南紀からつながる海


南紀。2014、2015。年を越えて。南と北の友と過ごす。

 なんと、7年ぶり...だ。
 最後に訪れたのは、2007年の12月の終わり頃。

 あの頃、もちろんまだ離婚なんて積極的に自分からは考えていなかったし、仕事でも立場が今とはかなり違っていたはず。

 7年あれば、小学生が入学して卒業しているわけで、それほどの時間が経った...けれど...2014年11月22日...紀伊勝浦駅の改札を出たところに座っていたおじさん?は、間違いなくsomeさんだった。
 初めてsomeさんの実物にあったのは、2001年の11月。
 あの時は本当に悪人顔だなぁ、と思ったけれど、そのころに比べると、歳をとったからか?はたまた少し見慣れたからか?随分柔らかい雰囲気になったのかな?という気もする。
 しかし、そんなに歳をとった感じがしなかったのは、なんだか嬉しい。

 広島から紀伊勝浦まで6時間以上かかる。交通手段が新幹線+特急しかないわけで、これ以上短縮のしようもない。ただでさえ陸の孤島的な雰囲気を感じる(失礼...)南紀だけれど、田舎から田舎に移動するのは本当に時間がかかるんだよね。

車窓から。

 さて、someさんの家。久しぶりだな。荷を解き、また宅急便で送っておいた釣り道具も確認する。

 二時間近く一緒に温泉に浸かる。これができるのが南紀の素晴らしいところで、また、someさんの素晴らしいところ。これだけ温泉に付き合ってくれる人も珍しい。
 メールや電話でときどき話はしているけれど、実際に、この7年間で起こった、あるいは重たい、あるいは面白い話を交し合う。おそらく、重たい話の方が多い。それは歳をとった、ということの一つの形なのかも知れないね。

 
 翌、早朝。
 眠い目をこすりつつ、あてがわれたベッドを抜け出す。
 久しぶりに足を通すがまかつの磯ズボンが何故だかくすぐったく感じる。
 マルキューの長袖ポロシャツ(昔大会に出ていたころ参加賞でもらっていたもの。たくさんある。)を着て、その上に着古した赤い綿シャツを着る。こいつらは釣りの時のユニフォームみたいなもんだな。

 宇久井。someさんの家から車で1〜2分の港。渡船店に顔を出すと「2番船」と言われる。
 1番船で十分乗れる、と事前情報があったようだけれど、やはり連休中日、人が多いようだ。

 僕は全く問題ない。暗いうちに磯に上がるのはあまり好きではないし、磯なんてどこでもいい。極端な話釣れなければ釣れないで、まぁそれはそれでいい。今の僕の正直な心境。
 ただ、一日中エサも触られず無反応、というのはつまらないので、適当に遊んでもらえるとありがたい。

 そこで出会ったsomeさんの友人の方。こちらの方は1番船で渡礁されていて、someさんは電話で情報を得ている。狙っていたオベラシ、コベラシは満杯。友人の方が上がられていた沖エビはまだ上がれそうなので、こちらにお邪魔することに。

 とりあえず防寒着を上下着込んで、ロッドケースとバッカンを持って車から歩く。おお、なんだかやっぱりくすぐったい。

 船に乗り込み、直列五島を目指す。

 海の上、船の上。心地よい。ダイビングをしていても思うこと。俺は海が好きだなぁ。やっぱり。海へのかかわり方は幅が広がった。もっとゆっくり、ゆったりと海に触れていたい。

 さて、磯上がり。今日はうねりもあまりなくて、怖くない。外海の海はうねりがあるから、僕のような瀬戸内釣り師には結構刺激が強いんだ。上下する舳。足場とレベルがあったときに渡る。それが瀬戸内ではあまりないからね...

 someさんの友人の方...と書き続けるのも辛いので、Kさん、としておこう。

 Kさんと挨拶。いろいろ教えていただいて、船着きとは反対向きに釣り座を構える。

 明るくなって分かったことだけれど、僕が釣り座にしたところは、足元右側に大きく根が張り出していて、ここで大型を掛けたら、僕の実力ではまず捕れそうにない。が、別にいい。そんなことは掛けてから考えよう。

 someさんは遠慮して船着き方向に釣り座を構えている。

 Kさんは地エビ方向の水道に向かって...お?グレだ。どうにも、20〜28cmくらいかな、それくらいのグレが湧いているみたい。



 少し悩んだけれど、今日はそんな日だろう、と考えて、竿はアテンダー(1号)にする。先日釣具屋を覗いたらアテンダー2が出ていた。その他にも知らない竿がたくさん。でも、あまり物欲は刺激されなかった。まぁ滅多に釣りにいかないからなぁ。

