ばあちゃんの知らない話


1.シーランの花

祖母は花が好きだった。庭が広かったのでいろんな物を庭に植えていた。祖母が自分で買って植えた物は名前がわかるが、近所からもらった物や勝手に生えた花など、名前のわからない物もあった。あるとき、ヒヤシンスに似た紫色の花が咲いていた。祖母は妹に花の名前をたずねた。

祖母「みーちゃん、これ、なん言う名前?」
妹 「知らーん。」
祖母「そうかね、シーラン言うんかね。」

妹は「違う〜〜」と思ったけど、何も言わなかった。側で見ていた私はおかしくてしょうがなかった。 家に帰ってこの話をしたら、大笑い。以来、この花はうちでは「シーランの花」になった。シーランは当時の図鑑に載ってなかったので、私たちは本当の名前を知るすべはなかった。

それから十何年もたって別の図鑑を見たとき、シーランの花を見つけた。「シラー」という名前だった。

「シーランもまんざらハズレじゃなかったんだね。」

と笑って見ていると、全く違う種類に「シラン」という花がある事もわかった。

祖母が死んで8年になるが、花好きは母を通して、私、妹と受け継がれている。シーランがシラーだとわかったのは割と最近の事なので、祖母は知らない。今、うちの庭にはシーランとシランが並んで蕾をつけている。


2.なぜか永久保存

大阪の叔母と福岡の叔母が来たとき、久賀町の資料館に行った。大島には各町に民族資料館があって、ハワイ移民(大島からハワイに移民した人は多い)をテーマにしたもの、漁師町をテーマにしたもの、などそれぞれ特徴があっておもしろい。久賀の目玉は醤油作り。久賀町から醤油杜氏として出稼ぎに行っていた人が多いそうだ。人が立ったまま入れる大きな醤油樽や、古民具などが飾られている。

古い久賀の写真もいろいろ展示してあった。私と母は何回か来ていたので、ザザっと流して見ていたが、初めて見る叔母たちは懐かしそうに見入っていた。一枚の写真の前で、叔母たちが話していた。

「これ、〇〇の屋根によう似とるとー。」
「そういやあこっちは××の畑で。」

私と母は何回もその写真の前を通ったが、じっくり見たことはなかった。その写真は祖母の家の近くを撮ったものだったのだ。こうなれば「ばあちゃんの家を探せ」で、みんなでよってたかって写真を見た。近所らしい家があるので、絶対あるはず…。

「あった。」
私が見つけたのは祖母の家のはめ殺しの小窓。家の全景は写っていなかったが、特徴ある小窓のある壁が半分位写っていた。この小窓は全面壁だった所に明かり取りのために祖父が作ったものだという。祖母のわらぶき屋根の家は随分前に解体された。しかし、小窓の写真はばあちゃんの知らない所でずーっと展示され続けることだろう。

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