ゆっくりと、ゆったりと



予想外 〜2008マルキュー杯広島湾予選〜

 「どうしようかな」、と、今年は悩んだ。

 正直に言うと、それに向かう気持ちが全く高まってこない。億劫、というほどではないのだけれど、それを楽しみにしている自分はいなくて、勝ち抜けたい、自分の力を確かめたい、といった欲求も消えている。

 ただ、これにすら参加することをやめてしまうと、それはそれで何かを手放してしまうような気もして、とりあえず応募だけしておこう、と思った。

 抽選にもれることもなく、いつもどおりオレンジ色の封筒が届く。
 納付期限に間に合うように、丁度出張中の通りがかりの郵便局のATMで参加費を払い込む。さて、こうなると行くしかない。

 マルキュー杯チヌ広島湾予選。
 G杯チヌに出ていた頃は、大会に対するモチベーションがとても高くて、自分の力を確かめてみたい、いや、釣りで名を高めてみたい、という気持ちすらあったのかも知れない。

 ある理由でG杯の広島湾予選が開催されなくなり、並行して参加していたマルキュー杯だけ参加し続けていた。
 そのマルキュー杯はG杯のようなトーナメントではないため、どうにもすっきりしないところはあったのだけれど、何とか予選さえ突破すれば、決勝大会ではトーナメントで戦える...それを期待して参加し続けていた。ただ、くじ運も悪く、また、くじ運の悪さを覆すほどの腕もない僕は、一昨年までのルールでは予選を勝ち上がることはできなかった。

 そんなことをしている間に、いろいろ気持ちの変化もあって、自分を追い詰めるような釣りへの取り組みに疑問が生まれ始めて、楽しめるように楽しむ釣り、を求めるようになった。気負いを取り払えば、魚でなく海が見えるようになって、自分の気持ちが向くままに竿を握ることができるようになる。これがいい。

 結局のところ、そんな僕が今年もこの予選大会に参加した理由は、混雑した渡船が嫌いな僕としては、数少ないノッコミ時期の広島湾で竿を出せる機会であるし、くじ運がよければ、この時期なかなか休日には上がりにくい好調な磯にも上がることができる、という期待だ。
 また、昨年からマルキュー杯の予選ルールが変わっていて、渡船ごと(今年は10渡船)の1位が中国ブロック大会に出場し、ここで戦って本戦、つまり決勝大会への参加者が決まる、というルールになっていることも、気持ちをつなぎ止める理由の一つではあった。
 これなら、くじ運の悪さはさほど影響しない。確かにそれでも渡礁した磯によって、調子の良し悪しは多少あるのだけれど、同じ島、同じエリアであれば、その差は小さいケースが多い。


 前夜。リールの道糸を巻き替えていないことが気になっていた。
 今、巻いている道糸は2ヶ月ほど前に巻いたものだけれど、使ったのは2度ほどだと思う。大会前はいつも一週間前に道糸は巻き替えていたのだけれど、今年は巻き替えていない。
 前夜に巻き替えると、道糸に巻き癖があまり着かないため、今使っている不親切極まりないシマノのBBXタイプ1では、絶対にライントラブルが起こるだろうな、と思い、前回の釣りではさほど道糸を岩や貝には引っかけていなかったよな?と自分に問い掛けて、巻き替えるのを止めた。少し不安はあるのだけれどね。

 このリールはいけない。気をつければいい、といえばそうなのだけれど、ロック解除された状態でレバーブレーキから手を放すと、ハンドルの重みで半回転ほど逆転し、その拍子に道糸が弛んで、スプールの内側に巻き込んだり、パーマを起こしたりする原因になったりする。古いテクニウムは良かった。ロック状態にしていても、魚が引けば道糸を送り出す程度に逆転してくれるため、常にロック状態で使えた。チヌ釣りの場合、一気に道糸を送ってやるようなことはまずない。シマノもダイワの中途半端な真似はやめて、個性を追求していけばいいと思うのだけれど。基本的にはリールはシマノファンの僕はそう思う。



 4時〜5時が受付時間、ということで、3時半に起き、4時過ぎに家を出た。
 コンビニに寄ったりして、4時半を過ぎて大会本部の駐車場に到着。受付を済ませて車で少し目を瞑る。少し雨が降っているけれど、天気予報を見る限りでは雨は上がってくるだろう。けれど、風が...風速8mといった予報が出ている。瀬戸内海では相当な風といえて、こんな風では周防大島では絶対に竿は出さない。ただ、広島湾のこの安芸灘あたりは、周防大島に比べれば風当たりが弱いので、風裏に上がることができれば、なんとか竿は振れるだろうな。

 5時。競技説明等が始まる。やはり大会本部も風を気にしているようだ。

 港に移動。6番船だ。小さめの渡船だから、近場かな、と思った。
 前日の大雨の影響もあるから、湾奥ほどチヌの活性は落ちているだろう。一昨年のように似の島に上げられたら釣果的には相当厳しくなりそうだが...

 ところが、この小さめの渡船は、見た目と違って結構船足が速い。どんどんどんどん進んでいく。右手に宮島が過ぎ、奈佐美島、さらに大黒神島を過ぎる。右手の遠方に甲島が見えている。どこまで行くのだろう?

 左手に能美島が続いている。その前方に磯場が見える。大黒髪島の少し南東の位置。(ええっと、これは何島だっけ?)滅多にこのあたりに来ない僕は、頭の中に広島湾の地図を思い浮かべて考える。あ、長島か...

 何れにしても、ポイントとしてはこの時期では最高だろうと思う。船中の他の選手の会話では、前週にグレックスの大会があって、かなりの釣果がこのあたりで出ているらしい。少なくとも寂しい釣果にはならずに済みそう。マルキューの大会で釣れている磯に上がるのはこれが全くの初めてだ。いつも一枚一枚を必死で拾い釣りするような場所にばかり上げられているからね。・・・いや、これは単に僕のくじ運が悪いだけだけれど。

 釣れる場所、ということは、皆が釣れるということだから、かなり追い込んでいかないと勝つことは出来ない。数を釣るのでは駄目で、ある程度の型を5枚揃えることが重要なのだ。その中で一枚でも40cm台後半のサイズを混ぜることが出来れば、5枚の重量...マルキュー杯のルールは5枚重量の勝負...が5kg後半から6kg台に入る。勝てるとすればこのレベルの結果を出さないといけない。

 が、あまり勝とう、という気持ちはないのだから、それによる気負いはなかったりする。

 渡礁が始まった。小さめの釣り座に一人ずつ降ろしている。
 もし僕も一人で降りることができれば、かなり釣果が期待できそうなのだけれど...大会で背中合わせで釣ると、どうしても魚の取り合いになってしまい、自分の釣りの組立が難しくなる。一人で上がれば撒き餌の量も抑えることができるし、魚をコントロールし易いからね。

 さて、僕の番だ。
 船頭が「一人」と指で示す。よっしゃ、ラッキー!

 足下が浅い。10mほど沖にカケアガリか。足下からドン深なポイントより僕向きなポイントだ。条件は揃っているなぁ。こりゃ、どうやったって釣れることは釣れる。

 撒き餌。今回はオキアミは3kgしか持ってきていない。これからサシエも取る。サシエ用のオキアミは、連休中の釣りの際に買ったツーパックタイプのオキアミのワンパック分がクーラーに入っているが、メインはブロックの中からとったオキアミを使うつもり。

 チヌパワー麦と白チヌを1袋ずつ。さらに、これも連休中の釣りであまったオカラダンゴ(1/2袋)を入れる。今日はこれくらいあれば充分だろうな。

 撒き餌を5分くらいかけて辺り一面にじっくり打ち込んでから仕掛け作り。

 初めてのポイントなので、様子見にプロ山本浮きBをセットして、ハリスにG5,G7を段打ち、道糸にもG5を打っておく。

 時折、北風が真横から吹き付けてくるが、どうにもならないような風ではない。

 さて、釣りスタート。

 

 海面に波紋が見える。サシエが取られる。草フグだ。
 ここのところ周防大島では小アジにばかりやられているので、草フグがかわいく見えてくる。こいつらはチヌが寄れば気にしなくていいからね。

 さて、どうするか?

