吸いつく


私は高校の時、自転車通学だった。いつもは4人位で、近所の友達と帰るのだが、その日はなぜか私一人だった。学校は山の頂上にある。坂が急なので、行きは上まで自転車に乗っていくも大変だし、帰りは山の上から乗って降りては危険だということで、坂の途中に自転車置き場がある。

いくら山の下にあるとはいえ、自転車置き場を出れば当分下り坂。漕がなくてもスピードはかなりでる。私はいつものとおり漕がずに自転車に乗った。自転車置き場のまわりは歩道が道から15センチくらい高くなっていて、自転車を持ち上げなければ歩道にのれないので、車道を走る事が多かった。その日も車道を走った。

スピードが出てまもなく困った事になった。

「ヤバイっ!。」
自転車の両輪が歩道にぴったり平行についてしまったのだ。ハンドルが動かない。急ブレーキをかけると、自転車は止まっても自分が放り出される。もうすぐカーブで何がなんでもハンドルを切らなくてはならない。そうしなければガードレールに1直線…。

私は意を決して自転車から飛び下りた。自転車は立ったまま一人で走っていったが、このままではガードレールにぶち当たって壊れてしまう。私は着地と同時に走りだし、自転車を追いかけた。そして走って自転車の左ハンドルをつかまえた。その瞬間、私は自転車に引きずられて転び、ヘルメット(学校指定のやつ)は吹っ飛んだ。自転車はガードレールに当たることなく無事に止まった。

「止まった!」

私は足から血を流しながら、自転車の心配ばかりしていた。坂の下に商店があって、そこの水道で足の血を流して初めて傷の大きさに驚いた。私はハンカチで足を縛って、家まで自転車で帰った。

自転車が歩道に張りついて、私がつかまえるまで1分もかかってない。なぜ瞬間的に自転車をつかまえようと思ったのか今でもわからない。

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