 悩んだのは、こんな海でしか使えない、昔懐かし?グレ競技SP2 1.75号を使うかどうか?ということ。
 でも、たいしたサイズは出ないだろうな、という予感もあって、やめにした。

 とはいえ、道糸は2.5号。ハリスはVハード1.75号を張る。

 プロ山元浮きG2。いつも通りスイベルで道糸とハリスをつなぐ。浮きとスイベルの間には、普通の蛍光ゴム管を1cmほどに切ったものを通して、つまようじで固定する。それだけ。古臭い仕掛けのセッティングになっているかも知れないなぁ。まぁ釣れりゃいいんだ。うんうん。

 ジンタンは打たず、完全フカセ、浮き止めはとりあえずスイベルから一ヒロ。針からは3ヒロ。

 オキアミ生を針に刺す。撒き餌はオキアミ生6kgを用意して、グレパワーV9を混ぜる。

 さて、始めよう。

 足元から張り出している根を超えて右手側から入ってきている潮がサラシを作っている。



 潮は船着き側から当たって、沖エビを取り巻く形で流れている。地エビとの水道筋、つまり左からも潮が入ってきていて、これが合流している感じか...と思っていると、右から左へ潮が流れたり、どうにもふらふらしていて捉えどころがない複雑な流れを生んでいる。
 ここにサラシが合わさる訳だから、つまりは訳が分からない。

 ともかく、サラシの際から沖方向に出る流れを探る。

 何故か手前に来たり、右へ行ったり、左へ行ったり。ほんの少し仕掛けを入れる場所が変わるだけで、仕掛けが捕まる流れが変わってしまう。

 25〜27cmくらいのグレが2投目から掛かってくる。


 湧いているくらいだから活性は高い...が、そんな時間も朝方のわずかな時間だった。

 3つ、4つ釣っただろうか。



尾長も混ざる。

 が、そのあとはエサが残るようになってくる。
 
 時折、思い出したかのようにコッパが掛かるが...それも段々に遠のいていく。

 someさんと話をしながら、ゆったりと、でも潮の動きを考えて、仕掛けの入れ所、撒き餌の入れ所を探っていく。いい感じで沖に出る流れを掴んでも、それでもエサが残る。

 かなり表層の潮に浮きが押されている。サラシを越えてくる流が強く、また、右から入る潮と左から入る潮が少しズレてふらついている感じ。やり難い。瀬戸内の複雑な潮とは少し様子が違って、本質的に読めない。

 やむなく、浮きをBに変えて、潮受けの大きいクッションゴムを入れてみる。

 そんなこんなで弁当食って、そんなこんなで浮きが沈んだ。

 
 非常に小さくてなんだが、生まれて初めて釣ったシマアジ。美味しい魚だけどsomeさんの家で料理をする予定がないので、Kさんに差し上げる。

 この日はそんな感じで一日の釣りを終えた。天気もよくて、暖かくて、気持ちよかったなぁ。海はいい。

 その翌日、串本でダイビング。これはまた別の機会に...


 さて、ダイビングを終えて、紀伊勝浦駅。someさんとしばしのお別れ。次はまた1年後くらいかな?もう少し早くこれるといいんだけど。someさんに手土産にもらったプリンなど食べながら、車窓から南紀の海に別れを告げる。なるべく早く帰ってきたいな...


 と、思ったら...

 前々から噂があった?秋田のkishiさんの南紀釣行。とうとう決心したらしい。という情報が入った...いや、本人のメールだけど。

 日程を聞いて手帳とにらめっこ。年も変わって2015年1月23日、24日の土日を釣りに充てるそうだ。僕の予定は...空いている。が、22日金曜夜は懇親会あって移動できないから、23日に同行するのは無理だ。金もなぁ。う〜む...