 釣果というのは、釣りに変化を加えれば加えるほど良くなってくることが多い。
 釣れない状態でいつまでも何の設定も変えず、また流す潮、仕掛けを入れる距離を変えずにのんべんだらりと竿を振っていたのでは、それは結局待ちの釣りになって、結果はついてこないと思っている。

 「でも、まぁ...」
 まずは寄せ。あえてもう少しこのままで行こう。寄りはじめのチヌは釣らないようにしないとね。

 最初に撒き餌を入れてから1時間弱経過。
 ここで仕掛けを変える。釣研のずんぐりとした遠投用の浮き。耐久性が低いイメージがある釣研の浮きはあまり持っていないのだけれど、これは去年対馬に行くときに買ったものだ。浮力は3B。糸通しの穴の径がとても大きいタイプだ。

 「さてと...」
 ここからは遠投大会だ。最初は探るために浮きの上にシモリ玉を入れず、ハリスにG5を二つとG7を段打ちに、さらに道糸に2Bを打っている。張りながら沈めて、まずはヒットする棚をつかまないとね。

 すぐに結果が出る。
 遠投に切り替えた、と思ったら、着水後、それほど間を置かずに道糸が動く。ちょっと後を向いていたときだった。
 おっと!と、竿を起こし、針掛かりを確かめてからやりとりに入る。
 ちょっと小さいなぁ。引き抜こうかな、と思ったのだけれど、ハリスを岩に当てて傷つけると面倒なので、玉網で掬い取る。掬い取ってみると、サイズは37〜8cmはあって、抜くサイズじゃぁないよなぁ。と独り言。それにしても、こういうサイズばかり釣れていたのでは、とても勝てる筈がない。

 どうも当たりが遠いなぁ。

 と、思いながら振り込んで、そしてそれほど間を置かずに浮きが動く。瞬間的にアワセを入れる...乗った!と思ったら外れた。やってしまった。バラシはいかんよ。大会の時は特に。
 
 一枚同サイズを追加して、そのあと、またバラシ。
 う〜ん...食い込みも浅いが、それ以前に棚があってないな。こりゃ相当浮いているのは間違いないな。棚を詰めて釣らないと...

 仕掛けを流しながらそんなことを考えていると、浮きが妙な動きをしている。そぉ〜っと道糸を潮上に倒して様子を聞いてみると、すっと道糸が動く。アワセ!
 お、これは少しいいかな?

 最近、僕はロッドワークを少し変えていて、片手で竿を操作することが少なくなっている。そこそこの重量感を感じたときは特にだ。
 片手で操ると、本人は竿を起こしているつもりでも割と起きていないことが多い。
 だから、左手で竿を持つ僕は、右手で竿のリールシートの20cmほど上を支えて、少しオーバーなくらい竿を起こし、矯める。こうすれば、下手なやりとりなどしなくても、勝手にチヌは浮いてくる。あとはチヌの走る方向を見ながら、竿を横に倒せばいいだけだ。

 浮いてきたチヌはさほど大きくなさそうに見える。期待の裏返しで引き抜こうか...と思ったが、やはり玉網で救う。
 お、割と重いな。
 これは43〜4cm程度。
 
 ここで仕掛けを変える。浮きをエアゾーンに。負荷は2B+。
 道糸にBのガン玉を打ち、ハリスはそのまま使う。きちんとシモリ玉を入れて、浮き下は2.5ヒロ。

 ところが、曇りがちのこの日の空模様。遠投してしまうと浮きが殆ど見えない。
 浮きが見えない浮き釣りは、はっきり言って好みでない。
 海面を凝視しながら、浮きの変化を見るのだけれど、浮きを見失っている状態でいきなり道糸が走ったりして、アワセ損ねてバラシたり、チヌを釣り上げたり。
 釣れることは釣れていて、36〜7cmチヌをぽつりぽつりと追加。しかしつまらない。

 浮きを元の釣研の浮きに交換。シモリ玉は入れた状態。道糸に2B、ハリスに打ってあったG5の錘はハリス最上段にこき上げて、ハリスをフリーの状態にする。

 仕掛けの着水後、ハリスを延ばすように手前に引き寄せて、撒き餌の中でサシエをゆっくり沈めるようにする。

 この変化にもすぐに反応が出る。
 40cm絡み、あるいは36〜7cmのチヌを追加。このころ、群れが変わってきたようで、朝方のチヌと顔つきが変わってきた。

 このままこういうサイズばかり釣っていたのではどうにも埒があかないなぁ。

 練り餌を針につける。すでに練り餌は試していたのだけれど、今ひとつ反応が悪いので、オキアミメインで釣っていた。

 最初は反応なし。練り餌はなくなっている。
次の一投。浮きが入る。仕掛けが馴染んだ直後だ。
 練り餌の場合、早合わせはいけないぞ。道糸が動くまで待つ。
 アワセ!
 グゥンっと重量感が襲ってくる。よし、これは...と竿を矯める。が、割と簡単に浮いてきて、これも思ったより小さく力が抜ける。
 が、玉網で掬ってみると、これも結構重い。サイズは43〜4cmほど。このクラスで1kgは超えていそうだ。

 ここからは練り餌を中心に釣っていく。反応が鈍いときにオキアミに交換するイメージだ。
 あとは効率を考えて、ウキ止めの位置を調整してやるだけ。
 予備で持ってきたチヌパワーV9遠投をマキエの調整のために少しずつ足す。

 釣れる釣れる。入れ食い、という程ではないが、退屈しない程度に、しかも大した工夫もなく、しっかり遠投しておけば釣れてくる。

 釣れれば釣りは楽しいか?
 釣れない釣りは楽しくないが、釣れれば釣りが楽しいか、と聞かれれば、これはさほど楽しくない。

 大会なのだから、釣れればそれでいいのではあるけれど...段々、集中力が散漫になってくる。
 釣り人、とくにチヌ師というのは厄介なもので、ある程度の克服可能な困難を克服して結果を得る。その上での1枚であったり、その上での爆釣であったりすれば、これは至上の喜びとなる。が、工夫もなく釣れていると、これは正直言って「全く釣れない」よりは楽しいが...程度になってしまう。

 30cmクラスも混じる。これはもう無条件にリリース。なぜなら、11個のストリンガーフックがすでに一杯になっている。
 一枚、26cmほどのいかにも僕らしいサイズも混ざったが、当然リリース。

 あとは、フックに引っかかっている小さめのものをリリースして、大きめのものを引っかけていく。

 

 10時を過ぎた頃だろうか。アタリが遠のいてしまった。
 その後、1〜2枚は釣ったような気がするが、規定の釣り時間終了の30分前、つまり11時半に竿を畳む。ここから一仕事があるため、余裕を持って納竿した。

 リリースしたものも含めて数えてみると...14枚か。バラシが4つ。
 ・・・バラシ、多いなぁ。
 朝方の食い込みが悪かったことと、タナが合ってない無かったことが原因なのだけれど、もっと早く修正しないといけないな。
 それにしても広島湾のチヌはよく浮く。余程チヌが多くて、競争状態になるからだろうな。

 しかし、4〜5年前の自分なら、今日の状況なら20枚は釣っていただろうな。
 ここのところのサボりが効いてマキエのコントロールは悪いし、何より集中力がない。そのくらい前の僕ならもっとシャキシャキと釣っていただろう。


 ・・・などと考えつつバッカンを洗い、磯を洗ってから、ストリンガーを引き上げる。
 重い。
 
 

 4枚まではすぐに決まった。いずれも43〜4cmほど。
 残り一枚が難しい。いずれも40cm絡みのサイズだ。手で持ってみて、一番重そうな一枚を選択。


 まぁ、一応検量してみよう。

 正直言ってその程度の気持ちだったので、帰りの渡船の中で「だめだめ」という主旨のカキコを海波板に書き込む。



 さて、検量場。
 
 チヌを四角いザルのようなものに入れて、検量カードを添えて差し出す。
 ザルの水気を切って、秤の上に載せられる。

 5350g。


 まぁそんなところかな。この中で1枚でも40cm台後半のサイズが混じっていれば、5kg台後半に持って行けたかも知れないのだけれど...やっぱりダメだなぁ。


 次々に同船の選手の検量が進んでいく。

 この広島湾予選を突破すると中国ブロック大会、ということになるのだけれど、予選突破の条件は、10の渡船の1位と、各渡船2位の中から、重量で重い順に4番目まで、だ。

 同船の選手の名前が呼ばれて、チヌの返却を受けている。つまり、すでに1位でも2位でもないことが確定した人たち、ということになる。


 まだ僕は呼ばれない。検量しているチヌを見ていると、皆、それほどのサイズを釣っていないようだ。

 ここで始めて「もしかして...」と思い始めた。


 ほぼ検量が終わった。見に行ってみると...やっぱりダメか。僕より260g重たい選手がいた。
 渡船中2位、というのが僕の成績。入賞はできなかったな。


 チヌを返して貰って、荷物をもって駐車場へ帰る。

 大会本部のテント前。

 ん・・・?

