うるさいにも程がある


岩国は米軍基地があって、飛行機の音がけっこううるさい。といってもかなり地域差があって、飛び去る時は飛行機の真後と真下になる地区が、エンジンテストの時は基地の近くが特にうるさい。うちの職場で「基地110番」なるものを設けて「勉強できない」とか「気分が悪い」とか苦情を聞いた。うちが悪いわけでもないのに苦情を聞くってのも変な話だが、苦情の中には、何とかなるものと、聞いたところでどうしようもできないものがある。(はっきり言って、「うるさいので何とかしてください」系の話は、大変ですね、と話をきいてあげる事しかできない。)こんな事言っちゃいけないのかもしれないが、「本当に大変だなあ」と思う電話もあれば、「そりゃオーバーだろ」と思う電話もある。うるさくて赤ちゃんが泣くとか病人に障る、というのはわかる。でも「子供が勉強しない」ってのはやる気の問題じゃない?とも思う。それというのも私は基地110番に寄せられた苦情のどれにも負けない騒音を経験したからだ。

私が高校生のころ、うちの周りに下水管を埋める工事があった。アスファルトをノコギリで切って下水管を入れて、埋めて、アスファルトを張ってという感じの工事だった。切る線をアスファルトに書いて、取っかかりをドリルで穴をあけ、電動ノコで切る。ご近所のどの家のまわりも下水管を入れる。アスファルトを切って張った痕から、工事の進行方向と一日の進み具合が見てとれる。私は、
「木曜か金曜ぐらいには、うちへ来るなあ。」と思った。

予想は当たった。金曜からうちの前の工事が始まった。うちは角地にあるので工事する距離が長い。普通の家なら1日で通り過ぎるところ、2日はかかる。金曜はテスト前でクラブ活動がなく、私は早くから家にいた。金曜は家の西側の道路を切っていた。私の部屋からは遠かったが、アスファルトを電動ノコで切る音はかなりうるさかった。

「キィ〜ーーーーーーーーーーーン」
そんな音が夕方まで続いた。私はうるさいなと思いつつ、テスト勉強をしていた。家中どこへいってもあの音から逃れられはしない。一番うるさいのは工事している人なのだ。私はあきらめて机に向かった。

割とあっさりあきらめきれたのは、私が騒音には慣れっこになっていたからだ。家は線路の側(貨物列車が停車せず通り過ぎると家が地震のように揺れた)、隣が鉄工所、空には米軍機、すぐ側の道はまっすぐで広く、週末は暴走族のバイクがうなる、といった感じで、うちのまわりは常日頃からとてもうるさいのだ。いつの間にか少々の騒音なら耐えられるようになっていた。

でも、土曜日はそうはいかなかった。昼、学校から帰ったら、ちょうど私の部屋の前のアスファルトを切っていた。工事現場と私の部屋の距離は約3メートル。3メートル先でアスファルトを切る音を昼からじゅう聞かされるのだ。
「キィ〜ーーーーーーーーーーーン」
アスファルトは固いので、木を電気ノコで切るように「チョリン」とは切れない。ノコをじーっと当てて1センチ、また1センチという風に切っていく。私の部屋にいて、音を聞いているだけで疲れた。音が原因で動悸がしてきたのは初めてだ(ストレスで血圧が上がっていたのかもしれない)。いくら騒音に慣れているとはいえ、これはキツイ。そしてとうとう我慢しきれずに、勉強をやめて友達の家に避難した。

これが原因で、いろんな「騒音の迷惑話」を聞いても、めったな事では驚かなくなってしまった。私の「勉強をする気がなくなるほどうるさい」というのはこういうレベルなのだ。「基地110番」に電話してきて、「もっと驚いてくれよ」と思った方もおられるだろう。驚いてあげられなくてごめんよ…。

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