公務員の裏話―3月によせて

これを書いているのは,令和4年3月9日です。
3月と言えば,人事異動の季節です。
公務員のみならず,一般企業においても悲喜こもごものドラマがあることでしょう。
今回は「公務員と人事」というテーマで,あまり人には見せられない話を書いてみたいと思います。

なお,これはあくまで私の個人的な考えであることを最初におことわりしておきます。
また,前述のとおり人にはあまり見せられない話であり,公務員の仕事に夢と希望を持っている方には閲覧をお勧めしません。
そういう方はブラウザバックをお願いします。

公務員だけでなく,勤め人にとって「人事異動」というのは職業人生において大きな転機たり得ます。
言うまでもなく,適所に配置されて良い人間関係に恵まれればその後数年は幸せな職場生活が保証されますし,逆なら悲惨な生活が待っています。
そして,特に若いうち,さらに言えば一番最初の新卒採用時の人事配置はほぼほぼ運であると言えるでしょう。
当然,採用試験時の成績によっていわゆる「花形部署」に配置される者とそうでない者はいるでしょうが,前者が必ずしも幸せとは限りません。

たとえば,採用試験で優秀な成績を納めて「鳴り物入り」で入庁し,花形部署に配置されたとします。
無論期待されて入って来たわけですから,自ずとそのハードルは高いものとなるでしょう。
しかし他方,いくら試験が優秀だったと言っても,勤め人としては1年目です。
プロ野球のように特殊能力があれば一年目から20勝…というような業界ではないですから,仕事を覚えるまでは四苦八苦するはずです。

で,仕事を覚えるまできちんとフォローしてくれる上司や同僚がいるところであれば順調に成長して戦力になれますが,そうでない場合もあります。
特に今は人員削減=コストダウン=美徳,のように言われていますから,新人を教育する余裕のない部署は多いのではないでしょうか。

私の場合で言うと,まあ私は優秀な成績を納めて花形…という訳ではありませんでしたが,まず本庁の某部署に配属されました。
しかし,何故か引継ぎらしい引継ぎがありませんでした。
なので,「仕事しろ」と言われても何をしたらいいのか分かりませんでした。

まごまごするばかりの私にさらに追い打ちを掛けたのが,上司の存在です。
私の初めての上司は若干パワハラの気があり,ことあるごとに私のことを怒鳴りつけるように叱りました。
無論全てが理不尽という訳ではなく,叱られて当然の事柄もありましたが,今考えても凡そ8:2くらいで理不尽の方が多かったと記憶しています。
当時は「しらふで残業ができるか!」という二重の意味でおかしな価値観がある時代で,私は上司の酒とつまみを買いにパシらされました。
つまみ選びのセンスがない,と嗤われたのはいい思い出です。

このような職場でしたから,私はほどなくメンタルを病みまして,一度は入院する羽目になりました。
まあ私は元々メンタルに難がありましたから,このような職場でなくとも遠からぬうちに病んでいたかも知れませんが,それにしても…
結局私は僅か2年で出世街道からドロップアウトし,出先機関で細々と木っ端役人としての人生を送ることになったのでした。

そうかと思えば,私の同期の一人は最初,山奥の出先機関に配属されました。
しかし,のんびりとした雰囲気の職場で少しずつ地道に力を蓄え,3年の勤務の後に本庁に異動。
そこでも着実に実績を積んで,今は「出世の登竜門」的な花形部署でバリバリ仕事をしています。
なので,最初に「花形」とは程遠い部署に配属されても,決して腐ることはありません。
むしろ上述の同期のようなルートだってあるのですから,その方が却って幸せだったというケースもあるでしょう。

さて,私の悲劇はそれだけにとどまりませんでした。
そのような過去を持っているにも関わらず,ある時「ブラック」で有名な某職場に配属になったのです。
ちなみに,私の考える「ブラック」な職場は次のとおりです。

1 日付を跨ぐような残業が日常的に行われている。
2 あまり関わりたくない種類の人(クレーマーや893など)への対応が日常的にある。
3 パワハラやセクハラを日常的に行っている上司がいる。
4 残業しても一定時間までしか残業代がつかない。(全くつかないのは論外)
5 上述の問題があることが明らかなのに誰も改善しようとしない。