 しかし、逢える時にはちょっと無理をしてでも逢っておかないと、後で後悔する。それを教えてくれた友もいる。行こうか。

 前回からたった1か月後。6時間以上の時間をかけて、旧いタイプの特急くろしおで半ば車酔いしつつ(あれは本当に乗り心地が悪い)、紀伊勝浦駅に降り立つ。

 初日の釣りを終えたsomeさんとkishiさんがもう車で待っているようだ。

 お、いい顔してるね。kishiさん。何年振りかな?HPで確認すると...2008年11月15日。
 男鹿の磯で二日間釣った。あれ以来か。6年ちょっとぶり。

 ようやくだ。本当にようやくだ。一度、kishiさんと二人で南紀に行くことを予定したことがある。もう随分前だ。そのとき、諸般の事情で実行できなかった。またいつでも行ける。そう思ったけれど、人生にはいろいろなことがある。時間が過ぎる。

 しかし、時間が過ぎても、こうして逢えた。3人で。南紀で。これだけでも、思い切って来てよかった。

 本州最南端に近いこの紀伊勝浦。本州でもほとんど北の端の男鹿半島をメインのフィールドにするkishiさんと、瀬戸内、広島在住の僕が顔を合わせ、6年、7年といった時間を感じさせずに...時間を共有する。

 今ではほとんど釣りに行っていない僕だけれど、真剣に釣りに打ち込んで、またホームページを書いていて、本当によかった。宝物だな。

 kishiさんは、すっかり釣りの世界ではメジャーな存在になっている。僕が出来なかったことを達成したんだ。G杯グレで2年連続全国大会出場。東レフィールドスタッフ。マルキューフィールドスタッフ。合ってたっけ?(間違ってたらごめんなさい)。kishiさんの地元では、彼の面倒見がよくて優しい人柄と、本当の意味で海に遊んでもらって、釣りを楽しむことを目指す、そんな姿勢に集う仲間が沢山いるらしい。そりゃそうだろう。これだけ気持ちいい男はなかなかいない。

 1か月前にsomeさんと2時間ほど浸かった露天風呂に3人で浸かる。もちろん、kishiさんに2時間も付き合わせるわけにはいかないので、1時間ちょっとで出る。でも、kishiさんもこれくらいは付き合ってくれる。いろいろなことがある。同年代のkishiさんと僕は40も半ばを過ぎ、someさんは50を超えている。二人のところに遊びに行っていた6〜7年前には想像もしなかったことが。
 風呂で、また飯を食いながら、またsomeさんの家で飲みながら(注:僕はソフトドリンク)、重たい話、しんどい話、頷きながら時間が過ぎる。
 kishiさんの釣りの話。someさんのレポートを聞きながら、やっぱりすごいレベルに達しているんだな、とつくづく思う。初日も竿頭だったようだ。

 kishiさんの行きついた今のスタイル。もちろん進化の途中なのだろうけれど、目指すところはシンプル、なのだろう。基本スタイルは...ハリスを6〜8ヒロ。長ハリス派と言われるスタイル。浮きは0号マイナス(呼び名はいろいろあるようだけれど)。ハリス、道糸とも1.5号。もちろん道糸とハリスは直結。直結部分にヒゲを残し、山元八郎さんのなるほど浮き止め的に使っているようだ。浮きの落下止めのクッションゴム(これも銘柄にこだわりあり)とG5のジンタンで余浮力を殺して、クッションゴムをナビに使いながら、シンプルな細仕掛けを自然になじませるスタイルだろう。もちろん状況によってG8までのジンタンも使い分けている。実際は明日見てみてからだけれど。

 僕も以前、0号の浮きを使った完全フカセに凝っていた。今も仕掛けにジンタンを一切打たずに釣ることもあるけれど、瀬戸内でチヌを釣っていて行き着いたスタイルはG2浮きを中心にした釣り。ハリスは2ヒロから2ヒロ半。スイベルを使って道糸とハリスをつなぐ。ジンタンを基本はG5とG7に分けて打って、段打ちにしたり、ハリスの最上段に上げてハリス分はフリーにしたり、G7を外したり、とバリエーションをつけている。つまりはかなり古臭いスタイルなのだけれど、仕掛けの使いまわしの良さが手返しの停滞を防いでくれる。
 おそらくね、チヌにはこれでよかったんだと思う。でも、これもまた別の話。

 さて、kishiさんは滅茶苦茶寝起きがいい。僕がまだ布団の中でごそごそしているときに、すでに起きだして支度をしている。意地になって目覚ましが鳴るまで布団にもぐり、目覚ましの音で仕方なく起きだす。朝早いのは辛い...

