狂言


先日、初めて狂言を見に行った。隣町の公民館に和泉元弥さんが来る、というので見に行ったのだがなかなかおもしろかった。いきなり狂言を見たらわからなかったのだが、最初に解説30分、「盆山」、「棒縛」、挨拶、という構成だったので、初めてでもよくわかった。

狂言の背景は何の出し物でもいつも松の絵である。何で松なのか。昔は神木である松に向かって芸能を奉納していたそうだ。それがいつの間か松の木をバックにギャラリーに向かって演じるようになり、松の木が松の絵に変わった。また、役者が出てきて、舞台を1周回ったら場面が変わったということになるお約束があること。今とはちょっと違う動物の鳴き声。たとえば、威嚇する犬の鳴き声は「びょうびょう」である。表情を直に見てほしいので基本的にはノーメイクであること、等々。確かに和泉3兄弟は茶髪のまま、元弥さんはオールバック、淳子さんは後ろでシニヨンまとめ、祥子さんはショートカットのまま狂言を演じた。お姉さん方はメイクはほとんどなく、普通の人が外に出て恥ずかしくない程度の薄化粧で、舞台用の厚化粧を考えるとほとんどノーメイクと言っていいだろう。

「盆山」という作品は、盆栽をたくさん持っている淳子さんは欲張りで、警備を固くしてだれにも盆栽を盗られないようにしていた。そこへ祥子さんが泥棒に入る。淳子さんは祥子さんを見つけるのだが、泥棒だとは言わずに、猿だ、いや犬だとか言って祥子さんをからかう。見つけられた祥子さんは、言われた動物の物真似でその場を切り抜けようとするのだが、最後に「あれに見えるのは鯛じゃ」と言われて、とうとう困って出てきてしまう、という話。この出し物でも、1周回ると場面が変わるとか、動物の鳴き声とか、先の解説を聞いてなければ何かわからなかったかもしれない。

次の出し物は「棒縛」。ご当主淳子さんの悩みは、部下が酒蔵から酒を盗むこと。大体犯人の目星がついている淳子さんは、祥子さんに元弥さんを棒にくくろうと話をもちかける。元弥さんは2人の計略にはまり両手を天秤棒にくくられてしまう。しかし元弥さんをくくってしまうと、祥子さんも後ろ手にくくられてしまう。淳子さんは安心して外出するのだが、くくられた2人は智恵を絞ってくくられたままでも酒を飲む方法を試みる、といった話。元弥さんをだまして棒にくくる所、くくられた2人があれこれ智恵を絞って酒を飲むしぐさがおもしろかった。

狂言師の家に生まれなくても稽古を積めば狂言師になれるそうだ。和泉祥子さんは芸名を「10世・三宅藤九郎」と言うが、10代前に三宅藤九郎さんという普通の人が狂言界に入門して「1世・三宅藤九郎」になり、今に続いている。狂言は昔のコントである。内容は生活の中にあるお笑いだ。次に別の出し物が来たら、また行ってみようかと思った。能や歌舞伎もいきなり見ると難しいが、今回のように前に解説を聞いておけばわかるかな、と思った。いいものを見た気がした。

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