夢の自販機


1.子供と自販機

私は小学生ころ、お風呂のないアパートに住んでいました。当時、うちのまわりでは風呂なしアパートはそう珍しくありませんでした。私の住んでいた地区には銭湯が3軒あり、今でもそのうちの2軒が営業中です。星空を見ながらデレンデレン歩いて行ったり、大雨で雷の日に母と二人だけで銭湯に行ったり(弟と妹は雷が恐いというので、家に置いてきた。父が子守り。)子供ながら毎日行く風呂屋を楽しんでいたように思います。ある日、風呂屋の外に缶ジュースの自販機が設置されました。

自販機ができて当分たったけど、そこでジュースを買ったことはありませんでした。風呂屋の中の冷蔵ケースのコーヒー牛乳のほうが安かったし、子供が3人いては、1本ではききません。毎日の風呂屋通いだけでも結構な出費だったので、冷蔵ケースのコーヒー牛乳だって一週間に1回買ってくれればいいほう。家の事情は子供もわかっていて、「自販機のジュース買って」などとは誰も言いませんでした。

ある日風呂屋の帰り、お金を入れてないので出ないのが分かっていながら
「ジュース、出んかねー。」
と、弟が軽い気持ちで自販機のボタンを押したのです。
「ゴトッ」

「あ、なんか出たよ。」
自販機の受け取り口にジュースが出てきました。だれかがお金をいれたままにして行ったのかも。

「もう1個、出んかね。」
今度は絶対だめだろうな、と思って同じジュースのボタンを押しました。
「ゴトッ」

「あ、また出た。」
ラッキーです。

「このジュースの所だけ、壊れとるんかもしれん。」
今度はさっきと違うジュースを注文してみました。
「ゴトッ」


それからは押しては出し、押しては出し。
最初、子供たちがおもしろがって出していました。しかし小さな手に2本も3本も缶が持てるはずもなく、さいさい落としてしまいました。見かねた母は、カゴに入れてきた私たちの着替えやお風呂道具を子供たちに持たせ、カゴにジュースを入れました。私たちが15本位出した頃だろうか
「カゴが重いし、ええかげんにゃーやめんさい。」
母の一言で「押しては出す」は終わりました。

その帰り道、笑いがとまらなかったのは言うまでもありません。

次の日、また風呂屋に行きました。帰りにボタンをまた押してみました。当然ながら何も出ません。昨日子供たちを狂気乱舞させた「夢の自販機」はお金を入れなきゃ出ないフツーの自販機にもどっていました。


2.オトナの自販機

市役所の1階にタバコの自販機があり時々機種がかわります。いつだったか、タバコを選ぶと勝手にお釣りが出る機械から、返却レバーを動かさないとお釣りが出ない機械に代わったことがありました。

ある人が300円入れて240円のタバコを買って「返却!」したら、お釣りが800円くらい出てきました。(前の人が1000円札でタバコを1個買って、「返却!」を忘れたらしい。)

300円入れて、240円の品物とお釣り800円が出てくる。これも「夢の自販機」?。(笑)


みなさんは、どちらの「夢の自販機」がお好みですか。


それはそうと、自販機でおつりを取り忘れるのは誰にでもあることです。
しかし、愛煙家のみなさんの中には
「タバコを忘れてお釣りだけ取ってくる人」
が結構いるらしいですね。(心当たりはありませんか?)
「なんでタバコ買いに行ってタバコ忘れて帰るんだよ。」って気がするんだけど・・・。普通ジュース買いに行ってジュース忘れたり、切符買いにいって切符忘れたりはしないよ。買いに行った商品を忘れてお釣りだけ持って帰る話は、タバコ以外では聞いたことがありません。買った時点で安心してしまうのか、お釣りが出る値段設定が悪いのか、本人がトボケてるのか・・・。タバコを吸わない私にとっては謎です。
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