母が２カ月ぶりに入院先から帰ってきた。病院の帰りにスーパーに寄ったのだが、食べ物の他に母が買った物は「ダニアース」。私はすごい、と思った。母は広島にいて岩国の実家を見ていないのに、状況がキチンと把握できているのだ。

17年前、母が入院したときは私がお母さん役だった。掃除、洗濯、３度の食事の支度（弁当も作っていた）、買い物、小鳥の世話。掃除と行っても掃除機、トイレ、風呂、台所、小鳥の籠の底がえといろいろあるし、買い物も平日は学校とクラブがあるので、週１回日曜しか行けない。１週間の献立をたて、それに沿って計画的に消費、購入していかないと、木曜の夜あたりから、冷蔵庫の残り物では食事がつくれなくなる。妹と当番でやっていたとはいえ、妹は吹奏楽部。私の方がいつも学校から早く帰ってくるので、夕食のしたくは必ず私。そうじにしても私の方が先に汚さに耐えきれなくなって、週の半ばでやることもあったので、家事負担は私が６で妹が４ぐらいだったと思う。

買い物は日曜にまとめ買い。私と妹とで、荷物を自転車の前の籠と後の籠に積んでスーパーのハシゴ。ティッシュやトイレットペーパーなどのかさばる物を買うときは家とスーパーを３往復した事もあった。そんな時、父が車を出してくれれば１回で済むのだ。しかし父は１回もスーパーまで乗せて行ってはくれなかった。私たちも連れていってくれ、と言わなかったが、４人分の１週間分の買い物がどの程度の量なのかわからなかったのだろう。食べるだけ、使うだけで、私たちにとって父も弟も大きな子供だった。おまけに１カ月分まとめてお金を持たせてくれれば、腐らない物は安い時に買いだめもできるのに、１週間で１万円も持たせてくれない。４人分の食事と、洗剤などの消耗品をこれでまかなえと？。買い物に行くときにお金をくれ、というと「またか？」という顔をよくされた。

うちの男どもは家ではサッパリ役にたたない。父は右の物を左にもしない人。弟は家事の手伝いは一切しない。私や妹は中間期末のテストだ、模試だ、クラブだとバタバタしながら家事もやっていたが、男どもはテレビを見たり新聞を読んだりゴロゴロしている。私はいちいち腹を立てている時間も惜しいぐらいだったので黙っていたが、少しは協力してくれよと思っていた。そういう生活が９月〜12月、３月〜６月、計半年続いた。

今回、私と妹は独立して家を出ている。母の一番の不安は家事だった。家の中にだれもお母さん役がいないのだ。父と弟では食べるものがまるで違う。父は糖尿病食、弟は肉や濃い味コッテリ好き。おまけに仲が悪いときた。母は父に「食事は自分のだけ作るように」、弟には「自分が今日食べる物を買ってくるように」と指示して入院した。洗濯はそれぞれでしていたようだ。弟も考えたもの、父のと自分のを一緒に洗濯すると毎回自分が洗濯することになるので、自分のだけ洗って干していたようだ。父も「代わりばんこに洗おう」と声をかければいいものを、自分のだけ洗っていた。干す場所も別々。ヘンな親子である。

病院からスーパー経由で実家に帰って、母の予想は当たっていた。玄関をあけるなり臭いのだ。湿気のにおい、ホコリのにおい…。どうも２カ月掃除機をかけてないようだ。母が一番にダニアースを買った判断は正しかった。案の定、コタツ敷きは２カ月しいたまま。台所には砂があがっていて汚くて座れないので、私はまず掃除機。母は流し台の掃除。今、実家はダニの巣窟まちがいなし。明日退院するから掃除機をかけておこう、なんて気はもうとうない２人。私も掃除機をかけに行けばよかったのだが、毎週土曜に見舞いに行っていては、２軒の家をかけもちで掃除してまわる程の余裕はない。実は退院３日前の夜があいていたので、掃除機をかけにいこうかと思ったが…やめた。３日も前に掃除してもまた掃除前に戻ってしまう。そのへんは17年前に学習済だ。無駄な抵抗はやめた。

母は言った。「もう２週間退院が遅かったら、家じゅうにカビが生えていただろう。」室内に洗濯物を干したら、誰もいなくてもエアコンで除湿しておかないと、部屋が湿気くさくなる。父も弟も夜、洗濯物しかいない部屋にエアコンをかけた事はないだろう。

他に、父は何を考えているのか、「これを払って来てくれ」と納付書だけをくれて、お金はくれなかった。弟も別の納付書の件で父に同じ事を言われたらしい。もし私が実家にいたら、買い物は100％私なので、私が２人を食べさせていかなきゃならない…？。母には申し訳ないが、私はこの度家を出ていてラッキーだった。もし私が実家にいたら、また大きな子供を２人かかえて今度は一人でお母さんをしなればならなかった。この事を母に言うと「いい時期に独立をしたかもね」と言われた。父と弟はこれで母がいない大変さが少しはわかっただろうか。

まったく、うちの男やもめにはダニがわくよ。