クリスマスの思い出


 私の母は岩国市内の某スーパーに勤めていました。

「どうでも今日は、
ケーキを買って帰らんわけにはいかんかなあ」

と思いつつ、12月25日、母はまだクリスマスケーキを買わずにいました。

・・・ここで投げ売りのクリスマスケーキを買って帰る、というのはどこの家庭でもある話です。我が家の話はここから始まります。


 12月25日の閉店間際、職場でゴミを出しに行った母は見つけたのです。スーパーのゴミ集積場にある「山積みの真っ赤な箱」を。

「ケーキの箱だわ・・・」

と思って持ってみると、

「おや?中身がある。」

これは?これは?と手当たり次第に箱を開けると全部中身があるのです。店に戻って菓子部門の人に聞いてみると、クリスマスケーキが売れ残ったので捨てたとのこと。(当時、老人ホームなどに残ったケーキを持って行っても、あっちもこっちも一時にくれるのであまり喜ばれなかったそうです。今だったらO−157が心配で、店は残り物をあげたくないし、貰う方もちょっと考えるかもね。)


「これは儲けた!
捨ててあっても箱ごとだし、中身はきれいなまま。
ケーキを買わずに済んだ。」

母はチョコレートケーキを一箱とって帰ろうとしました。

「いや待て。お父さんに電話だっ。」

母は父に電話して、ケーキを車で持って帰ってもらうことにしました。母がこの日拾ったケーキは約20個。それもチョコレートケーキばっかりです。


 父が車でケーキを持って帰りました。ご近所に配りまくって、8つ我が家に残りました。玄関に積まれたケーキの箱の山。イブにケーキを買って来なかったので、私たちは大喜びです。

「今日はケーキがあるけえ、ご飯はいらん。」

我が家は誕生日やクリスマスなど、ケーキがある日は希望によりご飯が出ません。おかずとケーキなのです。どの子もあまり大食らいではないので、食後ではケーキが食べられず、昔からそうでした。(ご飯を食べた後でもケーキが入る父だけ食後にケーキが出ていました。)


いつもなら一回食べておしまいなのに、今回はまだたくさんあります。

「やったあ、明日もまたケーキが食べれる。」

子供にとってバラ色の冬休みの始まりです。


 12月26日から学校は休みなので、食事は家で取ります。

朝、ケーキとコーヒー。
昼、ケーキとお茶。
おやつにケーキ。
夜、おかずとケーキ。
これが26日27日、28、29、・・・。

いくら好きとはいえ、さすがに三食ケーキは飽きてきました。でもまだ玄関に手つかずのケーキの箱が残っており、捨てるわけにもいきません。親は三日目位から口にしませんでしたが、子供三人ががんばって8箱のケーキをやっと平らげたのは12月31日でした。


「もう、ケーキはいらん」

ケーキなんか見たくもない、と思ったのはこれが最初で最後です。


(余談)捨てたクリスマスケーキを職員が大量に拾って帰ったことを受けて、このスーパーでは次の年から捨てるのをやめました。(母の他にも拾って帰った人がかなりいたらしいです。)25日閉店になったら、捨て値ででも「職員には売る」事にしたそうです。恐るべき商魂・・・。

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