 身支度を整えて、someさんを待ち、出発。

 今回は紀伊勝浦の沖磯だ。someさんの家から15分くらいだろうか。渡船場まで。清丸渡船だ。

 前回ご一緒させていただいたKさん、さらにそのご友人が、kishiさんの釣りを見たい、とのことで同じ磯に上がることになった。
 渡礁したのは一の島。kishiさんとsomeさんが昨日も上がった磯だ。

 折角なので釣れる可能性が高い磯、というのは、もしかしたら僕を楽しませてくれるためだったのかな?

 トーナメンターは撒き餌を沢山使う。kishiさんはオキアミ生1枚にグレパワーV9を2袋...買ってたので真似たら、前日の撒き餌がまだ余ってたみたい。そうは言っても40cmバッカンがいっぱいになるほどではなく、広島湾のチヌ師、とくに大会の時に使う撒き餌の量に比べれば少ない方だな。

 僕も大会の時はそれなりに使っていたけれど、普段の地磯の釣りだと、周りに人がいないから競合することもなく、そうなると撒き餌の集魚力なんかさほど必要ないので、沢山は使わない。もちろん、エサ取りが多い時には沢山いるけれど、そのときはオキアミが多い方がいい。サシエのカモフラージュとエサ取りの誘導なので、撒き餌を目立たせないといけない。それがなければ6時間でオキアミ生1枚とチヌパワー麦1袋で余る。

 さて、相変わらずトロトロと準備する。

 仕掛けは1か月前とまったく同じ。道糸2.5号。こんなに太くなくてもいいし、太くないほうがいい、と思ったのだけれど、まだ1度しか使っていないのでもったいないからそのまま使う。ハリスも前回同様、Vハード1.75号。浮きは使い古したプロ山本浮きG2。

 船着き方向へkishiさんと僕が入らせてもらう。kishiさんに場所を選ばせてもらって、僕は船着きの右側。こちらは根が張り出していないので、1か月前のようにビクビクしなくても楽に釣れそう。kishiさんは船頭が止めるにも関わらず船着きへ。すぐ左に根が張り出しているから、獲れない、ということのようだけれど、昨日も同じ場所でしっかり獲っている。

 水平線から朝日が昇る。水平線のない瀬戸内ではあり得ない光景だし、秋田でも東は陸地だからあり得ない光景。

 

 潮はトロトロと左から右へ。
 kishiさんの邪魔になりそうだったので、釣り座を徐々に右に移していく。またその方は釣り座も高くなって釣りやすい。凪いだ、穏やかな海。良い天気。

 さて...あれ?

 エサが残る。聞いていた雰囲気とまるで違う。「昨日と違いますね」とkishiさんも言っている。

 黒潮の影響をまともに受けるこのあたりの海は、黒潮が離れれば海は冷え込み、渋くなる。これも瀬戸内ではあまりないことだ。もちろん大雨など降って淡水が大量に流れ込んだりすれば別だけれど、今日と明日の海がこんなに違うことはない。

 こりゃ、厳しいなぁ。1か月前の海はまだ秋の海という感じで活性高かったけれど、これは冬の海だ。

 3時間ほど、静かな時間が過ぎる。

 こんな時は横目でkishiさんの釣りを観察するに限る。僕のイメージしていたような釣り方なのだけれど、思った以上に丁寧だし、身体の動き、仕掛けの動き(なじみ)がとてつもなくスムーズだ。玄人だなぁ。僕ももっと突き詰めていれば、こんな風になったのか?突き詰めていたころの自分の釣りは他の人からはどう映っていたのかな?
 今は少々歯がゆいくらいヨタヨタな気がしている。
 
 ピシっと、小気味よいアワセが入り、竿が曲がる。竿の曲りからして大したサイズではないのかな?と思ったら、これは単に竿が固くて、またそういう特性というだけだった。徹底的な先調子なのだろう。グレ競技スペシャルV。胴に乗せるような竿はグレには不向きなのだそうだ。