当時の某職場は4以外全て該当していました。私の上司はあからさまなパワハラ上司ではありませんでしたが,私の仕事についてチクチク文句を言う同僚がいましたし,同じ職場の他部署においてはパワハラの話はそこらじゅうにありました。
唯一,やっただけの金をもらえることだけが救いでした。部署によっては「残業代に充てる予算がない」「36協定に引っ掛かると外聞が悪い」という理由で残業をつけることさえ許されない職場だってありますから。

で,このような職場でしたから勿論漏れなく病みまして,一度は解放されていた心療内科通いがまた復活することになったのでした。
正直,私が新入社員の時に病んだ記録は残っているはずであり,そのような者をこのような部署に送るなど,悪意があるとしか思えない。

さらに悪いことに,このような部署は当然人気がなく,行きたいと思う者など皆無です。
なので,「一度経験している者」を二度三度と送り込む傾向があるのです。
特定の者を犠牲にすることで残りの大多数を守っているのです。
その「特定の者」に心ならずも割り当てられた側としてはたまったものではありません。

勿論,人事異動に際しては各職員に対して「意向調査」が実施されます。
しかしこれは恰好だけのものであり,少なくとも私に関して言えば希望が叶ったことは殆どありませんし,周りも殆どそうだと言います。
まあ私の場合,よほど弱ったら少し呑気な,というか負担の軽い部署に行かせてもらえたので,その点は感謝しておりますが。
トップのお気に入りである「花の首飾り組」であれば相当程度希望が考慮されるかと思いますが,大多数はこの扱いだと思います。

結局のところ,官民問わずそうだと思いますが,順調に出世出来るかあるいは頓挫するかを決めるのは,人事運によるところが大と言えます。
よく職員募集のパンフレットか何かで,順調に出世して課長とかになった人が「やりがいのある仕事,素晴らしい上司・同僚に恵まれて楽しく仕事をしています!そうしたら課長になれちゃいました!」みたいな談話を寄せていますが,あれは相当運の良い人だと思います。
それか「ブラックをブラックと思わないくらい忍耐強い(あるいは良い意味での鈍感力のある)」人なのかも知れませんが。

で,運の悪い人はと言うと,私のように出世街道から早々にドロップアウトして出先機関で細々とした仕事に憂き身をやつすか,それならまだ幸せな方で心身の健康を害して退職したり,酷い場合になると命を落とすケースもあります。
私の知っている同期又は後輩の中に,若くして亡くなった人が3人,錯乱して退職した人が一人います。
適切な配慮がなされていれば助かった人も少なからずいたはずで,私は非常に残念に思いますし,また明日は我が身かも知れないと思うと背筋に寒いものを感じます。

今はパワハラに非常にうるさいご時世ですからだいぶ少なくなりましたが,昔「パワハラで3人殺した」と言われた悪名高き職員がいました。
上述の亡くなったうちの少なくとも1名は彼の犠牲者です。
本来ならこの時点で職員としての資格なしとして追放されるべきであるとさえ思いますが,彼は幹部に出世して定年まで勤め上げました。
このような人を出世させる時点で,何か間違っているというか,理不尽を感じずにはいられませんでした。
無論これは昔の話であり,あまりパワハラについての意識が高くない時代だったかも知れません。今はそのようなことはないと信じたいですが。

このような訳で,出世して幸せな公務員人生を送れるかどうかはほぼ100%運に左右される,というのが私の感想です。
繰り返しますが,最近はパワハラについてはかなりうるさくなりましたので,このような不幸な例はなくなったと信じたいところです。
しかし,公務員を取り巻く環境は今も厳しさを増しており,いわゆる「ブラック」な職場というものはなくなっていないと思います。
また,ブラック云々以外にも,適材適所の職場にうまく配属されれば幸せになれますが,そうでなければ不幸になる場合もあるでしょう。

無論,これは官民問わずあることだと思います。
私自身は人事に携わったことはありませんのでどのような形で人事が決まるのかは知らないのですが,もし人事に携わっている方がこの項をお読みになったならば,そしてそこにご自身の裁量を入れる余地があるのならば,一人一人の職員に対して可能な限りの配慮をし,気を利かせてもらいたいと心から願います。
あなたのさじ加減一つで,一人の人間が幸せになったり不幸になったり,最悪命を落としたりする場合だってあるのですから。



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