないか、と簡単にことが済まない。何故か南よりからも突風が吹き付ける。それにとても3mとか4mとかでは考えられない風が吹き付けることもよくあるのだ。
過去一番恐ろしい思いをしたのは、風速5mなのに、風上方向に向かって歩くことができない。風上に向かうと風が強すぎて息ができない。というシーン。本当に命の危険すら感じた。
地磯の釣りは本当に気をつけなければいけない。
つまりは経験値からくるところでは、おそらくこの雰囲気は風が強い。友波さんも、「たぶん、風出るだろうね。」と言っていた。
そんなところで弱気になっていて、オキアミの解凍予約はやめておく。
平日と同じ6時に起きて、身支度をして6時40分ころ家を出る。
いつも立ち寄る釣具屋にも寄らず、そのまま大島大橋を渡る。ここで様子を見てみる。確かに北風は吹いているが、まぁ釣りにならないほどの風ではなさそうだ。
ここでようやく釣具屋に寄り、キザミッコを買う。集魚材は倉庫にあった白チヌとオカラダンゴを持ってきている。
どこに行こうかな?
北風の影響がなるべくないところで、ゆっくり竿振りたいなぁ。
この日は正午過ぎが満潮潮止まり。今の時間ならまだ上げ5分前だからどの釣り場にも入ることができるけれど、帰りは15時過ぎまで待たないといけない。何せミカンを取りに友波さんの家に寄る必要があるから、あまり遅くなりたくないな、という気持ちがある。
久しぶりにあそこに行ってみようか。
本当にいつ以来だろう?
車を停めて歩き始める。海沿いの小径が崩壊している。いつの台風の影響だろう。
磯に出て、昔よく竿を振っていた釣り座をスルーし、過去に1〜2度だけ竿を振ったことがある釣り座まで歩く。
ここに一旦道具を置いて、身一つでさらに磯を歩いて、様子を見てみる。磯場の砂利浜を歩く。気持ちいいなぁ。
タヌキの足跡がある。
ここのタヌキは幸せだな。磯場と住み処の山の間に道路がない。車に轢かれる心配がない。
ここは基本的に浅いポイントで、足下に水深があるポイントがないかな、と思ったのだけれど、どこまで行っても同じだったので、結局荷物をおいていたところに腰を据えることにした。
さてと。
まずはCampingazのバーナーにブタンガスのボンベを取り付け、パーコレータにモカの粗挽きを入れ、水を入れる。
火を着けてから、マキエ作りに入った。
キザミッコをバッカンにあけ、海水を入れる。少し溶かしてから白チヌを入れ、混ぜ始める。オカラダンゴはとりあえず入れずにおく。マキエが足りなさそうだったら入れることにしよう。
マキエをほぼ混ぜ終わったかな、と思ったときに、胸元で携帯がバイブレーションとともに鳴り始めた。メールかな、と思って少し放置しておくと、いつまでも鳴り続けるので、あわてて手を拭いて携帯を取り出す。
あ、友さんか。
釣りに来て、この場所にいることはすでにメールで伝えていた。
「そこにいるんなら、車までちょっと帰ってこれる?」
「ん?いいけど、どうした?」
「ミカン取りに来ちょるんじゃけど、帰りにそこ通るけぇ。」
「ああ、了解。」
一旦コーヒーは火を止めて、マキエをカラスに食われないようにバッカンに蓋をしてから、磯を来た方向に戻る。
ここは駐車スペースまで5分も掛からない。
車に辿り着く頃、友波さんが丁度駐車スペースに入ってきたところだった。
「久しぶり。ごめんね、手間掛けて。」
「いやいや。どんな?」
「いや、まだ竿出してない。コーヒー沸かして、マキエ作ったとこなんよ。」
「ほうねぇ。」
「ほいじゃけど、ここ、春以外釣ったことないけぇねぇ。」
「ほぉよ。こかぁねぇ。」
要するに、二人ともあまり釣れる気がしていない。
確かに僕が周防大島でフカセを始めて少ししたころは、ノッコミの時期に何度かいい思いをしているのだけれど、逆に言えばノッコミ以外は釣れたことがない。底が岩岩しているので、冬から春以外の季節はエサ取りも多いし、どちらかとグレが多くなる。グレといってもコッパだけれど。
かといって、冬場にも釣れた記憶がない。なにせ水深がなくて、干潮時には20m沖でも2ヒロで根掛かりする。
だが、ここのところ水温が上がっているようで、冬場でも浅いところで食ってくるし、何より今年は水温が落ちていない。釣れるかも知れないな、という僅かばかりの期待感も持っている。