 なかなかよいサイズのようだ。

 絵になるなぁ。

 思った以上にデカそうで、隣りで見ていて、そのやり取りは手に汗握る感じ。
 でも、安心感がある。

 

 何度かの突っ込みをかわして、タモ入れ。

 

 デカい!少なくとも僕はこんなサイズのグレは過去に南紀で...あ、一度紀州釣りしていて竿を放置していたらかかったことがあったなぁ。40cmのグレ。

 

 クチブト。帰りに渡船店の検寸台で測ったら44cm。やっぱりすごい。この男。

 この日は終始渋い状況で、でも、明らかに僕の方が釣りやすい状況であったように思うのだけれど、僕のグレはコッパグレ。一日釣って25cmくらいを2枚。それと、きちんと僕らしくベラを釣って、とどめにフグ...というかキタマクラ。
 

 さて、someさんは地方向きに釣り座を構えているけれど、まったくアタリもでないようで、僕らが釣っている釣り座の上の方に横になって鼾をかいたりしている。

 kishiさんも、時折someさんと話をしたりしながら、ゆったりと海を楽しんでいる。

 僕は...ちょっとだけムキになっていたところもあるかも。確かにこの状況。僕のコッパも含めて当たってきているのは6ヒロ〜8ヒロくらいのかなり深い棚だ。しかも渋い。2.5号の道糸、1.75号のハリスでは太いか。しかもグレは浮きから針までを一直線(できるだけ)にするのが基本であることは知っている。知っているが、チヌばかり釣ってきた感覚が邪魔をする。チヌもグレも基本は一緒...のようで実は違う。チヌはこれくらいの深棚だと、たとえば2B、3Bといった浮きにガン玉もハリスの最上段打って、道糸とハリスの角度がついてしまっても釣れる。その方が釣れるときもあるくらいだ。

 ムキになって、神経質にG5、G7のジンタンを打った仕掛けを張りながら沈める。けれど、これくらいの棚だとおのずと限界がある。

 難しいなぁ。グレ。チヌ釣ってたら同じように釣れてしまう瀬戸内のグレとは違うなぁ。

 さて、kishiさん。ハイライトは先の44cmのクチブトではなかった。

 

 尾長。40cm。

 このやり取りは本当にスリリングだった。一旦浮かせたか?と思ったら猛烈な突っ込み。左手の根に向かって走る。フイを疲れたkishiさん。リールの巻きが追い付かない。巻く!なんとか根の上に持ち上げてグレを走らす。強引にやり取りしなければ終わってしまう...
 ハラハラしながら「僕の」玉網に収まったのがこのグレ。

 結局kishiさん。良型だけで、クチブト32cm、44cm。尾長39.5cm、40cm。この他小さ目のグレも釣っている。やっぱり凄い。

 凄いし、刺激になった。グレをキチンと釣ってみたいな、と思った。こんなに刺激になる人の釣りを見たのは初めてかも。

 さて、「僕の」玉網だけれど、kishiさんのたタモ枠が壊れていたので、都度都度僕が玉網を貸していた。しかも、僕の釣り座からタモの柄の方をkishiさんに向けて伸ばして渡すものだから、kishiさんは伸びた状態の玉網を操作せざるを得なくなって、申し訳ないことをした。


 で、玉網の話。
 1か月前の釣り。僕はKさんの玉網を借りて掬った。僕の水汲みバケツ。ロープと一緒にバケツを放り投げてしまった。
 それを掬ったのが、唯一の玉網の出番。

 で、この日の釣り。今度は帰りにバッカンを洗っていたら、バッカンを落としてしまった。もうボロボロでファスナーの締まらないようなバッカンだからどうでもいいのだけれど、あれだけ巨大なゴミを流すわけにもいかず、改めて自分の玉網を組み立てて、頑張って掬う。潮下に移動しながら何度かのトライでようやくギリギリタモ枠の中に納まった。
 重たかった。水の入ったバッカン。柄が折れるかと思った。

 要らんなぁ。俺に玉網。頻繁に釣りに行っていたころからがまかつのタモの柄のいい奴が欲しかったのだけれど、あまり費用対効果が見込めなくて我慢していた。ずっと使っているのはニッシンの柄。
 バケツやバッカン掬うなら、これで十分だな。やれやれ、ドン臭い。