 げ、俺の名前が出てる(当然本名)...ブロック代表決定戦進出者。

 通過しちゃってるじゃん。

 しかも、2位の重量で4番目。まさしくギリギリ。ははは...



 さて、参ったぞ。モチベーションが決して高くない僕なんだけれども、大丈夫だろうか。
 昔、G杯の広島湾予選を一度突破したことがあって、それに続いて予選突破は2度目ということになるのだけれど、あのときとは気持ちの入り方がまるで違うからなぁ

 今回、まったく、予選突破は想定していなかった。

 まぁいいか。笠岡(中国ブロック大会会場)あたりで竿を出す機会もないしな。楽しんでこよう。素直に釣りを...ね。

 楽しめるように楽しむ、という気負いのない釣りが、勝負の場で通用するとは思わないけれど、とにかく真面目に釣る、というマナーだけ守れば、あとは楽しめばいい。なぜなら、自分で金を出して釣りにいくのだから、気負ってしんどい思いをする必要もないだろうからね。

 ゆっくりと、ゆったりと。


 さて、10位までは本賞で商品があったが、2位の4人には商品はない。
 となると、お楽しみ抽選会なのだけれど...やっぱりこれは当たらなかった。しかし、これほど当たらない奴も珍しいんじゃなかろうか。




何もない半日

 マルキュー杯が5月11日だったのだから、気がつけばもう1ヶ月以上釣りに行っていない。

 正確に言うと、その翌週、会社の仲間で倉橋島沖の鹿島というところで恒例の宿泊宴会をやって、その翌日、人の竿を借りてキスを何匹か釣った。

 今年のノッコミは...いつからノッコミ、と考えるかにもよるのだけれど、4月以降と定義すれば、3度しか釣りに行っていない。さらにノッコミらしい釣りをしたのはマルキュー杯のときだけだ。

 今ひとつ、気持ちが乗らないので、無理をしてまで釣りにいかない。
 そうしていると、この時期なのに一ヶ月以上釣りに行かない、などという事態になってしまった訳だ。

 もっとも、5月は大型連休を除くと土曜の休みが1日しかなかったため、時間がなかった、というのも大きな原因ではあるのだけれど...

 渡船は混むし、大島はどこに行ってもアジばかりだし...


 それにしても、釣りはともかく天気のいいときに潮風に当たりたい、という欲求だけは高まってくるので、潮が最悪、ということはともかくとして、6月14日土曜日は釣りに行くことにした。

 潮は本当に悪い。若潮で早朝満潮だ。早起きしよう、という気持ちがないため、どうやっても下げ潮一本で釣らないといけない。しかも、朝潮が高いため、入ることのできるポイントは限られてくる。


 6月も中盤に入れば、ノッコミの名残を釣るには大島では北向きに入るのが通常なのだけれど、こちらのチヌは暖かくなると寄生虫が多いので、今ひとつ気分が悪いんだよね。エラに着いているヒルのようなやつとか、鱗の上をほぼ鱗と同色で見えにくいのだけれど動き回っているやつとか。

 とはいえ、夏場になれば南向きでフカセは難しいので、こちらでやるしかなくなるのだけれど。

 ここ4〜5年くらいかな。こんなに寄生虫を見始めたのは。
 10年前は見た記憶がないものな。

 食べることを前提に釣りをしているから、人間には影響はない、と思っても、なんとなく気分が悪い。


 そんな思いもあって、南向きの釣り場に入った。ここは潮が高くても入ることができるのだけれど、底は岩、ゴロタなのでエサ取りは多いし、時期的にも5月ころの釣り場なので、もう終わっているだろう。

 まぁいいや。海を見ておこう。


 釣り座についたのはもう7時半ころ。潮は下がってきている。足下は底がリアルにわかるほどの浅さだ。

 そう。ここは浅い釣り場なのだ。
 潮が下がったら釣りにならないのではないか?と今頃になって考え始めたのだけれど、まぁ思いっきり遠投すればなんとかなるかな、と割り切った。


 マキエを作る。

 今回から、少し試行錯誤に入ることにしている。
 今まで通りの釣りをしていたのでは変化がない。少し自分の釣りを弄ってみよう、と考えた。

 まずはマキエから。
 オキアミを止めよう。と考えた。

 僕は昔からオキアミ大好きで、サシエですらネリエを嫌っていたところがあった。

 しかし、オキアミは青背のエサ取りを呼ぶし、夏場はオキアミなんて入れなくてもいいのではないか?と考え始めたのだ。

 といっても、サシエには使う。

 決して練り餌釣法...をしたい訳ではないのだ。

 チヌパワームギ1袋。白チヌジュニア1袋。マルキュー杯で余ったV9遠投(半袋)。これにアオハタコーンを混ぜて完成。

 これで釣れれば、オキアミの解凍予約だなんだと考えなくても、いつでも釣りができる。

 サシエにはオキアミ生、オキアミボイル、食わせ練り餌チヌを容易。

 ボイル、というのも今まで手を出していないサシエなのだけれど、小アジなどだと一気に餌を針から千切り取ることができないので、案外使えるかな、という気がしている。


 さて、釣りスタート。
 仕掛けの方はいつも通りで始める。プロ山元浮きG2、G5,G7のガン玉を段打ち。

 ところが、この段階で2.5ヒロで根掛かり連発。やはり浅い。

 ガン玉をすべて取ってしまい、完全フカセにしてみるが、やはり根掛かりする。

 ハリスを少し詰めて1.5ヒロほどで釣る。磯ベラのオンパレードだ。


 やはり遠投するかな。

 ウキを釣研の遠投用の浮き3Bに交換。マルキュー杯でメインで使った浮きだ。


 遠投する。マキエも...う〜ん、本当にコントロール悪くなったなぁ。

 まぁいい、徐々に調整しよう。


 サシエにオキアミ生を着けると、小アジが針に掛かる。
 ボイルだと、思った通りアジが掛かりにくい。この夏は少しボイルに付き合ってみようかな。

 ちなみに殆どの場合磯ベラが針にかかってあがってくる。まぁこういう底の釣り場だから仕方がないのだけれどね。


 潮が下がってくると、20〜25m沖では、1.5ヒロでハリスを完全にフリーにしていても根掛かりし始めた。


 う〜ん。面白くない。
 せめてチヌの気配が感じられれば、こういう釣り場は結構面白いのだけれど、いつまでたっても磯ベラだものなぁ。


 少し休憩。

 磯の凹凸に身体をはめ込むように横になって、キラキラ光っている海に目をやり、新緑に目をやり、青空に目をやる。波の音が聞こえる。

 気持ちいいなぁ。海は。

 しばらく目を閉じる。


 姿勢が無理なので、身体が痛くなってきた。

 もう釣りはいいや、という気もしているのだけれど、まだ時計の針は11時までにも動いていない。せめて昼間でやろうかな。


 あらためて竿を取る。

 相変わらず磯ベラだ。
 アジは姿を消している。お土産にアジでも、と思ったのだけれど、これも叶わないようだ。

 餌はオキアミ生とボイルだけを使っている。アジを気にしなくてよかったので練り餌は封を切る必要を感じなかった。

 根掛かりで、道糸が切れる。この日2度目だ。先の場合は浮き取りパラソルで浮きは回収できたのだけれど...

