古い家のジンクス


私が生まれたときに住んでいたのは古いアパート。今でもその建物はあって、人が住んでいる。私が子供のころ、すでに「かなりボロいなあ」と思っていた。いったい今では築何年なんだろう。生まれた年に建ったとしても35年…、いや子供の頃から古かったので、絶対築45年はたっていると思う。古い木造で共同トイレ、風呂なし。その割には二階に上がる階段の幅が2メートル位あって、一段一段に大きな一枚板が使われていた。行水ができるほどの広い洗濯場がついていて、うなぎをさばいたり、家の狭い台所でできないような大きいものを料理するとき重宝していた。1部屋1部屋がちゃちい割には共用スペースが充実しているヘンなアパートだった。

2つ目の家は、生まれたアパートの隣の区画の一軒家。家は一挙に3倍の広さになったが、この家も古い。それも何回も増築をやったようで、天井の高さが部屋ごとにちがうし、廊下も途中から板の幅が違う。岩国の方言でいうと「くど」というかまどのような物が台所にあって、その上に板を置いてガスレンジを置いていた。古いのだが、流しとダイニングを真ん中に穴のあいた作り付けの棚で区切るという、対面でないカウンターキッチンにも似た作りだった。

何より不思議なのは廊下が家を一周していることだった。増築を重ねたので、こんなムダな作りになったのだろうが、掃除が大変。片方から始めて廊下の真ん中あたりまでしか掃除機のコードが届かない。届く所まで掃除して、反対側は反対の部屋のコンセントにコードをさして届く所までやる。延長コードを使えばいいじゃないか、と思うだろうが、2つも3つもつながねばならないので、反対向きに掃除機をかけたほうが早いのだ。この家は前のアパートよりかなり古い。今は取り壊されて違う家が立っている。庭のシュロと松だけが、私たちが住んでいたころの面影を残している。

3つ目の家はこの前までいたアパート。「昭和45年東芝製」と書いた電気メーターがあったので、その頃建ったのだろうか。古い割には設備がハイカラ。給湯器つき、シャワーに洋式トイレ、風呂とトイレが同じ部屋、リビング階段のメゾネットタイプ。なにより良かったのが「ドアをあけてすぐ流し台」ではない。まず座敷で、その奥に台所がある。これは貧乏くさくなくてよかった。

今では洋式トイレは常識だが、昭和50年ぐらいでもよっぽどハイカラな家でないと洋式トイレではなかった。友達の家に行ってトイレが洋式だったら「〇〇ちゃんの家は洋式だよ」と話題になる位だった。このアパートは1ドル360円時代の外人向けアパートだったようで、今は外人さんが借りることはなくなったが、大家さんの人柄と家賃、時代を先取りした設備が功を奏して、私がいる間にも1カ月と空いたことがなかった。

4つめの家が今の家である。この家も築24年。リフォームがしてあって見た目きれいだが、実は古い。キレイなのは前の奥さんが掃除魔だったことも効いている。この家も古い割には最近話題の「回遊性のある家」だったり、「大きなシンク」だったり、「リビングと和室がつながって広々」と快適装備。掃き出し窓も既製品のサッシを組み合わせた「ハイサッシもどき」で、床から天井まで窓が開けられる。(うちの団地にはハイサッシもどきの家が多いので、当時流行った工法なのだろう。)私の妹の家も良く考えた家だが、うちも負けてない。建て売り住宅の広告を見ても、うちや妹の家のサイズでもっといい間取りには滅多に出会えない。

ここまで書いてきて、お気づきだろうか。私が住んでいる家はみな古い家。新築に住んだ事がない。妹は社宅から新築の家に移り住み、両親と弟は2番目の家から新築の家にかわった。なぜか私だけ古家を点々としている。今まで12年に一度ぐらいの割で引越しているが、もう引っ越すことはないだろう。私は古い家にしか住めない運命なのか?。もし12年後、ジンクスを破って新築の家に引っ越せたとしたら…それは宝くじが当たったからか…(笑)。それは12年後のお楽しみだ。(12年後じゃ、今の家のローンがまだ残ってるだろ!。どーする。)

目次へ ガラクタ展2000年11月号へ