 再び3人で湯に浸かる。

 蕎麦屋で蕎麦とマグロの握り、それとサービスの山盛りのマグロの切り落としに舌鼓を打つ。

 夜。飲む。

 尽きることのない話。

 楽しかったなぁ。本当に。

 いろんなことがあって、これからもいろんなことがあるけれど、またこうやって楽しい時間を過ごせるように、前を向いて歩きたいな。そんな風に素直に思った。

 ホント、楽しかったなぁ。

 今度はkishiさんの釣りをもっと研究して、南紀に来よう。そんな風に釣りに対する興味が少し戻ってきたのも、ホント、ありがたい。

 よい時間だった。またね。


南紀からつながる海

2015年2月21日。

 予報では天気も良さそうだったし、南紀でkishiさんの釣りを見てからずっと考えていたことを実践したくなって、レンタカーを借りた。もちろん借り出したのは20日。

 周防大島といえど、この時期になるとチヌがそこそこ釣れる場所も限られてくる。最近、冬場お気に入りのこの磯、潮が上がってくると行くのが大変。できれば上げ3分くらいで入っておきたい。
 割と切り立った岩肌で、かつ岩質が剥離しやすいところで、潮位が上がると、入るのにかなり苦労する。もちろん、上げ5分を超えると入ることすらできない。
 昔のように磯を飛び回るのはちょっと無理なので、慎重を期して、珍しく朝4時に起き、5時前には家を出た。

 夜が白み始め、明るくなってきたころ、駐車スペースに到着。
 防寒着の下にフリースを着込むか?そこまで寒くはないだろう。最高気温も13〜14度くらいありそうだし。
 上下の防寒着に、ヒップガード。フローティングベストをつけて、ロッドケースとバッカン、集魚剤を入れたリュックを背負って歩き始める。

 ゴロタを歩き、一部へばりつくようにして岩場を越えて、少し息が荒くなったころ釣り座についた。ここは釣り座は広くてフラットで楽だ。

 撒き餌は前夜購入して半解凍状態になったオキアミ生3kgとチヌパワー麦、さらにオカラダンゴを一袋ずつ。こんなに要らないかなぁ、と思いつつ、用意している。

 オキアミを2kg分ほど崩して、海水を入れる。シャバシャバにしてからチヌパワー麦を入れて混ぜる。水分を馴染ませてからオカラダンゴを入れ、また海水を入れて混ぜる。
 残り1kgほどのオキアミはサシエを取ったり、少し余らせている集魚剤を足しながら崩して撒き餌にする。冬の時期はオキアミは過剰に混ざっていない方がいい。

 お!夜明けだ。


 これはこれで美しい。瀬戸内はほんと雰囲気よいね。

 たっぷりと撒き餌を入れておいてから仕掛けの準備をする。

 しかし...それにしても北風が強い。ほぼ真正面(弱右側)から風が吹き付けてきている。まともに風表に立っている。これじゃ、正面に向いては釣れないなぁ。

 kishiさんにもらったトヨフロンガイアXXの1.2号を7ヒロ。道糸も銀鱗スーパーストロングNEOの1.5号に撒き替えている。

 ちょっとkishiさんの釣りをトレースしてみよう。・・・と思ったのだけれど...初めての長ハリス。これがまた超大変。
 いつも使っているVハードに比べて、このガイアってやつはハリが弱い。いや、しなやかでよいハリスなのだけれど、過剰に固くてピンピンしているVハードに比べると、柔らかくて扱いにくい。2ヒロくらいなら何とでもなるが、7ヒロともなると...
 強風で煽られて訳が分からなくなってくる。

 さらに道糸も2号に比べて1.5号はやはり柔らかい。こいつも吹きさらしで訳が分からなくなる。

 ええい!面倒な風だ。

 老眼なのか??この扱いにくいラインを直結するのに悪戦苦闘。さらに針を結ぼうと思っても、風が吹き付ける指先はだんだん感覚が薄くなってきていて、歯がゆいほどうまく結べない。なんだか、ど素人になったみたいだ。