 今度は微妙に潮が沖に出ていたため、回収できなかった。

 ちなみに使っていた浮きは0号。シマノの浮きで、もう10年近く使っていたものだ。
 遠投しても甲斐がないので、1ヒロ完全フカセで少し手前を狙っていたのだ。

 あの浮き、安物だったけれど結構釣れたんだよなぁ。小さな歴史が潮にのって沖に流れていく。


 さて、もう帰ろうか。


海の上

 まったくもって...ここまでごく自然に海から離れることが可能だとは思わなかった。
 6月14日に周防大島に行ってから、すでに3ヶ月弱が経っている。

 海から離れる、という表現が正しいかどうかはわからない。なぜならほぼ毎日海は見ているのだから。家から南に5分も歩けば海岸線なのだから当然のことで、通勤の電車の車窓にも海が見えるし、犬の散歩で山に登ればやはり海が見える。

 どうにも気持ちが乗らない。乗らないときは行かない。
 20年ほどチヌを狙い続けてきて、少しばかり食傷気味なのかな。まぁいいか。何れにしても楽にやろう。


 さて、そんな僕の気持ちはともかくとして、何れにしても友はやってくる。

 遠方の友とも年に1度程度はこうやって会える、というのは、やはり釣りのお陰だな。これだから釣りは止められない。

 「黒鯛団子釣り名人への道」の竹下さんが、「広島湾のチヌ釣り」の安芸さんのところに泊まり込みでやってくる、ということで、毎度のことながら竿を並べ、菩薩の料理に舌鼓を打つ嬉し楽しい時間が過ごせるわけだ。


 8月29日金曜。
 仕事から帰ってから釣具屋へ車を走らせる。

 どうにも我が家の近くには大きな釣具屋がなくて、こんな時間に餌や道具を買える釣具屋までは、それこそ車を20分以上走らせないといけない。まったくもって不便なのだけれど、こればかりは仕方がない。
 大島に釣りにいくなら、道中で幾らでも仕入れることができるので問題ないのだけれど。

 去年の秋、同じように竹下さんが来て、一緒に筏にあがった。
 あのときは北灘で使うすなちゃん流の団子を使った。
 ところが、北灘は魚が濃いため、少しくらいネバリケのある団子でもサシエは抜けるのだけれど、去年の宮浜沖の筏(宮島と本土側、宮浜温泉あたりとの間)では、本当に魚っけがなくて、団子からサシエが上手く抜けず苦労した。

 どうするかな。
 割れやすい団子を作って、少し手返しを考えないといけないかな。
 それと、なるべくチヌを上擦らせないように、煙幕を押さえたい。・・・そうなんだよね。北灘では棚と魚の種類がはっきりしている。チヌに関して言えば、底からサシエが離れてしまうと、殆ど釣れない。
 チヌの上の層は真鯛の層だ。

 よし...家の倉庫に紀州マッハ(ノーマル。去年から倉庫の中)がある。これに紀州マッハ攻め深場、という紀州釣りの基本スタイルを利用。だが、これだけだと筏のような場所では集魚に不安あり。
 なにせ、あの筏の底には岩礁もなければ廃船も沈んでいない。何もないのだ。少々積極的に魚を集めることを考えないと、どうしようもない。

 ということで、これにチヌパワームギを混ぜることにした。さらにアミエビを買っておく。


 家に帰って、バイキングST44の糸を巻き替える。Lハード1.5号。



 8月30日朝。
 渡船を使う釣りは朝が早いから辛い。最近、早起きほど辛いものはない、という状況なんだよね。

 それでも頑張って4時に起きて出掛けたのだけれど、僕が一番遅かったようで、渡船の出船は僕待ちだった...ちゃんと出船時刻の10分前には着いたのにな。何れにしても申し訳なかった。

 ということで、朝からバタバタしてしまったので、渡船の上で竹下さんと安芸さんに挨拶。
 安芸さんとも久しぶりだ。

 今日は...やっぱり去年と同じ筏。しかし、去年はまだ周りに牡蠣のぶら下がった筏があったような気がしたのだけれど、今日の筏の周りには本当に何もない。こりゃ、魚居ないんじゃなかろうか...と不安になるが、まぁあまり釣ることに執着もしていないので問題ないか...な?


 準備。
 紀州マッハと攻め深場を1:1の比率で半袋ずつ、これにチヌパワームギを半袋。
 ・・・あ、サナギ粉忘れた...まぁいいか。
 押し麦、アミエビ。チヌパワームギ以外は紀州釣りと同じような団子を作るのだけれど、水分は少し多めで、しかもチヌパワームギが入っているため、随分握りやすい。


 ようやく団子を投入したころには、すでに安芸さんは竿を曲げていた。これはアジ。型がいいので、今夜が楽しみだ。今夜は菩薩の料理(安芸さんの奥さんの料理)で宴会なので、チヌ以外も素材の確保が重要なのだ。

 ・・・と、そう思っていたら、今度はチヌをあげてきた。さすが。でも、チヌ、今日は居るんだな。
 よしよし。


 ・・・と、そう思っていたら、どうにもそれっきり。
 アジこそ釣れていたのだけれど、それも朝だけ。

 う〜ん...


 僕はなるべくサシエを底に止めるように努力していたのだけれど、これでは何も釣れてこない。
 キスでも食わんかいな、と、海ゴカイを針に刺してみても同じこと。

 安芸さんは底からサシエを持ち上げて落とし込む釣り方で小型を一枚追加している。


 竹下さんも何だかんだで2枚釣っている。


 僕は...う〜ん...


 潮の流れにサシエを載せて、底付近をドリフトさせるが、どこまで流しても食わない。

 団子の割れは非常によくて、コントロールしやすい。問題ないと思うのだけれど、どうにもこうにも魚っけがなさ過ぎる。

 いや、海面では魚魚魚。小魚を大型魚が追いかけ回し、あちらこちらでナブラが立っている。
 青背...どちらかというと緑っぽい背の魚が追いかける方だ。鯖かな?それにしては40cmほどの大型もいる。こんな広島湾の奥、しかも岸近くにハマチが回ってきている可能性はあるのか?
 ここのところの広島湾の水温上昇は飛んでもない状態だから、そういうこともあり得るのかも知れないな。

 これなら、ジグ持ってきた方が楽しかったなぁ。


 と...


 そんなことを考えつつ、未だ持続している僅かな集中力を投資して団子からサシエが抜ける瞬間を見ていたときだった。

 この日唯一のそれっぽいアタリだった。

 サシエが抜ける。つまり穂先があがる。
 そして穂先が押さえつけられる。
 これはこの日でもときどき付き合ってくれていた草フグのアタリとは明らかに違う。

 北灘仕込みの(幾ら仕込んでもモノにならん、と、すなちゃんからサジ投げられ気味だが)アワセを入れる。

 久しぶりの重量感が左腕にダイレクトに伝わってくる。

 よっしゃ!

