父は小さな漁船を持っています。持っていますと言っても兄弟で出し合って作ったので自分一人の物ではありません。釣りに行く時や墓参りの時によく使います。私が小学生のころ、私と妹と弟と父で大島(周防大島)へ釣りに行ったことがありました。船は車と違って「乗った、すぐホイ」って感じには動きません。まず燃料を缶で買ってきて、注いで。車で持ってきた釣りの荷物やお弁当なんかを船に積み替えたりしなければなりません。
ちょうどこの時、潮がひいていて、浮き桟橋と岸壁の間に渡してあった橋が恐ろしく急な角度になっていました。橋と言っても手すりがあるわけでもなく、板に横木が打ち付けてあるだけ。おまけに乗るとたわみます。荷物はいっぱいあったのですが、橋を恐がるので、私たち子供はまるで使い物にはなりません。
「お前らはもうええ。船に乗っとれ。」(注1)そう言った手前、父は船と車を一人で何往復もしなければならなくなりました。荷物は四人分あるのです。結構大変です。
うちの船が桟橋に直付けでなかったので、陸、橋、桟橋、よその船、よその船、うちの船、よその船、よその船、桟橋、橋、陸、といったふうに渡って歩きました。父は大変太っていました。橋を渡るとビュワンビュワンたわみます。船から船へ渡る度、父が足をかけた所がぐっと沈みます。父が右へ行けば船は大きく右に傾き、左に行けば左に傾きます。父が踏んで通った船は、当分「起き上がりこぼし」のように右へ左へ揺れていました。父がうちの船の縁に立った時、傾き過ぎて沈んでしまうかと思って、子供たち全員でバランスをとるつもりで反対側の縁に行くと、しかられました。
「お前らぁゴソゴソ動くな。振り落とされて海に落ちても知らんど。」岸壁に私たちの船の様子をじっと見ていた者がいました。島の子供たちです。子供の一人が大きな声で言ったのです。
「あのおっさん、
ぶーち太っとって相撲取りみたいなけぇ。
150キロはあるでよぅ。」(注2)私たち兄弟はこれを聞いて転がり回って笑いました。「腹を抱えて」なんてレベルではありません。腸がよじれて口から出るかと思うくらい笑いました。
父は確かに太ってはいましたが、当時体重は80キロ(身長160センチ)ぐらいだったと思います。船が大きく傾いたり、橋がたわんだりするのを見て、体重が150キロあると思ったのでしょうか。それとも相撲取り=150キロだったのでしょうか。これ以来、私たち兄弟は150キロという言葉に妙に敏感になりました。「150キロ」と聞くとつい笑いがこみあげてきます。
・・・この話、おもしろくなかったですか?。おかしいなあ。家で話すと絶対大爆笑なのになー。非常にパーソナルな内輪ウケの話でした。
あの時の「相撲取り発言」の男の子も、もうずいぶん大きくなっているだろうな。(岩国弁がわかる人にしか、この場面の面白さを伝えきることができないのは残念です。)(注1)乗っとれ=乗っていなさい
(注2)あのおっさん〜=あのおじさん、すごく太っていて相撲取りみたいだな。150キロはあるぞ。