 浮きはkishiさんが、使わないから、といってくれたプロ山元浮き0号の「よ」と入ったやつ。0号マイナスの意味らしい。いろいろ作るなぁ。

 ようやく仕掛けをセットしたころには30分くらい経っていた。

 さて、釣り開始。
 1月末ころなら、最初からエサが触られても不思議ないのだけれど、さすがに2月も末。水温も最も低くなる時期だ。しばらくエサも触られない時間が過ぎる。

 kishiさんの仕掛けを真似ているのだけれど、確かに、あまり遠くに仕掛けを入れなければ、自然に仕掛けが馴染み、ゆっくりと入っていく。
 潮がまだ低いので、ハリスに浮き止めをつけている。4.5ヒロくらいからスタートだ。
 瀬戸内、とくに広島湾周辺は干満差がとても大きく、この日も3m近く差がある。沖に払い出る潮なら良いのだけれど、そういう潮が必ずしも期待できない海なら、6ヒロ、7ヒロを固定していると、根掛かりが懸念されるところ。
 慣れればその手前で仕掛けを持ち上げればいいのだろうけれど、少し不安なので浮き止めを入れている。

 しばらく、まったく反応のない時間が続く。

 1.5時間くらい経っただろうか。

 仕掛けを回収しようと竿をあげたら、グンっと重量感が竿を襲う。竿を立てる。ガンガンっと首を振る手応えが伝わってくる。完全に居食いだ。
 しかし...足元にかなり近いところで食っている。この釣り座、正面向きなら足元に何もないのだけれど、北北東から吹き付ける風をよけて北西〜西向きに竿を出している今日は、足元に大きな根がある。ちょっと拙いかな?と思ったら、案の定、根につかれてしまった。チヌでこんなことするのは非常に情けない。まぁ居食いで完全に後手に回ったからなぁ。

 しかしチヌなので、少し緩めれば出てくるだろう、と思ったのだけれど、少し荒いこの磯、ラインが挟まったようで、結局切れてしまった。40絡みくらいだろうなぁ。これで終わらなきゃいいけど。

 また、しばし静かな時間が過ぎる。どうも、まったくアタリが取れない。
 その上、足元の根を避けて少し沖に仕掛けを入れると、強風もあってうまく仕掛けが入っていない...訳ではないのだけれど(回収するときの状況から)、何か不安。慣れない仕掛けだから。

 それと、もう一つずっと考えていたのだけれど、確かにグレは仕掛けを一直線にして、残留浮力も殺して、魚が口を使った後、負荷が段階的に魚に伝わらないようにしないといけないのだけれど、チヌの場合、よほど渋いときを除くと、少し抵抗があった方が食い込みがよくなることがある。だとすると、いつもの仕掛けの方が理に適っているのかな?(この海だと、という意味だけれど)。

 そう思い始めると、居てもたってもいられなくなり、仕掛けをいつものものに戻す。プロ山元浮きG2、ハリスはVハード1.25号。G5をハリスの最上段へ、G7を上から1/3あたりに打つ。

 さてさて、どうなるかな?

 と、思ったら、早速浮きに気配が出る。
 そーっと誘いを掛けると浮きが入る。やっぱりこうやって浮きの朱色が滲み、引き込まれる時間が好きだなぁ。

 アワセ!グンっと重量感がのり、首を振る手応えが竿越しに伝わってくる。しかし大したサイズではないなぁ。
 玉網に滑り込んだのは36cmのチヌ。
 この時期のチヌは身が厚く、見るからに脂が載っていて旨そうだ。

 

 しばらくして、またアタリが出る。流石に食ってくる棚はかなり底近く、食いも渋いけれど、この時期にこうやってアタリが出るというのも、やはり海水温の上昇なのだろうなぁ。

 

 よい引き。竿を絞り込んでくれたのは39cm。なかなかサイズはでないな。僕の釣りだと、こういうサイズばかり釣ってしまうのかも知れない。

 変化しないといけないかな?

