大きなぱっち




私は小さいころ狭いアパートに住んでいた。6畳の和室+2畳の台所、という今のワンルームマンションなみの広さに親子5人が住んでいた。たまに祖母が来たときは、祖母と私は台所で寝た。6畳の間にはタンスが2つ。父の製図机が一つ。テレビは置き場がないので、出窓に棚を作ってつるした。収納は1間の押し入れが一つと部屋じゅうの壁に勝手にとりつけた棚、という考えられない位狭い家だった。

あるクリスマスイブの夜、私は靴下を洋服ダンスの戸の取っ手にくくった。サンタが親であることは知っていたが、お決まりでくくった。妹は洋服ダンスの隣の和ダンスの取っ手に靴下をくくろうとしたが、やめた。

「大きい物を吊るしたら、大きい物がもらえるかもしれん。」

今から思うと実に子供らしい発想である。妹は考えた。家で大きいものといえば…。

考えた末、妹が取り出したのは母のぱっち。(関西圏のかたは「ぱっち」でお分かりだろうが、もも引きのこと)妹はぱっちをタンスに挟んで寝た。

朝起きてみると、私の枕元には本が置いてあり、妹の枕元には巨大な熊のぬいぐるみが母のぱっちをはいて立っていた。妹の喜びようといったらなかった。

私は今でもわからないのだ。あんな大きな熊をどこにかくしていたのだろう。父は買い物大嫌い人間なので、まず買いに行かない。母が買い物に行くときは私たち3兄弟が常に一緒。ほかの人に買って来てもらうとしても、押し入れは布団と衣装缶でいっぱいで隠すところがない。おまけに絶妙のタイミング。妹が靴下をやめてぱっちにしたのは寝る直前。もし小さな物を買っていたらどうするつもりだったのだろう。

私は今まで何回か熊の隠し場所を聞いた事があるが、絶対教えてくれない。親がモウロクする前に聞いておきたいものだ。          

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