 俺の勇姿を見ているか?と、二人を見ると、気付いていない。ったく...少々アピールをして気付いてもらってから、竿先を海面に突っ込みながら少しばかり大仰なやり取りをして、久しぶりの銀鱗が海面下に姿を現す。

 玉網を...うげっ!引っかかってる。
 網が筏に巻き付けられた針金に引っかかって抜けない。

 左手でチヌをあしらいながら、なんとか玉網を自由にして、ようやくすくい取った。

 

 このチヌは42cm。とりあえず帳尻あわせだな。


 正直、この一枚で僕はもういいや、と思った。

 いや、正確にはこのチヌが釣れた、ということは、チヌが回ってきた、あるいは口を使い始めたのだろう、と期待して、真剣に団子を落としたのだけれど、また静かな海底に戻ってしまったのだ。


 「釣れない釣りって集中力続きませんよね。」
 「う〜ん、辛いねぇ。」

 「ところで、最近...」


 と、真剣に手返ししている竹下さんの後ろで安芸さんと世間話したり、
 筏の上に寝転がったり。

 

 朝は少々雨にもうたれたけれど、総じて見ればいい天気に恵まれ、いい仲間にも恵まれ、いい一日を過ごせたな。


 一旦家に帰り、再び車を出す。酒屋によってプレミアムモルツと焼酎、それに僕用のがぶ飲みメロンクリームソーダを仕入れてから安芸家に向かう。


 いやぁ、今夜も美味しかったな。
 話も盛り上がり、席を立つ気になれない時間が続く。

 けれど、僕は明日は夏休み最期の一日を女房、娘と過ごす予定だから、あまり遅くなってはいけない。



 「じゃ、竹下さん、またね。」

 「安芸さん、今度大島で紀州釣りしましょうね。」

 「じゃぁおやすみなさい。」



 釣りっていいな。

 まぁでも...行くのは気が向いたら...だな。

 少なくとも、マルキュー杯中国地区ブロック大会には出ないといけないだろうなぁ。
 ということは、次は少なくとも10月中旬には竿を出すことになる。・・・練習?まぁいいんじゃないかな、釣りなんて楽しけりゃいいんだから、大会は別に勝てなくていいしね。
 ・・・でも、一回くらいフカセやっといた方がいいかなぁ...



マルキュー杯中国ブロック大会

プロローグ 竿がない...
 何故か通過してしまったマルキュー杯広島湾予選。

 あれから約5ヶ月が過ぎたのだから、当然のように中国ブロック大会の開催日が近づいてきた。

 う〜む。やっぱり準備はしておかないといけないよなぁ。

 10月5日、日曜日の昼下がり。
 
 あれ?ないぞ。

 「おい、俺の竿見なかった?」
 「ん、知らんよぉね。そんなもん。」

 通常、僕は釣りから帰ると、洗面所でガイドの潮を流して、全体を固く絞った雑巾で拭いてから、2階の自分の部屋の竿立てに立てている。竿立て、といっても、タンスと壁の隙間に過ぎないのだけれど。
 もしくは釣りから帰って面倒なときは、洗面所の横に立てかけて...1〜2週間忘れていることもある。

 だが、どこにもアテンダーがない。
 
 「洗面所じゃないの?」
 「ないない。それにいくらなんでも6月からずっと洗面所に置きっぱなしってこたぁないだろ。いくら俺でも気付く。」

 といいながら、洗面所をもう一度確認しても、やっぱりない。
 おかしい?部屋にはいくら探してもないし。


 まさかなぁ...

 表にでて、ヨド物置の鍵をあけて、ロッドケースを取り出してみる。

 「あ、あった。」

 なんと、6月に釣りに行った後、竿を洗うどころか、ロッドケースから取り出すことすら忘れて倉庫の中に放り込んでいたようだ。

 つまりは6月に大島の地磯に行って以来、まったくフカセをやってないのだから、ブロック大会の出場者の中では、おそらく僕が一番努力していないだろうな。

 ともかく、今更ながらガイドを洗い、リールを洗う。
 道糸は買い置きがあったので、リールの糸も巻き替えておく。

 とりあえず無いものをチェック。
 針はカットチヌと改良チヌ1号が数袋。カットチヌ2号もあるし、グレ針も数種類ある。いいな。
 ガン玉も問題なし。



 ・・・・・

 10月11日、土曜日。出勤日。
 会社を17時過ぎに出て、18時頃家に着く。

 アテンダーにリールをセットし、予備竿にチヌ競技を...あれ?チヌ競技がない。
 
 ロッドケースの中だっけ?
 倉庫に行ってみてみるが、ない。竿立てにもない。あれ?

 倉庫と自分の部屋を行ったり来たりして探すのだけれど見つからない。おかしい。無くなるわけがない。そもそもどこにも持って行ってない。

 ・・・と、竿立て、すなわち壁とタンスの隙間に立てかけている竿やその他雑多なものをかき分けると、何故だか一番奥の角にあった。

 ああ、そうだった。夏に本棚や机を買ったときに、部屋の中を引っかき回したから奥に行っちゃったんだな。



 というわけで、如何に釣りをしていないか、ということを再認識しつつ飯を食い、風呂に入ってから、20時過ぎに家を出た。


運は続かない
 釣具屋に寄って、餌を仕入れる。
 チヌパワームギ2袋、白チヌ1袋、オカラダンゴ1袋。
 オキアミ生3kg。オキアミボイル1kg。ボイルはアジ対策のサシエ兼用だ。
 食わせ練り餌チヌ2袋。魚玉1袋。

 そのまま、国道2号線を東へ進む。笠岡までは150kmくらいだろうか。

 最近は実家の尾道へ行くにしても、殆ど高速道路を通るので、2号線を走るのは久しぶり。
 コストセービングと、別に慌ててないし、夜なら一般道を走ってもそんなに変わらないだろう、という考えからだ。

 僕が学生の頃はバイクで通ったルート、卒業してからは車でも何度も通っている。高速道路は一般道に比べて風景や匂いの変化がなくてツマラナイのだけれど、大人になると時間を金で買うようになるんだな。

 さて、その昔にはなかった西条バイパスと三原バイパスのお陰で、あっという間に尾道に着いて、尾道からは尾道バイパスから松永バイパスを抜けて、あっという間に福山だ。便利にはなったが、少しツマラナくなった。
 一番時間が掛かるのは広島市内なんだから、あの最もツマラナイ広島市内にこそ、ストンと抜けれるバイパスを造って欲しいものだ。

 福山を抜けるとすぐに笠岡だ。
 JFEスチール福山の前を抜けて、広大な畑地帯を抜けて、神島(こうのしま)という半島に入り、クネクネとした山道を登る。ここを降りると大会本部のある神島外港だ。

 予定どおり23時過ぎに到着。
 車を停めてバックシートに移り、耳栓をして寝る。

 寝袋は持ってきていたのだけれど、まぁ大丈夫だろう、と、寝袋は丸めたまま枕にして寝た。しかし、やはり寒くて途中何度も目が覚めた。寝袋を広げるのが面倒なので、車に積んでいたレインウェアや防寒着などを上に掛けて、なんとか誤魔化しているうちにあたりが騒がしくなってきた。

 3時半まで待って、身支度を始める。

 4時から受け付け。
 くじ引きの結果、末番を引き当てた。これはついているのか?いないのか?

 大会説明などを聞いて、いよいよ乗船。
 広島湾の渡船に比べると船が大きい。船室も広く、潮を被ったり風に吹かれたりせずにのんびりできる。


 船が速度を緩め始めた。目的地に着いたようだ。

 このあたりの海をまったく知らない僕には、一体何という島なのかは当然わからなかったのだけれど、後で聞いた話では、六島という島らしい。もう四国は香川に近い。

 広島湾とは違い、周辺は広い海だ。あまり好きな雰囲気ではないなぁ。

 おや?っと思った。

 どんどん、沖堤に選手を降ろしているのだ。
 風が結構強いからかな?あんなところに降ろされて可哀想に。

 僕は末番なので、一番最後に渡礁する。僕も防波堤だったりすると嫌だなぁ。


 幸い?僕らより少し前から磯に降ろし始めた。

 いよいよ僕ともう一人の選手が磯に降りる。


 歩いていける範囲は広いが、釣り座を二人が構えるには結構難しい磯だ。
 じゃんけんの結果、僕が磯選択の優先権を得る。

 面倒なので船着きを選択。

 もう一人の選手の方は、大きな岩を挟んで左手側に釣り座を構えることになった。


 船着きの方が条件は間違いなく良さそうなのだけれど、風がまともに当たっていて、そういう意味では釣りづらそう。
 磯選択の優先権の無い側は、3時間経過後に場所変更を要求する権利があるのだけれど、開始の時点で同礁の方はそれを放棄。移動が大変なので変更無しで行きましょう、とのこと。僕に異論はない。


 さて、殆どの選手が当然のようにマキエを混ぜて来ている。
 僕は混ぜていない。

 何せ、昨夜オキアミを解凍予約もせずに買ったため、店で混ぜることもできなかった。
 まぁ積極的に大会を勝ち抜こう、という意識も実はなくて、釣れたら釣れるだけ釣ろう、としか考えていない訳だから、あまり慌てることもないんだよね。

