痛恨のミス


ある日、私がお風呂に入ろうとすると、ゴキブリが湯船の真上の天井にとまっていた。黒い大きいゴキブリだ。ゴキブリは天井を少し歩いては足を滑らし、ブ〜ンと飛んで壁にとまり、歩いて天井へ行った。そして天井を歩いて足を滑らし、ブ〜ンと飛んで壁に…これを延々繰り返していた。

私は服を全部脱いでいたのだが、お風呂どころではなくなった。お風呂に入っているところへゴキブリがが落ちてきたらたまらない。私はタオルをハエタタキに持ち替え、お風呂に入る前にまずゴキブリを退治する事にした。立ち向かうはいいのだが、風呂場はうちで一番天井が高く、長さ50センチくらいのハエタタキではカスりもしない。むやみにハエタタキを振り回してゴキブリを刺激し、立体攻撃をかけられるのも恐い。平面移動だからゴキブリの速さに対抗できるのであって、飛ばれたら虫取り網でもなきゃ手も足もでない。しかたがないので、手が届く所に落ちて来るのを待つことにした。いつかは誤って低いところや床に落ちることがあるだろう…。

しかし敵もさるもの。ゴキブリはなかなかミスをしない。何も着ないでいると寒くなってきたので、さっき脱いだ服を着て、仕切り直し。そして待って…待って…待って…、やっと手が届く所に止まった。

バシュッ
その瞬間、黒い物が床を走った。私はあれれっ?と思った。ハエタタキのほうには確かな手応えがあるのに。まさか取り逃がしたはずはない…と思って、ハエタタキをはずすと、天井のゴキブリはそこにいた。床を走ったのは別物なのだ。天井のゴキブリを取った時の音にビックリして物陰から飛び出したようだ。

一難去ってまた一難。せっかく天井のゴキブリを退治したのに、またお風呂に入れなくなってしまった。別のゴキブリがどこに隠れたのかわからないので、今度は風呂場の床をタイルをバシバシたたいてみた。案の定、驚いて飛び出した所を「御用」。一件落着となった。天井のゴキブリは私に狙われていたのだからしかたがないとしても、床のゴキブリは私に全く気づかれてなかったのだ。ハエタタキの音に驚いて飛び出した、これは彼(彼女?)にとって痛恨のミス。とんだとばっちりで、「雉も鳴かずば撃たれまい」を地でいったゴキブリであった。…南無阿弥陀仏…。

 

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