私が銭湯に行っていた頃の話だ。もくじへ戻る
髪を洗った後、夏場はタオルで頭を拭くだけだが、冬は寒いのでドライヤーをかけて乾かしていた。風呂屋にあったドライヤーは「パーマのお釜」みたいな感じで、お釜をかぶって数分すると完全に乾く。このドライヤーをうまく使うコツは「生乾きでやめる事」だ。お釜の中で温風が渦を巻いているので、完全に乾くまでお釜をかぶっていると髪形がパンクやヘビメタになってしまう。私たちはそれに早く気づいていたので、妹と私とで途中で交代して使っていた。ある日、母はパンツいっちょで(あぁこのへんがすでにオバハン)お釜をかぶっていた。その時風呂屋の床に何か黒い物が走った!。
「バン!」
この時の母の反応は早かった。黒い物はゴキブリだった。母に見つかってしまったゴキブリは哀れ昇天。母はお釜を脱ぎ捨て、素手でゴキブリを取ったのだ。母のゴキブリに対する執念はすごく、見つけたら必ず地獄に送っていた。家でもハエタタキや新聞紙など武器がない時は素手で叩いていた。
私はといえば、先日大家さんに家賃を払いに行った時のこと、大家さんの玄関でゴキブリを見つけた。もう寒いのでゴキブリは元気がなくヨロヨロ歩いていた。大家さんの奥さんが出てきて集金してくれたのだが、その間私はずっとゴキブリを見ていた。「母ならとっくの昔に素手でつぶしているだろうな。」
そんな事を考えている間に、ゴキブリはヨロヨロしながら部屋の奥へ消えていった。私はとうとう最後まで「奥さん、ゴキブリがいます。」とは言えなかった。私はもう少しで母がパンツいっちょでゴキブリを取った時と同じ位の年齢になる。でもいくら何でも素手ではゴキブリは取れない。最低でも新聞紙程度の武器は欲しい。
ちなみに私の主な武器はハエタタキ。それも体がつぶれるほどぶっ叩くのではなく、気絶する程度に叩く。そして外に捨ててとどめをさしておくと、次の朝には蟻がよってたかって掃除してくれている。
私は素手でゴキブリを取るのは永い間母だけと思っていた。しかしいろんな人の話を聞いてみると、結構いるのだ。素手で取れる人が。それも絶対お母さん。男で素手で取る人は聞いたことがない。うーん、恐るべきおばちゃんパワー。おばちゃんは強し。みなさんのまわりのおばちゃんはどうかな。