 オキアミ生を崩して、海水をバッカンに入れる。
 この状態にしてからチヌパワームギを一袋入れて混ぜ合わせる。

 あらかじめマキエを混ぜてこないのは、ここにも理由がある。
 粉とオキアミをいきなり混ぜると、オキアミの水分が粉に吸い取られて、オキアミが浮きやすくなるはず。だからといって水を含ませたマキエを持ち運ぶのは重たい。だから、現地でこんな手順でマキエを混ぜているのだ。

 水分多めの状態でここまで混ぜてから、白チヌを一袋入れて、水分調整しながら混ぜ合わせる。

 これである程度の分量になったので、チヌパワームギ1袋とオカラダンゴは予備に置いておく。

 次にオキアミボイル1kgを水くみバケツに放り込む。ボイルの使い方は南紀で習った。こうやって海水につけて、水分を含ませてから使う。でないと、撒いたボイルはすべてカモメの餌になるし、サシエも沈まない。


 久しぶりなので、とりあえずプロ山元浮きBをセットして釣り開始。

 すでに6時半の競技開始時間から15分は経過している。

 オキアミ生のサシエはすぐに盗られている。まぁ秋だからなあ。


 しかし風が強い。ほぼ真横から吹き付けてくるため、潮の流れに仕掛けを載せるのが難しい。

 こりゃぁダメだ、ということで、浮きを広島湾大会で使った釣研の重たい浮き3Bに交換。手前のエサ取りは激しいため、少し遠投気味にして探ってみる。

 が、どうにも思うようにいかない。

 沖に入れれば入れるだけ、当然、道糸が風を受けてはらんでしまい、潮の流れに載せづらくなる。

 少しでも風が弱まってくれるといいのだけれど。

 いつまでも風は落ちない。沖には白兎が駈けている。竿を持つ手がだんだん辛くなってくる。
 胸から下あたりまでは潮を被っている。

 

 なんどか、同礁の方がこっちの様子を見に来て、話しかけてくる。
 向こうもまったくダメだそうだ。

 そう、こちらもまったくチヌの気配は感じられていない。


 水中浮きをセットして、少しでも潮を仕掛けが掴めるようにしてみる。棚も探ってみるが、いずれも反応がない。

 針にときおり掛かるのは、草フグ、ギザミ、コッパグレ、スズメダイ。アジがいないのは助かるが、それにしても少しチヌの雰囲気が出てきてくれればいいのだけれど。

 生、ボイル、食わせ練り餌。いずれも同じ状況。


 ・・・と、釣れない風景をいつまでも綴っても退屈なだけなので、もうやめておこう。


 さて、迎えの渡船を待つ時間だ。
 
 同礁の方とゆっくり話ができるのはこの時間。

 話を聞いてみると、この六島は防波堤しか釣れていない、とのこと。
 僕が磯にあがって喜んでいたのは、まさに糠喜び...ははは。

 この方は、聞けば広島湾予選で一緒だったようで、3位通過している。さらに、シマノの鱗海カップ広島湾予選で優勝しているとのこと。
 こんな人でも釣れないのだから、まぁ、こんなダラダラ状態の僕に釣れないのは仕方がないね。

 

 
エピローグ
 折角ここまで来たからには、帰りに尾道でラーメンを食べたい。腹が減っているので表彰式は見ずにそのまま帰ることにした。

 味龍でラーメンとチャーハンを食べる。
 しかし、最近どうにも尾道のラーメンが...全般に味が落ちているような...妙に辛い。20年前とは絶対に味が違うと思うのだけれどなぁ。チャーハンは旨いね。

 実家に顔を出すことにする。本当は釣れたらチヌを持って行こう、と思っていたのだけれど、まぁたまには、ということで、顔を出すことにした...のだが...

 今度は竿でなく、実家に帰る道がない...

 おかしい。
 道が変わっていて、どうやって実家の方へ入ったらいいのかわからない。

 しばらく右往左往して、ようやく辿り着いた。

 滅多に帰らないとこんなことにもなるのだった。


 高速で帰ろうか、と思ったのだけれど、気が変わって海に向かった。

 尾道水道とこのあたりの海の独特の匂いは、僕の心がまだ釣りキチ三平だったころの風景そのものだ。

 少年が竿を振っている。懐かしいなぁ。


 ふと、頭の中に一つの風景が甦った。

 まだあるのかな、あのD−51。

 記憶を頼りに車を走らせる。確かこのあたりだったよな。対岸に向島の灯台が見えるあたり。

 最初、東から西へ海岸通りを走ったときには見つからなかった。
 もう撤去されたのかな...もう一度だけ...西から東にゆっくりと車を走らせたとき、それが目に飛び込んできた。

 あった。D−51。デゴイチ公園だ。

 僕が小さい頃からここにあった、その雰囲気そのまま。あのころだって充分に古びた感じがしていたのだけれど、そのまんま古びた雰囲気を保っている。

 車を停めて近づいてみる。涙が浮かんできた。


 小さな頃の僕の目が見た風景は何故だかはっきりと覚えていて、その風景をトレースするように運転台に登ってみる。なにもかもそのまま。本当に時間がここだけ停まっていたかのようだ。


 小さな頃のノスタルジーだけじゃないんだよね。ほんとは。

 実はね、高校の頃の何とも言えない心がくすぐったくなるような風景がもう一つここには被っているんだよね。

 薄暗くなる風景、自転車、対岸の灯台、D−51、そして...


 こうやって、たまには釣りを理由にして、ふらふらしてみるのもいいもんだ。
 来年も大会には出ようかな。






 

北の海でゆったりと

 羽田空港近くのホテルで朝を迎えて、慌ただしくホテルの無料朝食を掻き込む。
 ホテルの空港無料送迎バスだと時間調整が難しいので、京急線に乗って空港へ向かう。

 京急の羽田空港駅に着いて、この日は珍しく第1ターミナルへ。普段はANAを使っているから殆ど第2ターミナルなのだけれど、今回はJALの特典航空券を使って飛ぶので、第1ターミナルだ。第1ターミナルも綺麗になっているんだなぁ。

 羽田空港発秋田行きの第1便。

 さぁて、楽しみにしていた時間が漸く始まるぞ。

 いつも通路側の席を取っているのだけれど、今日は窓側席。
 いつも搭乗とともに本を読んでいるのだけれど、今日は窓の外を見ている。

 紅葉。赤や黄色に彩られた山々を見下ろしながら、短い飛行時間で飛行機は秋田空港に着陸。

 おや?思ったより暖かいな。

 11月15日である。
 今年は妙に寒くなるのが早くて、11月中頃に広島でも初雪が降ったりしている。
 このため、秋田は寒いだろうなぁ、という警戒心が頭の中にあったのだけれど、少々拍子抜けしてしまった。

 雰囲気のいい空港を抜けて、表に出る。

 例の怪獣を探すが、見あたらない。まだ着いていないのかな?

