モスラ様


我が家の壁に1匹の大きな茶色い蛾がとまっている。ある日、花に水をやろうと、庭の水道の蛇口に顔を近づけた時、「ゲっ」と思い飛びのいた。

私は大の蛾嫌い。ゴキブリよりもクモよりも、何より蛾が恐い。この家に引っ越した時、常夜灯を点けるかどうかかなり迷った。まわりが山なので、街中とは虫の数が違う。常夜灯に蛾とかがウジャウジャたかってきたらどうしよう、と思った。

うちの庭は暗い。車で夜遅く帰ってくるとちょっと恐い暗さだ。家は街灯があたっているのだが、庭は家がじゃまをして街灯の光があたらない。それでどうしても常夜灯を点けたかったのだ。前に住んでいたアパートの時もうちが代表で玄関灯を一晩中つけていた。この際、電気代は関係ないと思っていた。一番奥の私の家が玄関灯(蛍光灯だがかなり明るい)を点けることによって、うちの前の駐車場全体が明るくなり、怪しい行動がバレバレとなる。うちが少し電気代を余分に負担するだけで、うちのまわり全体の治安がよくなればそれでよかったのだ。

ここの生活に慣れてくると意外に虫が少ない事に気がついた。近くにゴルフ練習所があり11時半ぐらいまで明かりがこうこうと点いているので、虫はそっちに行っているようだ。街灯のまわりでブンブン渦を巻いている風はない。それを確認して常夜灯を点ける事を決心した。

冬場は蛾はいないので問題ない。問題は夏場。これからが勝負である。今年はこれから、という時にモスラ様のお出ましなのだ。なんだかくじけそうになってきた。私としては一日も早く退去していただきたいのだが、あれから何日たつだろう。今でも同じ所にじーっとしている。

モスラ様は庭の水道の蛇口の側の壁にとまっているので、一日一回必ず近づかなければならない。これはツラい。最初の日は水を止めに行くのも恐かった。そーっと近づいてチャチャっと水栓を閉めた。次の日、まだとまっている。仕方がないので、手だけ伸ばして水栓をあけ、逃げ腰で水栓をしめた。何日かそれを繰り返しているうちに、恐いモスラ様にもちょっと慣れてきた。よく見ると、左右の羽根の大きさが違う。右の羽根の方が小さく、先が擦れているので、ケガをしているのかもしれない。蝶が日向ぼっこをして体温を上げるという話を聞いたことがあるので、うちのモスラ様もここ数日の冷えに驚いて動けないのかもしれない。そう考えるとかわいそうな気がした。ホースで水をかければ驚いて飛び逃げるか、水に流されてしまうはずなのだが、できないでいる。

私としては平和的解決を望んでいる。モスラ様、一日も早く自力で退去をお願いしたい。頼むっ!。

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