OD調査


国勢調査などの調査員のアルバイトを時々募集しているが、似たようなので「OD調査」の調査員をやったことがあった。「OD調査」のODが何の略だったかは忘れたが、一週間ぐらいの間の自動車の動きをつけてもらう物だった。どの車を調べるのかはあらかじめ決まっているので、その家に調査票を届けて説明をし、10日後に回収に行く。全戸回収し終わったら提出、で私はお役御免となる。

「OD調査」は結構めんどうくさい調査で、調査票を常に車に積んでおくか、メモをとりながらでないとできない物だった。今日1日、どこからどこまで走って何キロ、そこから次まで何キロ……帰宅と、道順と走行キロ数を書いていく。普通の家なら、一日中車庫に置きっぱなしだったり、お父さんの職場と家との往復とか、そうめんどくさくもないのだが、問題は商売屋さんの車。いちいち配達先ごとにメーターを記録なんてできるわけがない。「『車は全然動きませんでした』でもいいですから、何か書いてください。10日後に取りに来ますのでよろしくお願いします。」と調査票を押しつけて帰って行った。

私は車で行って調査票を配ったり回収したりするのは大変なので、自宅の近所を選んだ。そして調査票を配っていくうちにどうしても見つからない家がある。調査票を打ち出した後、引っ越してしまう事もあるので、時々そういうのがあるのだが、これは違う。調査対象の車は目の前にあるのだが、そこの家は調査票に書いてある名前(〇〇さん)とは違うのだ。その家には私より2つ位年下の子供がいるので知っているのだが、昔から△△さんだった。困った私は、その家に私が知らない名字の人でもいるのかな、と思って奥さんに聞いてみた。

私…「△△さん、私、OD調査をしています。調査対象車はここにあるし、住所もここなんですが、〇〇さんという方をご存じないでしょうか。」
奥さん…「はい、私ですが…。」

わたしは驚いた。ご近所の△△さんは外国人だったのだ。見た目は家族全員完璧に日本人だし、言葉も普通でなまりもないので、全然わからなかった。調査票に書いてある「〇〇さん」が本名で、私が知っていた「△△さん」という名前は通称だったのだ。

私は悪い事したかなあ、と思った。せっかく△△さんとして暮らしていたのに、ひょんな事から私にバレてしまった。その事を誰に言うわけでもないけど、知ってはいけない事を知ってしまった気がした。△△さんも私がどこの誰かよく知っておられるし、ご近所であるがゆえに私はバツが悪かった。

「OD調査」のバイトは結構いいお金になった。でもあのバツの悪い出来事以来、私はこの手の調査物のバイトはやめた。世の中には知らないほうがいい事もあるのだ。

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