 携帯電話を鳴らすと、「あと5秒で着きます。」という聞き慣れた声。


 怪獣サファリにのってガオンと現れたのはKishiさん。

 本来ならとっくに磯上の人になっている時間帯なのだけれど、僕の2年振りの秋田遠征のためにこんな時間に山の上の秋田空港に来てくれている。

 もうお互いに馴染んだ笑顔で車に手荷物を放り込み、僕も怪獣に乗って、Kishiさんの新居に向かう。

 ゆっくりと、お互いにリズムを合わせながら、時の間を埋めて馴染んでいく。
 彼は海みたいな人だから、僕のような来訪者は海に心を委ねるように馴染んでいけばいい。そうすると、秋田の空気、秋田の海、男鹿の磯にもいつの間にか自然に馴染んでいて、違和感はカケラもなくなってくる。

 いろいろと話をしていると、あっという間にKishi家に到着。
 おお、これが噂のウッドハウスか。いいなぁ、男の憧れだもんね、これ。

 いたいた、可愛いことこの上ないKishi家の兄弟。ちょっと照れくさそうにしていたけれど、すくに馴染んでいく。
 そして、Kishiさん自慢の奥さん。これまたまったく気遣いがいらない雰囲気を作り出してくれるものだから、僕もついついずうずうしくなってしまう。

 そしてその腕に大事そうに抱えられているのが、Kishi家のニューフェイス。かわいいなぁ。
 1歳児の澄んだ眼。まだ真っ白で、両親と兄弟の愛情だけ受けて、疑いなく育っている。うんうん。

 ウッドデッキを歩いて玄関へ。玄関を入ると「おおぉ!」と声が出る。

 吹き抜けの木の空間。吹き抜けを登るオープンな階段。階段に取り巻かれるように置かれ、存在感を示す薪ストーブ。薪ストーブの煙突は高い2階の屋根に向かって真っ直ぐ伸びている。テーブルも、ソファーも、ロッキングチェアーもすべて同じ雰囲気で統一されている。

 木の床、壁、天井は音の響きを吸収して、熱を蓄えて、すべてを柔らかく包んでくれている。
 たとえば我が家は軽量鉄骨の柱の普通の機能パネルで組み立てられた家で、音が金属的に響く感じがする。比較するとその雰囲気の暖かさはまったく違っている。

 ところで、「ちょっと抱っこしてもいい?」
 「いいよ。」

 我が家は一人娘のみで、男の子がいない。
 やっぱり違うね。
 なんというか、ほら、ハマチを釣って、これを手で押さえようとすると、全身筋肉でバタバタするだろう?
 タイ系の魚だったら、持っていると大人しくなる。これが娘のイメージ。
 ハマチは男の子のイメージ。なんとも元気で活きがいい。

 と、言ったら笑われた。

 まずはリクエストにお答えして買ってきた「もみじ饅頭」をバッグから出して渡す。
 これは「おきな堂」のもみじ饅頭だから、賞味期限が短い。前日の朝、出張に出る前に宮島口に行って買ってきたものだ。
 さっそく奥さんと兄弟が頬張っている。おきな堂のもみじ饅頭は旨いからね。

 そして、すでに届いている荷物を開く。
 女房が詰め込んだ調味料、菓子などを取り出して奥さんや子供らに渡す。Kishiさんには焼酎。当然一升瓶だ。
 ロッドケースを取り出すと「これ、年期入ってるねぇ。」と奥さん。
 「いやいや、これは遠征専用で、広島ではちゃんとがまのロッドケース使ってるんよ。」

 このロッドケースは僕がチヌ釣りを始めた頃に買ったダイワのセミハードのもので、肩掛けなんてとっくに切れていて、それを縫いつけたりしてして使っている。ファスナーは毎度毎度塩で固着していて、潤滑剤で無理無理動かしている。
 道具なんて使えればいい、という基本スタンスに立ち返れば何の問題もないのだけれど、遠征先の渡船でこんなロッドケースを使っている人間は僕ぐらいしかいないわけで、ちょっと恥ずかしいかな、とも思う...けれど、まあいいか。と思い始めてからはや行く年月...


 おそらくKishiさんは「早く行こうぜ」と思っていたのではないか?と思うのだけれど、僕は奥さんが入れてくれた美味しいコーヒーを飲みながら、まだたらたらして、ようやく腰を上げる。さて...

 怪獣サファリに荷物を積み込んで、男鹿半島に向けて出発。

 もう随分男鹿半島までの道は見慣れてきたな。
 と、思ったら、途中から見たことがない道に入っている。今回はこれまで何度か行っていた加茂地区ではなくて、戸賀地区の渡船を利用するのだ。

 Kishiさんから聞いていた、名物?の船頭さんに初対面。

 車から降りると、Kishiさんが歩いていく先に網を繕うおじいちゃんがいた。ああ、あの人が船頭さんか。

 聞いていた話から想像していたところと違って、何とも穏和で優しそうな目をしたおじいちゃんだった。
 もっとも、話していることは例によって2〜3割しかわからないのだけれど。


 船はべた凪の海を進む。瀬戸内育ちには安心できる状況だ。
 水族館「GAO」が左手に見えているのだけれど、この建物には記憶がある。釣りバカ日誌で出てきていたんだよね。
 あの水族館の下の地磯でハマちゃんが釣りしていたんだっけ。


 磯に到着。ウネリがないので渡礁も怖くない。南紀や男鹿の心配事の一つがこれなんだ。

 沖向きの釣り座を譲って貰って、準備する。

 Kishiさんは...あ、もう準備できたのか。

 対して僕は未だなにもやっていないに等しい。磯の上を見て歩いたり、いつものように海水を舐めてみたり...天気もいいし、気持ちいいからね。

 マキエはオキアミ生と真鯛パワー。Kishiさんに準備しておいてもらったもので、粉はKishiさんのセレクト。最近の僕の集魚剤に対するこだわりは...「なんでもいい」である。ただ、臭いの強いものや、やたらと集魚効果をうたったものは勘弁して欲しいとは思う。その辺の僕の気持ちはKishiさんも共有しているので、なんでもいい、のだ。

 いつも、バッカンは2つ持ってきていて、一つは道具入れ、一つはマキエ、としているのだけれど、今回はボーっとしていて、バッカンを一つしか持ってきていなかった。このため、マキエ用のバッカンはKishiさんに借りている。
 ということで、ついでに水くみバケツも借りる。帰るときに荷造りすることを考えると、汚れ物は少ない方が助かる...なんと我が儘な。
 ちなみに、玉網は自分のものをちゃんと準備している。これはどうせ使わないから問題がない。


 とりあえず、プロ山元浮きG2をセットして釣り座に立つ。すでに12時半を回っている。

 Kishiさんは...早速釣っている...ギザミ(ベラ)だけど。

 この日、Kishiさんはひたすらベラ類を連発させることになる。これはおそらく釣り座の影響だと思う。潮の当たり方と根の張りだし方との関係で、根回りのベラ類がやたらと掛かってきていたのではないかな?

 

 僕の方は至って静か。

 狙いはグレ中心に真鯛を期待する、というあたりでいいのだろうけれど、グレはまったく浮いてきていない。

 浮きをBに交換して、少しだけ効率を上げる。

 ベラ類を掛けるKishiさんの横で沈黙の僕。

 前日の睡眠不足もあって、気持ちよくてウトウトしかかりそうなところをそれなりに耐えて、一応ちょっとだけ釣りを組み立ててみる。

 マキエを入れる点、線、あるいは面と、仕掛けを入れる点。マキエとサシエが合流する棚。
 僕は基本的に浮きは浮かせたままで、かつキチンとウキ止めをつける、オーソドックスというか古典的なフカセが好きだ。
 いろいろ考えるときに、基準が曖昧になると、判断がつきにくくなるからね。

 お!
 ようやく来た。グレ。30絡みかな?

 

 Kishiさんに確認した上、その指示を仰いでキープする。今晩のおかずだ。


 風も少し出てきているので、仕掛けの馴染みを考えて、浮きを2Bに交換。ウキ下は細々と動かしてはいるが、軒並み深い。竿2本でのグレ、というのは、今ひとつ面白みに欠けるところがあるのだけれど、まぁチヌを釣っている、と思えばいいか。

 真鯛パワーはちょっと軽い集魚剤のようで、どうも遠投し難いが、当て潮を利用して少し沖目からも攻めてみる。

 といっても大したことをしているわけでもなくて、あれこれやって、拾い釣りをするような形で4枚ほど30cm絡みのグレを釣った。

 

 もっともそんなことは実はどうでもよくて、こうやって、男鹿の磯の上でKishiさんと竿を並べていて、適当に魚が遊んでくれていることが実に幸せだ。

 チヌ釣りを20年ほどやってきて、得たものはこういう時間なのかな、と最近つくづく思う。
 釣りをしていなければこういう時間は得られなかったはずだし、他のものを犠牲にしてでも竿を振り続けたから、こうやって知らない海に来ても、魚と遊べる程度の力はついてきたのだろうしね。

