おばちゃんのビデオ予約


私の母はおばちゃんなのにビデオの手動予約ができる(正確には「できた」だが。)。私は「この年齢で手動予約ができるのは自慢していいよ。」と母を褒めた。(母は1940年生まれ)今でこそ録画予約はGコードで誰にでもできるが、うちの母は10年位前(1978年ごろ)から、「何日の何時からのあの番組、録っといてね。」と電話しておけば録画してくれていた。当時はもちろんGコードなどなく手動予約。曜日−開始時刻−終了時刻−チャンネル−3倍or標準、と全項目をコツコツ入力していかなければならないので、若い奥様方でも録画予約はできないという人が結構いたのだ。

母は特別メカに強いわけではない。種を明かせば、弟が母に芸を仕込んでいたのだ。弟は出張が多く、出先からあれを録れだのこれを録れだの、新聞を見て電話してくる。母がビデオを使うことができれば非常に便利だ、と気づいた弟は、まず母用に取り扱い説明書の解説本を作った。自分が電話で頼むことがある操作を、一つ一つ手順を追ってノートに書き、自分が家にいる間に母をトレーニングしておくのだ。

しばらくすると、母は「ノートに書いてある事だけ」は完璧にできるようになる。でも基本が分かってやっている訳ではないので、ナイターの延長で15分放送時間がずれた場合とか、小回りがきかないこともある。予約内容を修正するなどの細かい設定は苦手なようだ。10年前から今まで何回かビデオを買い換え、今はGコード予約のビデオになり手動予約することはほとんどない。(Gコード方式になってからも弟は母に解説本を書いていた。)

一見うまくいっているようだが、問題点はある。ビデオを買い換える度に、弟は解説本を書き直さなければならない。弟は言う。「今度買う時は、わしのと同じビデオしか買うなよ。」弟の部屋のビデオと母の部屋のビデオはメーカーが違うので、操作がまるで違う。弟は全く違うビデオを使いこなし、解説本を2冊書かなければならない。本当にすごいのは母ではなく、2台の違うメーカーのビデオを使いこなせるよう母を教育した弟なのかもしれない。

今、私の家のビデオが壊れている。10年位前のビデオで、部品不足で再起不能のようだ。しかしおかげさまで、どうしても録りたい番組があるときは母に電話すればOK。ビデオが使える母はとても便利である。今度は「この年齢で、2つのメーカーのビデオ予約ができるのは自慢できるよ。」と褒めてみよう。

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