友波さんと別れて、釣り座に戻る。
バーナーに火を着けて、それから仕掛け作り。プロ山元浮きG2。ハリス2ヒロにG5とG7の段打ち。完全フカセでもいいかな、と思ったのだけれど、とりあえず僕のパイロット仕掛けで様子を探る。
バッカンを釣り座において、竿を置いて、コーヒーをマグカップに注ぐ。
ポケットからミカンを取り出す。
ニヤッと笑って、磯に腰掛けてミカンの皮を剥く。
大島のミカンを大島の地磯で食べる。これも嬉しい。
それに、僕の知っている釣り場の中でもっとも北風に強いこの地磯には、ほとんど今のところ風が当たっていない。太陽も差し込んでいて、非常に気持ちがいい。
美味い。今年のミカンも美味い。

磯の上で太陽の光を浴びて光るミカンは、少し誇らしげな感じすらした。
ようやく竿を取る。
磯の上においたマグカップからコーヒーを飲みながら、竿を振る。
すぐに感じた。
「釣れるぞ、今日は。」
海の雰囲気は磯ベラを中心とて、草フグ、小メバルの適度な活性に支配されている。久しぶりに昔ながらの大島の海に触れた感じがした。実にいい感じだ。
ウキは遊動にしているけれど、遊動幅は20cm程度。ほぼ2ヒロ固定に近い形になっている。
潮は左から右に。
竿を出してから1時間を少し回った頃、ウキが綺麗に入る。
アワセ!
久しぶりのチヌの感触が竿越しに伝わってくる。小さいなぁ...といいながらも顔が緩む。
26cm。2008年。今年の初チヌだ。今年もこんなサイズなんだろうな。
しかし、その後がいけなかった。
少し後、またウキが入り、アワセを入れた。ぐぅ〜ん、と重量感が竿に伝わってくる。何せ水深がないので、この感じはそこそこの型だろう。
よぉぅし。と、竿を立てて寄せに入ったところ、いきなり竿が跳ね上がる。
ありゃ?
仕掛けを回収すると、何故かハリスが切れていた。フグの噛み後でもあったかな。やれやれ。
こういうタイミングのバラシは痛い。
少し仕掛けをいれるポイントをずらす。
15分ほどしてようやくチヌのアタリが戻り、アワセを入れる。のった!と思ったらすっぽ抜ける。
これを3度もやってしまい、すっかりチヌのアタリが遠のいてしまった。まったくヤレヤレ、だ。
タナが合っていなかったのかな。
ここから1時間ほどは、フグが出たり、小アジが出たりで、少々憂鬱になる。フグは20cmはあるようなサイズが釣れるが、なにせ南紀の46cmのフグを経験しているから、決して大きくは感じない。
僕もある意味、大物になったのかも知れない...のか?というか、それでいいのか?俺。
小アジが釣れる。気持ちが暗くなる。
アジのいる場所でのフカセは面白くない。ネリエの釣りに徹することになってしまう。
さらにいうなら、ネリエを持ってきたつもりが持ってくるのを忘れていたから、非常に困る。が、アジだらけの海になったら面白くないので帰ればいいか。
ところが、小アジはさほど活性を上げなかった。というより、棲み分けができていて、あまり遠投しなければ小メバルや磯ベラなどが釣れてくる状態だ。これはまた心地いい。
13時を過ぎて下げ潮が動き始める。
今ひとつしっくりこないので、ガン玉をハリスの最上段まで上げて2ヒロハリスをフリーにする。
アタリ!
アワセ!元気なチヌの引きが竿を曲げる。浅いのでチヌも横に走る。サイズは35くらいかな?
ギラッっとチヌが水面下で反転。おお、元気がいいなぁ。
浮かせて、玉網ですくい上げた。36cm。
さて、次。
連発したいところだな、と、気合いを入れる。
何投かしたあと、ハリスを見ると何故かハリスに結び目が出来ている。針から20cmほど上のところ。
切るとハリスが短くなるなぁ。ハリスを張り直すのも面倒だなぁ。まぁいいか。
・・・こういうときは絶対に「まぁいい」ということはないものだ。
先より間違いなく重量感のある一枚がのってきた。ヨシ!
10秒ほどして、また竿が跳ね上がる。仕掛けを回収すると、その結び目でプツリと切れていた。
その後、同寸36cmをもう一枚追加。

14時を回ったところで竿を畳む。もう少し釣れそうだったのだけれど、ムキになって釣るような状況でもないしね。
ミカンをコンテナ3つ車に積んでいる。チヌもクーラに3つ入った。
今日は寒くもなかったし、いい日だったな。