 大した蓄えはないけれど、いままで僅かながら蓄えてきたものに乗っかって、海と釣りとゆっくりと付き合っていきたい。




 Kishi家のお風呂。壁も天井も木。木の香りが心地よい。ゆったりとしたバスタブに浸かる。いいなぁ。

 卓上にならぶ料理。今回もまた、2晩にわたって心づくしの料理を頂いた。旨いんだよね。ここで食べる食事は。

 グレのタタキ。Kishiさん作。グレをタタキにして食べるとこれほど旨いとは思わなかった。男鹿のグレ故に...ということかも知れないけれど。
 ハタハタ。焼き魚にしてあって、なかなか上手に背骨を抜くことができないのだけれど、これもまた旨い。子持ちハタハタなんて、なかなか食べる機会がないもの。
 きりたんぽ鍋。秋田といえばこれ。奥さんの作るきりたんぽ鍋は実に旨い。毎晩これを食べていたら体重が増えそうだ。
 奥さん特製のツミレ。これがまた旨い。
 Kishiさん製の魚の煮付け。Kishiさんが釣った良型のメバルを頂いた。旨い。
 アナゴ...これは見慣れたアナゴとは明らかに違う...正直に言って少々気持ち悪い生き物だ。現時点ではアナゴに分類されているけれど、将来は?という生き物らしい。好き嫌いが分かれる、と聞いたけれど、見た目は別として、焼いてぶつ切りにされたこのアナゴ、旨い。普段のアナゴとはまったく違う味わいなのだけれどね。
 チヌの刺身。これは2日目に釣った僕の男鹿磯初チヌなのだけれど、こいつも瀬戸内のチヌより旨い気がする。
 奥さん特製ラーメン。こいつがまた旨いんだなぁ。このラーメンはそんじょそこらの店で食べるよりは間違いなく旨い。


 2日目の夜にはKishi家兄弟と一緒に温泉へ。
 「ねえ、優さん。サウナはいろ!」
 「やだ!おれ、サウナ嫌いなんだよな。」
 「え〜、入ろうよ。」
 「やだってば。」
 ・・・大人げない。付き合ってやれよ、俺。

 余談だけれど、僕は風呂、温泉が大好きで、できるだけゆったりと浸かりたい。サウナに入るとそれだけで疲れるので、あまり好まないのだ。

 露天に兄弟と浸かる。こいつらの眼も2年前と同じで澄んでるんだよな。


 2年前同様、当然のようにソフトクリームをねだる。はいはい、判ってるよ。
 たまに来るおじさんは、少々甘くてもいいのだ。と勝手な持論。Kishi家ではそういうノリはおそらく許容されている、と思っている。・・・勝手に...





 さて、2日目は雨の予報なのだ。
 僕は雨に打たれてまで釣りをしようと思わない、という、極めて弛んだ精神状態にあるため、そういう意思表示を秋田に行く前からしていた。

 朝、眼を醒ますと激しい雨だ。

 ・・・よし、もう一回寝よう。

 すると、Kishiさんが起きてくる。

 ・・・気付かないフリをしておこう。雨だからね。

 「優さん、行きましょうか。」と、顔に書いた状態で、僕に「おはよ」という。

 「雨だよ。」(まさか、この雨で行こう、なんて口には出さないよね?ね?)

 「とりあえず、加茂まで行ってみましょうか。」

 「え、うん。そうしようか。」(まじか!まったくこのM釣り師は..)

 といった複雑なやり取りの結果、身支度をして怪獣サファリに乗り込まざるを得なかった。
 こんな日は、温泉巡りでもした方がいいんだけどなぁ。


 ところが...だ。
 僕の晴男パワーはやはり健在で、加茂に着いたころには殆ど雨は上がっていた。
 何の問題もない空模様だ。

 釣りの遠征では、如何に降水確率が高くても殆ど雨に打たれない。ただし、Ba2さんと釣りに行く時を除く。という伝説はなおも続くのだった。


 ところが...ところが、だ。
 渡礁した磯は「ババのハナレ」。名前が悪い...ほら、雨が降ってきた...


 その雨も少しパラついた程度で上がり、ほとんど雨によるストレスなしに竿が振れた。


 ここでも沖向きの釣り座を譲って貰った。真鯛が期待できる磯だそうだ。折角だからぶち切られてみたいところだけれど、大物に縁のない僕には無理だろうな。

 

 前日の磯と違って、エサ取りが多い。前日は餌が残るシーンが多かったからね。
 豆フグ、サヨリ、スズメなどなど。ただ、案外なんとかなりそうな雰囲気だ。

 瀬戸内流に、前面の水域を少々広く捕らえて、マキエの投点と仕掛けを入れる点を大きく離し、マキエの流れる筋を特定して、この筋になるべくコンスタントにマキエを入れて、沖目に投入した仕掛けを馴染ませながら引き込んで、合流した点からゆっくり張りながら流していく。

 案外潮の流れがコロコロ変わるので、それに応じて微調整。

 仕掛けは前日に続いて少々重めで、3Bの浮きをベースに調整している。棚をしっかりとって、なるべく効率的に釣りたい。

 ここでもコッパ〜30cm絡みのグレ、チャリコ、ウマヅラハゲなどが竿を曲げる。
 期待の真鯛は、潮が沖向きに出て行かないため無理だろう。

 沖にエサ取りの気が向いたところで足下近くも狙ってみる。

 竿2本先で浮きが沈む。
 アワセ!

 ガンガンっと首を振る手応え...お、これは、とうとうやったか?

 出た!小さいけれど男鹿磯初チヌだ!

 

 紀州釣りではチヌは2年前に釣っているけれど、磯フカセでのチヌはこれが一枚目。やはりチヌ師としてはグレよりチヌの方が嬉しい。顔がにやける。Kishiさんも満面の笑みで喜んでくれている。嬉しいね。


 Kishiさんもチヌはすでに釣り上げている。

 

 こういう磯磯した男っぽい釣り場でチヌ、というのは、あまりイメージが湧かないのだけれど、男鹿ではやはり釣れるんだな。



 見回りの渡船で磯代わり。
 今度の磯は下黒島というところ。

 もう少し遅い時期にはチヌの一級ポイントになるらしい。
 少々浅いポイントで、加茂の港のすぐ近くだ。

 ここは小メバルとウミタナゴがエサ取りの中心か。このウミタナゴは鬱陶しい。

 潮があまり動いていないので、できるだけ沖に仕掛けを入れて、その手前にマキエを入れて、仕掛けを馴染ませてからマキエに引き込む、という組み立てになる。
 マキエと仕掛けの投入点の位置関係と棚だけを調整してみる。

 ここでもグレを少し追加。


 Kishiさんは...ちゃんとベラ類を釣っている。グレを釣りながらも、ちゃんとベラ類を釣り、しかも僕とダブルヒットで、しかも小ベラのしっぽにスレ掛かりさせる、という神業的お笑いネタも演出してくれた。

 

 下黒島では結局1時間ほどは雨に打たれたけれど、釣りに来て良かったな。

 釣りは面白い。
 そんな当たり前のことを思い出した。

 名残惜しい思いを抱えながら、迎えの渡船に乗ったんだ。




 Kishi家の末弟もかなり僕に馴染んでくれたようで、いろいろな表情を見せてくれる。
 次に来たときは...もっといろいろ喋ってくれるんだろうな。楽しみだ。

 おなじみの兄弟。また来るから、また遊んでくれよ。今回も楽しかったよ。
 どんどん大きくなるもんな。次に会えるときがまた楽しみだ。
 
 一層名残惜しい思いを抱えて、岸家を後にする。



 秋田空港。
 出勤前に送ってくれたKishiさんに缶コーヒーをおごる。
 ただし、小銭が70円しかなかったので、残りは自分で出して貰う。ははは。



 「またね」
 がっちりと握手して別れる。

 広島と秋田は1300kmも離れているそうだ。遠いね。
 けれど、海と釣りがあるから、また海と釣りでもう縁ができているから、また会える。

 今度は念願の南紀でのsomeさんを交えた時間かも知れないし、僕がまたここに帰ってくるかも知れない。



 ああ。それにしてもゆったりとしたいい時間だったなぁ。本当にありがとうね。