 7ヒロのハリスは、また後で使おうと思って丁寧に巻き取っておいた。
 これを再びセットする。浮きも0号マイナス。が、また強風にあおられて悪戦苦闘。絡まる絡まる。散々時間を費やして、ようやくセット完了。

 が...やはり上手くいかない。仕掛けが軽い分、ある程度馴染ませて、仕掛けを底へ入れても、風に対処するロッドワークや(道糸を風上に戻す)、ハリを入れるロッドワークに対して、思いのほか仕掛けが浮き上がってしまう。明らかに底で食ってきている状況なので、これだと効率が悪すぎる。

 悪すぎる、というより、この仕掛けが使い慣れず、うまく扱えていないのだ。kishiさんなら上手く扱い、結果を出すのだろう。

 結局、仕掛けをまたG2のいつもの仕掛けに戻す。

 そうすると、少ししてまたアタリが出た。
 アワセ!
 一瞬重量感を感じた後、竿先が跳ね上がる。

 あっちゃ〜、バラしたか。情けないなぁ。・・・と思いつつ仕掛けを回収すると、スイベルの下に糸がない。

 あれ??

 なんと、かじかんだ指で頑張って結んだつもりが、きちんと結べてなかったようだ。そういえば、ハリスの端が立つ向きがおかしいような気がしてたんだよなぁ。これもブランクのなせる業か。やれやれ恥ずかしい。それに口から2ヒロ強のハリスをはやして泳いでいるチヌにも申し訳ない。

 ハリスを張り替える。潮は満ち上がり前の時合を過ぎて、潮止まり、さらに下げに入ってきている。

 このポイントは、満ち上がりは釣れる。下げはじめも釣れるのだけれど、下げも5分を過ぎるとまったく反応がなくなる。

 今日の釣りもあと少しだな。

 お!また触ってるぞ。しかし、渋い。入らない。そっと誘いを掛ける。でも入らない。あ、離した。

 仕掛けを打ち直す。よし、触ってる。そ〜っと...ホンの軽くラインにテンションを掛ける。
 滲んでいた朱色が引き込まれ始める。
 アワセ!

 グンっと乗ってきたが、これもまた大したサイズではないなぁ。 
 34cm。

 そのあと、30cm弱が釣れたが、これは即リリース。

 予測通り、完全にアタリが遠のいた。帰りやすいように潮位が下がるまで、一応努力する。

 

 結局、4枚釣って、キープは3枚。この時期で2枚もバラしてりゃ仕方ないわなぁ。

 ダイビング用に買ったオリンパスTG3。防水カメラ(ダイビングにはハウジングを使っている)。WIFI付でiphoneをリモコンにできる。ちょっと使ってみよう。

 
 なんだか、妙に魚がデカく写ってしまった。

 それと、このカメラ。顕微鏡モードがあって、超接写のマクロ撮影ができる。面白いので試してみよう。
 
 チヌの目...怖い...か。でも綺麗だね。

 
 この日は、すべてカンヌキに掛かっていた。そんな写真も撮ってみよう。

 このカメラ、遊べて面白い。

 しかし、寒い一日だった。納竿間近になって、今にも雨が降りそうな曇り空になったころ、風も落ちて少し寒さは和らいだけれど、ほとんどの時間北風にさらされて、予想気温ほどの暖かさはまったく感じず、指先の感覚はなくなるし、インナーのダウンを外した防寒着越しに風の冷たさが伝わってきた。フリース、着とけばよかった。

 でも、こうやってこんな真冬にでも楽しめる海には感謝だな。

 車に戻り、走り始めたら雨が落ち始めた。

 広島県の県境を超えたころには本降り。早めに撤収してよかった。

 夜は、安芸さんの家にチヌを届け、安芸さんの料理でチヌを楽しむ。やはりこの時期のチヌは美味い。

 一枚をさらに安芸さんの家に置いて帰った。翌日は刺身、翌々日はアラ汁にして楽しんでいただけたようだ。

 僕は、翌日、湯引きにした刺身。さらに西京焼きにしようと...思ったら西京味噌が売ってなかった(前はあったのになぁ)ので、仕方なく甘口の白みそを買って、なんちゃって西京焼きのために白みそ、味醂、酒の味噌床を作って漬け込んでおいた。
 さらに翌日、つまりは今日なのだけれど、これを焼いて食った。美味い。
 お酒には弱いけれど、獺祭の小瓶があったので、刺身、西京焼きと、お猪口一杯ずつの獺祭で楽しんだ。

 あぁ、楽しかった。

 今度、この時期にkishiさんとこの磯に入ってみたいなぁ。

 南紀で刺激を受けて、そして今日の楽しい海に出会えた。感謝。