わかっちゃいるけど・・・


わかっちゃいるけど1

私は2年間位、隔週で広島の病院に通院していました。私は今まで電車通学や電車通勤をしたことがありません。珍しさも手伝ってか、いろんな人を観察できておもしろい2年でした。 広島から帰りの時間がちょうどラッシュ時で座れないことが多かったのですが、隣に立っている人が読んでいる新聞を横目で読んだり、まわりの人を観察したり、けっこう退屈せずに病院帰りの電車に乗っていました。

珍しく座れたある日のことです。岩国駅に着いた時、
「もう、次の駅で降りるんだ。今日は早く着いたな。」
と思いました。そして電車は岩国駅を発車。

次の瞬間、何か見たような駅で、電車のドアが閉まりました。
「えっ?・・・、あーーーーーっ。」
私は下りるの駅の風景を電車の窓の中から見ていました。そうです。私はたった一駅、5分間だけ、一瞬にして熟睡してしまったのです。呆然とする私を乗せたまま電車は駅を後にしました。

広島岩国間は10分に1本電車があるのに、それから下は30分〜1時間に1本。すぐ次の駅で降りて引き返したけど、帰りの上り電車の来ないこと来ないこと。「5分間の熟睡」のおかげで帰るのにえらい時間がかかってしまいました。


わかっちゃいるけど2

スーパーで買い物をして帰りの駐車場でのことです。手が荷物でふさがっているとき、私はたいてい地面に荷物を置いて車の鍵を開けます。買い物袋は地面に置いたのに、なぜかこの日に限ってハンドバッグを車の屋根に置きました。
「そういえば、以前、車の屋根に置いた荷物をバラまきながら走ったっけ。」
私の車の屋根から落ちる荷物を、後続の友達の車が拾いながら走ったことがあったのを思いだしました。
「あのときは、ポスターとか景品とか、結構どうでもいいものをバラまいていったなあ。」
と思いつつ、私は車に乗りました。屋根にはバッグをのせたまま・・・。

私は家に帰ってバッグがないので青くなりました。警察に行って免許の紛失を届け、バッグにどんな物が入っていたかなどを届け出ました。

大事なバッグを落としたというのに私は妙に冷静でした。その晩7時に友達を迎えにいって、前に所属していた劇団の稽古を一緒に9時まで受けました。稽古が済んでから、私の家からスーパーまでを歩いてたどってみよう、ということになりました。友達は私につきあって、1時間半位一緒にバッグを探して歩いてくれました。歩く間、私は妙に明るかったというか、ヘンでした。友達は「河村ちゃんは、何でこんなにあっけらかんとしているんだろう」と思ったそうです。捜索の甲斐なく、その夜はバッグを見つける事はできませんでした。

次の日、職場に電話がありました。バッグを預かっている、というのです。「昨日バッグを落としたのはキャッシュコーナーが閉まった後で、朝一番に銀行の開店前に口座をロックしたので貯金は多分大丈夫だけど、現金や気にいっていた時計はないかもしれないなあ」と思って電話の主の所へ取りにいきました。

奇跡的にバッグの中身は無傷。何一つなくなってはいません。親切な方が、私が車の屋根にバッグを乗せているのを見かけ、落ちてすぐ拾ってくださったのです。

バッグを拾ってくださった方、一緒に探してくれた友達に心から感謝しています。ありがとう・・・。


私の「わかっちゃいるけど話」の特徴は、そうしたらどうなるかを、行動する直前にハッキリ意識していることです。「わかっちゃいるけど、やめられない」とはちょっと違うのです。何かに動かされて、わざわざそうしているような気がするのです。こういうのを「魔が差す」っていうのでしょうか。
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